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関税が引き上げられ、市場のボラティリティが高まる中での財務報告


新たな関税賦課の影響を受ける企業の多くが、コスト構造と収益源の見直しを余儀なくされそうです。

要点

  • 最近の関税問題とそれに伴う市場のボラティリティの高まりで、収益性も影響を受ける可能性があることから、財務報告に関して検討すべき課題がいくつか浮上している。
  • 影響を受ける可能性のある企業の経営幹部は今後、関税が事業運営や財務状況、キャッシュ・フローにもたらす可能性があるリスクを評価する必要がある。

この数週間、米国政府は相互関税など新たな関税を他国に課し、また中国や欧州の大半の国など、その対象となる国の多くが報復関税でそれに応じてきました。こうした関税(中には変更や一時停止される可能性があるものもありますが)は程度の差こそあれ、米国の全ての貿易相手国に影響を及ぼしています。他国が米国に課す報復関税に関しては、その範囲や期間、免税対象や適用除外になる可能性のある品目に加え、どの程度の関税率が課せられるのかが、依然として極めて不透明です。

 

関税の引き上げと、それに伴う不確実性による企業の収益や利益率への影響が現れるのは、次の報告期間からになるとの見方が一般的ですが、ガバナンス責任者や経営幹部は、資産の減損や損失の兆候、将来のキャッシュ・フローの予測、不利な契約など、会計処理への影響が当期の(期中)財務諸表にすでに見られないか調べる必要もあるでしょう。また、その財務諸表に適切な開示情報が盛り込まれているかどうかを検証することも重要です。

 

資産の減損

IFRSには資産の減損に関する一般基準があり、減損の兆候があると、それを受けて資産の減損評価が行われます。その兆候とは、資産が所在する市場で近い将来起き、その企業に悪影響を及ぼすと考えられる大きな変化や、その企業の純資産簿価が時価総額を超えている状況などです。一部諸国にかなり高い関税率が適用され、株式市場のボラティリティが最近急激に高まっていることを踏まえると、企業は今後、減損の兆候がないか注視していく必要があるでしょう。回収可能額が対象資産の簿価を下回った際には、減損損失を計上する必要があります。

 

IFRSに基づく他の基準では、棚卸資産や、売掛金をはじめとする未収金などの金融資産のような特定の項目が、減損の検討対象となります。このように、減損損失の認識の判定基準と評価は資産によって異なる可能性があるのです。IFRSに従った質の高い財務報告を行うには、減損評価の対象となる各資産にはどの会計指針が適用されるかを見極める必要があります。特に企業に求められるのは、さまざまなシナリオに照らして、関税引き上げが今後のキャッシュ・フローにどの程度、またどのくらいの期間、影響を及ぼすかを慎重に評価することです。それには、高度な判断が必要になると考えられます。

 

関税引き上げによるマクロ経済環境のボラティリティの高まりと、それに伴うグローバルサプライチェーンシステムの混乱の影響が、輸入企業や輸出企業の財務業績に及んでいることが広く報告されています。一方、国内だけで製品を製造・販売する企業であっても、こうした関税措置の影響を受ける恐れがあることを認識しておかなければなりません。例えば、関税の大幅な引き上げで実質的に一部市場から締め出された海外のサプライヤーが、アクセスしやすい別の市場に進出することを余儀なくされ、競争が一段と激化する中で、その市場で価格が下落する可能性があります。その結果、国内だけで製品を製造・販売する企業も、正味実現可能価額がコストを下回り、棚卸資産の評価減に直面するかもしれません。

 



関税を巡る不確実性が世界的に高まっていることから、減損損失が生じた場合、その評価には高度な判断と見積りが必要になると考えられます。そのため、財務諸表の利用者に財務業績をきちんと把握してもらうには、十分な情報開示を行うことが重要です。



不利な契約

多くの企業は、商品などの供給と売買に関して、固定価格や最低数量を定めた長期契約を結びます。一方、追加関税などの政府の措置が、生産コストの上昇と消費者需要の落ち込みを招くことが予想されます。例えば、関税引き上げの影響を強く受けるサプライヤーは、取引先に対する義務を守ることができなくなり、その結果、顧客に対する義務を遂行するその取引先の能力に影響が及ぶかもしれません。



このような影響を実質的に契約相手に転嫁するメカニズムを提供する契約でない限り、契約上の義務を果たすに当たり避けられないコストが、その契約で得られると予想される経済的利益を上回る可能性もあります。



そうしたコストが経済的利益を上回る場合、それは不利な契約と見なされ、その時の義務に基づき、損失引当金が計上されることになります。不利な契約の引当金を別途設定する前に、企業はその契約の履行に用いる資産で発生した減損損失を認識しなければなりません。

財務報告の開示情報

財務諸表の利用者が企業に期待しているのは、関税の引き上げと、それに伴う経済のボラティリティの高まりが財務状態と財務業績にどのような影響を及ぼしているかを把握できる、確かな情報の開示です。財務諸表の作成に当たっては、規制当局が何を期待し、どのような観点でチェックするのかも考慮に入れる必要があります。

期中財務報告に関するIFRSの情報開示要件は、年次財務報告に求められる要件ほど包括的でも、具体的でもありません。とはいえ、前回の年次財務諸表から財務状態と財務業績がどのように変わったかを把握する上で重要な事象と取引について説明する必要があります。例えば、期中報告期間に重大な減損損失を計上した場合には、期中財務諸表に適切な開示情報を盛り込まなければなりません。そのため、年次財務報告に適用される情報開示要件を参照することをお勧めします。企業は、前回の年次財務諸表に記載した関連情報も更新しなければなりません。例えば、その後の期中報告期間に、のれんの減損分析に関連するヘッドルームの大幅な減少があった際には、それを開示する必要があります。

後発事象に関する検討事項

関税や報復関税などの措置を引き続き発表している政府もあります。報告期間終了後もこうした発表が行われる限り、企業はそれが修正後発事象か非修正後発事象かを慎重に評価する必要があるでしょう。



例えば、報告期間終了後の新たな関税の導入の制定は通常、非修正後発事象です。一方、企業が報告期間末時点での、追加関税賦課の恐れに関わる不確実性を減損テストなどにどのように反映させているかで、利用者は状況を確認したり、さらなる情報を得たりすることができるかもしれません。



企業は、財務諸表に計上した金額を調整して、報告期間後の修正後発事象を反映させる必要があります。また、重大な非修正後発事象の内容と、その財務的影響額の見積り(または、このような見積りができないこと)も開示しなければなりません。

今後の見通し

各国が関税引き下げに関する交渉を開始しており、企業は今後の動向を注意深く見守る必要があります。関税引き上げの影響を強く受けている企業は、この交渉が妥結するまで不安定な時期に直面するかもしれません。市場のボラティリティが高まる中で、投資家や金融機関など債権者に逐次情報を提供するには、質が高くタイムリーな財務報告と、それ以外の情報発信手段の確保が不可欠です。

サマリー

関税政策の変更がもたらす影響は広範囲に及んでおり、また大規模になる可能性があります。企業は今後、先を見越して事業運営に及ぶ影響を見極め評価し、必要に応じて会計上の見積りで用いる前提を更新して、こうした影響を適切に認識し、財務諸表で適切に開示する必要があるでしょう。

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2023年12月28日 Victor Chan

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