退職給付 第8回:小規模企業等における簡便法の適用

公認会計士 牧野 幸享

1. 簡便法が適用できる範囲


従業員の比較的少ない小規模な企業等について、簡便法による退職給付債務の計算が認められています。これは、従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合、又は退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合があることなどを考慮したためです(平成24年改正会計基準26項、73項)。
簡便法による計算が認められる小規模企業等とは、300人未満の従業員数の会社をいいますが、300人以上であっても年齢・勤務期間に偏りがあるなどの理由により、退職給付計算結果に一定の信頼性が得られないと判断できる場合にも適用されます。ここでいう従業員数とは、退職給付計算の対象となる従業員のことですので、複数の退職給付制度を有する事業主についてはそれぞれの制度ごとに判定することになります(平成24年改正適用指針47項)。
従業員数は毎期変動することが一般的であるため、簡便法の適用は将来一定期間を予測して決定します。
 

2. 連結財務諸表における連結子会社の取扱い


連結子会社であっても、小規模企業等に当たる場合には独自に簡便法をとることができます。この場合、連結上の調整も必要ありません。これは、簡便法は、高い水準の信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合などに認められるものであり、その適用は制度ごとに判断されるためです(平成24年改正適用指針110項)。従って、子会社及び持分法を適用する関連会社を含め、連結グループの全ての制度について、原則法と簡便法のいずれかに統一する必要はないこととなります。

3. 簡便法による退職給付債務の計算


簡便法をとる場合、以下の表のとおり退職一時金制度、企業年金制度それぞれにおいて、三つずつ、計六つの方法が示されています。各企業が実態から合理的と判断される方法を採用することになります。なお、いったん選択した方法は、原則として継続適用が必要となります(平成24年改正適用指針50項)。

種類

内容

(1)退職一時金制度

i. 平成24年改正会計基準(又は退職給付に係る会計基準(平成10年会計基準))の適用初年度の期首において原則法による退職給付債務を計算し、この退職給付債務の額と自己都合要支給額との比である比較指数を、期末時点の自己都合要支給額に乗じた金額を退職給付債務とする方法
なお、合理性があると判断することができれば、比較指数に原則法により計算された親会社の比較指数を用いることができます。
ii. 期末自己都合要支給額に、平均残存勤務期間に対応する割引率、昇給率の各係数を乗じた金額を退職給付債務とする方法
iii. 期末自己都合要支給額の金額を退職給付債務とする方法

(2)企業年金制度

i. 平成24年改正会計基準(又は退職給付に係る会計基準(平成10年会計基準))の適用初年度の期首において原則法による退職給付債務を計算し、この退職給付債務の額と年金財政計算上の数理債務との比である比較指数を、直近の年金財政計算における数理債務の額に乗じた金額を退職給付債務とする方法。
なお退職一時金制度と同様に、合理性があると判断することができれば、比較指数に原則法により計算された親会社の比較指数を用いることができます。
ii. 在籍する従業員については、退職一時金制度の②又は③の方法により計算した金額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については直近の年金財政計算上の数理債務の額を退職給付債務とする方法。
iii. 直近の年金財政計算上の数理債務をもって退職給付債務とする方法

※退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している事業主においては、次のいずれかの方法で退職給付債務を計算します(平成24年改正適用指針51項)。

(1) 退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務と企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を、上記の方法によりそれぞれ計算する方法
(2) 在籍する従業員については企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者及び待期者については年金財政計算上の数理債務の額をもって退職給付債務とする方法

4. 簡便法による退職給付に係る負債の計算


小規模企業等において簡便法を適用する場合、次の金額を退職給付に係る負債(又は退職給付に係る資産)とします(平成24年改正適用指針48項)。

(1) 非積立型の退職給付制度については、計算された退職給付債務の額
(2) 積立型の退職給付制度(退職一時金制度に退職給付信託を設定したものを含む)については、(1)の金額から年金資産の額を控除した金額

期末日における年金資産の額については、時価を入手する代わりに、直近の年金財政決算における時価を基礎として合理的に算定された金額(例えば、直近の時価に期末日までの拠出額及び退職給付の支払額を加減し、当該期間の見積運用収益を加算した金額)を用いることができます。
 

5. 簡便法による退職給付費用の計算


小規模企業等において簡便法を適用する場合、次の差額を当年度の退職給付費用とします(平成24年改正適用指針49項)。

(1) 非積立型の退職給付制度については、期首の退職給付に係る負債残高から当期退職給付の支払額を控除した後の残高と、期末の退職給付に係る負債との差額
(2) 積立型の退職給付制度については、期首の退職給付に係る負債残高から当期拠出額を控除した後の残高(事業主が退職給付額を直接支払う場合、当該給付の支払額も控除する)と、期末の退職給付に係る負債との差額

従って、退職給付費用は期末に計算されることになり、原則法のような勤務費用、利息費用に分けることはなく、過去勤務費用についても認識されません。

6. 簡便法から原則法への変更


簡便法から原則法への変更は認められますが、一方、原則法から簡便法への変更は、従業員数の著しい減少もしくは退職給付制度の改訂等により、高い水準の信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難になった場合又は退職給付に係る財務諸表項目の重要性が乏しくなった場合を除き認められないものと考えられています。(平成24年改正適用指針111項)。



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