EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
多くの医療機関が経営難で課題を抱える中、医療機関の経営者やステークホルダーの方々は経営分析をして、立ち位置や課題を明確にすることになります。しかし、従来であれば貴重であった外部・内部環境調査から始まる各種調査が物足りなく感じることも多いことでしょう。本コラムでは、その背景を探り、経営推進に本当に必要なことを導出します。
医療機関の収支が悪い状況にあると報じられることは、今に始まったことではありません。
自治体立病院の赤字比率が報じられ経営計画作成が求められたこともあれば、近年の融資・補助金がなくなった状況の議論など、医療機関経営改善の必要性については、これまでも多く語られてきました。
そういった状況の中、いつの時代も、経営改善をゴールに内部・外部の方々は議論をしてきました。
いわゆる医療コンサルタントや医業経営の専門家に加えて事務長・内部の経営企画部門、経営者自身は、いつの時代も医療機関の経営をしっかりと分析することで、経営改善の糸口を見つけるべく検討を進めてきました。
基本的には、診療報酬に代表される収入や各コストの比率等を確認し、それらKPIを表に落とし込み可視化することが内部環境分析の土台となります。
外部環境分析は、その医療機関がターゲットとする医療圏などにおいて、どのような医療ニーズがあるか確認することや他医療施設の機能・役割を確認します。具体的には、人口がどのように増減するか、その時、患者数がどのように増減するか、ということを計算し、〇〇科の患者数が今後減少するなどの推計を示します。他施設の状況も、病床機能別・診療科別などに分類してどの程度の医療サービスを行っているのか、そのボリュームや手法を確認します。
こういったことは、医療経営の基本として、どこにでも書かれており、誰もが確認する初期フェーズの分析です。
筆者自体も、10年前は、人口統計等各種情報ソースを確認し、表計算ソフトの機能を駆使し、きれいにわかりやすい図表としてクライアントに提供していました。そこから活発な議論が生まれる資料であり、まさに経営改善検討の土台として使ったものです。
DPCデータや病床機能報告に代表される公開データがあることは、医療業界の重要な資産です。他の業界ではここまで情報が整理・公開されていません。
例えば、ある製造業の経営分析をする場において、どのような競合があり、市場がどの程度あり、どのようなタイミングで部品を後工程に流すか、それはどのくらいのボリュームになりそうかということを考える必要があるとします。それらの情報は、感覚的には理解していても、整理されたデータを見つけることは非常に困難です。データがなければ、経年変化を示すことも、競合や地域別の差も正確に確認・分析できません。
そのような中で、その業界に特化した有識者の意見や個別の調査は貴重です。現場で見聞きした経験や横断的にヒアリングした内容から事実を言い当てることが期待できます。一方、事実確認しづらい中で、有識者の意見に納得することができるかどうかは、信頼感やその個人の経歴などによることも多いのではないでしょうか。
一方、医療分野には、その根拠となるデータは明らかに存在しますから、計算すれば、対象となる医療機関の経営に資するデータとして整理することが可能です。
データは経営分析結果と昇華し、数々の経営改善のヒントとなります。
ロジカルな情報収集手法や分析プロセスにおけるミスのない作業は、医療施設の経営分析のクオリティを決めるものでした。そして、そのクオリティを高めるためには、時間をかけて情報を集約したり、逆にそぎ落としたり、可視化していくことが必要でした。
近年、これらの手間がほぼなくなりました。瞬間的に経営分析ができるようになった、ということです。
情報システムの発展、AIによる瞬時の整理、優れたUI(可視化)により、手間をかけることなく、かつての経営分析専門家が知識と知恵を絞って作業していた内容を、瞬時に享受できるようになりました。
経営分析のシステムがあれば言うまでもありませんが、そういったものがなかったとしても、さまざまなツールによって、可視化や取りまとめは瞬間的に作成されるようになりました。
筆者は医業経営のプロフェッショナルの一人ではありますが、まさに、われわれの分析資料を作るという仕事が消滅しつつある、と言えます。
クオリティが以前より高くなったかはどうでしょうか。従来は、作成プロセスにおいて、多くの気づきもありました。瞬時に定型的な資料が作られることで、その気づきがなくなったように感じます。ただ、それでクオリティが下がったかというと、そうは思いません。なぜなら、われわれにとって、完成までの時間もクオリティの一つと捉えているからです。課題を抱えた医療施設の経営者に対して、なるべく早く提案できることは早期な経営改善につながります。瞬時に経営分析資料ができること自体が、圧倒的なクオリティ向上と言えます。
結果、一定の内部・外部環境分析をすること自体は、経営者や経営を支援する部門・外部コンサルタントの仕事ではなくなりました。
経営改善の議論において、初回の打ち合わせで、すでに一定の公開データによる経営状況分析を示すことができます。現在、ほとんどのケースでは、このような流れで、経営改善の議論は進むようになりました。
それでも経営改善に係る議論の価値や有識者の存在価値はなくなりません。それについて、最後に述べたいと思います。
経営課題が見つかったとして、それを解決することで初めて経営改善につなげることができます。そこがゴールであるため、分析自体はプロセスにすぎません。
前述の説明は、初期フェーズの作業が圧倒的に早くできるようになったということであり、その後にも引き続き取り組むべき事項は残っています。
例えば、医療スタッフ不足、設備投資の適正化が課題に挙がったとします。解決方法もさまざまで、従業員の労働環境改善をすればよい場合もあれば、より設備投資のコストを抑えるということも解決策となるでしょう。
分析だけにとどまっていては不十分で、その先にある多様なソリューションをさまざまな引き出しから取り出してきてトライしていく、あるいはそれらの計画を立てる、ということが重要です。その時間がこれまでよりも増え、実施するタイミングが圧倒的に早くなったということです。
このような状況では、人事や設備投資についても知見が必要となります。つまり、経営分析と言いながら、経営指標だけを確認するものではなく、個別のソリューション提案が必要となります。そのための現場経験や実務企画の幅広さが求められ、そのアクションプラン推進や個々の改善こそが、新しい時代における、経営改善のメインパートであると言えます。
一方、さらに上流の、事業展開について相談されることも増えてきました。具体化とは真逆のアウトプットを求められることも増えたということです。将来的な展開について議論を求められることが多くあります。現状分析に時間がかからないようになった今日、将来的な構想を検討する時間も増えました。
短期的に収支を良くするということでなく、よりダイナミックに病棟機能を検討することや、DX推進と表現される情報技術による変革、中長期的な投資などによって、大躍進を目指した事業展開を将来構想として検討していきます。
例えば、新たな医療サービスへの挑戦、一部分野の撤退、地域・自治体との関係づくりや今後の医療政策を見据えた準備など、より戦略的な絵を描き、そこに目指して進むためのロードマップを示すようなことも、経営改善検討の一部として議論されることが多くなってきました。
今や、現状分析に時間をかける必要はなくなりました。その後の大きな将来構想が立てられるかが重要です。あるいは、その先の具体的なアクションプランを実行することができるかが問われる、スピード感をもって真の経営改善実行を求められる時代が来たと感じています。
近年の病院の経営難が引き金となり、病院経営者自身だけでなく、金融機関や自治体などステークホルダーがさまざまな視点で病院経営について議論する機会が増えてきました。その中で、従来の経営分析は物足りなさを感じることも多いのではないでしょうか。本コラムでは、その背景と本当に必要な検討内容を探ります。
関連記事
物価上昇や人件費の高騰が続く中、病院情報システムの更新判断は、これまで以上に重要な経営課題となっています。本稿では保守延長を1つの暫定策と位置づけつつ、その是非を見極めるための視点を整理します。
医療データ分析コンサルティング|経営改善を実現するEYのデータ活用支援とは
医療機関の経営データ分析コンサルティングが可能です。EYは財務・診療データの多角的分析から経営層報告、院内説明会まで一貫して支援。データドリブンな経営改善を実現します。
日本における医療・介護・福祉分野におけるデータ活用と医療DXの現状とは
高齢化による人材不足が深刻化する中で、医療・介護・福祉分野でのDX化は急務です。日本の政策動向と現場課題を整理し、生産性向上に向けたデジタル化のポイントを示します。
医療DXの加速に伴う病院情報システムの未来とは ―標準化、データ活用、そして「生成AI」の時代へ―
医療DXに向けた電子カルテ更新や病院情報システムの導入支援について解説します。システム標準化、ベンダー選定、生成AI活用など、失敗しない更新のポイントとは。EYが構想策定から稼働まで中立的な立場でコンサルティング支援します。
病院経営層のための画像診断支援AI活用ガイド ― 導入判断と運用設計のポイント ―
画像診断支援AIの制度的位置づけと導入判断の前提を整理。病院経営層が誤解しやすい論点と運用設計の考え方を解説します。
EYの関連サービス
人口動態の変化やグローバル化の流れを受け、現在の医療費は持続可能性に反した方向に向かっています。その結果、医療の三つの重要な要素、アクセスの拡大、しつの改善、コスト管理をバランスさせながら、持続可能性に焦点が当てられています。
続きを読むEY Japanでは、これまでも厚生労働省様および、医療・健康などに関係する官庁の調査・提案を行ってまいりました。これまでの活動をさらに強化するべく、医療政策を専門とするチームを組成することとなりました。医療政策は、医療DX関連・地域医療計画・医療勤務環境改善・先進医療の海外調査など、多岐にわたります。ワンストップで政策支援を行えるため、どのような分野であれ、医療・健康に関する相談をお受けいたします。
続きを読む病院情報システムに対する外部からの攻撃、内部オペレーションミスにより、重篤な医療情報システムの停止などの被害が社会課題として大きく報じられてかなりの時間がたちました。にもかかわらず、未だ医療機関の情報システムは脅威にさらされています。その対策に必要な人員確保やルールの整備も、後手にまわることが多いのではないでしょうか。医療情報システムのプロフェッショナルを多く抱えたEYのチームがサポートいたします。
続きを読む