Drone view of contaminated, toxic water stream in Geamana, Romania
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ネイチャーポジティブ経営を実現するための自然関連情報開示とは

EYグローバルネイチャーアクションバロメーターから、企業が自然関連の情報を開示する体制をまだ十分に整えていないことが分かりました。


要点

  • 企業の93%が開示情報で自然関連について言及しているが、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に従っている企業は26%しかない。
  • 独立したTNFDレポートを作成しているか、TNFD指標を年次報告書やサステナビリティレポートに盛り込んでいるのは、対象企業の13%にすぎない。
  • ネイチャーポジティブへの取り組みの目標を掲げる企業は3%に満たない。


EY Japanの視点 

グローバルでのTNFD開示状況と突出する日系企業のプレゼンス

今回、EYにてグローバルでの自然関連情報開示状況についての調査を実施し、特にTNFDフレームワークへの取り組み状況を確認しました。グローバル全体で見ると、TNFDフレームワークへの落とし込みはまださして高くないという結果となっています。一方で、2025年11月にTNFDが発表した最新統計情報によると、TNFDアドプター733社中、実に210社が日系企業であり、日本からのアドプターが一番多いことを示しています。これまで統計発表の都度、アドプター総数のうちの4分の1を日系企業が占めてきましたが、最新状況においてもその割合は下がることなく、むしろ割合としては増える形となりました。

TNFD開示が進むことにより、各社における自然との関わりの分析が進み、ひいてはしっかりとビジネス戦略に落とし込んでいけるようになります。日本の企業がグローバルに先駆けて開示でリードするということは、自然関連の戦略策定が進む上、今後のネイチャーポジティブ関連の市場にてリードすることにもなると考えています。


EY Japanの窓口

茂呂 正樹

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Environmental, Health & Safety (EHS) Leader, Nature Services APAC Regional Lead


企業は、自然関連のリスクへの対処や、機会の活用について、詳細な情報開示をまだ実施できていません。EYチームの分析結果によると、サステナビリティ経営の成熟度が比較的高い企業でさえ、自然関連パフォーマンスを強化するためのガバナンス、戦略、指標・目標の構築に際しての取り組み情報を開示していない可能性があることが明らかになりました。

今回が第1号となるEYグローバルネイチャーアクションバロメーターで、世界各国の企業による自然関連情報開示の現状を詳細に分析した結果、多くの企業が、事業の重要なトピックとして開示しておらず、その戦略も開示していないことが浮き彫りとなりました。ただ、情報が開示されていないからといって、必ずしも計画がないわけではありません。企業によっては、取り組みを最後までやり遂げられなかった場合に訴訟を起こされる可能性があることを懸念しているほか、機微な戦略の詳細を明かして競争優位性を損なうことがないよう、あえて情報を伏せている場合もあると考えられます。とはいえ、情報を開示しない選択をすれば、リスクが見えにくくなると同時に、レジリエンスが低下し、ビジネスモデルを進化させる重要な機会を逸することになるかもしれません。透明性の高い情報開示は投資家の信頼を高めるだけでなく、リスクと機会をより明確にし、最終的には企業とステークホルダー双方に利益をもたらします。

Penguins in Antarctica. Port Lockroy. Expedition
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第1部

世界各地の自然関連情報開示の現状

企業の自然関連情報開示が広く浸透してきたにもかかわらず、十分に包括的な情報開示や、TNFDに沿った情報開示を行っている企業はほとんどありません。

今回の調査で分析対象となった435社のうち圧倒的多数(93%)が、自然関連の開示情報にある程度の記述をしています。とはいえ、代表的な自然関連情報開示フレームワークであるTNFDの提言に沿って情報を開示している企業はわずか26%です。これは、企業がバリューチェーン全体で自然関連の果たす役割に関する情報を何らかの形で開示しているものの、必ずしも包括的な内容ではないことを示唆しています。

しかも、独立したTNFDレポートを作成しているか、TNFD指標を年次報告書やサステナビリティレポートに盛り込んでいるのは、対象企業の13%にすぎません。これらの企業がTNFDレポートやTNFD指標という形で公表していないかぎり、資本配分の決定に責任を持つ投資家を含めたステークホルダーに対して、市場に有益な自然関連情報を必ずしも提供していない形となる可能性があります。

TNFD情報開示の4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクと影響〈インパクト〉の管理、指標と目標)のうち、企業のカバー率と対応率の両方が最も高いのはガバナンスです(カバー率は87%、対応率は31%)。ガバナンスは自然関連への取り組みに向けた第一歩となることが多く、専任の運営委員会など進捗状況をモニタリングする体制を設けている企業が少なくありません。

一方、カバー率と対応率の両方が最も低いのは「指標と目標」です(カバー率は76%、対応率は22%)。これは、データのアクセシビリティや測定の仕方に関わる潜在的課題、そして自社の事業にとって自然関連がどの程度、財務上重要であるかを反映していると考えられます。


上の図は、企業がTNFDの各柱にどれだけ幅広く対処しているか(カバー率)、および、現在の取り組みがTNFD提言にどれだけ沿っているか(対応率)を比較したものです。カバー率が全ての柱でおおむね高いのに対して、対応率がいずれも低いことが分かります。

セクター別で見ると、開示情報のTNFD提言への対応率が最も高いのは消費財(33%)と抽出物・鉱物加工(32%)です。これは、この2つのセクターの自然に与える影響(インパクト)と依存、リスクと機会の重要度が高いことを反映しているのかもしれません。

ネイチャーポジティブ経済への移行が急務であるにもかかわらず、ネイチャーポジティブへの取り組みの目標を掲げる企業はわずか3%です。その一方で、対象企業はウォーターポジティブへの取り組みや再生型土地利用慣行の拡大などの戦略を組み込み始めており、これは期待の持てる動きといえます。

こうした分析結果から、企業は、ネイチャーポジティブへの取り組みの成果を上げるために、開示している以上の対応を講じている可能性があることが分かりました。

Zhangjiajie National forest park at sunset, Wulingyuan, Hunan, China
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第2部

自然関連情報開示を強化するための5つの対応

自然関連情報開示は、戦略的な経営判断で極めて重要な役割を果たしています。

今回の調査の結果から、戦略的な意思決定の参考となる自然関連情報を開示して、自らとステークホルダーの自然関連の取り組みを加速させる重要性が明らかとなりました。そうすることで、潜在的な自然の喪失の軽減に協力しながら、将来を見据えた事業を構築することもできるはずです。

企業がより真摯に自然関連を戦略に組み入れ、情報開示を改善して取り組みを加速させるために、講じることができる主な対応が5つあります。

  1. バリューチェーン全体で事業の自然に与える影響(インパクト)と依存状況に関する理解を深める。気候変動リスクの管理を含めた企業戦略と意思決定に自然関連を確実に組み込む。

  2. 事業の自然に与える影響(インパクト)と依存状況に加え、自然関連のリスクと機会をモニタリングするケイパビリティとキャパシティを構築する。影響(インパクト)や依存度を評価するツールや生態系をモニタリングするツールなどの新たなテクノロジーに投資する。パートナーと連携して課題に対処する。

  3. 開示情報の質を高め、ステークホルダーのニーズに合った、意思決定に役立つ情報を提供する。完璧を求めすぎて開示が遅れるより、不完全でも開示するほうが望ましい。

  4. ステークホルダー(サプライヤーや金融機関、データプロバイダーなど)に、より良い自然関連情報の提供を求める。それが情報開示全体の水準を引き上げる一助となる。

  5. 自然と自然関連情報開示を取り巻く規制環境をモニタリングする。今後はこの急速に変化する規制環境で自然関連が重視される可能性が高い。そのため、企業は規制関連の新たな動きを常にチェックし、事業への影響(インパクト)を評価する必要がある。

本レポートの取りまとめと今回の調査の実施にあたり、Jonah Hessels(Manager, Climate Change and Sustainability Services, Ernst & Young U.S. LLP)、Reagan Richmond(Senior Manager, Climate Change and Sustainability Services, Ernst & Young U.S. LLP)、Tushar Jindal(Executive Director, Climate Change and Sustainability Services, EY Global Delivery Services India LLP)が協力をしてくれました。この場を借りて、感謝の意を表します。

サマリー

社会が気候危機と本質的につながっている自然の喪失という課題に対処するのであれば、企業はすぐに行動を起こさなければなりません。TNFDに沿った情報開示は、ネイチャーポジティブな未来の実現に不可欠であり、透明性を高め、説明責任を強化し、知識の共有を促進し、自然の喪失を食い止めて回復させるための行動を企業が今すぐ起こすよう促す一助にもなります。

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