in campervan backseat with smart phone

高齢世代はAIをどう使い始めているのか――その重要性を探る


政府や企業が社会的な価値を引き出し、イノベーションを全ての世代へと広げる新たな可能性が、グローバル調査を通じて見えてきました。


要点

  • AIをめぐる議論は、これまであまり考慮されてこなかった高齢世代の経験を含めない限り、完全とは言えない。
  • AIが生活に溶け込むにつれ、信頼できるリソースや年齢に応じたツール、コミュニティでの学びが、高齢者の自立やウェルビーイング、社会的つながりを高めることにつながる。
  • 企業は、アクセシビリティ、明確さ、透明性を重視したAI対応型の製品・サービスを設計することで、拡大する高齢消費者市場に応えることができる。


EY Japanの視点

高齢者とAI:超高齢社会・日本が切り開く新たな可能性

AIの活用は、若い世代や現役世代の仕事を効率化するためだけのものではありません。高齢者にとっても、学び、健康、日常生活を支え、自立や社会とのつながりを広げる重要な手段になり得ます。EYのグローバル調査でも、高齢者はAIに一律に抵抗しているわけではなく、プライバシーや使い始め方への不安を抱えながらも、学びや生活支援などに実用的な価値を見いだし始めています。EY Ripplesがマイクロソフト、Kite Insights、OATS、OpenAIと共同で実施したレポート「Understanding Older Generations’ Adoption of AI」(2026)において、慶應義塾大学の前野教授が述べているように、今後重要になるのはAIを単なる効率化ツールではなく、ウェルビーイングや社会参加を支える手段として設計する視点です。超高齢社会の先進国である日本では、AIリテラシー教育や人的サポート、地域コミュニティを組み合わせることで、高齢者を「支援される存在」から「AIを活用して自立と参加を広げる主体」へと位置付け直すことができます。企業にとっても、高齢世代が迷わず、安心して使えるサービス設計が、これからの成長機会を広げる鍵になります。
EY Japanの窓口

ある日の午前、マーガレット(72)はタブレット端末を開いた状態で食卓に座っている。かかりつけ医に強く勧められ、オンラインで診療予約を取ろうとしているところだ。チャットボットが画面に表示され、お困りですかと問われる。マーガレットは戸惑う。そのツールは何を理解できるのか、どう機能するのか、いやそもそもこのツールを信頼していいのか、見当もつかない。それに、前にチャットボットを使ったときはあまり役に立たなかった。やはり電話をかけよう、とマーガレットはスマートフォンに手を伸ばす。

高齢者の3分の1以上は、インターネットを効果的に使うために必要な基本的なデジタルスキルを欠いています。インターネットを全く使わない人もいます。しかし、米国の非営利団体AARP(全米退職者協会)傘下で高齢者のデジタル活用を支援する Older Adults Technology Services(OATS)で事業運営担当副社長を務めるAlex Glazebrook氏によると、「シニア層は、自分たちの要望やニーズに合わせて、テクノロジーを生活に取り入れるようになってきています」

AI導入をめぐる議論では、職場や若い世代のユーザー、デジタルネイティブに焦点が当てられることが大半です。一方で高齢世代、とりわけ職場の外にいる人々には、これまでほとんど注意が向けられてきませんでした。

この問題は今、重要な局面に差しかかっています。 世界的に、65歳を超える人の割合はここ数十年で倍増し 、今も増え続けています。デジタルインクルージョンを確保する取り組みを意図的に進めなければ、この拡大しつつある層の一部は、さらに取り残されるリスクにさらされます。

しかし同時に、大きなチャンスでもあります。シニア層のニーズや期待、日々の生活体験を反映したAIツールやサービスを設計できれば、個人、企業、政府のいずれにとっても、大きな価値を生み出せる可能性があります。

EY Ripplesがマイクロソフト、Kite Insights、OATS、OpenAIと共同で実施したレポート「Understanding Older Generations’ Adoption of AI」は、60歳から85歳の人々が日常生活の中でAIをどのように利用し、理解し、体験しているかを調査したものです。

スマートフォンを使って電動スクーターのロックを解除するシーク教徒のシニア男性
1

第1章

高齢世代はAIをどれくらい身近に感じているのか

調査結果からは、AI活用に対する意識は地域によって大きく異なることや、ほとんどの高齢者がAIの回答は必ずしも正しくないと認識していることなど、実態の詳細が見えてきました。

検索エンジンから銀行アプリ、カスタマーサービスに至るまで、日常のツールにAIが組み込まれるようになった今、高齢者の多くは、気付かずにすでにAIを利用しているかもしれません。

わずか
24%
24%
の高齢者がAIを身近に感じていると回答しているが、この数字の裏には、もっと複雑な現実が隠れている

今回の調査はこうした曖昧な状況を如実に反映しています。60歳から85歳の回答者のうち、AIを「かなり身近に感じる」「非常に身近に感じる」と答えたのはわずか24%でした。ほとんどの人は、「少しだけ」あるいは「ある程度」身近に感じると答えています。

また、AIを身近に感じる度合いは地域によって大きく異なります。中東、アフリカ、インドの回答者はその割合が最も高く(41%)、一方で北米は12%でした。インドのフォーカスグループの1人は、「健康で、豊かで、賢い生活を送れるようAIに助けてもらいたい。私が求めているのは、日々の生活で役に立つ、分かりやすく的確なアドバイスです」と話していました。

健康で、豊かで、賢い生活を送れるようAIに助けてもらいたい。私が求めているのは、日々の生活で役に立つ、分かりやすく的確なアドバイスです。

懐疑的な見方が強いことが調査で確認されたのは良い傾向です。回答者の8割は、AIが生成した回答が必ずしも正確でないことを正しく認識しており、健全な警戒心がうかがえます。ところが質問が具体的になると、理解度は一気に低下します。AIシステムは学習データに含まれる社会のバイアスを反映する可能性があることを認識している回答者は、半数以下でした。さらに、質問が技術的な内容や倫理的な限界に及ぶと、正答率は一段と低下します。

今回の調査結果は、高齢期における自信、理解、社会参加を支えるインクルーシブなAIリテラシーへの投資が必要であることを明確に示しています。


ハウスボートに座り、スマホを手に楽しそうな高齢夫婦
2

第2章

高齢世代におけるAIの利用実態

調査によると、AIを利用している高齢者は、学びや健康、旅行などにおいて実用的な価値を見いだしており、利用者は非常にポジティブな体験をしていることが分かりました。

AIを身近に感じるからといって、それが必ずしも利用に結び付くわけではありません。60歳から85歳の人々の間でも、AIとの関わり方はさまざまです。回答者の5人に2人は、AIを全く使ったことがない、あるいは1~2度試しただけだと回答しています。一方で、5人に1人はAIをよく使う、あるいは非常によく使うと回答しており、高齢世代の中でも明確な差があることがうかがえます。

その差を生んでいる大きな要因は、就労状況です。現在も働いている回答者は、退職した人に比べてAIの利用率がおよそ3倍に上ります。この差は重要です。AIツールが急速に普及する前に退職した人の多くは、日常的にAI触れることで得られる自信を培う機会が少なく、こうした人々は重点的な支援の対象となります。

今も働いている人のAI利用率は
3倍
3倍
退職した人に比べ

調査では性別によるギャップも明らかになりました。女性のほぼ3分の1(31%)がAIを一度も使用したことがないと回答しており、男性の20%を大きく上回っています。これは、生成AIの導入において世界的にみられる傾向とも一致しており、STEM(科学・技術・工学・数学)分野で活躍する女性の少なさや、自動化によって仕事が影響を受けやすい状況など、より深い構造的要因を反映していると考えられます。

高齢の女性は、男性に比べてAIツールを試した人の割合がかなり少ない


高齢者がAIの使い方を学ぶとき、多くは独学です。教材動画やニュース記事、ソーシャルメディアなどのオンラインの情報源を利用しています。3分の1近くは、AIツールを直接使いながら学んでいます。また、子どもや孫、友人、近所の人といった身近な人々とのネットワークも重要で、AIへの理解や自信を高める上で大きな役割を果たしています。

AIの利用は、日常のさまざまなニーズが生じる場面に広がっています。AIを一度でも使ったことがある人では、最も多い用途が「学び」で、それに健康関連、旅行が続きます。こうした利用経験は総じて非常にポジティブです。仕事や学び、創作活動でAIを利用した際には高い満足度が報告されており、否定的な体験はまれです。

ヨガマットに正座してノートパソコンを使うアフリカ系アメリカ人男性
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第3章

高齢世代のAIに対する意識

高齢世代は、一般に考えられているよりもAIに対して前向きで、明確でアクセスしやすいガイダンスを求めていることが明らかになりました。

重要なのは、「よくわからない」ことが必ずしも拒否につながるわけではない点です。学ぶことへの関心は高く、ほとんどの回答者が、実用的でアクセスしやすいサポートを求めています。特に、AIを日常的な言葉でわかりやすく説明した使いやすいガイドやリソースを望んでいます。また、高齢者はAIを提供している企業によるオンライントレーニングを高く評価しています。AIについて学ぶことに全く関心がない層は、ごく少数です。

AIやコンピューターに頼りすぎるようになって、人は社会性や対人スキルを失ってしまうのではないかと心配しています。

高齢世代がAIについて詳しく学ぼうとする際、独学が最も多い


回答者のおよそ6割が、AIがもたらすであろう影響について「ややプラス」または「非常にプラス」の影響を与えると考えています。しかし、社会全体へと視野を広げると否定的な感情が強まります。AIが自分たちの生活に与える影響について懸念を示した回答者はごく少数でしたが、社会全体や権力者のことを考えるとき、この割合は上昇します。

高齢世代は、将来AIが自分たちや世界全体に及ぼすであろう影響について、一貫して肯定的です。


AI導入の障壁について尋ねたところ、データプライバシーが大きな懸念として挙げられました。回答者の5人に2人が、AIに個人情報を取られたり悪用されたりするのではないかと心配しています。また、もっと現実的な問題を抱えている人もいます。3分の1以上が、そもそもAIをどこから始めればよいのか分からないと回答しています。

高齢者がAI活用を進める上で最大の障壁はデータプライバシーへの懸念


こうした受容性の高さは、大きな機会につながります。適切なサポートがあれば、高齢世代はAIを活用しようとするだけでなく、ポジティブな経験が増えて、AIがもたらすメリットに対する評価も一層高まると考えられます。したがって、高齢世代のAIリテラシーを高めることは、単なるインクルージョンの課題にとどまらず、個人と社会の双方によりよい結果をもたらす道筋となります。

スマホを見ながら海辺を歩くカップル
4

第4章

高齢世代とAIの今後

今回の調査で、高齢世代は一般に考えられているよりもAIに対して前向きであることが分かりました。この結果は、高齢世代がスキルと自信を身に付けて充実した生活を送れるようにする「公正なAI移行」に向けた土台となります。

AIを活用したサービス提供に向けて社会が一斉に加速する中、高齢世代が自信を持って安全かつ有意義にAIを活用できるよう、私たちは備えていく必要があります。調査結果は、教育、政策、企業、地域社会が一体となって取り組む必要性を示しています。Alex Glazebrookが指摘するように、「AIに関して言えば、高齢者は若い層と同じように好奇心があり、もっと学ぼうとする意欲があります」

調査報告書では次のように結論付けています。

  • 高齢世代は、まずはリスクの低い用途から始め、初心者にも分かりやすく信頼できるツールを活用して、学び・健康・日常生活のためのAIの利用に関して自信を高めていくことが望まれる。
  • 教育関係者と政策立案者は、図書館、成人教育センター、コミュニティサービスや医療サービスなど、信頼できる地域の場で、年齢に応じた実用的なAIリテラシー・プログラムを設計し、そのための資金を確保する必要がある。
  • 企業にとっては、拡大する高齢消費者市場に応える大きな機会であり、シンプルさ、アクセシビリティ、わかりやすさを優先したAI対応の製品・サービスを設計し、明確な導入支援や人的サポート、平易な言葉での説明を通じて、利用者の自信と長期的な信頼を構築することが求められる。
高齢者の多くは、AIを理解して自分の生活に本当に役立つ形で使いたいと考えています。

高齢世代のための公正なAI移行に向けて

高齢世代のために公正なAI移行を実現し、高齢者が必要なスキルやアクセス、自信を得て充実した生活を送れるようにすることは、政府と企業に課された責務です。こうした取り組みには、ウェルビーイングの向上や孤立の軽減、経済参加の拡大、より強靱(きょうじん)な公共サービスの実現といった社会的便益をもたらすというプラス面もあります。また、AIが日常生活にますます浸透する中で、デジタル・エクスクルージョン(デジタル排除)のさらなる拡大を防ぐことにもつながります。

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サマリー

AIが日常生活に浸透する中、その導入や影響をめぐる議論では高齢世代は見落とされがちです。60~85歳を対象にした最新のグローバル調査によると、AIへの親近感や利用状況には幅があるものの、多くの高齢者がすでにAIを活用しており、特に学びや健康、日常のさまざまな場面でポジティブな活用が見られます。こうした結果は、高齢者はAIに抵抗感があるという従来の見方を覆すもので、プライバシーを懸念し「どこから始めればいいのか」と戸惑いながらも、好奇心があることを示しています。政策立案者、教育関係者、企業による適切な支援のもとでインクルーシブなAI導入を進めれば、高齢者の自立やウェルビーイング、社会とのつながりを強化し、社会的・商業的な利益をもたらすことができます。

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