EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
海外赴任者の処遇を考える際によく聞く言葉で“No Loss, No Gain”というものがあります。この言葉自体は「損も得もさせない」という意味ですが、海外赴任者に得をさせてはいけない、というわけではありません。今回は、”No Loss, No Gain”について今一度考えてみたいと思います。
海外に赴任するにあたり、国内勤務時よりも損をするような状況が好ましくないのは当然です。一方で、得をするような状況はいけないのか、というとそうではありません。読者の皆さまもお気付きだと思いますが、”No Loss, No Gain”の考え方で、と説明しつつ、Gainの要素があるのが一般的です。国内勤務に比べて、海外勤務の方が特殊性もあり、不便となることも多くなるため、その分Gainさせる部分があっても問題はないと考えます。全体として、損も得もない処遇にするのではなく、Lossのない状況にしつつ、Gainする部分があるのであれば、そこを明確にするために一旦”No Loss, No Gain” のラインを引いてみましょう、ということなのです。
では、”No Loss, No Gain”のラインはどこにあるのでしょうか。海外に居住することにより変わるのは、主に生活費、住宅費と税金(+場合によって社会保険料)です。
① 生活費:海外の物価は日本とは異なるため、給与のうち生活費に充当していた部分について、日本と現地の生活費の差額を補填もしくは差し引く必要があります。これについては、一般的には生計費指数等を用いて調整を行います。
② 住宅費:海外の住宅費の相場は日本とは異なるため、また、治安面を考えて安全を確保できる住宅を手配する必要があるため、一般的には日本より高くなる傾向があります。したがって、日本と現地の住宅費水準の差額を補填する必要があります。ただし、日本には「社宅制度」という考え方があるため、現地の住宅費を会社負担として、本人から社宅使用料を差し引く、という手法をとる企業も多いです。
③ 税金:海外の税制、税率は日本とは異なるため、基本的には国内勤務していたとした場合に負担していたであろう「みなし税」を自己負担し、現地で発生した税金を会社負担とするのが一般的です。
これらの調整を行えば、”No Loss, No Gain”になるため、そのあとGainになる部分(インセンティブ等)を必要に応じて追加すればよい、ということになります。
ただし、③の税金については少し注意が必要です。国内勤務者でも年末調整という制度があるように、正しい所得税額は1年が終了しないと決定しないうえ、当該年の住民税は翌年6月から徴収が始まるという変則になっているため、みなし税をどのように定義し、どのように徴収・精算するかがポイントとなります。特に、赴任や帰任の異動年については、1年間国内勤務だった場合に負担すべき金額を正しく計算する必要があります。また、個人所得についても課税される国があるため、税金については、単純に給与だけを見て”No Loss, No Gain”を語る、というだけでは十分ではないのが実情です。個人所得を含めた、税負担ルールを考える必要があります。
海外赴任者の肉体的・精神的負担は計り知れないものがありますが、会社として相応のコストを負担するからには、Gain部分を明確にし、会社として赴任者を大切に思っている、というメッセージを出すためにも、まずは”No Loss, No Gain”のラインを明確にするべきと考えます。特に税金部分は複雑で理解しづらい部分でもありますので、一度じっくりと”No Loss, No Gain”のラインを検討の上明確にし、公平性と納得感がある、透明性の高い給与制度にされることをお勧めします。
川井 久美子 パートナー
羽山 明子 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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続きを読む海外赴任者の処遇について「手取り補償」の考え方に基づいて策定される企業が多いのが現状です。赴任者は日本勤務していた場合に負担すべき「みなし税」を負担し、海外で発生する税金は企業負担、としているケースが多いですが、No Loss / No Gainとして公平性を維持するためには、個人が負担すべき「みなし税」や、海外で発生する税金の負担について、明確な定義が必要となります。
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