EYの事例

St James’s 病院におけるクラウドジャーニーが、がん治療を変革した方法とは

St James’s病院(以下、St James’s)が、クラウドを活用してがん治療を最新化し、診断の精度向上、コンプライアンスの強化、そして患者の治療成果を向上させた事例をご紹介します。



EY Japanの視点 

St James’s病院におけるクラウドジャーニーは、どのようにがん治療に変革をもたらしたのか?

老朽化したレガシーなITインフラは、昨今の急激なtoC(一般消費者)向けデジタルツールの拡大に伴い、顕著な性能不足に陥る傾向があります。また、レガシーIT資産の保有は故障時の対応、アドホックな設備増強によりITコストを圧迫します。このような環境においてSt James’s病院がとったクラウドモダナイゼーションは現在の最適解だと考えます。クラウド基盤では、サービスが冗長化され、オンデマンドで性能の向上を図ることができます。特に事例のような高いSLAが要求されるミッションクリティカルなシステムでは、患者の体験が病院のレピュテーションに直結する重要なファクターとなりつつあります。一方で、安易なクラウド化はコストの高騰を引き起こす要因になっているのも事実です。だからこそ、クラウド化は戦略であり対象システムの見極めと、計画、費用対効果の正しい理解が重要です。EYでは、お客さまのクラウド化戦略立案に伴走し、真のクラウドジャーニーを支援します。


EY Japanの窓口

松本 剛
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジーコンサルティング デジタル・エンジニアリング リーダー/マイクロソフト リーダー パートナー

山浦 一季
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジーコンサルティング 
マイクロソフト サブユニットリーダー アソシエートパートナー



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The better the question

がん治療にもプラス効果、インフラのモダナイゼーション(刷新)の重要性

St James’s がEYおよびMicrosoftと協力してインフラを刷新し、患者のケアと研究機能を向上させた方法を見てみましょう。

ダブリンにあるSt James’s は、アイルランド国内最大級の国立がん研究センターとしてTrinity College Dublinと連携し、高度な急性期医療を提供する教育研究病院です。高い医療水準で知られているSt James’s は、アイルランド全土のがん患者に対して最先端のテクノロジーを駆使した高精度な検査・診断・モニタリングを行い、デジタル医療分野でリーダー的存在となっています。 次世代シーケンシングおよび特殊な遺伝子検査などの高度な臨床検査サービスは、患者の治療に欠かせないだけでなく、進行中の研究活動においても重要な役割を果たしています。そのため検査や研究の効率性が最優先され、効果的なデータ管理の重要性が強調されています。

しかし、同病院では老朽化したレガシーハードウェアが原因となる難題を抱えていました。特に研究所では、システム環境の保護や管理に支障を来し、規制への対応が難しくなっていました。また、古いシステム環境は利用者のストレスになるだけでなく、最終的に診断結果を左右するデータ処理を遅らせ、患者の治療にも影響が及んでいました。

既存のデータ基盤の限界を痛感したSt James’sは、質の高い医療サービスを提供し続けるためには、デジタル戦略目標に沿ってシステムを刷新し、新技術を取り入れて処理を改善することが不可欠であると認識しました。そして、Health Service Executive(HSE、保健サービス委員会)から支援を受け、EYやMicrosoftとの協力・連携により、インフラを刷新するプロジェクトを進めました。

同病院は、旧来のオンプレミス型システムをクラウドホスティング型ソリューションに早急に移行して、改善すべきいくつかの重点領域を特定しました。これには、医学研究所のISO 15189準拠を維持するためのシステム信頼性の強化、生成される大量のゲノムシーケンスデータを保存するための容量の増加、研究所の効率と生産性を最大化するためのシームレスなユーザーエクスペリエンスの提供などが含まれます。

こうした緊急課題に対応するために、患者、医療従事者、および研究プロセスに適したクラウドソリューションを導入できる戦略的パートナーを探しました。そして、EYチームの豊富なクラウド導入経験とMicrosoftの高度な技術を組み合わせることで、St James’sの変革を支える最適なパートナー体制が整備されました。こうした協力体制により、病院のシステム基盤を刷新するだけでなく、新しい革新的な取り組みを可能にし、患者の治療成果を高め、業務の効率を改善する道筋をつけました。その結果、St James’s はがん医療と研究の最前線に立ち続けることができているのです。

ナースステーション
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The better the answer

診断に革命をもたらす

St James’sのクラウド導入は、データ管理やセキュリティ、および患者ケアを改善しました。

EYとMicrosoftのアライアンスにより、Microsoftのクラウド基盤であるAzure上でカスタマイズされたSt James’s専用クラウドソリューションが開発され、将来的なニーズにも対応できるサービスとして整備されました。EYチームは、従来のレガシーシステム上のオンプレミス型データ基盤をAzure環境に移行することで、拡張性と柔軟性を確保しました。その結果、データ分析機能が強化され、研究チーム全体のデータ管理とアクセシビリティが効率化されました。

新しいクラウド基盤の大容量ストレージにより、患者検体のシーケンス検査後に、効率的で迅速かつ拡張性のあるデータ解析が可能になりました。このクラウドへの移行により、データのバックアップ処理が改善され信頼性が高まり、高度なセキュリティ対策によるデータ保護も強化されました。また、各種ツール群により、データの流れが体系化されて効率的になり、複数の検査システムや分析装置、機器間のデータアクセス・取得が容易になりました。St James’sは、高度な分析技術や機械学習を活用することで、正確な診断や効果的な治療計画に不可欠なゲノムデータから重要なインサイトを得られるようになりました。さらに、Microsoft Fabricによって並列的なデータ分析の仕組みが可能になり、病院内オペレーションがさらに効率化されました。

今回導入されたソリューションの重要な特徴の1つは、共通化されたリモートデスクトップ環境を実装することでした。これにより、研究所の科学者チーム全体が、クラウド上のゲノム解析ツールにいつでも常時アクセスできるようになりました。その結果、タイムリーな意思決定が可能となり、夜間処理が自動化され、研究結果を解析するスピードも加速しました。新たなバックアップ処理と強力なセキュリティ対策により、St James’sでは、システム障害や緊急時にもデータを迅速に復元できるようになり、重要な患者情報を保護すると同時に、業務中断を回避できるようになりました。

このクラウドソリューションの導入によって、最終的にSt James’sは医療検査機関の品質と能力に関する国際規格であるISO 15189の認定要件を満たすために必要な柔軟性と拡張性を手に入れることができました。最先端のセキュリティ管理により、St James’sは、迅速に進化・革新する柔軟性を維持しながら、機密性の高いゲノムデータを安全に生成・処理・保存できるようになったのです。このような包括的なアプローチは、患者向け医療サービスを強化するだけでなく、将来の医療技術の進歩に備える力にもなっています。


若い女性医師がタブレットを手に病院の廊下を歩いている
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The better the world works

新時代の幕開け

クラウドによる変革を経て、300以上の遺伝子マーカーの分析が可能になり、遺伝子検査のデータ処理時間も大幅に短縮されました。

本プロジェクトの成功は、St James’sの優れた研究チームと、EYおよびMicrosoftのプロフェッショナルたちとの協力があって実現しました。一連の取り組みは、すべての関係者にとって相互に学び合う場となり、チームワークによる協力関係が成功要因となりました。新たなクラウド基盤は、St James’sが求めるすべての条件を満たし、もともとの基準を大きく上回るキャパシティにも対応できるものとなっています。特にがん診療サービスで顕著に見られる将来的な需要の増加にも、研究所全体で対処できるでしょう。以前の遺伝子パネルは約30種類の遺伝子マーカーに限られていましたが、新しいソリューションでは1回のシーケンスで300種類以上の遺伝子マーカーを含む大規模な包括的遺伝子パネルを解析できるようになりました。こうして、患者は検査・診断の段階で、これまで以上に最新で質の高い医療サービスを受けられるようになったのです。

また、クラウド環境への移行により、国立MRSA基準検査室における検体のリアルタイムデータ解析にかかる処理時間を約9時間から2時間未満へと大幅に短縮できました。さらに、St James’sでは業務フローを最適化することで、研究成果のまとめやサービスユーザーへの結果報告にかかる時間を50%短縮できました。

本プロジェクトにおける最も重要な成果は、処理時間の短縮です。私たちは、より多くのサンプルを扱い、検査を実施することが可能になり、患者にとって最適な診断ができるようになりました
研究成果の収集・レポーティングにかかる時間の短縮。

本プロジェクトが遺伝子検査サービスの新たな水準を定めるものとなり、HSEが管轄する他の研究所もこれに続いて取り組み、がんとの闘いではデータを活用して次に進むことをSt James’sでは期待しています。

「研究所が直面する最も“ビッグ”な課題はビッグデータです。多くの検査装置がギガバイトからテラバイト単位のデータを生み出しており、それを保存し処理する場所が必要なのです」と、St James's CMD Labの Chief Clinical ScientistであるCathal O’Brien氏は述べています。

新しいクラウドソリューションの導入は、St James’sにとって大きな転機となりました。EYチームの経験とMicrosoftの技術力を生かし、研究所のオペレーションを刷新する取り組みを開始しました。

新たに導入したクラウドソリューションはすぐに効果を発揮しました。科学者たちは、毎日24時間稼働する分析処理、高度な分析機能、および容易なデータ共有環境が整備されたことで以前よりも効率的に作業できるようになり、その結果、患者の診断時間も短縮されました。

「本プロジェクトの最も重要な成果は、処理時間の短縮です。私たちは、より多くのサンプルや検査を実施することができ、患者にとって最適な診断を提供できるようになりました」と、St James’s病院CMD Lab ManagerであるFiona Kearns氏は述べています。

このプロジェクトの成功裏には、St James’s 、HSE、EY、およびMicrosoftのチーム間の協力体制がありました。各チームは、自らの経験を生かし革新的なアプローチを取り入れ、クラウドへの円滑な移行を実現しました。「St James’sがクラウドを活用して業務運用を合理化し、研究所の生産性を高めていることをとても誇りに思います。こうして、時間を節約し、患者により良い成果をもたらしています」と、Microsoft IrelandのIreland Health LeadであるCiara Perciavalle氏は述べています。

また、「St James’sの研究所における変革は、協力とイノベーションを掛け合わせた力の証しです。本プロジェクトを通じて、診断を変革し、コンプライアンス面での課題を解決し、検査サービスを拡大させることができました。そして、処理の高速化と効率化をもたらし、デジタル時代に対応できるよう職員に力を与えたのです」とEY IrelandのHead of Microsoft and Cloud Services Groupである Paul Browneは述べています。

総じて、St James’sの研究所における変革は新しい時代の”ヘルスケアエクセレンス”を体現しており、他の医療機関が追従すべき先例となるでしょう。クラウド技術を取り入れることで、医療業界は患者ケアや治療成果を進展させ、がんやその他の深刻な健康問題がある患者の生活の質を向上させることができるのです。

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