EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 建設セクター
公認会計士 今村 裕宇矢/川井田 直人/竹俣 勝透/橋之口 晋
収益認識会計基準及び収益認識適用指針が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されました。これに伴い、工事契約会計基準及び同適用指針が廃止されました。
第2回から第4回の「建設業における収益認識」では、収益認識会計基準及び収益認識適用指針の適用による影響について、3回に分けて解説します。本稿では、収益認識の5ステップのうち、(Step2)契約における履行義務を識別する、に関連する保証サービスの識別の論点、(Step3)取引価格を算定する、に関連する変動対価及び重要な金融要素に関する論点を解説します。
建設業においては、法律や契約等に基づいて、引渡しを完了した完成工事に係る点検又は補修工事等を行うことが多くあります。
収益認識会計基準及び収益認識適用指針では、工事の成果物が顧客と合意した仕様に従っているという保証のみである場合は、企業会計原則注解に定める引当金として処理しますが、それに加えて顧客にサービスを提供する保証(当該追加分の保証について、以下、保証サービス)を含む場合には、保証サービスを別個の履行義務として識別し、取引価格を保証サービスにも配分すべきかの検討が必要となります。
将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、引当金を計上する必要があります(企業会計原則注解(注18))。
前述の通り、財又はサービスに対する保証には、財又はサービスが合意された仕様に従っていることにより、各当事者が意図したとおりに機能することを顧客に提供する保証と、当該保証に加えて顧客にサービスを提供する保証(保証サービス)があります(収益認識適用指針第132項)。前者の保証は、企業会計原則注解に定める引当金として処理し、後者の保証は、取引価格を財又はサービス及び当該保証サービスに配分します(収益認識適用指針第34項、第35項)。
財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスを含むかどうかを判断するに当たっては、例えば、次の3要因を考慮します(収益認識適用指針第37項)。
a. 財又はサービスに対する保証が法律で要求されているかどうか
財又はサービスに対する保証が法律で要求されている場合には、当該法律は、通常、欠陥のある財又はサービスを購入するリスクから顧客を保護するために存在するものであるため、当該保証は履行義務でないことを示している。
b. 財又はサービスに対する保証の対象となる期間の長さ
財又はサービスに対する保証の対象となる期間が長いほど、財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、保証サービスを顧客に提供している場合が多く、この場合には、当該保証サービスは履行義務である。
c. 企業が履行を約束している作業の内容
財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証を提供するために、欠陥のある商品又は製品に係る返品の配送サービス等、特定の作業を行う必要がある場合には、当該作業は、通常、履行義務を生じさせない。
請負契約における契約不適合責任は民法第415条、第562条~第564条、第636条、第637条にて要求されており、上記a. の条件を満たすため、保証サービスとして単独の履行義務にはならないものと考えられます。
工事契約は顧客の要望や仕様によって契約内容は様々であることから、契約の実態、保証期間の長さ、同業他社の保証内容との比較の結果等を勘案し、個別に判断が必要です。例えば、顧客と以下のような約束をしている場合や契約時の実態がある場合には保証サービスを含むと判断される可能性があります。
工事請負契約における物価変動条項、遅延損害金、インセンティブなどのように、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を「変動対価」といい、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合には対価の額を見積って取引価格に反映させることとされています(収益認識会計基準第48項、第50項)。
前述の通り、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合には、企業が権利を得ることとなる対価の額を見積る必要があります(収益認識会計基準第50項)。変動対価を見積るにあたっては、以下の2つの方法のうち、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いること、さらには、合理的に入手できる全ての情報を考慮して行うことが求められています(収益認識会計基準第51項、第52項)。
a. 最頻値法
発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額による方法
b. 期待値法
発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額による方法
また、見積った取引価格は各決算日に見直しを行います。その結果、取引価格が変動する場合には、新たな取引価格に基づいて会計処理を行います(収益認識会計基準第55項)。
工事には、契約金額が多額で、工期が長期間にわたるものがあります。例えば、2年工期で、工事の進捗に従って収益が認識され、支払いが完成後に行われる場合は、収益認識後、入金まで1年以上かかるケースも想定されます。工事契約に基づいて工事を施工し、顧客から対価を受領できる権利を得たにもかかわらず、対価の入金までに相当程度の時間が経過するということは、実質的には顧客に対して資金を融通しているのと同じであり、顧客から入金される対価の中には金利相当分が含まれる可能性があります。
契約が重要な金融要素を含む場合、契約金額から金利相当分を受取利息や支払利息として調整して、取引価格を算定します。その結果、収益は、収益を認識する時点で顧客(発注者)が支払うと見込まれる現金販売価格を反映する金額で認識することになります(収益認識会計基準第57項)。
出典:EY新日本有限責任監査法人『こんなときどうする?建設業における収益認識の会計実務』(中央経済社)
なお、全ての契約に対して重要な金融要素が含まれるかの判定を行うことは実務上煩雑であるため、契約における取引開始日において、財又はサービスを顧客に移転する時点から顧客が支払いを行うまでの期間が1年以内と見込まれる場合には、重要な金融要素の影響を調整しないことが認められています(収益認識会計基準第58項)。そのため、少なくとも施工時点から入金まで1年を超過する契約を抽出し、重要な金融要素が含まれていないか検討を行うことが必要です。
重要な金融要素が含まれているかの判断は、契約単位で行います。そのため、金融要素の影響が個々の契約単位で重要性に乏しい場合には、当該影響を集計した場合に重要性があるとしても、金融要素の影響について約束した対価の額を調整しません(収益認識適用指針第128項)。金融要素が契約に含まれるかどうか、及び金融要素が契約にとって重要であるかどうかを判断するに当たっては、以下の2点を含む、関連する全ての事実及び状況を考慮することとされています(収益認識適用指針第27項)。
(ⅰ) 約束した対価の額と財又はサービスの現金販売価格との差額
(ⅱ) 約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払いを行う時点との間の予想される期間の長さ及び関連する市場金利の金融要素に対する影響
(ⅱ) の期間は、完工引渡後から入金までの期間ではなく、工事の施工時点から入金までの期間である点に留意が必要です。
顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、取引価格の算定に当たっては、約束した対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整します。調整の際には、契約における取引開始日において企業と顧客との間で独立した金融取引を行う場合に適用されると見積られる割引率を使用します。なお、契約における取引開始日後は、金利の変動や顧客の信用リスク評価の変動等について割引率を見直す必要はありません(収益認識適用指針第29項)。
工事契約において、契約金額に金利相当額や利率が明示されることは稀であると考えられるため、取引開始日時点での市場金利水準や顧客の信用力を反映した割引率を決定する必要があります。
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