2025国連責任あるビジネスと人権アジア太平洋フォーラムハイライト

2025国連責任あるビジネスと人権アジア太平洋フォーラムハイライト


2025年9月、「第7回責任あるビジネスと人権に関するアジア太平洋フォーラム」がタイ・バンコクの国連カンファレンスセンターにて開催され、人権への負の影響の対応において企業や国家の果たすべき役割や、人権デューデリジェンスの在り方について4日間議論されました。


要点

  • 企業、市民社会、国際機関等の関係者が、アジア太平洋地域における人権尊重に関する取組みの深化に向けて、企業や国家の果たすべき役割や、人権デューデリジェンスの在り方について議論した。
  • サプライヤーの労働者の人権を意識した責任ある購買慣行や脆弱なライツホルダーの立場・視点を理解し、彼・彼女らを取り残さない人権デューデリジェンスの実施の重要性が強調された。

2025年9月16日から19日にかけて、タイ・バンコクの国連カンファレンスセンターにおいて、「第7回責任あるビジネスと人権に関するアジア太平洋フォーラム」(United Nations Responsible Business and Human Rights Forum, Asia-Pacific)が開催されました。本フォーラムは、2011年に国連で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」のアジア太平洋地域における促進や、企業、市民社会団体、国際機関、大学・研究機関の間の対話と相互学習を目的に、2017年より毎年開催されています。

本年のフォーラムでは、「進捗の定着と危機下での地域リーダーシップの強化」(Anchoring Progress and Strengthening Regional Leadership on Human Rights through Crisis)というテーマのもと、ESGへの反発の高まりなど世界でビジネスと人権に対する逆風がある中、アジア太平洋地域でみられた規制の強化や人権デューデリジェンス(以下、人権DD)の推進といった進展を維持・加速させることなどを目的に、企業・政府・市民社会が果たすべき役割や人権DDの在り方について議論されました。また、本フォーラムの会期中には、JP-MIRAI(責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム)及び東南アジアのサプライチェーンに関する労働問題を扱うNGO団体ISSARA Institute共催のスタディーツアーや、ジェトロ・アジア経済研究所主催の日系企業向け実践型セミナー等も実施されました。

フォーラムやサイドイベントでは、アジア太平洋地域の文脈を踏まえて、企業が人権尊重の取組みの一環として責任ある購買慣行を推進することや、脆弱なライツホルダーを取り残さずに人権DDを実施し、ライツホルダーの声を中心に据えた実効性のある救済メカニズムを構築することの重要性について議論されました。また、AI・テクノロジーに関する問題や環境と人権といった新潮流の人権課題についても議論されました。

1. 責任ある購買慣行

企業に期待される人権尊重に関する取組みのひとつに責任ある購買慣行があります。本フォーラムでは、購買側企業が、調達先であるサプライヤーとの力関係を認識した上で、サプライヤーと意味のあるエンゲージメントを実施する重要性について議論されました。企業がサプライヤーに人権に関するトレーニングを実施することなどで、人権の尊重を購買側の企業とサプライヤーとの共通の価値としていくことが推奨されました。加えて、企業からサプライヤーに対して一方的に人権・労働基準を通達するようなトップダウンアプローチだけでは不十分であるとして、労働時間の制限を一方的に通達されたサプライヤーで労働時間の記録の改ざんが行われる恐れについて言及されました。生活するのに十分な賃金が支払われていないサプライヤーで残業が一方的に制限された場合、労働者の退職や経営悪化を招き、脆弱な労働者の搾取につながる恐れについても触れられました。

企業に期待されるグッドプラクティスの例として、サプライヤーとのパートナーシップの在り方を定義し、サプライヤーに対して一定の期間 、関係を維持することが挙げられました。そのようなパートナーシップの好事例として、購買側企業とサプライヤー工場が協力し、生活賃金の支払いを推進するためのカンボジアでのアパレル業界の取組み(Win-Win-Win for Cambodia)が紹介されました。この取組みでは、企業・サプライヤー・労働組合の3者協議によって、企業が発注時に十分なリードタイムを設定することといった基本的な事項のみならず、購買価格に労使対話を通して決定された賃金水準を反映することが取り決められました。企業の持続可能性と労働者の生活水準向上との両立が目指されるモデルとして責任ある購買慣行の参考事例となっています。

2. 脆弱なライツホルダーの参加の確保

本フォーラムの開催国であるタイでは、隣国であるミャンマーの情勢悪化を背景に、同国から来る多くの移民労働者が製造業や建設業を含むさまざまなセクターで労働に従事しています。IOM主催のスタディーツアーでは、移住労働者の権利保障に取り組む現地NGOから、移民労働者への賃金未払いや非人道的な扱いが行われた実例や、社会保障へのアクセスが拒まれた実例が紹介され、グローバル企業が人権DDを実施し、自社のバリューチェーン上の移民労働者を特定し、彼らの人権が守られているかを確認することの重要性が強調されました。本フォーラムにおいても、脆弱な立場にある移民労働者を支援する実務者や移民労働の経験を持つ個人による講演がありました。彼・彼女たちからは、苦情の申し立てに関して、雇用者側から報復またはその脅しがある場合など、移民労働者が助けを求めるのが難しくなることや、そもそも苦情処理メカニズムの周知が言語の障壁やネット環境へのアクセス不足によって移民労働者にまで行き渡らない場合があることが共有されました。

その他にも、東南アジアで脆弱なライツホルダーである先住民・地域住民の支援に従事する実務者による講演もありました。講演では、大規模な土地開発により自然資源へのアクセスを失った先住民を例に、企業が事業を営む地域で、その地域の環境が先住民・地域住民に対して持つ生活上の資源的な価値や文化的・精神的価値を理解する重要性や意味のあるエンゲージメントを実施する意義について議論されました。先住民の中でも特に女性は、公の場で意見を述べることで差別やハラスメントの被害に遭うなど、特に脆弱な立場にあり意思決定から疎外される傾向にあることから、企業側が指定する相手とのみ協議するのではなく、誰もが安心して参加できる空間を確保することが推奨されました。

3. 実効性ある苦情処理メカニズムの構築

実効性のある苦情処理メカニズムの構築は、実際に人権侵害を受けた個人の救済に寄与するだけでなく、人権侵害の予防にもつながります。本フォーラムでは、苦情処理メカニズムの構築段階や設置後に労働者の意見やフィードバックが反映される仕組みはまれであると指摘され、そのような取組みを推進することで、苦情処理メカニズムの信頼性・アクセス性・実効性の向上につながると強調されました。また、苦情処理メカニズムが実際に活用されるには、単にその存在について周知されるだけでは足りず、その利用方法を労働者が正しく理解すること、必要に応じて研修を実施することが重要だとの議論もありました。

4. 新潮流の人権課題

新潮流の人権課題のひとつに、AI・テクノロジーに関する問題があります。一例には、デジタル時代における急速な技術の進展によって偽情報や誤情報、ヘイトスピーチがかつてない規模で広がっていることが挙げられます。関連して、インターネット広告・掲示のアルゴリズムは、何が真実であるかより、利用者によるクリック数などによる収益を重視するビジネスモデルが問題視されています。本フォーラムでは、ソーシャルメディアがミャンマーで偽情報やヘイトスピーチ拡散に利用され残虐行為に加担したと指摘される例に言及され、データ保護規制の強化や企業に対する人権DDの義務化が推奨されました。また、テック企業のサービスを利用する企業にはサービス提供先の慎重な検討が求められました。

新潮流の人権課題には、環境や生物多様性に関する問題もあります。2022年には、国連総会で、クリーンで健康的かつ持続可能な環境へのアクセスは普遍的人権であると宣言する決議が採択されるなど、環境と人権とのつながりへの認識は高まっています。本フォーラムにおいても、環境に対する権利が人々の健康や生存権と関連しており、気候変動がインフラの脆弱なグローバルサウスの労働者の安全衛生に与える影響について議論されました。

5. 日本企業への示唆

本フォーラムで議論されたように、企業には、バリューチェーン上の労働者も念頭に、責任ある購買慣行を推進することや、移民労働者や先住民・地域住民含むライツホルダーを中心に据えた人権尊重の取組みを推進していくことが求められています。議論を通じて、意味のあるライツホルダーとのエンゲージメントを通じた人権DDの実施や苦情処理メカニズムの構築の重要性が強調されました。アジア太平洋地域と密接に関わる日本企業においては、バリューチェーンを通じて、ライツホルダーやその代表者との対話を重視し、彼らの視点やニーズを理解し、人権尊重の取組みに生かすことが期待されています。

6. EYにできること

EYは、日本において、2015年から人権リスク対応支援や、サプライチェーン上の人権・環境リスクに対するDD体制の構築・運用に関する支援を提供してきました。グローバルなサプライチェーン上の人権・環境リスクに対応するため、関係国を拠点にするEYの海外メンバーと連携するグローバルな支援経験も豊富です。また、EYは、企業のバリューチェーン上の人権・環境影響に対する企業のDD責任に関する国連や国際機関でのルール形成に関し、日本政府代表としてのルール交渉や日本政府のガイドライン策定の検討委員を経験しているメンバーを擁しています。

EYは、専門的知識と豊富な支援経験に基づく実践的な助言、各国の人権DD関連規制の最新動向の把握、そして、グローバル連携などを強みとして、実務に即して、事業者の皆さまにおける人権・環境DD体制の構築支援が可能です。


【共同執筆者】

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
石橋 美咲、平井 采花、三浦 舞子、宇佐美 純、藤原 聡子、石川 瑳咲、木戸 紫織、伊藤 晃太、治川 可南子

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー 

本フォーラムでは、アジア太平洋地域の文脈を踏まえて、企業が人権尊重の取組みの一環として責任ある購買慣行を推進することや、脆弱なライツホルダーを取り残さずに人権DDを実施し、ライツホルダーの声を中心に据えた実効性のある救済メカニズムを構築することの重要性について議論されました。



この記事について

執筆者


EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、サステナビリティ情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ

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