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銀行における国際送金市場の最新動向

このQ&Aでは、EYのグローバルの決済リーダーたちが、銀行が変化の激しい国際送金市場でどのように成功できるかを明らかにします。


要点
  • この記事では、グローバルの決済リーダーたちが、業界が直面している最も重要な質問に答え、銀行が優先すべき戦略的な課題を特定します。
  • デジタル資産を用いた革新、新しいデータ基準の採用、スクリーニング技術の活用といったフィンテックによるアプローチが期待されます。
  • 2022年のPayTechレポートを基に、業界のプロフェッショナルの見解を交えた最新の「Beyond Borders」レポートでは、国際送金の世界をさらに掘り下げます。

国際送金市場は劇的な変革期を迎えています。協力的な業界の取り組みと規制当局の支援を背景に、デジタル革命が金融の変革の新しい時代をもたらし、消費者や個人事業主、また中小零細企業から大企業にとってより良い成果を生み出しています。

レポート「Beyond borders: Capturing growth in the dynamic cross-border payments market」を読む

競争が激化する中、新規参入者と既存のプレーヤーがこの魅力的な市場のシェアを争っています。国際送金市場は2030年までに290兆米ドルに達すると見込まれています。リアルタイムで透明性があり、コスト効果の高いサービスを求める顧客の行動や期待の変化がイノベーションを加速させています。Direct-to-Consumer(D2C)プラットフォームやマーケットプレイスといった新しいビジネスモデルが、国際送金のエコシステムを再構築しています。

国際送金の市場規模は2030年までに、
に達すると予測されています。

銀行や他の市場関係者は、この巨大な成長をどのように活用できるのでしょうか?

EYの最新レポート「 Beyond borders: Capturing growth in the dynamic cross-border payments market 」では、変化を促すメガトレンドを探ります。重要なのは、利害関係者がこの急速に拡大する市場での役割を確保し成長するために、優先すべき6つの戦略的命題を明らかにしていることです。

ここで、グローバルの決済プロフェッショナルチームに所属するSanjeev Chatrath(EY Asia-Pacific Payments Leader)、Alla Gancz(EY UK Payments Consulting Leader)、Jennifer Lucas(EY Americas Payments Consulting Leader)が、この変化の激しい市場において、銀行や他の市場関係者が成長機会を逃さないために考慮すべき事項を解説します。

Q:今日のグローバル経済の状況下で、国際送金市場の現状の規模と成長を促進している要因について教えてください。

Sanjeev Chatrath: 

過去5~6年間で市場は勢いを増しています。これにはいくつかの要因が作用しています。コロナ禍後の世界では、労働力はよりグローバルに分散化し、また多くの企業がグローバル化を進めました。以前は、多国籍企業と言えば、通常フォーブス500やFTSE 100の企業でしたが、今日では世界中に顧客を抱える中小企業も多数存在しています。これにはEコマースも大きな影響を与えています。市場はまさに爆発的に成長し、2023年には市場規模はおよそ190兆米ドルに達して、今後6〜7年間では毎年約10%の健全な成長が見込まれています。当然このような市場規模と成長速度には、膨大な収益機会が伴ってきます。

Q:金融犯罪のスクリーニングは時間がかかり、リソースを消耗します。銀行がこの負担を軽減し、コンプライアンスの複雑さを管理するために導入できる技術は何ですか?

Alla Gancz:

国際送金の取引の膨大な量と複雑さは、マネーロンダリング、テロ資金供与、制裁回避などの犯罪活動の温床になり深刻な問題となっています。技術の進歩により、これらの脅威の確度とスピードが増し、やがては規制やコンプライアンスの変化を促進します。状況は常に変化しており、銀行は顧客確認(KYC)やマネーロンダリング防止(AML)プロトコルを強化し続ける必要があります。そのような環境の中、もし銀行が時間のかかる手動のプロセスや古い技術インフラに依存しているならば、コンプライアンスリスクは増加するばかりです。これらに対し、銀行がスクリーニング能力を強化するために利用できる先進的な技術は多数あります。例えば、人工知能(AI)や機械学習を使用して膨大なデータを処理し、高リスクの取引を瞬時にフラグ付けすることや、リアルタイム監視を使用して疑わしい活動を特定することです。しかしスピードだけに注目するのではなく、私が付け加えたいのは、人間の要素も非常に重要であるという点です。つまり、これらの技術を効果的かつ正確に使用するために必要なスキルを持つ人々を育成することが不可欠であるということです。

状況は常に変化しており、銀行は顧客確認(KYC)やマネーロンダリング防止(AML)プロトコルを強化し続ける必要があります。

Q:デジタル通貨の組み込みプログラマビリティは金融にとってゲームチェンジャーです。国際送金のリーダーたちはその潜在能力をどのように活用していますか?

Jennifer Lucas:

プログラマビリティは一部のデジタル決済システムで使用されていますが、未開発の大きな潜在能力があります。例えば「DVP決済」のような決済メカニズムにおけるプログラマビリティが考えられます。同時決済とデリバリーはシンプルな概念ですが、国際送金市場ではその影響は甚大です。これにより、決済リスクは減少し、通貨やタイムゾーンの違いを克服し、また流動性は向上します。他のユースケースとしては、支払いのトリガー、取引額やボリュームの制限設定、アカウントの削除や一時停止などの高度な機能の作成が考えられます。

Q:常に変化する規制面において、銀行や他の市場参加者が注視すべきことは何ですか?

Sanjeev Chatrath:

意図しない結果を避けるため、規制当局間の対話と連携がより強まる方向に確実にシフトしています。これには、コストの増加、重いコンプライアンス負担、金融的排除が含まれます。金融規制よりも、データプライバシーやセキュリティ、情報のインテグリティが優先事項になってきています。消費者は自分の権利について、より意識的になり、データ規制当局は、今後注力するインフラの種類について、より明確な指針を提供しています。銀行はこうした流れを認識する必要があります。

大企業が社内銀行を持ち、ネットワーク内のエンティティ間で資金を移動させる際には、一部の国際送金に特定のライセンスが必要となる可能性の考慮も求められます。また、プラットフォーム企業がウォレット上で価値を移転することに対しても、規制当局の関心が高まっています。

Q:ISO 20022への移行に関して、銀行はどの程度進展を遂げていますか? また、もし停滞している場合、何がその障害となっていますか?

Jennifer Lucas:

銀行は、ISO 20022に対応するエコシステムへの移行を加速しています。ほとんどの銀行は、自身の抱えるインフラの最新化およびISO 20022の採用を促進するために、何に注力するべきか、優先事項を検討しています。銀行ごとにバックオフィスの技術インフラは多様であり、また顧客のリテラシー水準も異なります。このような環境の中で、当該プログラムは、投資を最適化しまた金融エコシステム全体に最良のリターンをもたらすため、慎重にアプローチしなければいけません。銀行が今後も成長を続ける中、単にタイムラインを厳守するのみではなく、新しい「データリッチ」な基準から価値を創造していくことを目指すべきです。

銀行ごとにバックオフィスの技術インフラは多様であり、また顧客のリテラシー水準も異なります。当該プログラムは、投資を最適化し最良のリターンをもたらすために、慎重にアプローチしなければいけません。

Q:国際送金の改善が、特に新興経済国における十分なサービスが受けられないコミュニティにどのように役立つことができますか?

Sanjeev Chatrath:

G20の国際送金ロードマップが対処している、コスト、速度、透明性、アクセスに関するデメリットは、特に2つのグループに強く感じられています。1つは、本国に送金を行う移民労働者、もう1つは少額決済を行う中小零細企業です。例えば、200米ドルを送金する際の世界平均コストは約6.4%であり、これは持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる水準である3%のおよそ2倍にあたります。これに対し、デジタルソリューションに基づいてモバイル技術を活用した国際送金エコシステムは、よりコスト効果が高く、信頼性の高い送金手段を提供できます。これは、政策立案者、規制当局、利害関係者がASEANクロスボーダー決済イニシアティブ(ASEAN Cross-Border Payment Initiative)などを通じて取り組んでいることであり、国内のリアルタイム決済システムを接続し、現地通貨の使用を促進する重要な役割を果たしています。これにより、十分なサービスが受けられないコミュニティへの金融サービスのアクセスが向上しています。

デジタルソリューションに基づいてモバイル技術を活用した国際送金エコシステムは、よりコスト効果が高く、信頼性の高い送金手段を提供できます。

Q:国際送金の世界を支える最近のパートナーシップにはどのようなものがあり、銀行の最大の機会はどこにありますか?

Alla Gancz:

戦略的パートナーシップは国際送金の全体を再構築し、イノベーションを推し進め、銀行が即時でコスト効果の高いシームレスな決済体験を提供できるようにしています。最近の注目すべき事例として以下が挙げられます。

  • HSBCとVisaの提携による国際送金アプリ「Zing」が開発されています。これにより、ユーザーは10通貨で資金を保持し、30以上の通貨を送金し、200以上の国と地域で取引できます。
  • DBSとMashreqの協力により、アジア・パシフィック、欧州、米国の特定市場では、顧客に同日またはほぼ即時のピア・ツー・ピアな送金を提供しています。

API、リアルタイム処理、取引の事前検証、モバイル技術を活用した革新的な決済ソリューションや付加価値サービスを共同で創造することで、銀行とフィンテック企業は、サービス提供を洗練し、運用効率を高め、グローバルな影響力を拡大することができます。

Q:今後5〜7年間で国際送金業界における最大の変革および機会はどこにあると考えますか?

全員:

国際送金市場は、特に有望なB2BおよびB2Cセクターにおいて、重要な変革を遂げようとしています。Eコマースの急増に後押しされるB2C市場においては、2032年までにその市場規模は4.7兆米ドルに達するという驚異的な予測がなされています。同時に、B2B市場においては国際貿易の成長と中小企業におけるグローバル化への機運の高まりがその成長を推進します。デジタル資産、トークン化、スマートコントラクトなどの新興技術によって、取引はより迅速で、透明性やコスト効果を高めることが可能となり、業界を革命的に変えるでしょう。

これらの技術革新とリアルタイム決済システムの実装、トークン化の広範な採用の可能性は、国際送金エコシステムを再定義する重要な要素となります。これらは、企業や消費者にシームレスな国際送金体験を提供し、業界の成長を促進し、グローバル決済の変革の時代をもたらすと期待されています。

B2C市場は爆発的な成長を遂げており、2032年までに
に達すると予測されています。

EYの決済リーダーが国際送金の未来を語る

Sibos TVのインタビューにおいて、EY Asia-Pacific Payments LeaderであるSanjeev Chatrathが、銀行と他の市場関係者に国際送金市場がもたらす機会について見解を述べました。

 


サマリー 

国際送金インフラの最新化への道は、徐々に進展する改善活動とイノベーションの融合によって成り立っています。ISO 20022のような業界全体を巻き込んだ取り組みにより変革が早期に実現され、デジタル資産の採用や決済システムの統合といった時代に対応する新たな銀行モデルは、市場を再形成するでしょう。これらの取り組みを円滑に推進するためには、エコシステムにおける全ての利害関係者の協力が必要不可欠となります。

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