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2024年5月14日(火)、オーストラリアのジム・チャーマーズ連邦財務相は、2024~25年度連邦予算案を発表しました。
2023~24年度には93億豪ドルの財政黒字の達成が見込まれますが、その一方で2024~25年度には283億豪ドル、2025~26年度にはさらに悪化し428億豪ドルの歳出入赤字の発生が見込まれ、この状態はそれ以降も続くことが予想されます。これは、オーストラリアにおける税制や配分システムに内在する構造的な問題を際立たせるものです。
2023~24年度における実質GDP成長率は1.75%にとどまることが見込まれる中で、2024~25年度には2%、2025~26年度には2.25%へと上昇することが予想されますが、このうち生産性上昇に起因する成長は極めてわずかと言えるでしょう。
インフレ率は2023~24年度には3.5%前後で推移していましたが、2024~25年度には2.75%に低下すると予想され、オーストラリア準備銀行(Reserve Bank of Australia、以下RBA)が目標として掲げている2~3%の範囲内に収まります。政府としては電気代及び家賃の軽減措置を講ずることでインフレへと向かうのではなく、2024~25年度におけるインフレ率が0.5%低下するものと考えていますが、これに対しRBAがどのような見解を持っているかはまだ明らかになっておりません。また2024~25年度以降、財政赤字が大幅に拡大することもインフレを加速させることでしょう。
生活費やその他の社会福祉に関するさまざまな手当てや、赤字であり魅力に欠けた来年度の予算案が公表される前に来年の選挙が行われる現実的な可能性を踏まえると、今回の連邦予算案は総じて来年の選挙を念頭に置いたものであることが伺えます。
税制上の優遇措置としては選挙を強く意識しており、また資源が豊富な西オーストラリア州とクイーンズランド州へと主に向けられたもので、水素エネルギーとクリティカルミネラル(重要鉱物)に対する税額控除や、中小企業に対する減価償却資産の一括損金算入制度の延長があります。これらは経済全体の生産性を向上させる投資を促進するために必要なインセンティブには程遠く、特に法人税率が30%と世界的に高いオーストラリアの国際競争力を高めるには不十分です。
オーストラリア税務局(以下ATO)は、多大な歳入増をもたらす税務コンプライアンス活動を遂行するため多額の資金投資を引き続き行う予定です。
本予算案には次の3つのことが不可欠でした。すなわち、インフレ率が必要以上に高くならないように財政状態の健全化を優先すること、構造的赤字の解消へ近づくこと、そして、低迷する生産性向上のために政策改革のペースを上げることです。残念ながら、この3つの面すべてにおいて失望せざるを得ない内容でした。
政府はフューチャー・メイド・イン・オーストラリア構想を通じて、オーストラリアのネットゼロへ移行する中での経済界、産業界での利益を最大化し、オーストラリアが優先度の高い産業において国際競争力を確保するために、10年間で約227億豪ドルを拠出します。この優遇措置は再生可能水素、重要鉱物加工、グリーンメタル、低炭素液体燃料、バッテリーやソーラーパネルなどのクリーンエネルギー製造技術などの産業界へ重点的に適用されます。
フューチャー・メイド・イン・オーストラリア・イニシアチブの一環として政府は推定80億豪ドルを予算に割り当てており、今後10年間にわたりオーストラリアにおける再生可能水素の生産活動を支援します。この中には国際競争力のある再生可能水素産業の成長を支援するため、2027~28年度から2040~41年度まで利用可能な水素製造における税制優遇措置のための67億豪ドルが含まれています。本件の税制優遇措置においては2030年までに最終投資決定を行うプロジェクトに対し、製造される再生可能水素1キログラムあたり2豪ドルの優遇措置を最大10年間提供します。
またオーストラリアにおける再生可能水素プロジェクトの早期立ち上げ支援のため、10年間で13億豪ドルの追加予算が水素ヘッドスタート・プログラムに割り当てられました。
フューチャー・メイド・イン・オーストラリア構想の下、新たな重要鉱物生産税優遇措置により、関連する加工・精製コストの10%に相当する生産控除(Production Credit)が与えられます。オーストラリアの31の重要鉱物(リチウム、ニッケル、コバルト、レアアース、高純度アルミナ、グラファイトなど)の付加価値加工には、11年間で総額約70億豪ドルの支出が見込まれています。重要鉱物生産税優遇措置は、2027~28年度から2039~40年度までの最大10年間の製造に適用され、2030年までに最終的な投資意志決定に至るプロジェクトに適用されます。
2022~23年10月の予算案で発表され、23年7月1日から適用されることが提案されていた低税率又は無税の国・地域に所在する無形資産に関連する費用の損金不算入措置は導入されないことになりました。
この措置が対象としていた国家間での租税に関する齟齬(そご)などによる問題は、2024年1月1日以降開始事業年度から適用されるグローバルミニマム課税(Global Minimum Tax)及び国内ミニマム課税(Domestic Minimum Tax)を通じて対処されることになります。オーストラリアがこれらの税制を法制化するための草案が、先日公開コンサルテーションのために公表されました。
また政府は2026年7月1日より、全世界ベースの年間売上高が10億豪ドル以上のグループに属する納税者が、本来であればロイヤリティ源泉税が課されるはずのロイヤリティの支払いについて、誤った取扱いや過少申告をしていたことが判明した場合、その納税者に罰則を適用する新規定を導入する予定です。
2023~24年度の予算案で発表されたIncome Tax Assessment Act 1936のパートIVAの租税回避防止規則を拡大する措置の開始日は、2024年7月1PLOK以下日以降開始事業年度から、改正法案の勅許(ロイヤルアセント)以降に開始する課税年度へと延期されます。この規則の適用範囲は以下に拡大することが提案されています:
この規則の適用が開始されると、スキームがそれ以前に締結されたか否かに関係なく適用されます。
政府は、外国居住者のキャピタルゲイン税(以下CGT)制度を以下のように改定します:
外国人居住者が2,000万豪ドルを超える株式やその他の株主に相当する権利を売却する場合、管理及びコンプライアンス向上のため、取引実施前にATOに通知することが義務付けられます。
この変更は2025年7月1日以降に生じるCGT事象に適用されます。
もともと2023~24年度予算案で発表された中小企業の減価償却資産の一括損金算入制度は、年間総売上高が1,000万豪ドル未満の中小企業に対して1年延長されます。
2023年7月1日から2025年6月30日の間に取得され、課税所得を得るなどの目的 (Taxable Purposes)のために使用し始めた、又は使用可能な状態で設置された資産については、20,000豪ドルを上限に規定が適用されます。
20,000豪ドルを超える資産については、現行の中小企業加速償却規則(中小企業簡易償却プールを含む)が引き続き適用されます。
政府は、一連の税務コンプライアンスプログラムを延長・強化するための資金をATOに提供します。これにより2023~24年度からの5年間で、合計で約48億豪ドルの追加歳入と、約21億豪ドルの政府負担が見込まれます。
本予算案には既に成立している個人所得税の税率変更が含まれ、前政権が制定した「第3段階減税」に代わり、2024年7月1日以降、低・中所得者により大きな減税効果をもたらす新税率が導入されます。
個人所得税の税率:
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*税率には、メディケア税徴収(2%)は含まれません。 |
政府は、2024年7月1日より457ニューサンスタリフを完全に撤廃することを決定しました。政府は、企業のコンプライアンスコストを削減し、オーストラリアの家庭における家計改善のため、今年3月にこれら関税の撤廃についてのコンサルテーションを実施していました。
Scott Grimley EY Oceania Tax and Law Leader
篠崎 純也 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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