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要点
50年に1度と言われる病院の建替え事業では、前回の建替えを経験した職員がいない中で、ゼロから事業を構築していく必要があります。加えて、少子高齢化、大規模地震、未曾有(みぞう)の感染症流行などの社会情勢の変化により、病院の在り方そのものも非常に短い周期で変化しています。
さらに、戦争・紛争をはじめとした世界情勢の影響による建築費高騰も重なり、病院建替え事業を取り巻く環境は一層厳しさを増しています。
本記事では、これから建替え事業に着手する病院が直面する課題を整理し、その解決に向けた考え方をご紹介することで、準備の一助となることを目的としています。
病院の建替え事業は、一般的に7~10年程度の期間を要し、その間に数多くの検討事項が発生します。本章では、その中でも特に重要な4つの課題を取り上げ、解決に向けた検討ポイントをご紹介します。
コロナ禍以降、建築資材費、輸送費、人件費の高騰により、事業費の大部分を占める建築費は、10年前と比較して約1.5~2倍にまで増加しています。
また、福祉医療機構の貸付金利※も、コロナ禍前の約0.5%から、2026年5月現在では3.4%まで上昇しています。
これらの影響により、建替え事業費は多くの病院にとって返済能力を超える投資となりつつあります。そのため、現代の建替え事業においては、いかに事業費を抑制するかが重要なテーマとなっており、まさに情報戦の様相を呈しています。ここでは、代表的な事業費圧縮策をご紹介します。
※出所:「独立行政法人福祉医療機構(医療貸付)主要貸付利率表」病院の新築資金・甲種増改築資金(貸付期間29年超30年以内)より
(1) 適正な整備規模の設定
病院建物の整備規模は、病床数や各部門の面積設定によって大きく左右されます。病床数については、地域の患者需要予測や今後強化する診療領域を踏まえ、患者獲得見込みに基づいて算定する必要があります。
また、各部門の面積についても、既存病院における面積割合を参考にしつつ、他病院の統計データから傾向を把握し、病床規模に応じた適正面積を試算します。ただし、業務の外注化などにより面積縮小が可能な部門もあるため、部門ごとの運用方針を明確にした上で、適正規模を設定することが重要です。
(2) ハード整備のオフバランス化
建物設備にかかるイニシャルコストをランニングコストへ転嫁(オフバランス化)する企業サービスを活用することで、初期投資を抑える事例が増えています。具体例は以下の通りです。
【エネルギーサービス】
受変電設備や熱源設備をリース化し、維持管理業務と合わせて外注化。設備の長寿命化によるライフサイクルコスト低減や、インフラ契約単価の削減が期待されます。
【セントラルキッチン】
厨房機能を外注化することで、厨房面積および設備投資を削減。調理師人件費の抑制や、管理栄養士の指導業務への集中など、コスト削減と診療機能強化の両立が可能です。
【院外滅菌サービス】
鋼製小物等の洗浄・滅菌業務を外注化することで、中央洗浄滅菌室の面積および高額な設備投資を削減します。
【病室内装】
病室内装工事をリース会社が実施し、個室料金として患者から回収することで、病院側の実質的な負担をゼロにするスキームの構築も可能です。
新病院では、重点的に強化する診療機能を定め、人員配置などのソフト面、設備・医療機器といったハード面の両面から整備を進めます。具体的には、以下の2つの視点で検討を行います。
(1) 新たな医療機能の追加・既存機能の強化
集患や患者単価向上を目的として、治療・検査装置を導入し、診療領域の拡大を図ります。また、診療実績の積み上げにより新たな診療報酬加算の算定も可能となり、大学医局からの医師派遣においても好影響が期待できます。
(2) 新たな病院機能の追加
地域内での存在感を高め、「地域に選ばれる病院」を目指すことを多くの病院が掲げています。その実現に向け、建物構造要件や設備要件を整えることで取得可能な各種施設認定等を活用し、新たな役割を担うことも重要な検討事項となります。
多額の事業費返済を見据え、収入面・費用面の双方で現状からの改善が求められます。収入については、前述の診療機能強化により対応を図る一方、費用面の改善については議論が十分に行われていないケースが少なくありません。
経営改善は病院幹部のみの努力では実行が難しいため、以下の2つの視点を持ち、早期に着手する必要があります。
(1) 経営に強い事務部門の育成
病院事業では、経営の最高責任者が医療の専門家である医師であるケースが多く見られます。そのため、医師が医療に専念できる環境を整えるためにも、経営については事務部門が責任を持って担う体制づくりが不可欠です。安心して経営を任せられる事務部門の育成が強く求められています。
(2) 適切な経営情報の共有
「医療はなくならないため、病院経営は安泰である」といった意識がいまだ根強く、医療職・事務職ともに経営意識が希薄なケースが見受けられます。新病院建築という重要な局面こそ、職員が組織として一丸となる必要があり、そのためには経営情報を適切に開示し、理解と協力を得ていくことが重要です。
50年という長期にわたって、同一の医療機能や地域内での役割を維持し続けることは現実的ではありません。社会環境、疾病構造、働き方が変化する中で、病院建物には柔軟に対応できる可変性が求められます。計画段階から考慮すべき主な視点は以下の通りです。
(1) 病棟の再編
(2) 新たな設備・諸室の増加
(3) 医療DXの発展に耐えうるインフラ設備
(4) 外来診療のオンライン化
(5) 搬送ロボットの導入
(6) 院内動線の冗長性
(7) 駐車場・アクセスの拡張
(8) 業務の外注化
建替え事業の中ではここまでにご紹介した課題をはじめとする専門的な検討議題において、病院は、設計会社や施工会社、医療機器メーカーなどへ迅速に回答する必要があります。しかし、その一つひとつを病院職員が答えることは非常に困難なため、専門コンサルタントが病院側に立って、その判断を導く次のような支援を行います。
前述の通り、病院建物の規模を決める重要な要素として病床規模が挙げられます。人口減少や在院日数の短縮化により患者数は多くの地域で2030~2050年の間にピークを迎え、その後減少に転じます。そのためピーク時の視点だけでは、減少に転じた以降は過剰スペックとなってしまいます。専門コンサルタントが示す対策としては、中長期目線でバランスの取れた収支計画と、前述のような可変性を計画時点から考慮しておくことで、過剰な投資となることを防止します。
病院建築においては一般的に市場調査(在り方検討)、基本構想、基本計画、基本設計、実施設計、施工、移転準備などの検討工程が非常に多く存在しています。それぞれの工程で検討しなければならない内容はおおむね決まっており、そこで検討が漏れてしまうと先の工程で後戻りをして考えなければなりません。最も懸念すべきことは、後戻りの検討により現在検討している内容にも影響を受け、計画の大幅な見直しが発生してしまうことです。コンサルタント料は何も生み出さない余分なコストと見られがちではありますが、後戻りによる余計なコスト(是正工事費用など)と比較すると非常に意味のある投資であると考えられます。
建替え事業には非常に多岐にわたる登場人物が存在します。設計会社、施工会社、医療機器メーカー、システムベンダー、行政担当者などです。彼らは日常的にそれぞれの専門分野の中で仕事をしているため、専門用語や考え方、常識などが彼ら目線で語られがちです。われわれ専門コンサルタントはそれぞれの分野に幅広い知識を有しつつ、施主である病院側の立場に立ち、それらの専門的な解釈などを時には通訳として、時には病院に代わって交渉をします。われわれの仕事は病院が安心して判断できる材料や環境を整え、迅速に事業を推進していくことにあります。
前述の通り病院の存在意義は時代とともに変わり、それに伴い病院建築の在り方も変化しています。さらに50年の建替えサイクルと考えた際には、今の立ち位置だけでなく将来の変化に備えた検討をしていかなければなりません。しかし、現実的に社会や地域医療の状況の先読みには限界があるため、将来の可変性を踏まえた計画を考えておく必要があります。次代の患者が、次代の医療従事者が、次代の地域医療が病院に求めるものを、われわれ専門コンサルタントは病院とともに追求していきます。
病院建替え時に多くの病院が直面する課題とその解決策についてご紹介します。また専門コンサルタントが事業推進に果たす役割についても解説します。
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