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銀行のCROが俊敏性を高める5つの方法

EYと国際金融協会(IIF)が実施した最新のグローバルバンクリスク管理サーベイの結果は、多様化するリスクに対し、より俊敏に対応する必要性が高まっていることを明らかにしています。


要点

  • グローバル金融機関の最高リスク管理責任者(CRO)の75%が、今後1年間で最も懸念しているリスクとしてサイバーリスクを挙げており、次いでオペレーショナル・レジリエンス(38%)、地政学的リスク(36%)が続いている。
  • AIの優先度はますます高まっており、CROの49%が、今後3年間においてAIの活用が特にリスク管理手法の変革に向けた重要な取り組みであると回答している。
  • 調査結果は、金融政策、貿易摩擦、地政学的紛争など、流動的なリスク環境と強力な外部要因の影響を明確に示している。



EY Japanの視点

リスク管理部門は、昨今の不安定な地政学的環境の中、多様化・複雑化するリスクを的確に捉え、迅速に対応することが求められています。財務リスクに加え、オペレーショナル・レジリエンス、サイバーセキュリティ、コンダクトリスク/リスクカルチャー、気候変動リスクといった非財務リスクの重要性が継続的に高まっており、これらに対処するためには、リスク管理部門における幅広い人材の強化、グループ・グローバルガバナンスの強化、第1線におけるリスク管理の強化、AIを用いたリスク管理手法の高度化が期待されます。


EY Japanの窓口


緒方 兼太郎
EY Japan 金融 コンサルティング EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー


リスクの優先順位が変化しやすくなり、CROが支援し、期待に応えなければならないステークホルダー(取締役会、経営陣、規制当局など)が多様化する中、効果的なリスク管理にはこれまで以上に俊敏性が求められています。EYと国際金融協会(IIF)が実施した2024年のグローバルバンクリスク管理サーベイでは、CROが業務の俊敏性を高めるために進めている取り組みが明らかになりました。これらの取り組みは、社内規定や統制、フレームワークの強化にとどまらず、新たなプロセスの導入、テクノロジーの活用、人材の確保・育成など、多方面にわたっています。こうしたプロアクティブなアプローチにより、CROと経営陣は、変化するリスク環境や市場動向に対し、より迅速かつ計画的に対応できる体制を整えています。

第14回EY/IIFグローバルバンクリスク管理サーベイ(PDF、英語版のみ)をダウンロードする

CROが俊敏性を高めるために今日行っている5つの方法

1. シナリオプランニングの活用拡大

シナリオプランニングの活用を広げることは、リスクが組織にどのような影響を与えるかを理解し、将来的な変化を予測するうえで非常に重要です。今回の調査結果によると、CROは地政学的リスク、財務リスク、気候リスクなど、さまざまなリスクに対してシナリオ分析をより積極的に活用しています。多くのCRO、特にグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)やアジア太平洋地域の銀行のCROは、シナリオプランニングを最優先課題の1つとして取り組んでいます。

  • 気候変動リスクの管理を支える重要な手法として、58%のCROがシナリオ分析やストレステストを挙げています。
  • 56%のCROが、地政学的リスクを軽減するために政治リスクの評価とシナリオプランニングの活用を拡大していると回答しています。特に、G-SIBs(82%)、アジア太平洋地域の銀行(83%)、大手金融機関(86%)では、その割合がさらに高くなっています。
  • 52%のCROは、財務リスク管理能力の強化に向けた計画の中でもリスク測定、ストレステスト、およびシナリオ分析が最も重要な項目であると回答しています。
CROの優先事項
のCROが、シナリオ分析やストレステストを気候変動リスクの管理をサポートするための最も重要な手段として挙げています。

2. リスク管理の変革のためのAI導入

AIがもたらす変革の可能性は、銀行の経営幹部にとってますます明確になっており、多くのCROがさまざまな分野でAIの活用を進めています。調査結果によると、多くのCROが生成AIを含むAIを活用して、業務不正(59%)、コンプライアンス(44%)、クレジット(40%)といったリスクの特定、管理、監視、報告を、より効率的かつ効果的に行っていると回答しています。

具体的な活用事例は、リスク検出のための広範な監視から日常業務の効率化まで多岐にわたります。興味深いことに、ラテンアメリカの銀行は業務タスクの自動化へのAI活用を優先しており(59%)、この割合は欧州(21%)や世界平均(41%)を大きく上回っています。

今回の結果は、CROがさまざまな業界の責任者と同様にAIの汎用性の高さを認識していることを裏付けています。AIにより、銀行は新たな脅威へのより迅速な対応を可能にし、リスク管理チームは日常的な管理業務ではなく、高付加価値の分析業務に注力できるようになります。


3. 優先順位の変化への戦略的な対応としての財務リスク管理の強化

今回の調査結果から、今後1年間のリスクの優先順位が大きく変化することが明らかになりました。地政学的リスクの高まりに加え、サイバーセキュリティ、気候変動、法規制順守といった非財務上の脅威の重要性が増しており、これらが従来の財務リスクを上回る関心を集めています。この変化の背景には、2023年春の出来事を受けて財務リスクへの監視が強化され、それに伴い既存の管理体制への信頼が高まったことがあります。

 

とはいえ、今年は非財務リスクが重要視されるものの、財務リスク管理の強化も依然として優先課題であることに変わりありません。CROは財務リスクの重要性が引き続き高いことを認識し、リスク管理戦略の大幅な強化を計画しています。また、多様な非財務リスクへの関心が高まる中、CROにはフォワードルッキングなアプローチを取り、迅速な対応を優先することが求められています。

実際、CROは景気後退の可能性に備え、多角的な対応を進めています。3分の2近く(62%)がリスクアペタイトを引き下げてリスクの高い特定の業種や地域への融資を抑制し、半数以上(56%)がコベナンツライト案件の縮小など融資基準の引き締めを進めています。こうしたフォワードルッキングな対応により、銀行は景気減速時に迅速な適応が可能になることは言うまでもありません。

 

CROは、金融リスク管理機能のさらなる強化を計画しています。52%のCROがリスク測定、ストレステスト、シナリオ分析の拡充を挙げている以外に、51%がリスクテクノロジーやデータモダナイゼーションに向けたインフラのアップグレードを優先課題としています。明らかに、CROは「どちらか一方」を選ぶのではなく「両方とも」強化するアプローチを取って、将来の金融リスクの進化に対応しています。

 

CROは、流動性リスクを管理するために、フォワードルッキングかつプロアクティブなアプローチを採用しています。調査によると、77%のCRO(G-SIBsのCROでは83%)が、厳しいが現実的に起こりうるシナリオを含むストレステストを、流動性リスク管理において最も重要なツールと考えています。次に重要なツールとして、54%(G-SIBsでは67%)が、緊急のストレス状況を検知するための早期警告インジケーターを挙げています。

 

4. 新しいスキルや人材を求める

リスク管理は、テクノロジーの活用が進みデータ駆動型へと移行していますが、それでもなお人間の判断や専門性に大きく依存しています。

 

「銀行のCROが競争力を維持するには、テクノロジーと人材の両方を優先することが不可欠です。しかも、どちらか一方ではなく、両方をバランスよく活用する必要があります。データによると、AIだけでは不十分であり、人材の専門性がAIを補完することで、ますます複雑化する銀行環境において厳格なリスク管理が可能になります」と、EY Global and EMEIA Banking and Capital Markets LeaderであるNigel Modenは述べています。

 

そのため、CROは人材の拡大と多様化を積極的に進めています。最も重視されているスキルは、デジタルに関する知見(63%)、次いで変化するリスク環境への適応力(54%)、さらに少なくとも1つの分野における高度な専門性(51%)が挙げられています。


G-SIBsのCROのうち、変化するリスク環境に適応できるリスク専門家を求めていると回答した割合(83%)は、全回答者(54%)よりも著しく高く、これはおそらく地政学的リスクが大手のグローバルバンクに与える影響を反映していると考えられます。

前年の結果と同様に、サイバーセキュリティは依然として最も確保が難しいスキルセットの1つです。特に、G-SIBsのCROでは83%、大手銀行のCROでは75%が採用の難しさを感じており、これはすべての銀行のCRO(52%)を大きく上回っています。今後3年間で、サイバーセキュリティとAIのスキルが最も需要の高い分野になると予想されています。

テクノロジー、データ、生成AI、プログラミングなどのデジタルスキルが重視される中、AIを効果的に活用してリスク管理を強化するには、熟練した人材の存在が不可欠であることが明らかになっています。さらに、高い適応力と深いビジネス知識を持つ人材は、組織の俊敏性を高め、より強固な業務プロセスと優れた成果を生み出す原動力となります。

データは、AIだけでは不十分であることを示しています。人材の専門性がAIを補完することで、ますます複雑化する銀行環境において厳格なリスク管理が可能になります。

5. 組織モデルの最適化

ビジネスからの期待の高まりに応え、進化するリスクプロファイルに適応するために、CROがどのように運用モデルを調整しているかが毎年の調査結果から明らかになっています。調査回答者の約3分の2(64%)は、今後3年間で第1線でのリスク管理を担うリソースを増強すると予想しており、また、同水準の割合の回答者(68%)が、同じ期間に第2線により多くのフルタイム従業員が加わると見込んでいます。また、業務運営モデルの最適な設計方法(例:企業全体を支える基幹サービスを集約する、または、より多くの機能をビジネス部門に直接組み込む)についての議論も活発になっています。

現在、アウトソーシング(16%)やライトショアリング戦略(35%)をタレントマネジメント戦略に大きく活用しているCROは比較的少数ですが、今後3年間でこれらの割合は大幅に増加し、それぞれ40%と64%に達すると予測されています。専門的な人材の確保、高度な技術の活用、人件費の管理といった目的にかかわらず、アウトソーシングやライトショアリングの活用、さらにはスタッフの増強が、リスク管理の俊敏性を高める鍵となるでしょう。

銀行に推奨される9つのアクション

私たちの調査によると、CROが運用の俊敏性を高めるためには、9つの戦略的な行動を検討する必要があることが分かりました。

  1. オペレーショナルリスクと地政学的リスクに対応する包括的なシナリオプランニングを策定し、より広範なストレステストを実施する。さらに、レジリエンス戦略を強化し、地政学的な動向を継続的に監視する。
  2. AIと機械学習を活用して、シナリオプランニングとストレステストの機能を強化することで、より広範なシナリオでシミュレーションを実施し、組織への潜在的な影響を予測できるようにする。
  3. 戦略的な採用計画を実施し、第1線と第2線の主要なケイパビリティを強化するとともに、サイバーセキュリティやAIなどの新たなリスク領域に注力し、スキルの継続的な向上を推進する。
  4. 全体的なリスク管理目標と事業目標に沿った詳細なAI戦略を策定し、データ分析、不正検出、コンプライアンス監視、業務プロセスの自動化など、AIの具体的な活用方法を明確にする。
  5. 継続的な監視とリアルタイムのリスク分析を支援するツールを導入し、リスクエクスポージャーの評価、リアルタイムでのデータ分析を強化するとともに、規制要件の確実な順守を実現する。
  6. 信用リスク管理フレームワークを支える分析を強化し、貸出基準や担保要件の見直し、高リスク業界や地域へのエクスポージャー管理を迅速かつ柔軟に調整できる体制を構築する。
  7. 定期的なトレーニングの実施、リスクポリシーの明確な伝達、そして従業員が潜在的なリスクを報告しやすくするインセンティブの導入を通じて、組織全体にリスク認識と説明責任の文化を浸透させる。
  8. アジャイル手法を導入し、継続的な改善と適応力を重視するマインドセットを醸成することで、プロアクティブなリスク管理手法を実践する。
  9. 現在のオペレーティングモデルを評価し、シェアードサービスや新たなソーシングモデルの活用によってパフォーマンスの向上と柔軟性の向上が可能な領域を特定する。

第14回EY/IIFグローバルバンクリスク管理サーベイ(PDF、英語版のみ)をダウンロードする

サマリー

銀行業務は常に変化し、不安定な要素も多いため、CROは予期せぬ事態を想定し、より広範なシナリオをモデル化するとともに、予測不能な出来事が発生した際には迅速かつ的確に対応することが求められます。幸いなことに、調査結果が示しているのは、多くのCROが包括的な対策を講じて、こうした変化の激しい環境に適応し組織に必要な俊敏性を浸透させようとしていることです。

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