EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
さて今回はカルチャーキャリアの話をします。カルチャーキャリアといっても皆さんが最初に思い浮かべる経歴(Career)の方ではなく、携帯電話会社を指す時によく使われるキャリア(Carrier)です。リモートワークやハイブリッドワークが広がり、人とのつながりが減ったと思われる方も多いでしょう。それと同時に企業文化的な面でのつながりや帰属意識も弱くなったのではないかという懸念も当然ながら強まっています。ですが、ガートナー社が調査したところ遠隔的な働き方により同僚と過ごす時間が65%減ったものの、文化的つながりについてはオフィスで働いている人の方が低いという結果が出たそうです。物理的に対面することと文化的につながることの間に必ずしも直接的な関係がないとすると、どうすれば文化的なつながりを維持する、あるいは強めることができるのでしょう。そこで活躍すると考えられているのが今回のテーマ、カルチャーキャリアです。
その前におさらいしておきますと、組織文化はなぜ必要なのでしょう。さまざまな研究により組織文化が従業員の行動、エンゲージメント、およびパフォーマンスに影響することや、採用や研修の効率にもポジティブな影響があることなどが明らかになっています。当然に組織文化の在りようはさまざまですが、どのようなタイプの組織にも共通して言えるのはうまく行く状態を長く続ける、つまり自社に合った組織文化を組織全体に浸透させ、継続的に維持することが求められるという点です。そしてそのために重要な登場人物は2種類存在するというのが一般的な考えでした。ひとつはリーダー。ミッション・ビジョン・パーパスを策定し、そしてリーダーシップコミュニケーションを通じ価値観を組織浸透させる人物です。そしてもうひとつが人事、あるいは特別に伝道ミッションを担ったチャンピオン(伝道担当)です。そこに第三の担い手としてカルチャーキャリアという人たちが注目を集め始めているのです。
組織文化(カルチャー)を伝道する・運ぶ人(キャリア)。これまでの伝道担当者は多くの場合、伝道することを役割として付与された人でした。一方のカルチャーキャリアは、存在から周囲に影響力を与える人を指す言葉です。ある定義を借りれば、「深い組織知見を有し、企業の価値観を体現し、人々がそばにいたいと思う存在感を持つ人」です。平易に表現すると、その組織のカルチャーを体現し、周囲が自然と指導を求める非公式のリーダー、あるいは文化的社内インフルエンサーといったところでしょう。そういった人物を特定し、会社としてエンパワーしていくことでさらにカルチャーキャリアの影響力を高め、組織文化の醸成を加速させようという考え方が、カルチャー強化を目指す組織において徐々に広がりを見せています(ここで言うエンパワーは伝道師に任命する等の直接的施策ではなく、組織として行動評価し、支援するという間接的施策です)。
例えば組織の1割が組織文化的な労務(調査例においては承認や評価の提供元となること)の7割を負っているという「文化的偏り」の可視化を試みた研究があるように、文化的影響力の大小には個人差がかなりあります。大きな影響力を持つカルチャーキャリアが組織内で認知・評価されていれば問題ありませんし、従来の伝道師はそのような人が任命されていたのでしょうが、影響力を有しているにもかかわらず認識されていないケースは問題です。彼らが組織を離れることは従業員1人が離れる以上の文化的インパクトがあるため、できるだけ個々の文化的影響力を把握する工夫を人事として整えていくことが求められるのです。また、カルチャーキャリアは役割や肩書ではないのでどの階層どの組織にも存在する可能性がある一方で、組織文化は伝えられても伝道能力そのものを周囲に伝えてくれるわけではありません。ですからカルチャーキャリアが組織で影響力を持続的に保つには次世代のカルチャーキャリア候補者を早めに特定・育成し、シームレスに伝道力が引き継がれるよう組織内での配置を含め積極管理していくことも必要になるだろうと考えられています。
社員間の物理的な距離が広がる中でDEIに並ぶ重要事項としてつながり(Belonging)を挙げるケースは増えています。これからの人事の役割はカルチャーマネジメントだという論調も広く見られるようになってきました。そのマネジメント手法として人事が担い手だという考えもあるでしょうし、従来のエバンジェリストのようにプッシュ型で伝道に取り組むやり方ももちろんありますが、「文化的影響力」を「事業影響力」と並ぶ形で組織・人材管理に織り込んでゆくボトムアップ手法も今後、一考の余地が出てくるかもしれません。
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