孤独・孤立対策を「ヘルスケア」として前に進める社会的処方というアプローチとは

孤独・孤立対策を「ヘルスケア」として前に進める社会的処方というアプローチとは


孤独・孤立が健康に深刻な影響を与える時代。社会的処方という新しいアプローチは、医療や福祉を越えて“つながり”を処方する仕組みとして広がり始めています。本稿ではその背景と実践の最前線を解説します。


要点

  • 孤独・孤立は健康リスクとして捉えられ、医療・保健・福祉を横断した対策が求められている。
  • 社会的処方は“つながり”をつくり、地域資源へつなぐ実装アプローチとして注目されている。
  • 自治体の先行事例は、役割整理・導線設計・資源可視化など実装のポイントを示している。

Ⅰ. 孤独・孤立はなぜ「問題」なのか――ヘルスケア課題として扱う根拠

1. 孤独・孤立は“心情”にとどまらず、健康アウトカムに波及する

孤独・孤立は「つらさ」という心情にとどまらず、健康や生活機能に影響し得るとされています。米国の公衆衛生総監(Surgeon General)は、孤独・社会的孤立を公衆衛生上の課題として位置付け、健康とウェルビーイングへの影響を包括的にまとめています。

(参考:Surgeon General Advisory “Our Epidemic of Loneliness and Isolation”)
“Our Epidemic of Lonelinessand Isolation 2023”,hhs.gov,
www.hhs.gov/sites/default/files/surgeon-general-social-connection-advisory.pdf(2026年3月13日アクセス)

2. ヘルスケア=医療・保健・福祉を横断する健康政策の束

孤独・孤立対策は、医療・保健・福祉・地域づくりを横断して取り組むべき「ヘルスケア政策」として整理されるものであり、国の方針*でも、孤独・孤立対策は国・自治体・NPO等の連携を通じ、「社会のあらゆる分野に対策の視点を入れる」ことが強調されています(重点計画のポイント)。

※内閣府孤独・孤立対策推進室「孤独・孤立対策について」令和6年9月30日
www.mhlw.go.jp/content/12000000/001309353.pdf(2026年3月13日アクセス)

Ⅱ. 社会的処方というアプローチ ―日本の定義・議論と“つながり”との関係整理

1. 社会的処方は「つながりをつくる」ための実装アプローチとして注目されている

孤独・孤立対策では「つながり」が鍵になりますが、つながりづくりは非常に広い概念です。その中で、医療・保健等の接点も活用しながら、地域資源と連携して支援につなぐ枠組みとして「社会的処方(Social Prescribing)」が注目されています。

2. 日本における社会的処方の位置付け

内閣府の有識者会議資料*では、社会的処方を(骨太方針での定義として)「かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域資源と連携する取組」と整理しています。

※内閣府 第4回孤独・孤立対策の在り方に関する有識者会議資料
www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/yushikisha_arikata/dai4/pdf/sankou4.pdf(2026年3月16日アクセス)

また厚生労働省の関連資料*でも、保険者とかかりつけ医等が協働し、健康面と社会生活面の課題を踏まえて支援につなげる文脈で社会的処方が扱われています。

※「保険者とかかりつけ医等の協働による加入者の 予防健康づくりに係る集計・分析等業務 報告書」
(令和6年3月 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所)
www.mhlw.go.jp/content/12400000/001257241.pdf(2026年3月16日アクセス)

  • つながりづくり:孤独・孤立を減らし、支援・居場所・関係性につながって継続できる状態をつくる「上位概念」

  • 社会的処方:上位概念の中でも、医療・保健等の接点も活用しつつ、地域資源と連携して支援につなぐ「実装アプローチの一つ」

Ⅲ. 国の重点計画に沿った実装の要点――声を上げやすく、相談につながり、居場所で支える

1. 重点計画の方向性を、現場で使える実装ポイントに置き換える

孤独・孤立対策として、重点計画の具体的施策では以下が示されています。
www.mhlw.go.jp/content/12000000/001309353.pdf

  • 声を上げやすい社会
  • 状況に合わせた切れ目のない相談支援
  • 見守り・交流の場/居場所の確保

これを実装の言葉にすると、次の3点に集約できます。

  1. 入口を増やす(情報発信・相談しやすさ・多様な接点)
  2. 相談から支援への導線を明確にする(関係機関の役割整理と連携)
  3. つながりが継続する環境を整える(居場所・地域資源・伴走)

社会的処方は、とくに2.と3.(導線づくりと継続)に対して、医療・保健等の接点も生かし  ながら地域資源へつなぐ枠組みとして機能し得ます。

Ⅳ. 自治体実例①:兵庫県養父市 ――専管部署×リンクワーカー×地域資源の可視化

1. 専管部署を置き、「つながりを処方する」を“まちの仕組み”にする

養父市は「社会的処方推進課」を設置し、社会的処方を「社会とのつながりを処方する」取組みとして位置付けています。
www.city.yabu.hyogo.jp/soshiki/kenkofukushi/shakai_shoho/index.html

2. リンクワーカーを要に、地域資源を“見える化”して接続を後押し

養父市では、リンクワーカーの役割(つなぐ役割)を重視し、地域資源への接続を支える考え方が示されています。あわせてポータル等による情報集約で「つながる先」を見える化し、紹介・参加の導線を整えています。(例:つながるDAY YABU)
tsunagaruday-yabu.jp/

Ⅴ. 自治体実例②:高知県――高知型地域共生社会×高知県立大学

1. 県の“共生社会”の枠組みの中で、つながりを育てる拠点を整備

高知県は「高知型地域共生社会」の実現に向けて、地域のつながりづくり・支え合いを重視し、その拠点の一つとして「あったかふれあいセンター」を設置しています。
www.pref.kochi.lg.jp/doc/attaka/

2. 県立大学が社会的処方の実践・研究のハブになる(研究会・連携協定)

高知県立大学は、社会的処方をテーマにした実践・研究の取組み(リ・デザインプロジェクト等)や、学びを深める場としての「社会的処方研究会」を実施しています。
www.u-kochi.ac.jp/site/re-design/

また大学は、津野町との連携協定を通じ、住民のウェルビーイング向上に向けた施策立案や調査データの分析・評価を含む連携を示しています。
www.u-kochi.ac.jp/site/daigaku-annai/20240327.html

Ⅵ. EYの支援――行政実務で「回る仕組み」にするために

1. 政策の方向性を、現場で運用可能な“設計図”に落とし込む

国の重点計画は、連携・相談支援・居場所・施策のエビデンス評価/  検証の重要性を明確にしています。
www.mhlw.go.jp/content/12000000/001309353.pdf

    一方で、実装段階では「関係者が多い」「役割と導線が曖昧」「運用・評価が属人化する」といった課題が起こりやすく、ここを丁寧に設計し直すことが前進の鍵になります。

    2. EYが具体的に役に立てる4つのポイント

    1. 連携の設計
      重点計画の枠組み(声・相談・居場所)に基づき、関係機関の役割分担を整理し、意思決定・運用ルール等の整備を支援します。

    2. 導線の具体化
      相談や健診などの入口からつなぎ先、初回参加、継続フォローまでを一連の流れとして整理し、手順や判断基準の標準化を支援します。

    3. 地域資源を可視化
      地域資源を分かりやすく整理し、一覧化・可視化を支援します。

    4. 評価・検証
      接続件数や継続率など現場で取りやすい指標から出発し、健康・生活面の変化につながる指標など施策の評価・検証を支援します。

    結び

    孤独・孤立対策は、福祉を含む広いヘルスケア政策として、医療・保健・福祉・地域を横断しながら進めることが求められています。社会的処方は、その中で「医療・保健等の接点も活用して地域資源につなぐ」実装アプローチとして、日本でも定義・議論・モデルの蓄積が進んでいます。養父市のような自治体主導の実装、高知のような県と大学連携など、国内にも複数の実装パターンが見え始めています。

    EYは、こうした難度の高い実装を「現場で回る仕組み」に落とし込む設計と伴走を通じて、孤独・孤立という大きな社会課題の解決に貢献します。

    【共同執筆者】

    鈴木 伸太郎
    EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 シニアコンサルタント

    厚生労働省にて労働政策の立案や予算調整に従事。その後、公立大学や研究機関にて、地域連携事業の立ち上げや研究システム関連の業務に従事。現在は、EYにて医療に関するこれまでの知見を生かし、コンサルティング支援を担当。

    サマリー

    孤独・孤立は健康リスクとして重要性が増す中、社会的処方は地域資源と連携し“つながり”を生み出す実装アプローチとして注目され、自治体でも取組みが進んでいます。

    この記事について