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共創の時代へ:データスペースが製造業にもたらすビジネス変革


データスペースが急速に重要性を増している現代、企業間の協力と情報共有がビジネスの成功に不可欠です。本記事では、データスペースの役割とその経済的・社会的影響を探ります。


要点
  • データスペースは、企業間の協力と情報共有を促進し、ビジネスの可能性を広げる。
  • Catena-Xは、自動車産業に特化したデータスペースで、効率的なサプライチェーンを構築。
  • ウラノス・エコシステムは、日本企業のデジタル化と国際競争力の強化を支援。
  • デジタルトランスフォーメーションは、企業の効率化と顧客サービスの向上を推進。


データスペースとは?

データスペース(データ共有圏)は、今日のビジネスの世界で急速に重要性を増している概念です。これは、異なる会社や組織が協力し合い、共に成長するための基盤を提供するもので、デジタル化が進む現代においては、情報やリソースの共有が非常に大切になっています。このようなプラットフォームは、オペレーションの効率化だけでなく、新しいアイデアやサービスが生まれやすい環境を作り出し、ビジネスの可能性を広げています。

デジタルトランスフォーメーションの進展は、企業がより効率的に運営され、顧客に対してより良いサービスを提供するための推進力となっています。

NEC政策渉外部 関 行秀氏、プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門 阿部 晋樹氏は「NECの取り組みの一環として、SIP3プロジェクトがあります。これは、プラスチックのリサイクルに関する情報流通プラットフォームを開発するもので、デジタル化を推進し情報分析を行うことで、より効率的なリサイクルを実現しています。デジタル技術を活用してプラスチック廃棄物の回収から分解、再利用までのプロセスを効率化し、環境問題の解決に貢献しています」と述べられています。

データスペースは、このデジタル化の流れを加速させる役割を果たしており、企業が新しい技術を取り入れ、革新的なビジネスモデルを開発する上で欠かせない存在になっています。

世界の事例を見てみると、ドイツのCatena-Xは自動車産業に特化したデータスペースを目指す取り組みとして注目されています。Catena-Xは、自動車メーカーやサプライヤーがデータを共有し、より効率的なサプライチェーンを構築することを目指しています。1 これにより、生産性の向上だけでなく、環境に配慮した持続可能な製造、さらにはオンデマンド型製造など新たなビジネスモデルが可能になると期待されています。

日本に目を向けると、経済産業省が推進するウラノス・エコシステムがあります。これは、日本の産業界全体のデジタル化を加速し、企業間でのデータ連携を促進することを目的としたプロジェクトです。2 ウラノス・エコシステムを通じて、日本企業は国際競争において確実な基盤を築くことが期待できます。

  1. “Catena-X: driving digital transformation and sustainability in the automotive industry,” EU Chemicals Platform, transition-pathways.europa.eu/initiative/catena-x-driving-digital-transformation-and-sustainability-automotive-industry(2025年5月30日アクセス)
  2. DX SQUARE「システム連携基盤 “ウラノス・エコシステム”とは ~業界も国境も超えたデータの共有に向けて~」、dx.ipa.go.jp/ouranos-ecosystem(2025年5月30日)

今回、データスペースがビジネスにおいてなぜ重要なのか、どのようにして経済的・社会的な影響を与えているのかを掘り下げていきます。世界的な動向と日本の取り組みを詳しく見ていくことで、今後のビジネスの方向性や展望について解説します。データスペースは、新しいビジネスモデルの創出や産業構造の変革を促す重要な要素であり、これからのビジネスリーダーにとって、その理解と活用は必須と言えるでしょう。

さらにデータスペースは、企業が顧客との関係を深めるための手段としても機能します。顧客のニーズやフィードバックをリアルタイムで収集し、それを製品やサービスの改善に生かすことができるのです。また、異業種間のコラボレーションを促進し、全く新しい価値を生み出す可能性も秘めています。

EYの独自調査である「EY CEO Outlook Pulseサーベイ」(図表1)、によると、日本のテクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコム(TMT)業界のCEOは、新興技術をビジネス機会に変える上で、業界内でのデジタルエコシステムの構築を最も重要な戦略的行動と考えており、その割合は100%に達しています。これは、グローバル平均の75%と比較しても顕著に高い数値です。その結果は日本のTMT業界のCEOがデータスペースの潜在的な価値を認識していることを示しており、今後のデータスペースの発展に期待が持てます。

図表1

EY CEO Outlook Pulse(September 2024公表版)サーベイより
出所: EY CEO Outlook Pulseサーベイ、September 2024

下の図表2は、Data Free Flow Trust (DFFT)を基盤に、欧州やアジアのデータスペースとの効果的なデータ連携を実現するためのあるべき姿を描いています。この取り組みでは、ルールの調整が政府間で行われる一方、民間セクターによる相互接続の推進が重要な役割を果たします。このような役割分担により、ルール面と技術面の両方で国際的な相互接続が可能となり、各国のデータが円滑に流通する環境が整います。ウラノス・エコシステムは、日本のDADC(デジタルアーキテクチャ・デザインセンター)・経済産業省が推進しており、これらの連携によりデータの相互運用性が向上し、サプライチェーン全体の透明性と効率性が高まります。

図表2

ルール面・技術面から国際的な相互運用性を実現
出所:経産省資料を基にEY作成

データスペースの課題

データスペースは、企業間の協力とイノベーションを促進する強力なツールでありながら、その実装と運用には複数の課題が存在します。データセキュリティとプライバシーの確保は、データ共有が中心となるデータスペースにおいて最も重要な懸念事項です。

NEC 政策渉外部 関氏、プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門 阿部氏は下記の様に述べられています。「NECは、データの信頼性確保のためにブロックチェーン技術を活用していますが、リアルタイムでの信頼性検証には課題が残っています。そのため、DBP(データベースプロバイダー)に電子署名機能を持たせ、発行元の真正性を担保する仕組みを開発中です。これにより、ブロックチェーンに依存せずともデータの信頼性を確保することを目指しています」

機密情報や個人情報の保護には、強固なセキュリティ対策とプライバシー保護のガイドラインが不可欠であり、これには暗号化技術の使用やアクセス管理の強化などが含まれますが、これらの対策は技術的な専門知識とコストを要するため、特に中小企業にとっては大きな負担となり得ます。

また、異なる企業や業界間でのデータ共有を円滑に行うためには、標準化と相互運用性が不可欠ですが、各企業が独自のシステムや基準を使用している現状では、統一は困難です。業界団体や規制機関が共通の基準を策定し、普及させるためには、多くのステークホルダーの合意形成が必要であり、時間と労力を要するプロセスとなります。

また、データスペースの発展には、文化的・組織的な障壁も大きな課題です。競争意識や既存のビジネスモデルへの固執がデータ共有の妨げとなっており、特に日本企業は情報を社外に開示することに対して保守的な傾向があります。このような障壁を克服するためには、組織文化の変革が必要であり、トップダウン型のリーダーシップを示し、データ共有のメリットを産業全体や、業界、個別企業で広く認識させるアプローチが求められます。

d-strategy,inc 代表取締役、東京国際大学 特任准教授 小宮 昌人氏は、以下の様に述べられています。「日本では同業他社との競争意識から他社とのデータ共有に抵抗を持ちがちです。しかし、これはデータスぺ―スの推進を主導する欧州・ドイツでも同様でした。彼らはデータスペースコンセプトを形成する初期段階において、データ連携によって産業や個社の戦略にどのような変化が起こり得るかのビジョンを経営者リーダー層で共通認識を醸成するとともに、小さい成功体験・事例を積み上げることでデータ共有のメリットやモチベーションを業界・企業を超えて作り上げています」

これらに加えて、データスペースに参画する際には、データ共有の大義への共感を企業内で醸成することが極めて重要です。特に、共有されるデータは「非競争領域」に限定され、かつ各企業が共有するデータの範囲を自ら指定できるという原則は、企業間の信頼を維持しつつ、業界全体の効率性と透明性を高めるための重要な方針です。データ共有はあくまで手段であり、その背後にある大義が明確でなければ参画企業の拡大は見込めず、ネットワーク効果が限定的になります。その結果として蓄積データが限定的になることで、コスト削減やイノベーション創出といった本来の便益も得られにくくなるという負のループに陥る可能性があります。したがって、データスペースの目的とビジョンを明確にし、参画企業がその大義に共感し、自律的かつ積極的にデータ共有に参加する文化を築くことが不可欠です。


データスペース成功の鍵:日本企業が直面する課題とその解決策

データスペースの成功は、これらの課題をどのように克服するかにかかっていますが、日本企業はどのようにしてこれらの課題を乗り越えて、プラットフォームを効果的に運用することができるのでしょうか。

データスペースは、企業が新たな価値を創造し、効率的な企業運営を達成するための重要な基盤です。しかし、そのメリットを最大限に生かすためには、さまざまな取り組みが不可欠です。日本企業がグローバルな競争において優位性を取り戻し、イノベーションを推進するためには、以下の5つの重要な要諦を把握し、それに基づいた行動を取る必要があります。

  • サステナブル対応とオペレーションの効率化:日本企業にとって、サステナブル対応とオペレーションの効率化は、今後のビジネス環境において不可欠な戦略となります。特に欧州では、「バッテリー規則」をはじめとする環境規制が厳格化しており、これに適応しない企業は貴重なビジネス機会を失うリスクが高まっています。このような状況下で、データ連携を活用することにより、オペレーションの効率化が促進され、コスト削減や迅速な意思決定が実現可能となります。特に、サプライチェーンにおいては、取引先との間でデータを連携し合うことで、より精緻な生産計画を立てたり、需要の変動に応じて発注の見直しを行うことが可能です。日本の伝統的なサプライチェーンの強みをデジタルに変換することで、競争力を維持し、持続可能な成長を実現するための強固な基盤を築くことが求められています。d-strategy,inc 代表取締役、東京国際大学 特任准教授 小宮氏は、以下の様に述べられています。「日本では以前からケイレツをはじめ企業を超えて人やノウハウを共有し連携し合いながら底上げしていくサプライチェーンを構築してきました。こうした取り組みをデータスペース時代・デジタル時代に合わせて適応させる必要があります。サプライチェーンにおけるScope3 でのCO2共有をはじめ、共同での在庫・供給計画を通じた柔軟性の確保、自社や協力企業間の現場ノウハウを活用したデータ/AIソリューションの構築・展開などは自動車・蓄電池領域に限らず、エレクトロニクス分野はじめあらゆる製造業の領域において必須となります。日本ではRRI(ロボット革命・産業IoTイニシアチブ協議会)がグローバルでの製造業におけるデータスペースの取り組みであるInternational Manufacturing-X協議会に参画しており、今後グローバルで日本としての提案や価値を創出することが期待されます」

  • データ共有の促進:他の企業とのデータ共有を通じて、研究開発やサプライチェーンのコストを削減します。共有インフラストラクチャーの設立など、効率的なリソース活用を推進します。データ共有の促進は、未来のビジネスの在り方を根本から変える力を秘めています。NEC 政策渉外部 関氏、プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門 阿部氏は下記の様に述べられています。「NECは、トラスト技術を活用してデータの改ざん防止や企業間の認証を行うことを目指しています。特に、データの真正性の確保において、暗号技術や分散型台帳技術を活用することで、データの信頼性を担保しています。この取り組みは、データスペースの実装を進める上で重要な役割を果たしています」

  • リスクマネジメントの強化: エコシステム内での情報共有を活用し、市場の変動や技術進化に対するリスクを予測し、対策を講じます。パートナー企業との連携によるリスク分散を図り、ビジネスの安定性を高めます。

  • 具体的ユースケース・価値の策定:データスペースの構築においては、先述の大きなビジョンを掲げることが重要ですが、それと同時に具体的なユースケースや価値を明確化することも不可欠です。d-strategy,inc 代表取締役、東京国際大学 特任准教授 小宮氏は、以下の様に述べられています。「データスペースの展開にあたっては、総論は賛成ながら各論では進まないといったことが起こりがちです。手段ありきの抽象的な議論ではなく、どういったシナリオ・ユースケースが生まれ、上流サプライチェーン企業や中小企業も含めた各参加者がデータ連携することでどのようなメリットがあるのか、そのシナリオにおいて各プレーヤーにどういった協力が必要なのか、どのデータを連携してもらいたいのかなどの点を具体化することが必須です。現在のデータスペースの議論は主に最終製品企業など下流企業や、ITベンダーにとってメリットのあるユースケースに終始しており、実際のデータの出し手の中心となるサプライヤーや中小企業にとってのメリットが明確化されていません。強みを持つ中小企業が多い日本から『サプライヤーファーストのデータスペースユースケース』を世界に対して打ち出していくことが期待されます」

  • グローバルなネットワークの構築とイノベーションの促進: 海外の企業や市場との連携を深めることで、新たな顧客層の獲得とビジネスチャンスの創出を図ります。この取り組みは、単なる市場拡大にとどまらず、データに関する包括的エコシステムの構築をも促進します。さらに、企業間のデータ流通が活発化することで、データを活用した新たなビジネスモデルの創出が期待でき、イノベーションの加速につながります。

欧州では、自動車業界がデータスペースの先駆者となっており、サプライチェーンマネジメントの向上という形で先行者利益を享受しています。一方、日本ではウラノス・エコシステムというイニシアチブによるさまざまな業界でのデータ連携プロジェクトの支援が見込まれます。特に、TMTセクターにおけるドローン、自動運転、デジタルツイン等の先端技術が活用されることで、幅広い領域での変化と革新が期待されています。日本のTMT企業は、これらの技術を活用することで、迅速に戦略を展開し、欧州の同業者が得ている利点を手に入れるチャンスがあります。戦略的な取り組みを進めることで、データスペースの可能性を最大限に引き出し、国際競争での地位を強化できるでしょう。このような動きは、イノベーションを促進し、持続可能なビジネスモデルを構築することに寄与し、グローバル市場での日本企業のリーダーシップを支える重要な要素となります。


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サマリー

データスペースは、企業間の協力と情報共有を促進し、ビジネスの可能性を広げる重要な基盤です。日本企業がグローバル競争で優位に立つためには、データスペースの活用が不可欠です。デジタルエコシステムの力を最大限に生かし、効率的な企業運営と新たなビジネスモデルの創出を目指しましょう。


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