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医師の働き方改革を持続可能な経営投資とするには

医師の働き方改革は、罰則を避けるための「守りの対応」と捉えられがちです。しかし本質は、医師が健康に働き続けられる環境を整え、地域医療を未来へつなぐための投資です。


要点

  • 医師の働き方改革とは、労務管理の徹底と労働時間の短縮によって医師の健康を確保することを目的とした法改正である。
  • 医師の働き方改革には、労働時間の短縮と医療提供のジレンマ、医師への業務集中、慢性的な人員不足、コスト増による経営圧迫が阻む。
  • 医療機関の勤務環境マネジメントシステムを活用し勤務環境改善に向けたアプローチを取ることが重要である。

Ⅰ. はじめに

労働環境の改善や長時間労働の是正、多様な働き方の実現を目的として、2019年から多くの職種において働き方改革が施行されました。医師については、応召義務や地域医療への影響など業務の特殊性を踏まえ、5年間の猶予期間が設けられ、2024年4月から医師の働き方改革が施行され、医師の労働負担の軽減や業務の効率化が期待されています。2026年現在、「制度は動き出したが現場はまだまだ追いついていない」という過渡期にあります。

本記事では、2024年4月の医師の働き方改革施行から約2年が経過した現在、改めて医師の働き方改革とは何か、病院の勤務環境を改善するにはどのようにアプローチをすればよいかを解説します。

Ⅱ. 医師の働き方改革とは

医師の働き方改革とは、労務管理の徹底と労働時間の短縮によって医師の健康を確保することを目的とした法改正です。一般の職種では2019年から施行されていましたが、医師には応召義務があり、地域医療への影響も大きいことから、5年遅れの2024年からの本格適用となりました。その中心にあるのが、時間外労働の上限規制です。併せて、労働環境を外部から評価する仕組みの導入や、長時間労働を行う医師への健康確保措置の義務化も進められています。狙いは明快で、医師が健康に働き続けられる環境を整え、結果として医療の質と安全を守ることにあります。

Ⅲ. 医師を取り巻く労働の実態

医師の働き方改革が急がれた背景には、見過ごせない実態があります。

長時間労働の常態化:令和6年度医療機関における勤務環境に関する実態調査*では、年間960時間以上の時間外・休日労働を行う医師が全体の4.6%、年間1,920時間以上に及ぶ医師も0.7%と報告されていました。時間外労働時間の理由はいずれの年代も「患者対応、ケア」の割合が最も多いことが報告されています。
※厚労省「令和6年度医療機関における勤務環境に関する実態調査

労働時間管理の不備:そもそも医師の労働時間を正確に把握できていない、あるいは把握しようとしない医療機関が少なくありません。前述の実態調査では、医師の勤務管理の方法は、病床規模が大きいほど「客観的な記録の活用に管理」が多いことが報告されていますが、病床規模が小さい病院では「出勤簿」や「自己申告」で管理している病院もあります。こうした管理体制の欠如が、長時間労働の常態化の一因となってきました。

Ⅳ. 医師の働き方改革における3つの仕組み

1. 時間外労働の上限規制

最大のポイントが、これまで存在しなかった時間外労働の上限が設けられたことです。医療機関は機能や役割に応じて水準が分類され、その水準ごとに上限が定められました。原則となるA水準でも年960時間、地域医療の確保や研修のためにやむを得ず長時間労働が必要なB・C水準では年1,860時間が上限となります。特に地域医療暫定特例水準(B・連携B水準)は2035年末までの段階廃止が予定されており、医療機関は長期的な労働時間短縮計画の策定が不可欠になります。

2. 医療機関勤務環境評価センターによる外部評価

B・C水準の取得を予定する医療機関は、日本医師会が運営する医療機関勤務環境評価センターによって、労務管理や健康確保の体制をチェックされます。自院の取組みを自己満足で終わらせず、外部の目を入れることで、改善の実効性と透明性を担保する仕組みです。

3. 追加的健康確保措置の義務化

時間外労働が月100時間を超える医師には、面接指導や連続勤務時間の制限、勤務間インターバルの確保といった健康確保措置が求められます。とりわけB・C水準の医療機関では、これらが努力義務ではなく義務として課されています。

Ⅴ. 医師の働き方改革を阻む4つの壁

1. 労働時間の短縮と医療提供のジレンマ

これまで医師の長時間労働によって維持されてきた医療体制は、労働時間を強制的に短縮すれば、当然どこかにしわ寄せがいきます。とりわけへき地や過疎地では、改革以前から医師不足が深刻であり、より大きな打撃を受けかねません。

2. 医師への業務集中

医師は診療以外にも、書類作成や患者説明など、必ずしも医師でなくてもできる業務を数多く抱えています。この「医師でなくてもよい仕事」を他職種に移せない限り、労働時間は減りません。

3. 慢性的な人員不足

労働時間を減らしながら同じ医療を提供するには、より多くの人手が必要です。しかし、医療の担い手の減少、地方偏在、診療科偏在という三重苦の中で、人を増やすこと自体が難しいのが現実です。

4. コスト増による経営圧迫

人員確保や勤怠管理システムの導入には相応の費用がかかります。さらに、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増賃金が求められるようになり、人件費の上昇が経営をさらに圧迫します。

Ⅵ. 医療機関の勤務環境マネジメントシステムを活用した勤務環境改善に向けたアプローチ

勤務環境改善を進めるにあたっては、厚生労働省が推奨する「医療機関の勤務環境マネジメントシステム」に沿って、現状分析→計画策定→実施→評価→改善というサイクルを組織的に回す仕組みを構築することが重要です。

1. 労務管理の見直し

医師の勤務は日直・宿直・外勤・オンコールなど複数の勤務形態が混在し、一般企業と比較してより複雑です。自己申告任せをやめ、勤怠管理システムの導入を含めて、正確に把握できる仕組みへ転換します。

2. タスク・シフト/シェアの推進

血圧測定、患者説明、書類作成など、医師以外でも担える業務は積極的に他職種へ移します。特定行為研修を修了した看護師の活用やチーム制の導入も有効です。

3. IT・デジタルツールの活用

カンファレンスのweb化、チャットツール、電子カルテのワークフロー機能など、業務効率化の手段は多岐にわたります。初期投資は必要ですが、長期的なリターンは大きいはずです。

4. 医療連携の強化

一つの病院だけでは解決できない構造的な長時間労働には、地域での連携が不可欠です。休日・夜間救急の輪番制などは、地域全体で医師の負担を分散する有効な手だてとなります。

Ⅶ.医師の働き方改革は持続可能な経営への投資

医師の働き方改革は、罰則を避けるための「守りの対応」と捉えられがちです。しかし本質は、医師が健康に働き続けられる環境を整え、地域医療を未来へつなぐための投資です。

少子高齢化が進む中で、医師の負担はますます重くなります。だからこそ、「何かが起きてから対処する」のではなく、「起きる前に備える」姿勢が欠かせません。そして、すべてを一度に完璧にする必要はありません。限られたリソースの中で、優先度の高い課題から順に手をつけることこそが、持続可能な医療機関経営につながります。貴院の労務業務に関するお悩みやご相談がございましたら、当法人へお問い合わせください。

サマリー

医師の働き方改革は、長時間労働是正と労務管理強化により医師の健康と医療の質を守る制度ですが、本質は、医師が健康に働き続けられる環境を整え、地域医療を未来へつなぐための投資です。

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