企業・監査人双方の生産性向上を実現する監査対応のシステム連携とは

情報センサー2025年11月 デジタル&イノベーション

企業・監査人双方の生産性向上を実現する監査対応のシステム連携とは

決算対応に係る企業と監査人双方の生産性向上のため、EY新日本ではシステム連携による自動化に取り組んでいます。開示・単体・連結で既に運用しているこの取組みを紹介します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 クライアントサービス本部 イノベーション推進部 公認会計士 渡邊 翔

当法人入社後、ノンバンクを中心とした会計監査や内部統制保証業務に従事。2020年より監査ツールの開発・運用に従事している。

要点

  • EY新日本では、システム連携を行う監査システムをリリースし、運用を開始している。
  • 開示・単体・連結それぞれのシステム連携による監査の取組みを紹介する。

Ⅰ はじめに

2025年3月28日、全上場会社に対して、株主総会前に有価証券報告書(以下、有報)を提出する、いわゆる総会前開示の要請が行われました※1。この要請を受け、2025年3月期で定時株主総会前に有報の開示を行った会社は全体の57.7%となり大幅に増加しましたが、そのうち株主総会の1週間以上前に提出した会社は3.4%にとどまりました※2

今後、会社法の事業報告・計算書類等と有報の一体開示、有報の記載事項の整理といった制度面の対応も検討されていくこととなっていますが※3、総会前開示を進めていくために決算対応の生産性向上も重要な要素と考えられます。

こうした中で、EY新日本有限責任監査法人(以下、EY新日本)では、企業及び監査人双方の生産性向上に資するため、システム連携による監査の取組みを進めています。次章以降では、総会前開示に直結する開示監査におけるシステム連携を中心に、新たな監査の取組みを紹介します。

※1 金融庁「株主総会前の適切な情報提供について」www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250328-2/20250328-2.html(2025年10月21日アクセス)
※2  金融庁「2025年3月期に係る総会前開示の状況」www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sokaimaekaiji_202503.pdf (2025年10月21日アクセス)を基に 一部筆者算出
※3 金融庁「「有報開示後の総会」を実現するための今後の取組について」www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sokaimaekaiji_torikumi.pdf(2025年10月21日アクセス)

Ⅱ EY新日本の開示監査の取組み

1. DiCAT

EY新日本では開示書類の監査における新たな取組みとして2024年にDiCAT (Disclosure Check Assistance Tool)をリリースしました。これは宝印刷株式会社が提供する開示システムであるWizLaboとデータ連携を行う監査用の開示検証システムです。

WizLaboに格納された開示データ及び決算データをApplication Programming Interface(API)によりDiCATに連携し、取得したデータを用いた自動チェックやデータ整形により監査業務を効率化します。

2024年のリリース以降、DiCATの導入は100社以上で進んでいます。

図1 開示監査のシステム連携の仕組み

図1 開示監査のシステム連携の仕組み

2. DiCATのメリット

従来の開示監査では、開示書類のドラフトを修正するたびに、企業の担当者が開示システムからデータをダウンロードして監査人に提出する必要があり、開示書類の準備に追われる中での対応は、企業側にとって大きな負担となっていました。監査人も、開示書類上の多くの項目について、機械的な検証作業に追われ、重要な検討の時間が圧迫されてしまうという課題がありました。

このような状況下、DiCATの導入により、企業の担当者はシステム上の操作のみでデータを提出できるようになり、データのやり取りのための負担が軽減されます。DiCATを利用することで監査上の計算チェックや整合性チェックなどの検証も一部自動化されます。また、監査上の単純作業を低減することで監査人が重点箇所に早期対応することが可能となります。

次章ではシステム連携を活用した単体監査、連結監査の取組みを紹介します。

Ⅲ EY新日本の単体監査、連結監査の取組み

1. 単体監査の取組み(ALiS)

EY新日本では単体監査における新たな取組みとしてALiS(Accounting Linkage System)をリリースし、運用を開始しています。ALiSは、freee会計、勘定奉行クラウドとデータ連携を行う監査用システムです。

会計システム内に蓄積されたデータをAPIを通じてALiSに連携することで、企業の担当者に負担をかけることなく監査人が最新のデータを直接取得できるようになります。また、会計システム内に保存された証憑データもALiS上の操作によって監査人が一括取得できるため、証憑データの提出にかかる負担の軽減にもつながります。

さらに、監査人においては、ALiSに取得されたデータは監査用に自動加工され、単純作業を低減して属人的なミスを防ぐことで監査品質の向上につながっています。

図2 単体監査のシステム連携の仕組み

図2 単体監査のシステム連携の仕組み

2. 連結監査の取組み(CWPG)

連結監査における新たな取組みとしてはCWPG(Consolidation work Paper Generator)をリリースし、運用しています。CWPGは、DivaSystem、STRAVIS、eCA-DRIVERとデータ連携を行う監査用システムです。

連結監査対応においては、企業の担当者が連結会計システムからさまざまなレポートをダウンロードして監査人に提出する必要があります。特に、子会社の数値修正や連結調整が繰り返し発生するなど、修正のたびに同様の作業が求められ、企業の負担となっていました。CWPGを導入することで、企業の担当者は必要なデータをワンクリックで取得することができるようになり、データ連携までが自動化されるため企業にとってはデータ提出の負担が大きく軽減されます。

CWPGに連携されたデータは自動加工され、連結監査用の調書フォームが自動で生成されます。従来は検証のために多くのレポートを加工する準備に時間がかかり、限られた時間の中で重要な検証にすぐに着手できないという課題がありました。CWPGの導入によりデータ準備にかかる時間が大幅に短縮され、監査人は迅速に検証に着手することができ、検証結果の早期のやり取りが可能になります。

図3 連結監査のシステム連携の仕組み

図3 連結監査のシステム連携の仕組み

3. 取組みのメリット

EY新日本では、単体・連結・開示において企業のシステムと監査人のシステムをつなぐデータ中心の監査の取組みを進めています。

システム間でデータを連携することで、監査対応で繰り返し必要になるデータのやり取りの負担を軽減し、監査対応に係る生産性向上に貢献します。また、システム間で連携したデータを自動で加工、整形することで監査人の生産性も向上させ、属人的なミスを防ぐことが高品質な監査の提供にもつながります。

本取組みを、連携イメージと共に動画に分かりやすくまとめました。ぜひご覧ください。

Ⅳ おわりに

総会前開示の進展に向けて、計算書類等と有報の一体開示や株主総会開催日の見直しなど制度面やスケジュールの検討も進められていくと考えられますが、その中において決算早期化も重要な要因の1つと考えられます。

決算対応の中では会計監査が果たす役割も大きく、このような環境の中で、企業及び監査人双方の生産性向上の取組みはますます重要性が増していくと考えられます。

EY新日本では、新たな監査の形を実現していくことにより、今後も企業及び監査人双方の生産性向上に取り組んでいきます。

サマリー

決算対応に係る企業と監査人双方の生産性向上のため、EY新日本ではシステム連携による自動化に取り組んでいます。開示・単体・連結で既に運用しているこの取組みを紹介します。


情報センサー

EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。

EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、サステナビリティ情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ 


この記事について