4 分 2022年9月20日
スポーツで学んだツールキット:パラリンピック競泳選手のソフィー・パスコー(Sophie Pascoe)さんが語る、ビジネスと人生への教訓

自分自身と社会貢献のためにパーパス(存在意義)を見いだす女性アスリートたち

執筆者 佐々木 ジャネル

EY Japan コーポレート・レスポンシビリティリーダー

次世代・起業家支援、Women20 Japan、デジタルインクルージョンに熱意を注ぐ。グローバルな取り組みを地域に合わせ推進。

4 分 2022年9月20日

EY Women Athletes Business Network(WABN)は、将来のリーダー役を担う女性アスリートが自らのパーパスを明確化し、起業家として成功できるようサポートしています。今回は、明日のリーダーとなるであろう3人の女性アスリートをご紹介します。

要点
  • レスリング選手のアリーネ・シルバさん(ブラジル)は低所得層世帯に融資を提供
  • 水上スキー選手の廣澤沙綾さんは心身のバランスを整えることができるよう世の中にヨガを普及させることを推進
  • 卓球選手のサラ・ハンフさん(カメルーン)は弁護士事務所とソーシャルインパクト事業を経営

自分自身と社会貢献のためにパーパス(存在意義)を見いだす女性アスリートたち

女性アスリートとビジネスの関係性をテーマにしたシリーズ4回目である今回の記事では、女性アスリートたちがいかにしてスポーツに触発され、長期的な価値創造にパーパスを見いだしたかについて考察します。

「より良い社会の構築を目指して」というEYの存在意義(パーパス)は、私たちを導く北極星のような存在です。その星の下で、EYのWABNは明日のビジネスリーダーたちが自らのパーパスを明確化するための後押しをしています。

今回は、起業を通して人々に好影響をもたらすという考え方を同じくするアスリートたちにインタビューを行いました。ブラジルのレスリング選手、アリーネ・シルバさんはスタートアップ企業を立ち上げて低所得者世帯に融資を提供しています。日本の水上スキー選手、廣澤沙綾さんはヨガを通して人々が能力を発揮できるようなビジネスを設計中。フランス系カメルーンの卓球選手、サラ・ハンフさんは自身の弁護士事務所と若者のためのスポーツ振興を行うソーシャルインパクト事業の両方を経営しています。

彼女たちにとって、パーパスの追求が意味することや、起業家としての成功にWABNがどのように役立ったかをお聞きしました。

次の世代を変えていく

2016年のリオデジャネイロ・オリンピックでブラジル代表になるという夢をかなえたシルバさんは、もし自分が別の人生を歩んでいたらどうなっていただろう、と考えるようになりました。彼女は11歳の時、非行に走った経験があります。母親に見つけられて別の学校へ転校し、そこで出会った柔道によって人生が一転しました。

「柔道が得意かもしれないと自覚したことで、スポーツで自分の能力を開花させることができました。スポーツをしていなかったら今の私はなかったでしょう」と言います。

柔道で2年間鍛えた後にレスリング競技に転向し、世界レスリング選手権でブラジル初のメダルを獲得しました。

自分のストーリーに意義を見いだすため、「Mempodera」というNPOをサンパウロに設立しました。その目的は若い女性や女子たちにスポーツのロールモデルを示し、スポーツ施設と良い環境を提供することです。

彼女は、「柔道を始めたときは友人や家族からは男性のスポーツだからするなと言われ、アスリートとして成功すると、今度は『レスリング選手にしては美人だ』と言われるようになったんです」と話し、レスリングなどのスポーツを始めたい女性たちにとって障壁になる、そのようなジェンダーにまつわる「らしさ」の押し付けを取り除きたいことを付け加えました。

このNPOを通じて、お互いを理解し、安心できる場を提供する一方で、女性たちに尊敬の念や信頼、チームワークを教えたいとシルバさんは願っています。

2020年、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で開催延期が決定した時、彼女はまたしても自分のスポーツ人生について考えるようになりました。低所得層のコミュニティで育ち、成人した後もお金の管理に苦労した経験があります。「私の場合、いつもお金に苦労していました。時には、お金をもっと上手に使えたはずなのにと自分でも分かっていたこともありましたね」 。その現状を変えていきたいという願いから、彼女は起業を目指す低所得者層の人たちに融資と金融教育を提供してソーシャルインパクトを与えるビジネスモデルを設計しました。それが今では、WABNのメンタリングプログラムから得られた経験と知見、人脈によって現実のものとなろうとしています。

画像 ソフィー・パスコーさん

アリーネ・シルバさん

経験から得た教訓

廣澤さんの場合、競技を通して自らのパーパスを見つけました。それが、心身のバランスと充実感を得られるよう人々をサポートする、ヨガ中心のビジネス設立に向けた原動力となっています。

水上スキーのアジアオセアニアチャンピオンである彼女は、日本のWABNアカデミーの第1期生です。このアカデミーは、起業家精神などのビジネススキルを学びながら女性アスリートが社会のリーダーとなることを支援するプログラムです。2022年1月より、WABNアカデミーでEY Japanのプロフェッショナルから実践的なビジネススキルを学び、スポーツから学んだ教訓をどのように生かせるかを探究しています。

2011年から2012年にかけて廣澤さんが取り組んでいたのは水上スキーの世界大会に向けて、常に50メートル以上のジャンプをすることに集中し、それ以外は何も考えずにトレーニングを続けることでした。「それができなかったら意味がないと思い込んでしまい、当時のセルフコンパッション(自己肯定感)はゼロでした。でも、競技成績が落ちてみて、その目標にこだわらなくなると、逆に成績が伸び始めたんです。このことから、心身のバランスがいかに大切かという教訓を得られました」と言います。

水上スキーを大学で始めた時は、個人レベル、チームレベル、全国レベルという3つのレベルでトップになることが目標でした。その3つの目標を達成し、アジアレベルでもトップを目指そうとした時に、自分に自信が持てず果てしなくもがき苦しみました。世界でメダルを獲得したとしても自分のベストを尽くすことができない限り、自分は満足しないということに気付いたのです。

その教訓がきっかけで、自身のスポーツ人生での最初の時期をこれまでとは違う視点から見つめ直すことになったと言います。廣澤さんは現在、ヨガビジネスを通して自分のベストを尽くすことが自己肯定につながることを人々に示し、社会に貢献したいと願っています。

「ビジネスには常に興味がありましたが、どこからスタートしたらよいか分かりませんでした。ビジネススキルを学べるWABNのことを知ってから、参加したいと思うようになりました」。

廣澤さんは、WABNアカデミーでスキルやアイデアを得られただけではなく、起業家としての道を進む上で役立つ新たな「集中力」を養うこともできたと述べています。

画像 ソフィー・パスコーさん

廣澤沙綾さん

スポーツを通した成長

同じくハンフさんも、今の自分があるのはWABNのおかげだと述べています。彼女は弁護士事務所と事業を経営すると同時に、16カ国で卓球設備と教育を提供する「Ping sans Frontières(国境なき卓球)」というNPOを運営しています。

「WABNのおかげで視野を広げることができました。自分ができることは何か考えてみたら、私を制限しているのは自分自身以外ないことに気が付いたんです。スポーツ界では自信に満ちていても、その安全地帯から一歩出ると自信を失ってしまうものですね」と言うハンフさんは、WABNのメンターのサポートによって、東京2020大会に向けてのトレーニングをしながらでも弁護士事務所を設立することができることに気付かされたと付け加えています。

ビジネスオーナー兼ソーシャルインパクト事業の起業家である彼女は、自己鍛錬、リーダーシップ、枠にとらわれない思考など、これまでの自身の成長はスポーツを通して学んだ価値観のたまものだと言います。

「スポーツは私を育ててくれました」と言うハンフさん。スポーツによってアスリートとしてだけでなく人としても成長し、また遠征(旅)に出ることで視野が広がったと述べています。

2006年にニジェールへ遠征した際、国の代表チームが穴だらけのネットを使って卓球をしていた光景が心に残り、それが「Ping sans Frontières」を設立する決心につながりました。

WABNでの学びによって彼女は、卓球をアフリカで教育普及活動のためのツールにするという目標をさらに展開させました。新たにガーナに設立した事業では卓球台を輸入せず、国内の材木と地元の大工を採用して製作することで、国内経済に寄与するだけでなく、環境への影響も軽減させています。そして、そこで生まれた資金はガーナの学校で個別指導やトレーニングに再投資されます。

やりたい事がたくさんあるハンフさんは、WABNを通して自分のスケジュールを積極的に管理することと、重要なアドバイザーグループを持つことが、自らのパーパスの発見と明確化において重要だと学びました。まさにWABNのエコシステムが、課題や機会の共有においてのプラットフォームとして役割を果たしていると断言します。

画像 ソフィー・パスコーさん

サラ・ハンフさん

スポーツを通した共通点

それぞれアスリートたちの起業家としての目標やソーシャルインパクトの目標は異なりますが、社会が直面する問題を解決したいという思いは同じです。見据えている課題や積み重ねた経験が異なっていても、スポーツを通してそれぞれのパーパスを見つけ、その明確化を図るためのビジョンを共通して得ることができたのです。

WABNのサポートを通して、シルバさん、廣澤さん、ハンフさんの3人は今後それぞれの目標を達成することに加え、それぞれがスポーツ人生で出会った地域社会の人々に長期的価値をもたらしたいと願っています。

サマリー

職業としてキャリアを積む中でパーパスを見つけることは容易ではないかもしれません。アスリートが第2のキャリアとして、またはスポーツとの両立しながら起業することはなおさら困難を伴うことでしょう。しかし、EYのWABNに参加するアスリートたちは、適切な支援があればパーパスを見つけて世界を変えることができることを実証しています。

この記事について

執筆者 佐々木 ジャネル

EY Japan コーポレート・レスポンシビリティリーダー

次世代・起業家支援、Women20 Japan、デジタルインクルージョンに熱意を注ぐ。グローバルな取り組みを地域に合わせ推進。

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