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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 加藤 紘司
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2023年11月17日に、以下の実務対応報告及び企業会計基準(以下合わせて「本実務対応報告等」という。)を公表しました。
また、本実務対応報告等は、日本公認会計士協会の実務指針にも影響するため、企業会計基準委員会で検討の上、同協会に改正を依頼しており、当該依頼を踏まえ、同日、同協会より、以下の実務指針の改正が公表されています。
2022年6月に「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)が改正されました。改正された資金決済法においては、いわゆるステーブルコイン(本実務対応報告BC1項参照)のうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義され、また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われました。
こうした状況を踏まえて、ASBJにおいて、資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、本実務対応報告等が公表されました。
本実務対応報告では、資金決済法第2条第5項(参考 ステーブルコインに関する法規制の概要とポイント解説)に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とすることとされています。
ただし、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段のうち外国電子決済手段については、電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限るとされています。
また、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」を適用することとされています。
なお、今後の電子決済手段の取引の発展や会計実務の状況により、本実務対応報告において定めのない事項に対して別途の対応を図ることの要望が市場関係者によりASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断することとされています。
本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、主な特徴として以下を有するとされています。
第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用されるものである。第2号電子決済手段については、第1号電子決済手段と同等の経済的機能を果たす可能性がある電子決済手段であり、第2号電子決済手段の発行者に対して第1号電子決済手段と同一の所要の規制(下記②ⅰ)参照)を及ぼすために規定が設けられている。
ⅰ) 第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は通貨建資産であり、第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段の発行者は、法令上で経営の健全性の確保が求められている銀行等又は電子決済手段の発行残高の概ね全額を保全するように履行保証金の供託等が求められる資金移動業者に限られている。
ⅱ) 第3号電子決済手段は金銭信託の受益権であり、電子決済手段の利用者が信託する金銭の全額についてその払戻しをいつでも請求できる預貯金により分別管理され、信託財産の倒産隔離が図られている。
第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は、電子的な通貨建資産としての財産的価値であり、当該財産的価値が電子決済手段の利用者の間で移転される。また、第3号電子決済手段は、金銭信託の受益権が電子決済手段の利用者の間で移転される。このため、電子決済手段等取引業者を通じて電子決済手段が売買される場合、流通市場が形成される可能性がある。
本実務対応報告では、上記(1)の特徴から、以下①、②のとおり本実務対応報告の対象となる電子決済手段が現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、当該電子決済手段に係る会計処理等を定めることとされています。
① 第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用される点で交換の媒体となるなど通貨に類似する性格を有していると考えられる。
② 本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、払戻しの請求を行うと速やかに金銭による払戻しが行われるものであり、かつ、電子決済手段が払い戻されないリスク(換金リスク)は、発行者等に対する規制により、要求払預金における信用リスクと同程度であると考えられる。この点、要求払預金に類似する性格を有していると考えられる。
以下の会計処理とすることとされています。
電子決済手段の取得時の会計処理 |
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計上時期 |
受渡日 |
計上額 |
当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上し、当該電子決済手段の取得価額と電子決済手段の券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理 |
本実務対応報告の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から本実務対応報告の対象となる電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩すこととされています。また、電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理することとされています。
本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とすることとされています。なお、本実務対応報告では電子決済手段の換金リスクに関する会計上の取扱いを定めていないとされています。
本実務対応報告では、電子決済手段の発行時における電子決済手段に係る払戻義務の計上額及び計上時期について、次のとおり定めることとされています。
電子決済手段の発行に係る会計処理 |
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計上時期 |
受渡日 |
計上額 |
当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額(すなわち券面額に基づく価額)をもって負債として計上し、当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理 |
本実務対応報告の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩すこととされています。
本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とすることとされています。
外貨建電子決済手段の期末時の円換算について、以下の会計処理とすることとされています。
対象 |
期末時の円換算 |
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本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段 |
「外貨建取引等会計処理基準」(以下「外貨建取引等会計処理基準」という。)一2(1) ①の定めに準じて処理を行う |
本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段に係る払戻義務 |
外貨建取引等会計処理基準一2 (1) ②の定めに従って処理を行う |
電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった本実務対応報告の対象となる電子決済手段を資産として計上せず、また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しないこととされています。
注記事項について、本実務対応報告の対象となる電子決済手段及び本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務に関して、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第40-2項に定める金融商品の状況に関する状況に関する事項及び金融商品の時価等に関する事項について注記を行うこととすることとされています。
なお、上記の注記にあたっては、例えば、金融商品の時価等に関する事項を注記するにあたり、本実務対応報告の対象となる電子決済手段については、預金に関する取扱いに準ずることが考えられるとされています。また、本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、金銭債務に関する取扱いに従うことになると考えられるとされています。
資金の範囲について、キャッシュ・フロー作成基準一部改正においては、特定の電子決済手段、すなわち、資金決済法第2条第5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。)を現金に含めることとされています。また、キャッシュ・フロー実務指針においては、本実務対応報告等の定めと整合を図るため、現金の定義に「特定の電子決済手段」を追加することとされ、本実務対応報告等の記載と整合させる形で、「特定の電子決済手段」は本実務対応報告の適用対象となる第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段が該当し、「外国電子決済手段」は、これらの電子決済手段のうち電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限られる旨の記載を追加することとされています。
本実務対応報告等の適用時期については、公表日(2023年11月17日)以後適用されます。
公開草案からの変更点は字句修正のみであり、公開草案における提案内容から変更はありません。
なお、本稿は本実務対応報告等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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