グローバル先進企業におけるGBS・SSC・BPOのトレンド -日本の現状とその可能性・将来性について

一般社団法人コーポレート機能協会主催 コーポレートサービス/シェアードサービス機構 第6期 シェアードサービス部会 第4回例会

グローバル先進企業におけるGBS・SSC・BPOのトレンド-日本の現状とその可能性・将来性について


2025年8月27日、一般社団法人コーポレート機能協会(CoFA)主催セミナーにて、EYストラテジー・アンド・コンサルティングは「グローバル先進企業におけるGBS・シェアードサービス・BPOのトレンドに見る日本の現状と将来性」をテーマに講演しました。

SSCやBPOを超え、横断の標準化とデジタル統合で価値を生むGBS。E2E視点とAIの組み合わせで、コスト削減にとどまらない成長エンジンをどう作るか。日本企業の現状、課題、実践ポイントを解説します。


要点

  • 日本企業にとってGBSの推進は社会課題対応策の1つとなり、グローバル先進事例を取り入れた飛躍的な成長を狙うには、投資対効果の明確化と経営層への提言による推進が鍵となる。
  • グローバルのトレンドから見てGBS/SSC/BPOは引き続き拡大しており、AI等のテクノロジーによる高度化が加速している。日本もSSC/BPOは導入された実績が多くあるもののチャレンジがある。
  • 日本企業は少子高齢化、労働人口減少という社会課題へ対応策として、グローバルの先進事例を取り入れたGBSを活用する飛躍的な成長を図るチャンスがある。一方、GBSの推進に必要な投資は、多くの企業はGBS推進に対する関心が高まっているが、重要性認識の不足による停滞がある。

日時:2025年8月27日(水)13:30–17:00(Zoom開催)
主催:一般社団法人コーポレート機能協会(CoFA)
参加者:社長・役員・本部長・マネージャー等 約130名
登壇:EYストラテジー・アンド・コンサルティング
パートナー:永井 康幸
シニアマネージャー:陳 麗子、呉本 将海


1. なぜ今、GBSなのか

変化が早い時代、個別最適の業務運用だけではスピードも品質も限界があります。GBS(Global Business Services)は、経理・人事・購買・ITなどの間接業務を横断で標準化・統合し、デジタルとデータを軸に運用する“企業の運営OS”。従来のSSC/BPOを土台にしつつ、E2E(End-to-End)視点でプロセスとデータをつなぎ、継続的な改善を生むのが特徴です。結果として、コストの見える化と最適化に加え、意思決定の迅速化・顧客/従業員体験の向上まで、効果の裾野が広がります。

  • GBS(Global Business Services)は、従来のSSC(シェアード・サービス・センター)やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を統合したハイブリッド型の経営手法
  • グローバルで統一された組織体制のもと、標準化された業務プロセスを戦略的かつ高付加価値な形で提供し、継続的な効率性の追求を可能にする
  • GBSは単なるコスト削減手段ではなく、企業価値創出のドライバーとして注目されている

2. 日本企業の現状とギャップ

国内ではSSCやBPOの導入が進んだ一方、横断の標準化やE2E統合は道半ば。実態としては、プロセスのばらつきシステムの乱立合意形成の難航が障壁になりがちです。結果、集約範囲が小さくスケールメリットが出にくい人材の定着・育成品質/納期の安定運用に課題が残る――という声が多く聞かれます。

  • EYの調査によると、日本企業の多くはGBSの進化モデルにおいて初期段階(Stage 1または1〜2の中間)に位置している
  • GBSは、個別のシェアードサービスから始まり、リージョン単位の統合、グローバルサービスマネジメント、そしてアドバンスGBS(AGBS)へと進化
  • 今後は、より統合されたサービス提供体制とプロセスオーナーシップの確立が求められる
  • 日本企業におけるGBS/SSCの課題として、「プロセスの標準化・業務効率化ができていない」「高度化への対応が不十分」といった点が挙げられる
  • 特にローカルでは、グループ会社間の業務・システムの相違が集約の障壁となり、標準化や効率化が進まない状況。関係者間の合意形成不足も、受託規模の縮小やコスト削減の未達成につながっている
  • こうしたギャップを埋めるには、「現状を可視化→実現的なマイルストーン設計→運用で守れる標準」という順で、再現性ある基本動作を確立することが近道

3. 次世代GBSの要(E2E×AI)

E2Eのプロセス再設計は、情報断絶や手戻りを減らし、改善余地を可視化します。ここにAIを組み合わせると、例外処理の自動化、需要予測、原因分析、意思決定の支援まで射程が広がります。ポイントは点のPoCにとどめず、全社で“面”の運用に昇華させること。統合型AIプラットフォームデータ品質・権限・運用ルールを同時に整え、Agentic AI(自律型AI)のような次世代アプローチで、意思決定→実行→学習のサイクルを高速化します。

  • 企業は、現在の効率性重視のGBSから、変革型GBSへと進化する「Sカーブ」を描くことが可能
  • GBS 2.0では、ユーザー体験の最適化やデジタルイノベーションの推進を通じて、企業の変革エンジンとしての役割を果たす
  • 双方向の人材交流や育成環境の整備により、戦略的な価値創出が期待される
  • AIの活用により、GBSはバックオフィス業務の効率化から、企業全体の戦略的価値創造へと進化している
  • Agentic AIや統合型AIプラットフォームの導入により、意思決定から実行までを自律的に完結する業務体制が構築され、企業の変革スピードが加速
  • 断片的なAI導入から脱却し、全社的な統合が成功の鍵となる

4. 成功の土台:ガバナンスとGPO

“仕組みが回る”にはガバナンスが不可欠です。CxO直下の位置付けでGBSが方針や投資判断を主導し、全社でのE2E設計優先順位付けを進めます。あわせて、GPO(Global Process Owner)が標準の設計~運用の是正~IT・データ連携までを横断でリードSLA/KPI、モニタリングとレビュー、変更管理を1枚の“計器盤”で回せる体制にすると、改善投資の意思決定が速くなります。

  • GBSの価値を最大化するためには、従来のガバナンスモデルを見直し、CxO直下の組織構造やグローバルプロセスオーナー(GPO)の設置が重要
  • サービス提供に関するポリシー策定、パフォーマンス指標のモニタリング、継続的な業務改善の仕組みなど、包括的なガバナンス体制が求められる
  • GPO(Global Process Owner)は、GBSにおけるプロセス設計・構築・運用を担う重要な役割
  • ベーシックモデルでは設計に注力し、アドバンストモデルでは構築まで、リーディングモデルではITソリューション設計まで含めた責任を持つ
  • GPOの設置は、GBSの高度化とEnd-to-Endプロセス改革の推進に不可欠

5. BPOの有効な活用方法

BPOは有力な選択肢ですが、「ベンダー任せ」や契約設計の甘さは失敗のもと。期待値・範囲・KPI・改善仮説(FTE根拠や自動化の達成条件等)を契約に明文化し、変更管理・例外対応・逆引継ぎ条件までルール化しましょう。運用後は可視化→ボトルネック特定→改善サイクル共同で回すことが重要です。

  • BPOのライフサイクルにおいて、日本企業はベンダー選定から契約、運用、解約に至るまで多くの課題に直面している
  • 業務の全体像や期待値の不明確さ、契約条項の曖昧さ、運用時の品質低下、解約時の引継ぎ困難などが、BPO活用の障壁となっている
  • 業界知見と移管経験の不足が、これらの課題をさらに深刻化させている

6. まとめ:運用で守れる設計が成長の近道

日本企業がGBSを“成長のエンジン”に育てるには、E2E×AIに加えて、強いガバナンスと人材(GPO/ドメイン×デジタルのハイブリッド)が不可欠です。コスト削減は通過点。意思決定のスピードと品質を高め、顧客価値と事業の俊敏性を引き上げる設計を、運用で守れる形に落とし込む――ここに、次の一歩があります。

  • 部門単位での業務プロセス設計から脱却し、End-to-End視点で標準化された業務プロセスとシステムを導入することで、GBSの集約効果を最大化できる
  • 情報の断絶や業務の重複を防ぎ、経営戦略業務へのリソースシフトやタイムリーな情報提供が可能になる
  • 経理財務、人事総務、調達購買、ITなどの管理機能を共通化することで、管理方針・ルールの統一、情報の一元化が実現される
  • サービスマネジメント、リソースマネジメント、システムマネジメント、プロセスマネジメントの各領域で、効率化とガバナンス強化が期待される


講師紹介


永井 康幸


永井 康幸

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
グローバル・ビジネス・サービス パートナー



陳 麗子


陳 麗子

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
グローバル・ビジネス・サービス シニアマネージャー



呉本 将海


呉本 将海

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
グローバル・ビジネス・サービス シニアマネージャー



サマリー

GBSは組織横断の標準化とデジタル統合で企業価値を高める仕組みであり、コスト削減を超え、企業の成長と変革を支える「運営のOS」です。

E2EとAIの実装、強いガバナンス、人材育成をそろえれば、日本企業でも短期の成果と中長期の成長が両立できます。


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