EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点:
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 医薬・医療セクター ディレクターのDr. Robert Brand(右)は、MedTech ActuatorのCEOおよびSynthesis CapitalのインベストメントパートナーであるDr. Buzz Palmer氏(左、以下敬称略)と医療のイノベーションを加速させる方法や、世界および日本が直面している課題について話し合いました。医師としてのバックグラウンドを持ち、連続起業家でもあるDr. Palmerは、世界各国で政府、業界およびスタートアップに対し、医療のイノベーションを加速させるための戦略支援を行っています。その代表的な取り組みの1つが、MedTech Actuatorの設立です。MedTech Actuatorは、イノベーションの初期段階にあるスタートアップや政府を支援するグローバルな非営利組織です。オーストラリアでの立ち上げが成功した後、MedTech Actuatorは急速に成長し、世界各地へとプログラムを拡大して、シンガポールおよび日本に拠点を開設しました。
Dr. Buzz Palmer(BP):医療分野でのこれまでの経験を通じて、イノベーションにはヘルスケアを根本的に改善する重要な役割があることを実感しました。一方で、イノベーションを患者に届けるまでの道のりには課題が多いことも理解しています。例えば、マーケットにソリューションを届けるには約30種類の異なるスキルが必要です。しかし、イノベーションの出発点となることが多い臨床現場や学術的な環境では、そうしたスキルの一部にしか焦点が当てられていません。その結果、数えきれないほどの知的財産がマーケットに出ることなく埋もれてしまっています。私たちは、その多くの知的財産の中に、人々の生活を劇的に変化させ得るテクノロジーがあると信じており、そのテクノロジーを生かさないのは間違っていると感じました。そして、私たちはこの問いを自らに投げかけました。「イノベーターが、自らスキルを身に付けるか、あるいは必要なスキルを持つ人材と出会うことで、優れたアイデアをマーケットに届けるために求められるケイパビリティを理解できるようなモデルは存在するのだろうか?」私たちは、この問いに答えられる組織を立ち上げることを決意しました。
BP:いいえ。私たちが見いだした隔たりに真正面から取り組もうとしている組織は他にないと考えていました。学術機関は業界へ進出しようとし、一方で業界はスタートアップを引き付けようとしていました。既存の組織は、それぞれの立場からこの課題に取り組んでいたのです。しかし、すべての関係者が持続可能な形で恩恵を受けるためには、単一の主体だけでは隔たりを解消できないと理解していました。そこで、中立的な立場で間に立つNPOを設立することで、この課題を解決するための新しいアプローチを提示できると考えました。私たちのアプローチのもう1つの利点は、起業家たちを同じ経験をしてきた人たちとつなぐことができる点でした。これにより、起業家たちは事業の進め方などをより早く理解できるようになります。当初からMedTech Actuatorは、スタートアップによる大規模なベンチャーキャピタルやコンサルティングファーム、政府機関へのアクセスを簡略化する、自立したエコシステムとなることを目指していました。
BP:取り組みの初期の段階で、私たちが向き合っている課題は、オーストラリア特有のものではないことに気付きました。より多くの国を結び付けることで相乗効果が高まると考え、常にプログラムの拡大を視野に入れていました。これまで何度か日本を訪れる中で、他では見たことのないテクノロジーが病院で活用されているのを目にしました。また、業界関係者との対話を通じて、日本には国内市場のみにサービスを提供している小規模の企業が多いことを知りました。海外市場になじみがないためといった、ごく単純な参入障壁が原因となっている場合もありました。私たちは、オーストラリアで実現した形と同様の方法で、日本のエコシステムを支援するだけでなく、世界を日本の優れたテクノロジーにつなぐ大きな可能性があると考えました。
私たちは、日本でグローバル展開に向けた商業化を進める上でいくつかの障壁をこれまでに経験していたため、当初から起業家としてのリーダーシップの面でも一定の課題があるだろうと考えていました。一方で、先進的な製造業や消費財分野で世界をリードし、比較的強固な資本市場を有していた1990年代の日本のイメージから、イノベーションや商業化の強固な基盤が整っていると予測していました。しかし、プログラムを立ち上げてみると、そのような基盤が十分に備わっていないことが分かりました。日本は、かつて企業がイノベーションの循環を担っていましたが、経済成長がピークを迎え、国外のより成熟した選択肢に目を向けるようになったのだと思います。
BP:当初は、日本のスタートアップに対して戦略策定やネットワーク構築を支援することを想定していましたが、より早い段階からのサポートを提供することが必要だと気付きました。イノベーターがプロセスの初期段階で誤った判断をしてしまい、後で挽回することが難しくなったり、乗り越えられない障壁を生んだりするケースを目にしました。こうした初期段階での誤った判断が起きる一因として、多くのイノベーターがスタートアップとしてのストーリーをテクノロジーの観点だけで捉え、商業化を成功に導く他の要因を十分に認識できていない点があると考えています。そこで私たちのチームは、スタートアップが初期の段階から強固なストーリーを構築できるよう支援することに重点を移し、検討すべきケイパビリティのチェックリストを提供しました。これにより、スタートアップはリスクを低減させ、潜在的な投資家にとって魅力的なビジネスリーダーとして映るようになります。これは、リスク許容度が低い日本においては特に重要だと考えています。また、リスクという観点では、私たちはスタートアップが失敗への恐れを乗り越える支援も行ってきました。私たちの哲学は、「失敗するなら、早く失敗した方がいい」です。そうすることで、手遅れになる前に学び、方向転換することができます。多くの創業者は、投資家が興味を持つのはテクノロジーだけでなく、素早く動き、成長する能力であるということを忘れがちです。そのような能力があってこそ、投資家はリスクを取る価値があると判断します。
BP:私たちは皆、スタートアップのサクセスストーリーに関わりたいと考えがちですが、スタートアップの初期段階での育成においても果たすべき役割があることを認識しなければなりません。これは、政府や製薬会社が早い段階からサポートし、創業者や発明者を守り、挑戦を開始するのに魅力的な環境を整えることを意味します。創業者や発明者には、安心を与えてくれて「私たちはここにいる。一緒に取り組みましょう」と言ってくれる存在が必要です。日本には、非常に優れたソリューションが数多く存在します。こうしたアイデアの価値を最大限に引き出すことは、発明者や納税者に対する責任でもあります。そのためには、これらのアイデアがマーケットに届く道筋を整える必要があります。ただし、これは全員が力を合わせ、未来に投資する意欲を持たなければ実現しません。私たちは、イノベーションは短期的な問題を解決するための手段ではなく、次世代のための長期的なソリューションであると考えています。
マーケットに参入する際には、新しい価値をもたらすことと、既存の仕組みを一から作り直さないことのバランスを取る必要があります。私たちの経験上、重要なのは組織ではなく、組織の中にいる適切な人を見つけることだと言えます。新しい取り組みを始める時、既存の企業間パートナーシップの枠組みは、必ずしも自分たちのニーズに合うとは限りません。そのため、新たな領域に一緒に踏み出そうという意欲を持った人に頼る必要があります。だからこそ、私たちはグローバル企業として、組織の枠を超えて情熱ある個人同士を結び付けることで、日本における実質的なニーズを満たしていると考えています。そうした人たちが大胆に考え、人為的な障壁を乗り越え、私たちの子供や孫の世代に望む未来に向かって協働できるよう支援しているのです。
MedTech ActuatorのCEOおよびSynthesis CapitalのインベストメントパートナーであるDr. Buzz Palmerに、日本で医療のイノベーションを加速させるための課題や機会についてお話をうかがいました。日本は商業化に強みを持つ一方で、ケイパビリティギャップにより、医療のイノベーションをマーケットに届ける力が十分に発揮しきれていません。このギャップを解消するには、イノベーターが早期にサポートを受け、自らのバリューストーリーを構築し、ケイパビリティギャップを把握する必要があります。「早く失敗する」アプローチを受け入れられるスタートアップは、よりアジャイルで、投資家にとってより魅力的な存在となります。こうした資質を育む環境には、政府やライフサイエンス企業の積極的なコミットメントが求められます。