モビリティ(海外赴任)コラム:日本への出向者をローカル採用にする際に注意すべきこと

2023年10月の訪日外国人数が、2019年同月比100%を超え、コロナ後初めて2019年同月の人数を超えた、という話もあり、確かに街中で見かける外国人の人数も増えている実感があります。企業においても、人材の海外間の交流がコロナ前に戻りつつあるのではないでしょうか。

一方で、最近、特に外資系の企業の人事の方と話していると、日本への受入出向者をローカル採用に変更した、もしくは変更したい、という話をよく聞きます。大きな要因としてはコストと言うことになりますが、とにかくコストを下げなさい、というわけではなく、「コストの適正配分」と考えていることが多いように思います。グローバルモビリティに関しては、外資系企業は日系企業よりもコスト管理が厳しく、ほとんどの企業で候補者を決める段階で赴任にかかるあらゆるコストを試算1して、その候補者を赴任させる「必要」があるか、効果に比べてコストは適正か、を検証2します。その検証の中で、日本のように物価が高く、かつ、成熟しているマーケットには出向者のようにコストがかかる人を送る必要はないと考えた結果とも言えます。外資系企業では各ポジションのJob Descriptionを定めることが多く、ポジションごとにどのようなスキルの人が必要なのかが明確です。つまり、ロールを明確化することで、出向者でないとできない業務なのか、スキルのある人がいれば出向者でなくてもよいのか、という分析ができているため、ローカル化も容易に進めることができる、とも言えます。

もともと日本にいる外国人を採用する場合はあまり気にするポイントではないですが、現在海外に居住している方を日本採用にする場合や、日本に出向で来ていた方を日本採用に切り替える際には、主に2点注意すべきことがあります。

① 処遇

日本採用であっても、外国人が日本に居住し、働く場合、日本のカルチャーに不慣れなこともありますし、言語の問題もあります。また、帯同する子がいる場合は学校の心配もあります。完全に日本の処遇(給与+福利厚生)に入れてしまうだけでは採用が難しいこともあり、最近は日本の処遇に外国人特有の福利厚生をプラスする「Local Plus」という処遇方法を採用されることが多くなっています。プラスアルファ部分は、外国人が一番困るであろう「住宅」や「子の教育」についての補助をするケースが多く、優秀人材の採用には有効です。

② 税金および社会保険

日本採用とする場合は、税金込みの給与を支給する、いわゆる「グロス払い」になることがほとんどですが、本人が支払うべき税額については、契約前にあらかじめ推定の金額を教えておく方が親切です。そして、重要なのは、日本の税金の仕組みを説明しておくことです。日本では源泉徴収があることに加え、住民税の徴収タイミングが特殊で、前年の所得に対する税額を6月から翌年5月にかけて徴収することになります。日本に住んでいるわれわれからすれば当たり前のことですが、外国人にとっては初めてのことなので、あらかじめ説明しておかないと、2年目に急に手取りが減って困った、ということになりかねません。また、①に記載した「Local Plus」にする場合は、プラスアルファ部分をネットで補償するのかグロス支給なのかも取り決めが必要になります。

社会保険についても事前の説明が必要です。日本採用になると、出向元国の社会保険を脱退し、日本の社会保険に加入することになりますので、出向の際に、社会保障協定によって日本の社会保険が免除されていた方は要注意です。また、日本の社会保険に加入されていた方でも、これまで国外払いがあって標準報酬が低くなっていた方は、今後給与が日本払いのみとなることで社会保険料が上がることも想定されます。


日系企業においても、コスト管理への懸念の声は聞こえてきており、今後は「コストの適正配分」が重要になるのではないでしょうか。現在出向者を送っているポジションについて、ローカル人材もしくは外国人のローカル採用で代替できないのか、派遣形態を変えて処遇を変える(短期派遣、トレーニー派遣)等の可能性はないのか、ロールを明確化する「Assignment Analytics」をしてみることが第一歩になるかもしれません。

 

巻末注

  1.  2023年7月18日付EY Japan税務ニュース「モビリティ(海外赴任)コラム:海外赴任のコストプロジェクション(赴任コスト試算)の日系企業における活用法について」参照。
  2.  2023年3月14日付EY Japan税務ニュース「モビリティ(海外赴任)コラム:海外赴任の効果の測定をどうするか」参照。

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