わかりやすい解説シリーズ「税効果」 第3回:税効果会計の具体的な適用方法

公認会計士 鯵坂雄二郎
公認会計士 中村 崇

1. 税効果会計の適用例


『企業会計』における税効果会計の具体的な適用方法について、ここまで使用してきた長期滞留在庫の評価損100(将来減算一時差異)を用いて数値例で示します。

【前提】

  • ×1年度の収益は500、費用は400。費用400には損金(『税務会計』上の費用)として認められない長期滞留在庫の評価損100が含まれている(損金として認められるのは300)
  • ×2年度の収益は500、費用は300。×2年度に、×1年度に評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄したため、×1年度に発生したズレが解消し、100が損金として認められている。
  • 税率40%

企業会計と税務会計の関係

×1年度:発生 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が発生)


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※1 損金として認められなかった在庫の評価損100を加算(プラス)
※2 要納税額80(200×税率40%)
(次の×1年度の損益計算書で「法人税、住民税及び事業税」として計上)


×2年度:解消 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が解消)


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※3 ×1年度に評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄し損金として認められたため、在庫の評価損100を減算(マイナス)
※4 要納税額40(100×税率40%)
(次の×2年度の損益計算書で「法人税、住民税及び事業税」として計上)


税効果会計を適用したP/L(損益計算書)、B/S(貸借対照表)

×1年度


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※1 将来減算一時差異100が「発生」(長期滞留在庫の評価損100)
将来減算一時差異100 × 税率40% = 繰延税金資産40

(仕訳)発生

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×2年度

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※2 将来減算一時差異100が「解消」(×1年度に評価損を計上した長期滞留在庫の廃棄)
将来減算一時差異100 × 税率40% = 繰延税金資産40


(仕訳)解消

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2. 税効果会計の対象となる税金


【ポイント】
税効果会計の対象となるのは、「利益」に関する金額を課税標準(課税の対象)とする税金です。

税効果会計を理解するための知識として、さらに税効果会計の対象となる税金を説明します。

税効果会計の対象(法定実効税率の算定に含められるもの)となるのは「利益」に関する金額を課税標準(課税の対象)とする税金

税効果会計の対象となる税金

(1) 法人税
(2) 住民税(均等割額を除く)
(3) 利益を課税標準とする事業税(所得割)、地方法人特別税

税効果会計の対象とならない税金

(1) 住民税均等割額
(2) 収入を課税標準とする事業税
(3) 外形標準課税の事業税(付加価値割、資本割)
(4) 固定資産税
(5) 事業所税
(6) 過少申告課税や重加算税等の罰科金


3. 税効果会計で使用する税率


【ポイント】
一時差異に税率を乗じることで「繰延税金資産」・「繰延税金負債」が計算されますが、具体的に使用する税率は下記の法定実効税率となります。


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ここまで「税率」は40%と仮定して説明をしてきましたが、実際の税効果会計においては一時差異等の金額に、税効果会計の対象となる税金に係る「法定実効税率」というものを乗じることになります(「一時差異等の金額 × 法定実効税率」)。
少し難しい説明になりますが、「法定実効税率」の「法定」とは、各会社または連結子会社が所在する国または地域の法律で定められている税率を意味し、「実効税率」とは現実の納税者が負担する税額の課税標準に対する割合を意味します。
日本では、法定実効税率は上記の算式により計算します。

法定実効税率の計算式の分子については、住民税率が法人税を課税標準としているため、課税所得に対する税率に調整する必要があり、また、分母については事業税が支払事業年度の課税所得の計算上損金算入されるために、表面税率よりも税負担率が軽減されることになることを反映しています。




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