2023年5月31日
製作委員会の概要
情報センサー2023年6月号 業種別シリーズ

製作委員会の概要

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2023年5月31日

わが国における映画等のコンテンツ製作においては、製作委員会方式でのファイナンスが活発に行われています。本稿では、当該製作委員会の概要について解説します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター 公認会計士 泉家 章男

主に国内上場企業の監査業務および上場準備業務に従事する他、当法人のメディア・エンターテインメントセクターナレッジの職員リーダーとして、各種ワーキンググループでの活動や執筆、リクルートを通じた外部への情報発信活動を行っている。

要点
  • わが国における映画等のコンテンツ製作では、製作委員会方式でのファイナンスが活発に行われている。
  • 当該製作委員会の概要について解説する。

Ⅰ はじめに

わが国における映画等の映像コンテンツ製作の実務においては、製作委員会方式が用いられることが一般的です。近年においては、テクノロジー発展・販売チャネル多様化・海外需要増加等を背景として、特にアニメ作品の市場規模が年々拡大傾向にあり、新規参入企業も増加しています。

今回は製作委員会の概要について解説します。

なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 製作委員会の概要

1. 製作委員会とは

製作委員会とは、コンテンツ製作・販売に当たり、配給会社・制作会社・テレビ局・広告代理店・ゲーム会社等が共同製作・利用・管理運用等に関する契約を締結し、製作費等の出資を行うことで組成され、組織は民法上の任意組合(民法第667条)の形式とすることが一般的です。

製作委員会の契約書は、「共同製作契約書」等の名称が用いられることが多く、コンテンツ利用の円滑化・効率化を図ることを目的に幹事会社・非幹事会社の役割(製作担当・各販売窓口権の担当割)、製作予算等の金額、会社間の取り分(利益の配分、成功報酬、手数料等)や配分時期等が定められます。

一般的に、幹事会社は他の非幹事会社からの出資金を取りまとめ、映画等のコンテンツの製作費に充当します。その後、コンテンツが完成し、収入が発生したら、一定期間ごとに収入の集計を行い、「配分金計算書」等と呼ばれる計算書を作成して、非幹事会社に対して出資割合に応じた配分金を通知し、配分金の支払いを行います。


2. 製作委員会の特徴

製作委員会の主な特徴は次のとおりです。

  • コンテンツの著作権は製作委員会に帰属する(=出資者全員の共有財産となる)こと
  • 製作委員会の出資者はコンテンツ関連企業(映像制作会社、映画配給会社、ビデオ制作会社、テレビ局、広告代理店、出版社、玩具会社等)であることがほとんどであり、各出資者がさまざまな販売窓口権(配給権、放送権、ビデオグラム化権、自動公衆送信権、商品化権等)を取得して本業のビジネスと併せて行うこと
  • 製作委員会の利益(コンテンツから得た利益)は各出資者に配分されること


前述の特徴を踏まえた製作委員会方式の主なメリットおよびデメリットは<表1>のとおりです。

表1 製作費員会方式の主なメリット・デメリット

3. 製作委員会に関する法的位置付け

民法上の任意組合(民法第667条)等の組合契約に基づく出資は、金融商品取引法の適用対象となります(金融商品取引法第2条第2項第5号)。

しかし、わが国で組成されている製作委員会は、その契約条件・座組(ざぐみ)の状況から出資者全てが出資対象事業に従事することなど一定の要件(※)を満たし、公益又は出資者の保護のために支障を生ずることがないと認められる場合に該当するため、有価証券とは見なされず、金融商品取引法の適用除外となるケースが多いと考えられます。


(※)【金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令 第7条第1項第3号】

三 法人その他の団体が他の法人その他の団体と共同して専らコンテンツ事業(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律(平成十六年法律第八十一号)第二条第三項に規定するコンテンツ事業をいい、これに附帯する事業を含む。)を行うことを約する契約に基づく権利であって、次に掲げる要件の全てに該当するもの

イ 出資者(当該権利を有する者をいう。以下この号において同じ。)の全てが、当該権利に係る出資対象事業の全部又は一部に従事すること(出資者の親会社等(令第十五条の十六第三項に規定する親会社等をいう。ロにおいて同じ。)又は子会社等(同項に規定する子会社等をいう。ロにおいて同じ。)が当該出資対象事業の全部又は一部に従事することを含む。)。

ロ 出資者の全てが、当該権利に係る出資対象事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利のほか、次に掲げる権利のいずれかを有すること(出資者の親会社等又は子会社等が次に掲げる権利のいずれかを有することを含む。)。

(1) 当該出資対象事業に従事した対価の支払を受ける権利

(2) 当該出資対象事業に係るコンテンツの利用

(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律第二条第二項第二号に掲げる行為をいう。)に際し、当該出資者(その親会社等又は子会社等を含む。以下(2)において同じ。)の名称の表示をし又は当該出資者の事業につき広告若しくは宣伝をすることができる権利

ハ 当該権利について、他の出資者に譲渡する場合及び他の出資者の全ての同意を得て出資者以外の者に譲渡する場合以外の譲渡が禁止されること。


4. 製作委員会に関する会計処理

わが国で組成されている製作委員会の契約条件・座組は多種さまざまですが、製作委員会に関する会計処理を直接的かつ体系的に定めた会計基準等はないため、実務上は関連する会計基準等を斟酌(しんしゃく)しつつ、各社の出資目的・製作委員会における役割等の経済的実態を適切に反映するように会計処理が行われています。

Ⅲ おわりに

わが国の映画コンテンツ製作は製作委員会方式が用いられることが一般的ですが、ゲーム製作やアニメ製作等でも製作委員会方式が用いられるケースがみられます。一方で、制作会社や配信プラットフォーマー等がリスクをとり単独出資する事例もある他、少額予算の作品であればクラウドファンディングで資金調達が行われるなど、新たな潮流も見受けられます。映画コンテンツ製作に関するファイナンス手法については、今後も引き続き製作委員会方式が多く用いられることが予想されますが、一定程度の多様化が進んでいくものと考えられます。

なお、製作委員会方式では、実務上、契約条件・座組が仮決定の状態でコンテンツ製作が開始されることも多い他、製作委員会に出資する会社数が多い場合は商流や資金の流れが複雑になる傾向にあります。そのため、製作委員会に関する会計処理については、各出資者の出資目的・役割を含め商流の全体像を正しく理解し、経済的実態を勘案した上で行うことが重要と考えます。

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サマリー

わが国における映画等のコンテンツ製作においては、製作委員会方式でのファイナンスが活発に行われています。本稿では、当該製作委員会の概要について解説します。

情報センサー2023年6月号

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2023年6月号

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