EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
日本においては、暗号資産に関する規制の見直しの提言やAI、サイバーセキュリティに関する規制等、AML/CFTに関する有効性検証、金融犯罪対策の強化、コンプライアンスリスクに対する対応強化、不公正取引に対する規制強化、資産運用立国に向けた取り組みの推進、ノンバンク金融に関する関心の高まりなどが見られます。
国内外におけるビジネスの展開、地政学的動向、マクロ経済環境などの進展を踏まえて、国内外における規制動向等の把握と自社への影響の分析を含めて、迅速な対応力や継続的な高度化が求められています。
EY Japanの窓口
緒方 兼太郎
EY Japan 金融 コンサルティング EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー
この1年間でローカライゼーションの傾向が顕在化し、世界の規制環境は各国が自国の利益をより重視する新たな局面を迎えています。こうした状況は今後、ますます難しい課題をグローバル金融機関に突きつけることになるでしょう。
2025年は、グローバルな金融機関に対する規制のターニングポイントとなりました。2026年の「グローバル金融サービス規制の展望」では、各国の規制当局が国内の成長目標と競争力目標に合わせてルールを書き換える中、2025年の課題である分断化・細分化から新たなローカライゼーションの時代に移行するとの見方を示しています。
このシナリオは、2025 EY Global Risk Transformation Studyで説明した「NAVIワールド」に密接に合致しています。「NAVIワールド」とは、リスクが非線形で突然の転機をもたらし(Nonlinear)、加速することでより迅速な対応が必要となり(Accelerated)、かつ変動的であるため企業のアジリティが試されるとともに(Volatile)、相互に関連したリスクや影響が波及していく(Interconnected)環境のことです。
金融機関、特にクロスボーダーの大規模な金融機関のCEOにとって、こうしたローカライゼーションの進展は、戦略とオペレーティングモデルにリスクをもたらす脅威となります。金融機関の成功に必要なケイパビリティは、国ごとに規制が異なる中で事業運営コストが上昇している法域がないか常に注視できる体制を整えること、優先順位が高い市場における規制の変更と新たなリスクの出現を注意深く監視すること、そして綿密なシナリオプランニングを通じて、さまざまな規制の実施に伴う影響を予測することの3つです。
金融機関のCEOは今後も分断化・細分化が続くと考えているため、現行のリスクに短期的な戦術的対応をするのではなく、長期的な方向性の転換を図っています。昨年のグローバル金融サービス規制の展望ではこうした動向の多くを予見していましたが、2026年は規制環境がより複雑かつダイナミックになるため、金融機関は成長分野とレジリエンスを高める必要がある分野を見極めながら、さまざまな規制上の優先事項に対応していかなければならないでしょう。
主要な地域では、その地域特有の規制上の優先事項が具体的な形となって現れてきました。米国はイノベーションと成長の後押しを目的に規制緩和を目指し、EUは簡素化、調和、競争力強化に重点を置き、英国はリスクより成長を優先させ、アジア太平洋地域はフィンテックイノベーションと市場開拓に力を入れ、中南米は金融包摂と顧客保護に注力しています。
このように環境が急速に変化する中、2026年に鍵を握るのは次の4つの課題です。
金融機関において人工知能(AI)が急速に普及していますが、規制当局の監督がそれに追いついていません。EYとMIT Technology Review Insightsが共同でまとめたレポート「Imagining the Future of Banking with Agentic AI(PDF)」によると、銀行の70%以上が何らかの形でエージェント型AIを利用し、16%がソリューションを組織全体に導入し、52%がパイロットプロジェクトを実施していると回答しました。その一方で、強固なガバナンスの枠組みが全体的に欠如しています。
米国、EU、英国、アジア太平洋地域の規制当局はそれぞれ異なるアプローチをとり、既存の原則に依拠する当局もあれば、新たな規則案を策定している当局もあり、グローバルコンプライアンス部門は今後、法域によって異なる、複雑な規制環境への対応を余儀なくされます。そのため、金融機関は事業を展開する各法域のAIに関する規制へのコンプライアンスに優先的に取り組まなければなりません。
取締役会は規制に先んじて、AIの管理を検討課題とし、説明能力、監査能力、サードパーティリスク管理の構築・向上に投資をしています。取締役会とCEOは、規制対応の漏れやレピュテーションリスク、イノベーション機会の喪失を回避するために、この分野でリーダーシップを発揮することが不可欠です。
金融機関に推奨されるアクション
ステーブルコイン規制(PDF)が国家レベルで急速に進められています。特に米国ではデジタル資産を対象とした初の連邦政府レベルの法的枠組みとなるGENIUS法が制定されました。ブラジル、EU、香港、日本、韓国、シンガポール、アラブ首長国連邦(UAE)、英国など、米国以外の国・地域も独自の路線を進んでいますが、100%の準備資産による裏付け、明確な償還請求権、顧客資産の強固なカストディ体制と保全という主要な3つの原則を巡っては、ある程度の合致が見られます。
こうした規制の分断化・細分化は金融機関のビジネスモデルに影響を及ぼし、国・地域によるステーブルコインの普及度の違いにつながることが予想されます。
決済規制は、支払いを受け取る法域が規制を制定する一方、グローバル規制は地域ごとの規制に重層的に適用されるため、国内の取り組みとグローバルな取り組みの板挟みの状況にあります。
金融機関に推奨されるアクション
監督当局は重要なサードパーティのテクノロジープロバイダーをはじめとした、規制対象ではない事業者発の脅威を重視する姿勢を強めています。とはいえ、その対応のスピードは法域によりさまざまです。EUでデジタル・オペレーショナル・レジリエンス法(Digital Operational Resilience Act/DORA)が2026年から段階的に施行される一方、英国やカナダでは大きな進展がまだ見られず、香港では2026年1月1日から関係法令が施行され、米国ではこれらの分野の監督を連邦政府機関と州政府機関が分担しており、依然として懸念事項となっています。
地政学的な不確実性により、国境をまたいで事業を展開する金融機関を中心に、オペレーショナルレジリエンスとサイバーセキュリティの脅威が高まっています。最新のEY/IIFグローバルバンクリスク管理サーベイの対象となった金融機関は、こうした問題に取締役会レベルで対処しており、また、人材の採用に当たりデジタルスキルとリスク環境の変化への対応力を重視しています。
金融機関に推奨されるアクション
顧客本位が今後も政策立案者と規制当局の主要な関心事であることに変わりはないでしょう。サービス水準に対する顧客の期待が変化したことで、金融機関にますます圧力がかかり、また規制当局に対する政治的圧力も高まっています。
英国金融行為規制機構(FCA)のConsumer Duty規制は世界中から関心を集め、顧客保護の新たなベンチマークを打ち立て、リテール顧客に対する金融機関の注意義務を確立しました。英国以外の複数の国・地域で検討されている規制の変更も、この影響を受けることが予想されます。その一方で、状況が異なるのは、2025年に消費者金融保護局(CFPB)が事実上閉鎖された米国です。
2026年に備えて金融機関ができること:
顧客の意識を高める方策を策定して不正行為や詐欺の被害を防止するとともに、顧客が自らを守る手助けとなる抑制策を検討する。
2026 年の「グローバル金融サービス規制の展望」は、この1年間に状況が根本的に変化したことを反映する内容となりました。今後の見通しは、複雑で変わりやすく、グローバルの要因と国内要因の相互関係にますます左右されるようになっています。米国が国内のイノベーションと成長を優先させる今、他の国・地域はそれにどのように対応するかを決めなければなりません。金融機関だけでなく、規制当局と顧客もこれまで以上に、規制、イノベーション、地政学的動向のバランスの変化を注視する必要があります。
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