収益認識の開示 第4回:収益認識に関する注記 -当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報①

2021年12月16日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 加藤 大輔

1. はじめに

改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という)においては、収益認識に関する注記として、「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」を注記することを求めています(収益認識会計基準80-5項)。当該注記においては、次の項目を記載することとなります。

③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

  • 契約資産及び契約負債の残高等(収益認識会計基準80-20項)
  • 残存履行義務に配分した取引価格(収益認識基準80-21項~24項)

今回は、1つ目の「契約資産及び契約負債の残高等」(以下、「契約残高等の注記」という)について解説します。

2. 契約残高等の注記

契約残高等の注記においては、履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるように、次の事項を注記する必要があります(収益認識会計基準80-20項)。

① 顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高(区分して表示していない場合)

② 当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額

③ 当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動がある場合のその内容

④ 履行義務の充足の時期が通常の支払時期にどのように関連するのか並びにそれらの要因が契約資産及び契約負債の残高に与える影響の説明

⑤ 過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から、当期に認識した収益(例えば、取引価格の変動)がある場合には、当該金額

(1) 顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債に係る注記

① 期首残高及び期末残高の注記

契約残高等の注記においては、貸借対照表上、顧客との契約から生じた債権と契約資産のそれぞれについて、他の資産と区分して表示しない場合、また、契約負債を他の負債と区分して表示しない場合に、顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末の残高を注記することを求めています(収益認識会計基準79項なお書き、収益認識会計基準80-20項(1))。

② 当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額

契約残高等の注記においては、当期に認識した収益の額のうち、期首現在の契約負債残高に含まれていた額を注記することが求められています(収益認識会計基準80-20項(2))。

③ 契約資産及び契約負債の残高に重要な変動がある場合の注記

契約残高等の注記においては、当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動がある場合にその変動の内容を注記することが求められています(収益認識会計基準80-20項(3))。たとえば、子会社を取得したことにより、契約資産や契約負債の残高に重要な変動が生じた場合には、その旨を記載することになります。この点、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識適用指針」という)では、契約資産及び契約負債の残高の変動の例として、次のものが挙げられています(収益認識適用指針106-8項)。

  • 企業結合による変動
  • 進捗度の見積りの変更、取引価格の見積りの見直し(取引価格に含まれる変動対価の額が制限されるのかどうかの評価の変更を含む。)又は契約変更等による収益に対する累積的な影響に基づく修正のうち、対応する契約資産又は契約負債に影響を与えるもの
  • 対価に対する権利が無条件となるまでの通常の期間の変化
  • 履行義務が充足されるまでの通常の期間の変化

なお、当該注記は、契約資産及び契約負債の期首から期末への合計額の調整表形式である必要はなく、また、必ずしも定量的情報を含める必要はないこととされています(収益認識会計基準192項、収益認識適用指針106-8項)。

④ 契約資産及び契約負債の残高に影響を与える要因の説明の注記

契約残高等の注記においては、履行義務の充足の時期と通常の支払時期の関連と、それらの要因が契約資産及び契約負債の残高に与える影響の説明を注記することを求めています(収益認識会計基準80-20項(4))。

(2) 過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から、当期に認識した収益の金額

契約残高等の注記においては、当期の履行の結果ではない収益に関する情報を財務諸表利用者に提供するため、過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から、当期に認識した収益がある場合に当該金額を注記することを求めています(収益認識会計基準80項-20項また書き、IFRS第15号BC347)。通常は、履行義務を充足した時点で収益を認識することが想定されるため、当該注記の対象となるのは限定されたケースであるものと考えられますが、たとえば、履行義務充足後に取引価格が変動するケースや、収益認識適用指針第99項の代替的な取扱い(契約初期段階における収益認識の免除規定)を適用していることから、契約初期段階の履行義務充足時点では収益を認識せず、その後、累積的なキャッチアップ調整により収益を認識するケースなどが該当します(収益認識会計基準80-20項また書き、収益認識適用指針192項)。

図表1 過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から当期に認識した収益の例示

図表1 過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から当期に認識した収益の例示