日本企業におけるシェアードサービスセンターの独自進化にみる次世代業務最適化の展望

日本企業におけるシェアードサービスセンターの独自進化にみる次世代業務最適化の展望


日本企業のSSCは、独自の進化を経て「業務の運営OS」へと変わりつつあります。データとAIを軸に、企業全体の最適化を実現する次世代SSCの姿を探ります。

共同執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 グローバル・ビジネス・サービス 
陳 麗子 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです。



要点

  • 日本企業のシェアードサービスセンター(Shared Services Center、以下SSC)は、国内事情に合わせた「独自の進化ルート」を歩んでおり、単なる集約拠点から企業運営の基盤へ変わりつつある。
  • 次世代SSCの核心は、データ統合とAgentic AIによる自律的最適化であり、AIと人間の協働設計が競争力の分岐点となる。
  • 日本のSSCは「遅れている」のではなく、日本型として独自に成熟しつつあり、今後は企業変革を支える「運営OS」としての価値創出が求められる。


日本企業におけるSSC進化の新潮流

国内の労働人口の減少やデジタル化の進展、働き方の多様化などを背景に、企業ではコーポレート機能の効率化や集約を目的とし、改めてシェアードサービスセンター(SSC)を導入する動きが進んでいます。日本国内でのSSC導入には、組織横断的な意思決定や稟議・押印承認といった日本特有のガバナンス、言語要件、在宅勤務、事業継続計画(BCP)、アウトソーシング(BPO)を含むハイブリッドソーシングの検討など、海外とは異なる特徴があります。

EYでは、グローバルのGBS(Global Business Services)知見をベースに、日本市場に特化したSSC進化ステージを5段階(J1~J5)で定義し、現状把握から将来構想までを体系的に支援しています。


J-SSC進化ステージモデルの概要:5つの成熟段階で描くSSCの成長軌道

企業のSSCの成熟度を5つのステージ(J1~J5)に分類し、各段階における業務スコープ、ガバナンス、テクノロジー、人材・組織、ソーシング戦略などの観点から、到達すべき姿と課題を明確化します。

 

【J-SSC進化ステージモデル】

  • J1:限定的な集約(SSC未導入、紙・Excel中心の分散運用)
  • J2:個別SSC(単一機能の集約、簡易SLA導入)
  • J3:SSC集約拡大(複数機能・複数社展開、KPI可視化開始)
  • J4:統合型SSC(E2E視点の確立、標準化・改善の定常化)
  • J5:エージェント型SSC(Agentic AI活用による自律型最適化)

日本先進企業におけるSSCは、コスト削減を目的とした機能別のビジネスサポートを提供する役割から、グループ横断でAI活用による高度化したビジネスパートナーへと進化しています

日本先進企業におけるSSCは、コスト削減を目的とした機能別のビジネスサポートを提供する役割から、グループ横断でAI活用による高度化したビジネスパートナーへと進化しています
注:Agentic AI(自律型AI)は、最小限の人手による監督で自律的に意思決定・行動し、リアルタイムデータと目標に基づいて継続的に学習・適応する次世代型のAIを指す。

J1:限定的な集約(Fragmented Centralization)

SSCの導入前段階にあり、事業部門・子会社ごとに限定的な業務集約が実施されている状況です。

主な特徴

  • 業務集約は部分的に実施されているものの、分散運用および属人化が残存
  • 紙媒体、Excel、電子メール等による手作業が中心
  • 業務手順は明文化されておらず、承認プロセスは稟議や押印に依存
  • ITインフラは未整備でシステム間連携も未実装
  • 外部委託は断片的に存在し、品質管理体制は脆弱
     

J2:個別SSC(Functional SSC)

一部機能(例:経理、人事など)を集約し、効率化やコスト削減を狙う初期段階です。グループ内でSSCという組織体の認知が広がります。

主な特徴

  • 単一機能の集約(例:請求処理、給与計算)
  • 基礎的なサービス管理導入、簡易SLA導入
  • RPA・ワークフローの局所導入
  • SSC責任者の任命
     

J3:SSC集約拡大(Multi-functional SSC)

複数機能・複数子会社への展開が進み、SSCの組織化が本格化する段階です。

主な特徴

  • 複数機能・複数社へのSSC展開
  • SLA/OLA導入、委託料設計の開始
  • KPI可視化、改善会議の試行
  • ハイブリッドソーシング(内製+BPO)の検討
     

J4:統合型SSC(Integrated SSC)

E2E(End-to-End)視点で業務を横断的に集約し、SSCが企業全体の業務最適化を担う段階です。

主な特徴

  • E2Eプロセスの集約
  • EDMライティング、改善サイクルの定常化
  • CoE(専門組織)設置、SSC専門職の育成
  • ソーシング最適化(内製・BPO・BOTの設計)
     

J5:エージェント型SSC(Agentic SSC)

AIを核とした自律型SSCへと進化する最終段階です。

主な特徴

  • グループ全体の間接業務をスコープとした整流化とAgentic AIによる自律的業務最適化
  • 高度な意思決定支援と自動化の融合
  • SSC人材の専門職化(AI×業務知識×設計力)
  • 経営貢献のKPI化、戦略的価値創出のビジネスパートナーへ

日本企業の現状とSSC特性

EYが実施した調査によると、多くの日本企業はJ1~J3のステージに位置しており、E2E(End-to-End)視点やEDM(Enterprise Data Management)の構築は未着手のケースが多く見られます。また、日本特有の商習慣(稟議・押印文化)、BCP要件を踏まえたSSC設計が求められるほか、海外BPOから国内SSCへの巻き戻しや、ハイブリッド型ソーシングの検討も進行中です。


日本企業の現状とSSCの進化:独自の進化ルートと課題の複雑性

EYが国内主要企業を対象に実施したSSC成熟度調査によると、日本企業の多くは、J-SSC進化ステージモデルにおける初期段階(J1~J3)に集中しています。これは、SSCの概念導入や機能集約が進みつつある一方で、E2E(End-to-End)視点やデータ統合、AI活用といった高度化要素は、まだ限定的であることを示しています。
 

1. SSC導入の進捗と偏り

J1(限定的な集約)~J2(個別SSC)の要素は多くの企業で達成済み。請求処理や給与計算など、定型業務の集約は進んでいます。

一方で、J3以降のステージに必要な「複数機能の統合」「横断的なKPI管理」「改善サイクルの定常化」は、道半ばの企業が多く、SSCの組織化・標準化は発展途上です。
 

2. 日本特有のSSC設計要件

日本企業のSSC構築には、グローバルモデルとは異なる設計配慮が求められます。

  • 商習慣への対応:稟議・押印文化、紙中心の業務運用が根強く残る現場では、デジタル化への移行に時間を要します。
  • BCP(事業継続計画)要件:災害・感染症リスクへの備えとして、国内分散型SSCや在宅勤務対応が重視される傾向があります。
  • ユーザー体験要件:日本商慣習に対応した業務設計、現場に寄り添ったユーザー体験(UX)がSSCの受容性を左右します。
     

3. ソーシング戦略の再構築

近年では、海外BPOへの依存から脱却し、国内SSCへの巻き戻し(リショアリング)を検討する企業も増えています。これは、品質管理、ガバナンス強化、BCP耐性の観点から、内製化の価値が再評価されていることを示しています。

また、内製SSC・BPO・BOT(Build, Operate, Transfer/Transition)を組み合わせたハイブリッド型ソーシング戦略の構築が進みつつあり、SSCは単なる業務処理拠点ではなく、戦略的な業務運営の中核へと位置付けられ始めています。
 

4. 人材・組織の課題

SSC運用責任者の配置は進んでいるものの、標準化推進役やデータ分析人材、AI活用スキルを持つ専門職の育成は、まだ十分とは言えません。SSCを高度化するには、業務知識とテクノロジーを融合できる人材の確保と育成が不可欠です。
 

5. SSCは「遅れている」のではなく「独自に進化している」

EYは、日本企業のSSC進化を「グローバルモデルとの乖離(かいり)」ではなく、「日本型SSCとしての独自進化」と捉えています。現場主義、品質重視、BCP対応など、日本企業ならではの価値観を反映したSSC設計は、競争優位性の源泉となり得ます。

今後は、ITランドスケープの再定義、データプール構築、AI活用による業務自律化などを通じて、SSCを「価値創出のプラットフォーム」へと進化させることが求められます。

日本企業は「遅れている」のではなく、独自の進化ルートを歩んでいます 次のジャンプはITランドスケープ定義、データプール構築、人材制度高度化が鍵です

日本企業は「遅れている」のではなく、独自の進化ルートを歩んでいます 次のジャンプはITランドスケープ定義、データプール構築、人材制度高度化が鍵です

日本企業SSCの現状と特性:EY GBSサーベイから見える実態と進化の方向性

EYが実施した国内主要企業42社へのサーベイ結果から、日本企業におけるSSCの構築・運用実態と課題が明らかになりました。SSCは単なる業務集約の枠を超え、グループ全体のガバナンス強化やデジタル化推進の基盤として位置付けられつつあります。

単なるコスト削減だけに終わらない 高度なGBSやシェアードサービスが企業にもたらす本質的な価値を見つめる | EY Japan

  1. SSC導入の目的は、効率化に加えて付加価値の創出も増加傾向にあります。
  2. 現状では、SSCのスコープ拡大や標準化・高度化に関する課題が認識されています。
  3. 集約機能は「経理・財務」や「人事」に集中しており、SSCのスコープ再定義と拡張の余地が指摘されています。
  4. ソーシングモデルについては、約半数の企業がBPOを併用し、「業務のブラックボックス化」や「ベンダー切り替えの困難さ」が課題となっています。
  5. テクノロジー導入では、従来の効率化から「レポーティング・ダッシュボード」「プロセスマイニング」「アナリティクス」「AI技術」など高度化への注力が今後の主要領域です。
  6. 多くの企業でSSC高度化ニーズが存在する一方、施策立案のノウハウ不足、責任者未配置、リソースや投資面での支援不足が課題です。

次世代J-SSCに向けての重要な論点

1. デジタル技術を活用したSSC高度化:サービス管理・可視化・AIによる業務革新

SSC高度化には、サービス管理体制の構築が不可欠です。特に、業務プロセスの構造化・文書化・標準化は、今後のDX推進と、今後その中核を担うAI技術の活用のための必要不可欠な前提条件となります。これによりKPIによる業務の可視化が可能となり、ML(マシンラーニング)や生成AIの導入による自動化も実現できます。さらに、全社横断的な組織設計や業務再構築、RPAやクラウド基盤の活用で効率化・ガバナンスも強化されます。現状分析と課題抽出、関係者との連携、データドリブンな意思決定なども、SSC高度化を促進する重要なポイントです。
 

2. Agentic AIによるSSC高度化

EYが描くSSCの将来像においては、Agentic AIの導入と活用が中心的な役割を担います。Agentic AIは自律的な意思決定・実行・学習を行い、業務効率化やプロセス改善を支援します。エージェント型SSCでは、適切な人間介入ポイントや基準の設計が不可欠であり、AIの自律性と人間の判断が適切に組み合わさることで、業務自動化やリアルタイム改善が実現され、柔軟な運営体制が維持されます。

また、Agentic AIは既存システムやデータベースと連携し、部門横断的な情報分析や意思決定支援の強化にも寄与します。AIと人間が協働することで、SSCの競争力が最大限に引き出される環境が整います。
 

3. J-SSC高度化に向けた人材育成と組織戦略

SSCの高度化には、組織横断的なコラボレーションを促進し、多様なバックグラウンドを持つ人材が連携することで、より付加価値の高いサービス提供が可能となります。そのためには、SSCの戦略的位置付けを明確化し、継続的な人材育成とキャリアパスの整備が求められます。

  • AI×業務知識×設計力を融合した専門人材の育成:SSCの高度化は「人間が不要になる」のを意味するのではなく、AIを使いこなす高度なスキルを持つ人材の存在が不可欠です。若手人材にはAI活用スキル、業務知識、データ分析力、プロセス設計力などを段階的に習得させ、プロジェクト運営やSSC組織設計、IT・ファシリティ管理、サービス管理(SLA/KPI)、データ活用、継続改善など、SSC運営に必要な知識体系を体系的に学ばせることが重要です。
  • OJTの再定義と実践型トレーニング:AIや自動化されたSSC環境下でも例外処理や戦略的意思決定、プロセス改善など「人間が介在する業務」をOJTの主軸とし、実践を通じて現場で必要なスキルや判断力を養うことが重視されます。
  • キャリアパスとリスキリング:SSC分野では、キャリアパスの体系化が重要です。これにより、人材の成長や専門性向上を促進できます。社内資格や外部認証制度の導入によって、社員のスキルや専門性を明確にし、継続的な能力開発が可能になります。また、業務圧縮で余剰人員が出た場合は、再配置や再教育を行い、高付加価値業務へシフトさせることが大切です。リスキリングやDX・AI活用を通じて、組織の競争力を強化します。

SSCが単なるコスト削減の手段から、AIを活用した戦略的価値創造の中枢へと進化する中、Agentic AI*1と統合型AIプラットフォームの導入が企業全体の変革を加速させる鍵です

SSCが単なるコスト削減の手段から、AIを活用した戦略的価値創造の中枢へと進化する中、Agentic AI*1と統合型AIプラットフォームの導入が企業全体の変革を加速させる鍵です
*1:
注: PoC - Proof of Concept

まとめ:日本のSSCを価値創出のプラットフォームへ

日本企業におけるシェアードサービスセンター(SSC)は、従来の単なる業務集約やコスト削減を目的とした組織から、データ、人材、テクノロジーを統合した企業運営基盤「オペレーティングシステム(運営OS)」へと進化しています。EYは、J-SSC進化ステージモデルを活用し、SSC構想策定から運用段階まで体系的なプロセスによる段階的なSSC構築および高度化を支援します。これにより、業務効率化、意思決定支援、さらには企業変革に資するSSC機能の最適化・強化を実現します。




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サマリー 

日本企業のSSCは、独自の進化を経て「業務の運営OS」へと役割を広げつつあります。データとAIを軸に、企業横断で価値を生む次世代SSCの姿と、その実現に向けた要点を示します。



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