電子カルテなど病院情報システム導入セミナーの開催報告

建替えが難しくなる時代における改修という概念の再評価

建設コストの高騰と人口減少が重なり、建替えかの判断はかつてより難しくなっています。改修という視点から施設の将来を問い直します。


要点

  • 建設コストの高騰・人口減少・金利上昇が重なり、建替えの投資判断はこれまでより難しくなっている。段階的に投資できる改修は、将来見通しが不確実な時代における合理的な選択肢になり得る。 
  • 改修による施設活用には3つの視点がある。余剰スペースの機能転換、設備・インフラへの優先投資、診療を維持しながら進める段階的整備(フェーズ計画・ローリング整備)である。 
  • 改修が可能かどうかは当初の設計思想によって異なる。配管・配線が構造体から独立しているかどうかが改修の可否と費用を左右するため、まず自施設の現状を把握することが判断の前提となる。

建替えは唯一の選択肢か

病院の老朽化が話題になるたびに、やがて誰かが口にする言葉があります。「いずれ建替えを」。

その一言が、長年にわたって医療施設計画の最終解として機能してきました。敷地があり、資金があり、地域の需要があれば、老朽化した建物はいつか新しい箱に入れ替えられる。そのような前提のもとで、多くの病院は設備投資の優先順位を考え、修繕計画を組んできました。

しかし、今その「前提」そのものが揺らいでいます。

人口減少と少子高齢化が進む中で、病床需要の見通しは全国的に下方修正が続いています。地域医療構想のもと、急性期病床の削減圧力は根強く、将来の病院像が描けないまま、大規模投資の判断をためらう経営者が増えています。加えて、建設コストの高騰もいまだ続いています。金利上昇局面が続く中、借入前提の資金計画にも影響が及んでいます。

建替えを望みながらも、コストや将来見通しの不確実性から踏み切れずにいる病院が、地域の中核を担う施設でさえ増えています。建替えの判断がこれまでより難しくなっている時代―それは遠い未来の話ではなく、現在進行形の課題です。

施設を「長く使う」という発想

こうした状況の中で問われるのは、「改修か建替えか」という二択ではなく、「この施設をどう長く使い続けるか」という視点への転換です。

従来、病院における改修は「本格的な建替えまでのつなぎ」として位置付けられることが多くありました。費用対効果が低い、機能的な限界がある、感染対策上のリスクがある――そういった批判とともに、改修は「次善の策」と見なされてきました。

しかし、この見方は問い直すことが求められています。一度に多額を投じる建替えとは異なり、医療環境の変化を見ながら段階的に投資を重ね、必要な機能から順次対応していける点は、将来の見通しが立てにくい時代において合理的な判断と言えます。

一方で改修でどこまで対応できるかは、施設の状態と当初の設計思想に左右されます。改修を有効な選択肢とするためには、そもそも「改修できる構造になっているか」という問いが先に立ちます。

施設の価値を持続させるための3つの視点

では、改修によって施設をどこまで生かし続けられるのか。以下に3つの視点を整理します。

1. 機能の再配置による価値創出

病院の使われ方は時代とともに変化します。在院日数の短縮化により、かつては必要だった大規模な病棟スペースが余剰になるケースも出てきました。こうした遊休スペースを、多床室から個室への改修・外来化学療法室や外来リハビリスペースへの転換・職員の休憩・更衣スペース、医療スタッフの研修スペース等に転換するといった「機能の組替え」は、追加投資を抑えながら施設の利用価値を高める今後の施設マネジメントにおける重要な手段となります。

2. 設備・インフラへの集中投資

外観や意匠はそのままでも、内側のインフラを刷新することで施設の機能水準は大きく向上します。電気容量の増強、空調・換気システムの更新、感染対策を考慮した給排水系統の見直し、ICT基盤の整備。これらは目立たないものの、医療の質と安全性に直結する投資です。

ただし、急性期病院においてこれらを実施することは容易ではありません。医療ガス配管は容易に停止できず、手術室や感染症病棟の空調は感染制御上の制約が大きい。電気系統の更新は非常用電源との接続を含む精密な計画を要します。インフラ改修は「建替えより手軽」ではなく、工事の順序・時期・周知を綿密に設計した上で初めて実施できるものです。それだけに、どこから手をつけるかの優先順位の整理が、施設整備計画の核心となります。

3. BCP(事業継続計画)を見据えた段階的整備

大規模改修における最大の課題は、工事中の診療継続をいかに確保するかにあります。特に手術室・ICU・救急など急性期機能を持つ病院では、稼働を維持しながら工事を進めることの難易度は高くなります。

対応の手法は1つではありません。棟ごとに工事の順序を組む「フェーズ計画」によって既存棟内での段階的な整備を進める方法もあれば、部分的な新棟を先行して整備し、機能を移転させてから旧棟を改修する「ローリング整備」という手法もあります。後者は全面建替えではなく、最小限の新設と既存棟の活用を組み合わせることで、診療継続と投資抑制を両立させるアプローチです。いずれが適切かは施設の規模・構造・財務状況によって異なりますが、「稼働中の病院を維持しながら」計画を実行できる順序の設計が、施設整備を現実的な選択肢として成立させる上で不可欠な要素となる点は共通しています。

「病院の寿命」をどう考えるか

そもそも「病院の寿命」とは何で決まるのでしょうか。建物の物理的耐久性なのか、機能的な陳腐化なのか、医療制度上の要件なのか。

この問いに対して、建築学者のN・J・ハブラーケン(オランダ)が提唱した「オープンビルディング」という概念は、1つの整理された視点を提供しています。建物を「骨格(構造体)」「設備・間仕切り」「内装・備品」の三層に分け、それぞれの耐用年数に応じて独立して更新していくという考え方です。骨格は数十年~100年で更新が必要となり、所有者・事業主が決定する領域。設備や間仕切りは20〜30年で、テナントや運営者が決定する領域。内装・機器は5〜10年のサイクルで、利用者が決定する領域。それぞれ個別に更新していければ、建物全体を一度に「捨てる」必要はなくなります。

この思想を病院設計に体系的に取り込んだ事例が、スイス・ベルンのインゼル大学病院「INOプロジェクト」です。急性期の大学病院でありながら、大規模な増築棟を対象に、骨格・設備・内装を、上位レベルの決定が下位レベルの変更を妨げないよう、設計・施工の分離を契約上で定めました。竣工前や運営後に部門の機能配置が変更されたものの、建物の骨格に影響を与えることなく対応できたことが確認されています。骨格を100年使うことを前提に設計された、数少ない具体的事例の1つです。

翻って日本では、高度成長期に整備された医療施設が一斉に老朽化するという歴史的経緯から、「病院は建替えるもの」という慣行が根付いた側面があります。そして皮肉なことに、建替えを前提として設計された建物ほど、配管・配線が建物の構造体に埋め込まれ、設備更新が困難になっているケースが多くあります。「建替え前提の設計思想」が、結果として改修しにくい病院を量産してきたとも言えます。

改修に限界がないわけではありません。間取りや空間構成が現代の医療ニーズに合わない建物(廊下幅が不足している、柱の間隔が短すぎて大型の医療機器が搬入できないなど)では、改修での対応に物理的な壁が生じます。建物の劣化が著しい場合や、断熱・省エネ基準への適合コストが新築を上回る事例も存在します。

ただし、その「限界がどこに来るか」は、当初の設計思想によって異なります。最初から長期使用を前提として設計された建物の場合、実質的な耐用年数は60年から100年以上に及ぶとされます。建替えを前提とした設計から、長く使い続けることを前提とした設計、この転換が今後の医療施設整備において問われる視点となるでしょう。

「施設整備ビジョン」という考え方

建替えの実現可能性が下がりつつある現在、施設をどのように整備し、どう位置付けて計画するかが病院経営における重要な論点になってきています。

単なる修繕計画にとどまらず、「この施設を今後20〜30年にわたってどのように運営し、どのような医療を提供し続けるか」というビジョンを起点に、改修・ローリング整備・部分建替えなどの選択肢を施設の実態に即して検討する、いわば「施設整備ビジョン」の策定が求められる段階にあります。建築専門家の他、将来の視点を踏まえた医療コンサルタントからの提案、医療スタッフ・経営層・地域の声を反映したプロセスを経ることで、計画の精度と実行可能性はより高まります。

自施設の建物が今どういう状態にあり、何が可能で何が難しいのか。その見極めなしには、いかなる整備の方向性も判断の根拠を欠きます。「建替えか、改修か」という問いを立てる前に、まず自施設の現状を把握することが求められます。また、現状把握を起点に、改修を見越してどう設計するか、未来の自施設の運用をどう具体的にイメージできるか。施設整備に求められる問いはそこにあります。

サマリー

建設コストの高騰と人口減少を背景に、建替えの判断はこれまでより難しくなっています。改修の可能性について3つの視点で整理しました。自施設の現状を把握した上で、改修を見越した設計、それに必要な将来運用のイメージが、施設整備に求められます。

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