コーポレートガバナンス・コードの改訂が今後の上場企業に与える影響とは

情報センサー2026年8月・9月 EY Law

コーポレートガバナンス・コードの改訂が今後の上場企業に与える影響とは

2026年7月、2021年以来5年ぶりとなるコーポレートガバナンス・コードの改訂が公表されました。上場企業に対し、ガバナンス体制の在り方に関するさらなる検討と、これまで以上の実質的な対応を促す内容となっています。コードの法的位置付け、改訂のポイントを中心に整理・解説します。

本稿の執筆者

EY弁護士法人 弁護士・ニューヨーク州弁護士 増田 好剛

M&Aを含む国際・国内の企業間取引に関する法務サポート、およびデジタル関連領域を含む法規制・コンプライアンスに関する法務サポートを中心に、リーガルサービスを提供している。

EY弁護士法人 弁護士・公認会計士 力石 康平

ジェネラルコーポレート、各種規制法、M&Aなどの分野を中心に、上場企業を含む国内企業、公的機関、海外企業などに対して幅広くリーガルサービスを提供している。

※所属・役職は記事公開時のものです


要点

  • コーポレートガバナンス・コードの構成について、原則が改訂前の83個(基本原則5個・原則31個・補充原則47個)から30個(基本原則4個・原則26個)へと大幅に整理され、新たに解釈指針が設けられた。
  • 実質的な内容に関わる重要な改訂として、成長投資の促進、取締役会の機能強化、有価証券報告書の定時株主総会前開示に関する改訂がある。

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2026年改訂 コーポレートガバナンス・コードを資本市場の観点から読み解く-企業価値の向上と持続的な成長のために-

2026年7月改訂のコーポレートガバナンス・コードの全体像を概説した上で、企業価値向上の観点から企業が果たすべき役割と実務対応、企業開示実務に対する影響を解説します。

Ⅰ はじめに


コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)は、2013年の「日本再興戦略」に端を発するコーポレートガバナンス改革の一環として、2015年に適用が開始されました。その後、2018年、2021年と改訂が重ねられ、独立社外取締役の割合拡大やサステナビリティ開示の充実など、形式面での対応は着実に進展してきました。一方で、改訂によりCGコードの細則化が進み、プリンシプルベースによる企業の自主的な取組みを推進するという方向性よりも、コードの形式的な遵守にとどまっているという指摘がありました。
 

このような中で、2025年6月に金融庁から公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 2025」において、持続的な成長の実現に向けた経営資源の最適な配分の実現や、有価証券報告書の定時株主総会前の開示の促進等に向けたCGコードの見直し等を検討する方針が示され、2025年10月以降、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」において改訂の方向性について具体的な議論が重ねられました。

 

この有識者会議における議論を経て、2026年7月21日に金融庁と東京証券取引所によりCGコードの改訂が公表されました。

Ⅱ CGコードの法的位置付け

CGコードは、「プリンシプルベース・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン」の手法を採用した行動原則です。「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)とは、とるべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、抽象的な原則(プリンシプル)を定め、その趣旨・精神に即した判断とそれに基づく活動を当事者に委ねるものです。また「コンプライ・オア・エクスプレイン」とは、形式的に全ての原則の実施を求めるのではなく、原則を実施するか、実施しない理由を説明する、ということを求めるものです。

CGコードの法的な位置付けとしては、会社法や金融商品取引法といった法令そのもの(いわゆるハードロー)ではなく、東京証券取引所の有価証券上場規程に組み込まれているものの、厳格な法規範とは異なる、いわゆるソフトローとして位置付けられるものとされています。したがって、CGコードの違反が刑事罰や行政処分の対象となるわけではありません。他方で、改訂版CGコードの基本原則4の解釈指針には、上場会社の意思決定が結果として損害を生じさせた場合、経営陣・取締役の善管注意義務違反による損害賠償責任の判断において意思決定過程の合理性が重要な考慮要素の1つになると考えられること、そしてCGコードにはその合理性を担保することに寄与すると考えられる内容が含まれていることが記載されており、CGコードが経営陣・取締役の善管注意義務違反を判断する場面において一定の機能を果たす可能性があることが示唆されています。

Ⅲ 改訂のポイント

1. プリンシプル化・スリム化と「解釈指針」の新設

今回の改訂の全体に関わる事項として、CGコードの構成に関する大幅な再編・再配置が挙げられます。改訂前のCGコードの基本原則5個・原則31個・補充原則47個の計83個が、改訂版CGコードでは基本原則4個・原則26個の計30個へと整理されました。なお、実務へ浸透した項目や重複していた項目の削除はあるものの、今回の改訂により廃止された補充原則の多くや一部の原則は、解釈指針への移管や原則への格上げという形で改訂版のCGコードに引き継がれており、単純に遵守すべきコードの数が減ったというわけではないことに注意が必要です。

補充原則に代わって新設されたのが「解釈指針」です。各基本原則・一部の原則に設けられた解釈指針は、コンプライ・オア・エクスプレインの対象ではないものの、当該原則の背景となる考え方、目的のほか、当該原則を履行するためのいわゆるベストプラクティス(最良の手法)やグッドプラクティス(優れた手法)の1つと考えられる方策を含んでおり、各原則の実質的な対応を支援する役割を担うものとして位置付けられています。

図1 CGコードの構成

図1
出所:改訂版CGコードよりEY作成

2. 成長投資の促進と経営資源配分の検証

今回の改訂で最も重要なテーマの1つが成長投資の促進です。

原則4-1において、取締役会の役割・責務として、会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことが主要な役割・責務の1つとされていましたが、今回の改訂において、新たに会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築することが記載されました。経営戦略・経営計画の策定・公表に当たっては、成長の実現を目指し、自社の資本コストを踏まえて収益計画や資本政策の基本的な方針を示すこと、収益力・資本効率等に関する目標を提示しその実現のために、成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源配分等に関し具体的に何を実行するのかについて説明することが求められています。また、解釈指針において、投資先の検討に当たり、①自社内部か外部か、②短期か中長期か、③国内投資か国外投資か、といった多様な観点に基づき投資機会を認識すべきであることが示されています。

加えて、原則4-2において、取締役会は自社の経営資源の配分が経営戦略・経営計画に照らして適切なものとなっているかについて、不断に検証を行うべきとされました。

3. 取締役会の機能強化

上場企業における取締役会の実効性向上に向けた整備も今回の改訂の重要な柱です。

取締役会の機能強化に向けた取組みは引き続き重要であることを踏まえ、今回の改訂においては、改訂前のCGコードから、取締役会の中核的な責務は原則に記載し、具体的な例示等の部分は「解釈指針」に移管され、必要に応じて加筆されています。

独立社外取締役が浸透しつつある状況を受けて、そのさらなる機能の質の向上のため、独立社外取締役の役割・責務、質・量の確保、独立性確保の重要性が強調されるとともに、支援体制の強化についても重視されています。この点、原則4-14の解釈指針において、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化について追記がなされています。取締役会事務局は、会議運営を行う単なる事務方としての役割にとどまらず、取締役会やその傘下の各委員会が実効性ある議論の場となるよう、果たすべき役割・責務に照らし適切な審議事項を定めるなど、当該会議体の運営を能動的に行うことが望ましいとされています。また、取締役会事務局は、必要に応じて、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整に当たる役割を担うことも期待される旨の記載もされています。

4. 有価証券報告書の定時株主総会前の開示

実務への大きな影響を及ぼし得る事項として、原則1-2において、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出することが、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として明記されました。解釈指針では、さらに、有価証券報告書は「株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいと考えられる」とされ、株主総会開催時期や議決権行使に係る基準日の後ろ倒しも検討の選択肢とされています。

この改訂の背景には、当局からの要請等もあり、徐々に株主総会前の有価証券報告書の開示が広まりつつあるものの、株主総会開催日までに十分な日程を確保した上での開示が実現されていないことがあります。

株主の議決権行使に資するという意味では、余裕を持った有価証券報告書の事前開示が理想的であるものの、企業への負担も大きく企業努力だけでの実現は困難であることから、制度的な見直し含めて検討されるのが合理的です。そのため、「金融庁は、企業負担も考慮し、現行法制下で一般化している実務運用からすると株主総会開催日の3週間以上前の開示は必ずしも容易ではないとの認識の下、法務省とも連携しつつ、法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化・会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化や、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度的な検討も並行して進める」こととされています。

Ⅳ おわりに

今回の改訂において、プリンシプル化・スリム化の趣旨・経緯や、状況によっては形式的なコンプライよりもエクスプレインを選択すべき場合があることが改めて示されていることを踏まえると、今後、上場企業においては、CGコードに対しこれまで以上に実質的な対応を充実させていくことが重要になると考えられます。

特に、今回のCGコードの改訂において重要なテーマとなっている成長投資の促進と経営資源配分の検証や取締役会の機能強化といった事項については、投資家とのエンゲージメントにおいて、重要なアジェンダとして企業側に一定の回答・対応が求められることが考えられます。

また、アクティビスト等の外部株主が取締役会の機能強化の観点から、社外取締役の選任プロセスや選任理由の妥当性について問題提起するケースも考えられます。従来の社外取締役に関する「人数・割合」という形式面中心の評価軸から、将来的には選任候補者の独立性・専門性・多様性のバランスが問われていくことが考えられ、それを満たすことのできる方針の策定と人材の確保が期待されていると考えられます。

サマリー

コーポレートガバナンス・コードの改訂を単なる開示対応事務として捉えるのではなく、自社のガバナンス体制を根本から問い直す好機として活用することが重要です。成長投資戦略の明確化から取締役会の質的強化にわたる、実質的な対応が上場企業に求められています。

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