投資銀行の都市部オフィスで働くファイナンシャルアナリスト

GBSが人件費削減から価値創出へと進化するための要諦とは


多くの最高財務責任者(CFO)が、グローバル・ビジネス・サービス(GBS)を単なる人件費の削減にとどまらず、戦略・テクノロジー・人材を通じた価値創出の手段として活用しています。


要点

  • グローバル・ビジネス・サービス(GBS)は、ファイナンス・人事(HR)・IT などの機能を横断的に支援し、CFO の重要課題である業務効率化、ガバナンス強化、価値創出を実現する。
  • GBS導入に当たっては、戦略との整合性、テクノロジーの活用、人材育成、強固なガバナンス、そして継続的改善に重点を置くことが重要である。
  • GBSは、自動化と人工知能(AI)により、コストセンターからプロフィットセンターへと進化し、重要な洞察とイノベーション創出の可能性をもたらす。



EY Japanの視点

本稿で示されているGBSの方向性は、日本企業が直面している間接業務の効率化や人材不足といった課題感と共通しています。特に、GBSをコスト最適化の手段のみではなく、全社的なデータ活用と人材育成を担う基盤として位置付ける考え方は、日本企業にとっても有益な示唆を含んでいます。

一方、グローバルでは地域・機能横断型で自律的なGBSを前提としているのに対し、日本企業において地域の特性・商慣習を考慮した段階的な業務標準化やガバナンス確立を起点としたアプローチが必要なケースが多く見られます。この点において、GBSの推進アプローチに日本企業に合致した進め方を設計することが重要となります。グローバルが掲げるプロフィットセンター化という将来像は、日本においても中長期的な方向性であり、まずは業務効率の向上、データの一元管理、意思決定に資する情報提供力を強化することが重視されています。

本記事では、日本企業においてもGBSを業務集約組織として導入し、デジタル基盤を活用した業務可視化と人材高度化を進めるべきという方向性を再確認できます。結果として、GBSはレジリエントなオペレーションと迅速な経営判断を支える組織基盤として、その存在感を一層高めていきます。


EY Japanの窓口

永井 康幸
EY Japan Global Business Services Solution Leader; Partner, Consulting, EY Strategy and Consulting Co.,Ltd

陳 麗子
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
グローバル・ビジネス・サービス シニアマネージャー

呉本 将海
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
グローバル・ビジネス・サービス シニアマネージャー



多くのCFOが、先進的なGBS組織は企業に大きな価値をもたらすことができると考えています。

  • GBSは、業務効率の向上、専門知識の活用、さらにガバナンスと標準化プロトコルの継続的な確保を促進する機会をもたらす。
  • 今後、先見性のある企業はGBSを、運転資本管理の最適化、事業機能の高度化、より深い洞察の提供を実現するための戦略的アプローチとして捉えるようになると見込まれる。

CFOの役割は、従来のような業務の効率性や有効性を追求するだけのものから、ステークホルダーに提供するデータやインサイトにおいて、スピード、正確性、透明性、品質、信頼性の確保が求められるものへと変化しています。こうした流れを踏まえると、ファイナンス機能を支えるために広く活用されてきたシェアードサービスが、第3の進化形とされるGBSへと徐々に変化していくのは、自然の流れと言えるでしょう。GBSは、CFOや企業にとって重要な優先事項の確実な実現を次世代型のアプローチで支えます。

GBSの重要性
60%
の企業が、GBSモデルを導入済み、または移行中です。

シェアードサービスは、もともと特定の国・地域向けの業務を低コスト拠点に集約する仕組みとして始まりました。一方、GBSはグローバル規模で複数の機能を統合するモデルであり、ファイナンス、人事、ITなどの業務と、それらを担うリソースを集約することで、バックオフィスからミドル、フロントオフィスまで横断的に支援します。運営形態としては、自社保有のGBS(キャプティブセンター)を活用する方法と、第三者のマネージドサービスと組み合わせたハイブリッド型があります。EYがスポンサーを務めた2023年のShared Services & Outsourcing Network(SSON)調査によると、経営幹部の約60%が、GBSモデルを導入している、またはその移行中であると回答しており、将来のファイナンス機能においてGBSを重要視する傾向が高まっていることが明らかになっています。¹

EY Americas GBS Solution LeaderのDorian Reddingは次のように述べています。「GBSは、適切に運営されれば、データサイエンティストやプロダクトエンジニア、R&D専門家、マーケターといった高度な専門人材を擁する知のハブ(センター・オブ・エキスパティーズ)となり得ます」。さらに、Reddingはこう続けます。「GBSには、標準化と透明性を維持し、ベストプラクティスを順守しながら、プロセスを再設計・再構築し、組織に深い洞察をもたらす能力を備えた専門家集団が存在します。こうした組織モデルを背景に、GBSはCFOが重視する品質、コスト、洞察、価値といった幅広い領域で価値を創出します」

  • 品質:GBSは、標準化を通じてガバナンスと品質管理を包括的に強化し、CFOが求める透明性と可視性を提供します。
  • コスト:自動化を活用することで、GBSは社内顧客への支援能力を高めることができます。例えば、生成AIを活用したツールを導入すれば、ベンダーが自ら請求書にアクセスできるセルフサービスを提供できます。
  • 洞察:AIとデータ分析を活用することで、GBSは意思決定を高度化し、イノベーションを促進できます。例えば、サプライヤーとの価格交渉に臨む際に、洞察に基づく意思決定が可能になります。
  • 価値:すべての運転資本はGBSで一元管理されています。GBSがキャッシュの監視と管理を担うことで、資本のより戦略的な活用が実現します。

GBS構築で取り組むべき5つの中核領域

GBSモデルへの移行を検討している企業、または移行中にもかかわらず想定するROIを達成できていない企業は、以下の5つの領域に注力することが強く推奨されます。

1. 戦略との整合性の確保

GBSは、自社の事業戦略との整合性を確保する必要があります。特に、変革を進めている大規模な多国籍企業、買収した事業の統合や売却に伴う調整を進めている企業においては、その重要性が一層高まります。

2. テクノロジーの活用

GBSを単なるコスト削減の手段と見なすと、企業はテクノロジーを活用した価値創出やインサイトの提供の可能性を十分に引き出せなくなります。自動化、AI、アナリティクスなどのテクノロジーツールは、プロセスの効率化、意思決定の高度化、イノベーションの加速に不可欠です。SSONの調査によると、回答者の81%が、GBSを通じた価値創出の方法としてデジタル化と変革を挙げています。特に、ServiceNowなどのワークフローテクノロジーをエンド・ツー・エンドのプロセスに組み込み、デジタル化を推進する企業が増えています。

3. 人材の育成

GBSには、デジタルスキルを備えた意欲的な人材が不可欠であり、研修・育成プログラムの提供は欠かせません。意欲の高い人材にとって、GBSは組織内でやりがいのあるキャリアへの入り口であり、リーダーシップ人材を育成するためのパイプラインとして機能します。GBSの人材について、多くのCFOが、「企業全体を俯瞰(ふかん)し、包括的に理解している」と評価しています。

4. ガバナンスの強化

CFOにとって、ガバナンスは最優先事項であり、その説明責任を確保するためには、業務範囲の明確化、強固なプロセス・統制、そして役割と責任の明確化が不可欠です。GBSは組織の性質上、こうした仕組みをすでに備えており、CFOによる業務プロセスの標準化やガバナンスの強化をより効果的に支援できます。

5. 継続的改善

GBSは改善を推奨されているというより、改善を確実に実現することが前提となっています。そのため、リーダーには、多くの場合、5%以上の予算削減を通じてプロセス改善の文化を育むことが期待されています。GBSは自らの業務を包括的に把握しており、その知見を生かして業務全体を徹底的に分析・評価し、主要業績評価指標(KPI)の設定やリーディングプラクティスの迅速な採用を進めています。こうした取り組みはすべて、組織にもたらす価値を最大化することを目的としています。その一例として、テクノロジー導入計画にコスト効率化の視点を取り入れることは、継続的な改善を実現する上で有効な方法です。

今日のテクノロジーを活用すれば、多くのプロセスは予防的、かつ人の手を介さずに進められます。その結果、例外的なタスクを処理するために必要な人員は従来より少なくて済みます。また、インテリジェンス人材はGBSの膨大なデータを活用し、有益なインサイトを最大限に引き出すことに注力する役割を担うようになります。

チェンジマネジメントに備える

GBSフレームワークへ移行する際、企業のリーダーシップ陣はGBSの役割や価値を明確に打ち出し、その利点を社内全体に効果的に伝える必要があります。しかし、新しいオペレーティングモデルの下でGBSへの関心が高まる一方で、見落とされがちな従業員グループがあります。このグループは、ビジネスのステークホルダーに近い現地レベルで、GBSとの円滑なコミュニケーションを図り、ステークホルダーとの関係を維持し、固有の課題に対応します。企業は、彼らを確保し、必要に応じてリスキリングを行うことが求められます。

 

これに関して、Reddingは次のように述べています。「業務を集中型ハブに集約すると、新しい中核拠点への期待感が高まります。一方、従来の拠点に残る人材も企業の成長を支える重要な役割を担っています。彼らが新しいオペレーティングモデルや役割、最新の業務プロセスやテクノロジーを理解できるよう、適切な研修を提供することが不可欠です」

 

続けて、Reddingはこうコメントしています。「残念ながら、多くの場合、彼らは従来の職務を明確な指示もないまま自力で遂行せざるを得ない状況にあります。既存の従業員への配慮や研修・サポートには、新しい集中型ハブへの投資と同等のリソースを割くことが重要です」

 

同様に、新しいプロセスの影響を受ける従業員にも研修を行う必要があります。何を行い、なぜそうしたのか、移行の進捗、これまで達成された成果について、定期的かつ具体的に共有するために、詳細な計画を立て、着実に実行する必要があります。

 

未来を見据える

GBSはシェアードサービスの第3世代といわれていますが、第4世代への進化もすでに始まっています。今後は、高度なスキルを備えたデジタルネイティブなGBS人材が従来の枠を超えた役割を担うようになるでしょう。

変革の機会
83%
の経営幹部が、GBSの最大の価値はコスト最適化にあると考えています。しかし、わずか・・・
 
25%
の経営幹部だけが、GBSが利益率の改善に寄与すると評価しています。 

Reddingは次にように述べています。「デジタル化とタッチレス処理の進展により、GBSの役割は今後、買掛金担当者が担ってきた従来の処理業務に代わり、プロンプトエンジニアリングなどの予測型スキルセットを必要とするものへと変化していくと予想されます。今日のテクノロジーを活用すれば、多くのプロセスは予防的、かつ人の手を介さずに進められます。その結果、例外的なタスクを処理するために必要な人員は従来より少なくて済みます。また、インテリジェンス人材はGBSの膨大なデータを活用し、有益なインサイトを最大限に引き出すことに注力する役割を担うようになります。

一方で、現状ではGBSは依然としてコストセンターと見なされる傾向が見られます。SSONの調査によると、経営幹部の83%がGBSモデルの最大の価値はコスト最適化にあると考えていますが、利益率の改善に寄与すると評価している経営幹部はわずか25%にとどまります。しかしGBSは、データと自動化を活用することで、プロフィットセンターへと進化する可能性を十分に秘めています。

Reddingは次のように述べています。「GBSの中には、キャッシュや在庫など、膨大な量のデータを取り扱う大規模な組織もあります。こうしたGBSは、独立した事業体として機能し、データを収益化することで親会社に新たな収益源になり得ます。そこから得られる洞察は計り知れないでしょう」

将来の展望も重要である一方、GBSの真価は今まさに発揮されており、その価値は注目すべきものです。EY Global Finance Transformation LeaderのDeirdre Ryanは次のように述べています。「ファイナンス業務をGBSモデルに統合することで、企業はコストを削減し、業務効率を高め、スケーラビリティを向上させ、さらに専門的知見を最大限に活用できます。これらの取り組みは、企業が効率的な事業運営と持続的な成長を実現するための確固たる基盤となります。これは、私が知るすべてのCFOに共通する目標です」

注:本稿は、ファイナンス組織の未来像に関する「Future of Finance」シリーズの第5回として、EYの調査・分析およびCFOとの対話を通じて得られた洞察をご紹介しています。


サマリー

多くの企業が、従来のシェアードサービスから、次世代の機能とスキルセットを備えたグローバル・ビジネス・サービス(GBS)への移行を進めています。GBSの導入により、CFOはファイナンス機能のリソースをより効果的に活用し、品質・コスト・洞察・価値といった優先事項を確実に実現できます。GBSモデルを最大限に生かすためには、GBSの方向性と戦略目標を整合させ、標準化と可視性に基づく強固なガバナンスを確立し、さらに人材戦略への影響に的確に対応することが不可欠です。


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