EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
この度、セクターのグローバルリーダーであるCatherine Fridayを迎え、ラウンドテーブルを開催。昇進の機会を与えられた女性が直面する現実の課題に深く迫りました。
要点
開催に先⽴ち、EY Japan公共・社会インフラセクター ⾮監査サービス・マーケットリーダーの伊澤 賢司は、このラウンドテーブルの趣旨について、単なる会議ではなく、社会課題の解決に向けた具体的な⾏動を模索する場であることを説明しました。
EY Japan公共・社会インフラセクター ⾮監査サービス・マーケットリーダー EY新日本有限責任監査法人 伊澤 賢司
「われわれ、公共・社会インフラセクターの目的は、『多様化する市民の幸福を満たすことで社会を導くこと』です。この理念は、われわれ自身の内部コミュニティにも適用されるべきものです。本日のラウンドテーブルでは、女性がキャリアを通じて直面するさまざまな障壁に目を向け、それを乗り越えるためにどのような支援が可能なのかを議論したいと考えています」
キャリアを築いていく過程で、多くの女性がさまざまな壁に直面します。現在、公共・社会インフラセクターのグローバルリーダーとして活躍するCatherine Fridayも、その例外ではありませんでした。
EY Global and EY Asia-Pacific 公共・社会インフラセクターリーダー Catherine Friday
Catherineが初めてパートナー昇進に挑戦したのは、5歳の娘を育てながら仕事に奮闘していた時期のことでした。しかし、その挑戦はかなわず、昇進は逃す結果となりました。当時のフィードバックでは、「クライアント対応に時間を割きすぎており、成果を十分にアピールできていない」と指摘されました。
「自分の仕事がそのまま評価されることを期待していた私にとって、このフィードバックは非常に悔しいものでした。感情に任せて辞めてしまおうかと一瞬考えましたが、私はその言葉を前向きに受け止めることにしました。そして、自分の成果が正当に評価してもらえる環境を作るために、社内でのネットワーク構築に全力を注ぎました。そして翌年、再挑戦を決意したのです」(Catherine)
2008年、再び昇進に挑んだ当時、オーストラリアの事業所における女性パートナーの割合は10%にも満たない状況でした。その中で行われたCEOとの面接では、「夫はパートナーになることをどう考えているのか」「夕食を毎晩作れなくなることを彼は理解しているのか」といった質問を受けました。
「私は、内心憤りを感じながらも、冷静に答えたことを今でも覚えています。夫は非常に協力的で、そもそも今も私がすべての食事を作っているわけではないと伝えました。このやり取りは、現代のオーストラリアにおいても、依然として古い考え方が根強く残っている現実を痛感させられるものでした」(Catherine)
彼女の経験は、昇進の道が単なる業績評価だけでなく、性別に基づく固定観念との闘いでもあることを物語っています。
晴れてパートナーへの昇進を果たしたCatherineでしたが、それは同時に慣れ親しんだ環境をすべて手放し、未知の場所でゼロから再出発する挑戦でもありました。不安を抱える彼女の背中を押したのは、夫の力強い言葉でした。
「こんな機会は二度とないかもしれない。今、このチャンスにイエスと言わなければ、可能性の扉を閉ざしてしまうことになる」
Catherineは振り返ります。「それ以来、私は新しい挑戦の機会が訪れる度に、この言葉を思い出してきました。直感的に難しいと感じても、チャンスを逃して後悔することの方が怖いと思うようになったのです。次の一歩を踏み出さなければ、その先にどんな扉が開くかわからないのですから」(Catherine)
この言葉は、Catherineのキャリアを支える重要な指針となりました。「新たな挑戦の機会に恵まれた時、明確にノーと言う理由がない限り、私はイエスと答えます。重要なのは、自分を信じること。自分を信じられなければ、他人に信頼されることも、支援してもらうこともできないのです」
続いて、話題はオセアニアにおける女性のエンパワーメント促進の事例へと移りました。近年、オセアニアでは女性を取り巻く環境が劇的に改善されています。
「数年前、当時のCEOが新卒採用時の男女比を50:50にする方針を打ち出しました。新卒レベルで平等を実現しなければ、最上位の管理職層でそれを実現することは困難だと考えたからです」(Catherine)
さらに、育児や介護といった家庭の責任を抱える女性シニアマネージャーやディレクターを支援するために、メンタリングやスポンサーシップ活動に特化したフォーラムが設置されました。
「シニア男性リーダーにも女性支援を呼びかけています。女性たちの声が直接届かない場面では、信頼できる男性が代弁者となることが必要だからです。また、保育サービスの利用支援など多岐にわたる取り組みを行った結果、女性管理職の割合は35%にまで増加しました」(Catherine)
Catherine、そして、オセアニアでの実例は、ダイバーシティの推進に向けた具体的なアプローチとその成果を示し、参加者たちに新たな視点と深い感銘をもたらしました。
続いて行われたオープンディスカッションでは、参加者たちから、女性特有の悩みや葛藤が率直に共有されました。中でも健康問題や仕事と家庭の両立に関する声が多く挙がり、それに対するCatherineの回答が議論を深めました。
中尾「私はこれまで会計監査の分野で順調にキャリアを積んできました。しかし、最近では働く母親として、女性特有の健康問題に直面することが増えています。社内では10人ほどのメンバーとグループカウンセリングを行っていますが、それぞれが何かしらの健康問題を抱えている状況です」
EY Japan公共・社会インフラセクター EY新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー 中尾 暁
Catherine「そうですね。何十年もの間、職場は男性を基準に作られてきました。そのため、女性特有の健康課題は十分に考慮されていません。私自身、産後うつを経験しましたが、当時はメンタルヘルスに関する議論はほとんどありませんでした。現在は以前よりも話題に上るようになりましたが、それでも支援を見つけるのは依然として難しい状況です」
岩崎「私は公共・社会インフラセクターで主に鉄道分野を担当しながら2人の子どもを育てています。Catherine が産後うつを経験されたとのことですが、私も仕事で多忙な状況が長期間続くと仕事と家庭の時間的なバランスが崩れメンタル面がネガティブになってしまうことがあります」
EY Japan公共・社会インフラセクター EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ディレクター 岩崎 亜希
Catherine「EYオーストラリアでは、メンタルケアの一環として、更年期やその前段階にある女性を対象としたサポートグループが設立されました。まだ十分ではありませんが、私たちも具体的にどのようなサポートを求めているのかを明確に伝える必要がありますね。
また、私の場合、自然の中で馬に乗る時間が、エネルギーを回復させてくれる活動の一つです。また、メルボルンパークの財務・監査・リスク委員会の議長も務めていますが、これは仕事ではなく、純粋に自分自身のために行っている活動です。こうした時間が、自分のバランスを保つ助けになっています」
中尾「男性にも支援が必要だという視点もありますよね。個々の性格や特性を考慮した個別の機会を提供することが大切だと思います」
岩崎「そうですね。以前は母親、つまり女性がすべての責任を引き受けていましたが、今はそれが変わりつつありますよね。私のチームでも、男性マネージャーが育児休業を3カ月取得しています。また、マネージャーに限らず、男性スタッフでも育児休業を取得する方が多数を占めてきており、私もぜひ、男性も悩まず育児休業を必要な期間、積極取得してほしいと考えています。私自身が育児と仕事の両立で悩んだ経験などを生かして、父親として同じ状況にいる男性のメンターのような存在になれればと願っています。メンバーが抜けるとチームには負担がかかりますが、サポートし続けていきたいと考えています」
Catherine「とても素晴らしい姿勢ですね。EYオーストラリアでは、事前に審査された契約社員を確保していて、チーム内の人手不足が発生した時でも何とか乗り切っています。もちろん、育児休業中のメンバーの代替を完全に網羅することはできませんが、少しでもリソースの支援があることは助けになります」
土屋「私は、教育分野における社会課題の解決に貢献することをマイパーパスとして、グローバルで活躍できるようなキャリアを⽬指しているのですが、仕事と⼦育てのバランスを取ることが⾮常に難しいと感じています」
EY Japan公共・社会インフラセクター EY新日本有限責任監査法人 マネージャー 土屋 紗喜子
町⽥「わかります。私は、インフラアドバイザリーグループで政府と ⺠間企業のインフラ資産に関連する仕事をしており、公共の利益をより充実させることに貢献できればと思って仕事に励んでいます。⼀⽅で、夫が海外勤務のため1⼈で⼦どもの世話をしなければなりません。⼦育てに関する⽀援が必要なのですが、例えば託児プログラムを活⽤するにも、信頼できるところを探すだけで疲弊してしまい、プログラムが提供されていても、それを実際に使いこなすまでの道のりが険しく感じます」
EY Japan公共・社会インフラセクター EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 シニアマネージャー 町田 聖娘
Catherine「ええ、2人にはとても共感します。わが家も子どもが小さい頃、夫も私も仕事で多忙だったことから、ナニーを雇うこともありました。必要なサポートやインフラは一人一人異なります。有料の支援も含め、正しいバランスを見つけてストレスを少しでも軽減する方法を見つけられるといいですね」
七澤「私は長年ソロプレーヤーであったため、EYの建設・不動産・金融セクターでチームとして仕事ができることに生きがいを感じています。しかし、日本では依然として男性優位な文化が存在していると感じています」
EY Japan公共・社会インフラセクター EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ディレクター 七澤 奈緒子
Catherine「そうですね、今でも大きな課題として世界中の企業構造に存在していると私も感じています。長年、『平等は自然に達成される』と信じられてきました。つまり、十分な数の女性が昇進して役職に就けば、自然と平等が訪れるだろうと考えられていたのです。しかし、他のあらゆる取り組みと同じく、明確な目標を設定し、その進捗を測定しなければ、目指すべき地点には到達できません。
EYオーストラリアでは女性支援プログラムが導入され、その成果が毎年公表されています。さらに、この取り組みは政府によって国内すべての企業に義務付けられており、進捗状況を公に報告することで、企業に強力な動機付けを与えています」
七澤「男性優位の環境で出世するには、時に男性的な思考や振る舞いを求められますが、正直、私としては⼾惑うことが少なくありません」
Catherine「私がパートナーを目指していた際も、『もっと男性的にアピールするべきだ』と言われたことがあります。その言葉には憤りを感じましたが、残念ながら部分的には正しかったとも思います。私は最終的に、自分が成功するために必要だと考える行動を取りました。自分がどこまで準備ができていて、どこまでの行動が可能なのか。それを常に考えておくことはキャリアの助けになるでしょう」
竹賀「みなさんのストーリーには、どれもとても心を打たれました。他国での取り組みや成果を知ることができ、とても有意義な時間になったと思います。成功例ばかりではなく、無力感を覚える瞬間やそれを乗り越える話を共有できたことに大きな価値を感じています」
EY Japan 公共・社会インフラセクター マーケットセグメントマネージャー EY Japan株式会社 竹賀 優子
Catherine「私たちには多くの共通する経験があります。疲れ果てて家に帰り、涙を流す日は誰にでもあります。そんな時、周りに助けてくれる女性たちがいると知るだけで、どれほど勇気づけられるか計り知れません。これからもこうした機会を持ち、より多くの女性を支援していけることを願っています」
目指すべき地点に到達するには明確な目標を設定し、その進捗を測定する必要があります。企業に女性支援のプログラムを義務化し、その成果を公表させる取り組みは非常に有効です。また、自分を信じて挑戦すること、声が届きにくいところでは男性に協力を仰ぐこと、その経験を共有することは女性がキャリアを築く上で大きな力になります。