EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2025年4月15日、「Digital Trust Webinar:データドリブン社会における信頼性の確保とデータの共有の未来~組織間データ連携における企業の課題とは~」と題したウェビナーが開催されました。
最初に、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授であり、日本のデジタルトラストの分野を長年牽引し続けてきた手塚 悟 氏より、「Data Free Flow with Trustを踏まえたトラスト基盤の戦略」をテーマに講演いただきました。
ここで、Data Free Flow with Trustとは、信頼性のある自由なデータ流通と訳され、プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する、国際的に自由なデータ流通の促進を目指すコンセプトです。また、トラスト基盤とは、企業が業界や国境を跨いで、データを安心・安全に流通するためのICTインフラ。データ送受信時の改ざんや送信元のなりすまし等を防止するため、国際的な合意に基づく企業・従業員の本人性の確認や、これに基づく電子証明書発行等の機能を具備したものを指します(*1)。
(*1)一般社団法人日本経済団体連合会が公表する「産業データスペースの構築に向けて」より抜粋。
経団連:産業データスペースの構築に向けて
www.keidanren.or.jp/policy/2024/073.html(閲覧日:2025/07/16)
講演では、初めに2019年に安倍元首相が提唱した「DFFT(Data Free Flow with Trust)」の理念を紹介し、データの自由な流通と信頼性とのバランスの重要性が強調されました。
トラスト基盤は下図「データスペースとトラスト基盤の検討」で表されている三層構造で構成されている旨の説明がありました。
以上の概念と関係性を解説した上で、改ざんやなりすましを防ぐための仕組みとして、トラストサービス基盤の重要性が増しているとの説明がありました。
(*2)データスペースとは、異なる国・業種・組織の間で、信頼性のある大量かつ多種多様なデータを連携する標準化された仕組みをいいます(*3)。
(*3)一般社団法人日本経済団体連合会が公表する「産業データスペースの構築に向けて」より抜粋。
経団連:産業データスペースの構築に向けて
www.keidanren.or.jp/policy/2024/073.html(閲覧日2025/07/16)
国際間のデータ流通においても共通化の動きが活発化しており、日本が他国と協調してこの仕組みを進めることは、国際産業競争力の向上にもつながると述べました。
また、日本、欧州、米国のトラストサービス基盤に対する考え方の違いや、今後の国際相互認証の共通化に向けた「共通枠組み」「機能要件・保証要件」「国際標準化戦略」などのキーワードが挙げられ、詳細に解説されました。日本は法制度の整備が遅れていることを課題とし、欧州を参考に制度整備を進める必要性が指摘されました。
次に、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)デジタル基盤センター長兼AIセーフティー・インスティテュート副所長・事務局長である平本 健二 氏より、「データドリブン社会に向けたデジタル基盤整備への取り組み」をテーマに講演が行われました。
講演では、2030年のSDGs実現に向けて各国が国連のGlobal Digital Compact(GDC)を推進しており、それに伴いデジタル基盤の整備が進んでいると述べました。
まず、データスペースの整備において検討が必要な3つの観点について説明がありました。
データスペースは、分野横断的にオープンかつ自由に接続可能でありながら、データ主権を保持できる仕組みであると説明されました。従来のプラットフォーム型の連携やEDI(*4)などとの違いも示されました。
(*4) EDIとは、Electronic Data Interchange(電子データ交換)の略称で、企業や行政機関などがコンピュータをネットワークで繋ぎ、伝票や文書を電子データで自動的に交換すること(*5)。
(*5)一般社団法人日本情報経済社会推進協議会のHPより抜粋。
EDIとは www.jipdec.or.jp/project/kcode/edi/about.html(閲覧日2025/07/16)
一部の業界では既に稼働しているものの、日本全体では実用化の過程にあり、アクセス権やログ、トレーサビリティなどは一定のルールのもとで管理されています。現時点では通常のデータマネジメントやガバナンスの範囲内で対応可能としつつも、業界間や国際間の連携においては法規制等の違いがデータの取り扱いの課題となりうることが指摘されました。
最後に、企業のCDOに向けて、データの価値を再認識し、基盤とトラストの理解を深めた上で、データの価値を最大化してほしいと呼びかけました。
ディスカッションパートでは、データドリブン社会の実現に向けた進捗と課題が議論されました。
手塚氏からは、国際間データトレードにおける日本の課題として、法整備と認証制度の整備が急務であり、EUのモデルが参考になるとの意見が示されました。
また、日本では自社で品質を保証する傾向がある一方、EUでは第三者機関による評価が徹底されている現状について説明がありました。日本でもこうした第三者機関によるパブリックトラストを利用した社会基盤が整備されることが期待されています。
平本氏からは、企業においては、まず社内データの把握が重要であり、結果、社内活用やプロダクト化の可能性もあるとされました。マスターデータの維持管理にも留意が必要と示されました。
また、データ標準化の課題として、意識の問題が挙げられました。現状のデータでも事業を続けることはできる中で、他社との連携があって初めて標準化の価値が見いだされるため、先を見据えた行動変革が必要になることや、ビジネスのスピードが速くそれに対応する必要があることが示されました。例えば、M&A時に、データが標準化されていて即時に相手のデータを活用できればすぐにシナジーを出すことができる例を示しました。そして、データ標準化ではデータ項目の意味の標準化も求められるとのことで、これらの点でIPAデジタル基盤センターが支援を行っているためぜひ活用してほしいとのことでした。
このほか、企業内のデータセキュリティ区分の整理、サステナビリティ開示、サプライチェーンにおけるデータスペースの役割、監査法人への期待など、幅広いテーマが議論されました。
本稿では概要のみを紹介しています。データスペースとトラスト基盤の最前線が分かる本ウェビナーのアーカイブ映像をぜひご覧ください。
以下のページからお申し込みいただけます。
Digital Trust Webinar:データドリブン社会における信頼性の確保とデータ共有の未来 ~組織間データ連携における企業の課題とは~
※視聴期限は2026年4月14日までとなっております。
本ウェビナーがデータスペースとトラスト基盤の最新の見解や具体的な対応策についての知見を深める機会となれば幸いです。
小寺 雅也
Eコマース、AIソリューション、ライフサイエンスを中心に、上場会社の会計監査、IPO支援、デジタル内部統制構築支援を実施。
主な著書(共著)は『実践 不正リスク対応ハンドブック〜内部統制の強化、不正会計の予防、発見・事後対応』(中央経済社)、「チェックリストでわかるIPOの実務詳解」(中央経済社)。
企業間・業界間・国境を越えたデータ連携の重要性が高まる中、信頼性あるデータ流通の基盤整備が急務となっています。2025年4月に開催されたセミナーでは、データスペースやトラスト基盤の最新動向、企業の実務対応などについて、専門家による講演とディスカッションが行われました。その模様を一部紹介します。
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