わかりやすい解説シリーズ「税効果」 第4回:繰延税金資産の回収可能性

公認会計士 鯵坂雄二郎
公認会計士 中村 崇

1. 繰延税金資産の回収可能性とは?

【ポイント】

  • 繰延税金資産を計上するためには、その資産性(回収可能性)の検討が必要となります。
  • 繰延税金資産の回収可能性とは、繰延税金資産が将来の支払税金を減額する効果があるかどうかをいいます。

「繰延税金資産」については、資産性(回収可能性)があるもののみ計上が認められるため、その資産性の検討が必要になります。

また、繰延税金資産の資産性の検討に当たっては、会社法上で配当制限がなく配当財源に含められることにも留意することとなります。例えば、明らかに回収可能性がない繰延税金資産を計上した場合、会社の実態と乖離(かいり)した過大な配当を行ってしまうことも考えられます。

ここでは、この「繰延税金資産の回収可能性」がどういうものかを説明します。

※「繰延税金負債」についても計上額を決定するに当たって、その支払可能性が認められる(将来支払いが見込まれる)もののみ計上することとなりますが、支払可能性が認められないケースは限定的です。


繰延税金資産の回収可能性


2. 繰延税金資産の回収可能性の具体的な検討方法

具体的には下表のようなステップで検討していきます。

そして検討した結果、次の3要件のいずれかを満たせば「繰延税金資産の回収可能性」がある、と判断できることとなります。

※ 上記で「将来減算一時差異の解消年度など」と記載しましたが、使い切れなかった(相殺しきれなかった)将来減算一時差異はその解消年度の欠損金となるため、この「など」には「その解消年度を基準として税務上認められる欠損金の繰り戻し及び繰り越しが可能な期間(繰戻・繰越期間)」の意味が含まれます。

 

「繰延税金資産の回収可能性」の具体的な検討ステップのイメージ

 1. 期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリング※を行う

2. 期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリング※を行う

3. 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額を各解消見込年度ごとに相殺する

  • 「(3)将来加算一時差異の十分性」の要件を満たすか?

4. 3.で相殺しきれなかった将来減算一時差異の解消見込額については、その金額を将来年度の課税所得の見積額(タックスプランニングによる課税所得の発生見込額を含む)と、解消見込年度ごとに相殺する。

  • 「(1)収益力に基づく課税所得の十分性」の要件を満たすか?
  • 「(2)タックスプランニングの存在」の要件を満たすか?

※ スケジューリング:一時差異の解消時期を見込む、ということ。


3. 繰延税金資産の回収可能性に関する判断指針

なお、将来加算一時差異の金額が将来減算一時差異の金額を下回るケースが多いことが見込まれるため、繰延税金資産の回収可能性は、多くの場合、将来年度の会社の収益力に基づく課税所得によって判断することになります。

ただし、将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務上困難な場合が多いため、会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針が示されています。

決算実務の現場ではよく繰延税金資産の回収可能性の検討に当たって、「②の会社だから~~」、「④ただし書きの会社だから~~」などの表現が使われますが、これはこの指針に対応した呼称になっています。

なお、先述した「2.繰延税金資産の回収可能性の具体的な検討方法」の具体例では、前提として「将来年度の課税所得を×5年度まで見積る」と見積期間を限定していますので、この具体例の会社の場合は、③の会社、又は④ただし書きの会社に該当していると想定されます。


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  • 第4回:繰延税金資産の回収可能性 (2012.04.13)

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