橋の下部構造を照らすイルミネーションと夜景

鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10 ― 2026


生産量の不確実性と関税摩擦によって、鉱山事業者は前代未聞のオペレーショナルリスクに直面しています。今こそ、鉱業のあり方を見直すべきです。


要点

  • 鉱床の深部化・複雑化や鉱石の品位低下によって生産量に変動が生じており、事業運営の複雑性が鉱山事業者の最大の課題となっている。
  • 操業許可(LTO)を得ることが難しくなっている反面、それは単に規制を守るだけでなく、正しく行動することで、地域社会や政府を味方につける機会でもある。
  • 最優先投資分野はAIであるが、その投資収益率(ROI)は、事業戦略に沿ったAIの導入ができるかどうかに懸かっている。

鉱業セクターでは、戦略的リスクからオペレーショナルリスクへ、また株主還元の重視から成長のための再投資へのシフトが進んでいます。コストや生産性面の課題が解消されず、引き続きボラティリティも高まる中、世界経済を支える鉱物・金属の供給に対する圧力も増しています。不確実性が高まる中で、企業は対応に柔軟性を維持しつつ、需要急増の機会を捉えるべく動き出しています。

今回の鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10の調査対象となった鉱山事業者は、人工知能(AI)などテクノロジーの導入を含めた変革を通じて、こうした状況に対応し、地域社会と協働して、革新的な資金調達の選択肢を模索しています。しかし、多くの企業では、引き続き変化のスピードが遅く、成果が見えにくいのが現状です。ますます非線形、加速性・流動性、相互接続性(NAVI)が深まる事業運営環境に、時間をかけて個々に対応するアプローチ策は適していません。NAVIな環境では、リスクが一夜にして顕在化し、下流に連鎖し、予期せぬ結果を引き起こす可能性があります。鉱業・金属企業は今こそ、変革の範囲と可能性について、既存の枠にとらわれず再考すべきです。鉱業のあり方を徹底的に見直すことで、大きな価値を創造し、企業だけでなく、社会全体にも利益をもたらすことができます。

鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10 ― 2026

Top 10 risks and opportunities for mining and metals companies in 2025

1. 事業運営の複雑性

投資家の信頼感、資金調達、戦略的アジリティを支えるのは予測可能性です。しかし、鉱床の深部化・複雑化、生産量の変動、鉱石の品位低下により事業運営が複雑化したことで、安定した生産量の確保が難しくなっています。世界各地で採掘された銅の平均品位は、1991年から約40%低下しています1。さらに課題を深刻化させているのが鉱山の老朽化とさまざまな組織的ケイパビリティー不足です。採掘の深部化で、地質工学、ロジスティクス、水文地質学に関する専門知識が必要となっています。

今回の調査に答えた鉱山事業者が事業スループットに影響を与える複数の要因にほぼ同じ重きを置いたことは各企業に最大の効果をもたらす領域に焦点を当てた、バリューチェーン全体を考慮したソリューションが必要であることを示しています。

優先課題としては、計画策定の規律の厳格化、資本効率の向上、予測ツールや予知保全の導入による稼働時間の拡大と効率化などが挙げられます。

2. コスト上昇と生産性

生産量の変動は、コストや生産性への圧力を高める大きな要因です。こうした圧力は、オペレーティングモデルのサイロ化、操業・保守の不統合、在庫の最適化が不十分なことによって、さらに高まっています。

一方、デジタルトランスフォーメーションは、まだ真の生産性の向上をもたらしていません。エネルギーや人件費の高止まりが続いているほか、新たな関税やロイヤルティ、サプライチェーンの混乱が、ロジスティクスや調達コストを押し上げています。

地質学的な変動への管理の強化に加え、アナリティクスやAIの導入により、鉱山事業者は設備の非稼働時間短縮や人間の能力の補完といった新たなメリットを得ることができます。オペレーティングモデルを再構築し、人間を中心に据えることが持続的な改善を促し、維持することにつながります。また、再生可能エネルギーの導入は、コスト安定化、リスク軽減につながり、投資家に対するコストの透明化は信頼を築き、有利な条件での資金調達を可能にします。

「鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10 ― 2026」をダウンロードする

3. 資本

鉱山事業者は3年間にわたり、株主還元を減らし、設備投資を増やしてきました。これは成長志向への明らかなシフトです。供給不足が大きなビジネス機会を生んでいる銅を中心に、投資家もこの動きを支持しています。


成長戦略に関して鉱山事業者は、「将来性のある」鉱物を中心に、買収と開発の両方を含め、あらゆる選択肢を検討しています。M&Aのほとんどは既存事業との相乗効果を目指すボルトオン買収かジョイントベンチャーですが、Anglo American社とTeck Resources社の合併のように、戦略的な大型ディールも依然として行われています。

 

金利と資本集約度の上昇に伴い、当セクターの加重平均資本コスト(WACC)は現在、大手テクノロジー企業の2倍以上に当たる8~10%に上ります2。鉱山事業者はロイヤルティ、ストリーミング、オフテイク契約、パートナーシップ、サステナブルファイナンス、政府のインセンティブ施策など代替の資金調達モデルを追及しています。コスト管理を強化し、コモディティサイクルに合わせたリスク管理で投資判断の最適化を図る事業者もあります。

 

4. 資源および埋蔵量の枯渇

埋蔵量の枯渇は供給不足を招き、世界の経済成長に悪影響を及ぼし、資源争奪戦に伴う価格のボラティリティ、地政学的緊張、場合によっては環境破壊まで生じかねません。

 

問題は地質資源の不足ではなく、回収された鉱物・金属の品質低下と、採掘への投資不足にあります。需要の増加に伴い、2035年までに鉱業・金属分野では5兆4,000億米ドルの投資が必要になる見通しです3が、探鉱予算は2023年の129億米ドルから2024年には125億米ドルに減少しました4

 

枯渇リスクは、イノベーションの強力な推進要因になり得ます。例えば、鉱山事業者は既存鉱山の最大活用を図り、従来とは異なる場所、例えば鉱滓(こうさい)の採掘やAIを活用した分析など新たなテクノロジーに投資するようになっています。新たなパートナーシップ、買収、使用済みの電子機器・蓄電池から鉱物を回収する都市鉱山リサイクルを進める企業もあります。

 

5. 操業許可(LTO)

操業許可は、鉱山事業者が業績向上への高まる中で、依然として注目を集めています。今回の調査から、回答者はサステナビリティとガバナンスをはじめ、幅広い鉱業関連問題に対する政府の統制強化を予想していることが分かりました。

 

操業許可を義務ではなく、機会と捉える鉱山事業者は信頼を築き、レピュテーションを高めることで、承認や資金を獲得する一助となります。Barrick社のPresident and CEOを務めるMark Bristow氏は、鉱山閉鎖までを含め、鉱業のライフサイクルを通じて、地域社会と組織的に連携することが極めて重要だといいます。「鉱業を正しく行うことが、開発を推し進める強力な力になります。「正しく鉱業を営むことが、開発を推し進める強力な力になります。その地域社会の成功は、私たちの成功につながるのです5

 

6. 人材

鉱業における長年のスキル不足は、退職者の増加と新たな人材の鉱業離れを受け深刻化しています。鉱業セクターでは、鉱山計画、プロセスエンジニアリング、サステナビリティ、鉱山閉鎖、規制順守など主要な職務で生じた欠員の補充に苦慮しており、生産性や安全性に悪影響が及び、将来の供給が脅かされています。鉱業企業の経営幹部の75%が現場の人手不足を解消する自信がないと回答しています6

26%
の調査対象となった鉱山事業者は、資本配分における選択肢のトップは垂直統合であると回答しました。
75%
の調査対象となった鉱業企業の経営幹部は、人手不足解消に自信がありません。

人材を誘致するには、当セクターの古いイメージを払拭し、エネルギー転換や将来のデジタル社会における役割を発信し、魅力的な職務をアピールする必要があります。ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス(DE&I)の向上はスキル不足を解消する一助となります。政治的な逆風の中で、DE&I目標に向かって継続的に取り組む姿勢は追い風となっています。さらに、セクターが一丸となって大学や政府と連係することで、新たな人材パイプラインとアジャイルな教育ルートを構築することも可能です。

7. 地政学的情勢

防衛分野、エネルギー転換、データセンター、半導体に必要な鉱物の需要の高まりが供給不足につながり、安全保障および経済の両面に影響を及ぼしています。各国政府はこうした状況に対応するため、関税引き上げと輸出規制の強化で採鉱、加工、精製への統制を強化し、国益の保護を図っています。

一方、カーボンプライシング制度を導入する国が増えており、気候変動の影響が深刻化する中で、この制度が強力な経済的手段となる可能性があります。

政府との戦略的関係の構築など、地政学的リスクへの先を見越したアプローチは、鉱山事業者がこうした動向を有利に活用する一助となります。

8. デジタルとイノベーション

環境の複雑性が増す中で、企業はコスト管理、生産性、安全性、サステナビリティ向上のため、より良いソリューションを求めており、セクター全体でデジタルトランスフォーメーションが加速しています。AIは最優先課題であり、調査対象の鉱山事業者の21%が、今後12カ月間でAI機能の整備に向けた予算を20%以上増やすと回答しました。

エージェント型AIについても、人間の能力を補完し、事業全体により大きな価値をもたらす多大な可能性を秘めています。しかし、具体的なビジネス上の効果をもたらす機会を見極め、リスク管理プロセスを更新しなければ、ソリューションを最大限に活用することはできません。現在のところ、データのサイロ化やビジネスニーズに合致していないことが原因で、AIなどデジタル化への取り組みの投資収益率(ROI)は高くありません。中核業務で成果が上がってはいますが、統合データとAI基盤を活用するエンド・ツー・エンドのアプローチを採用すれば、より大きな価値を生み出すことができます。


9. サステナビリティ

サステナビリティへの取り組みは、セクター全体で減速しています。回答者の半数強が取り組みの見直しや先送りをしており、その要因として考えられるのは市場ボラティリティに加え、グリーンマテリアル(環境負荷の軽減に寄与する素材)にほとんどプレミアムが付かないことです。

ネイチャーポジティブな取り組みは依然として活発ではありますが、義務を果たしていると自信を持っていえる回答者はわずか56%です。多くの事業者は、何を測定または報告すべきかよく分からず、近々発表される国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)基準による明確化に期待しています。当面は、デジタルソリューションをデータの可用性と正確性を高める手段として活用することができます。鉱山事業者はデータアナリティクス、スマートセンサー、ブロックチェーンを利用して、スコープ3の排出量の推移を把握、モニタリング、報告していますが、そのバリューチェーンの排出量の削減は依然として難しいのが現状です。サステナビリティパフォーマンスの透明性が高まっていることは証拠からも明らかです。重要鉱物に関する国際エネルギー機関(IEA)の最新のレポートも、過去5年間に社外の枠組みを導入した企業が10倍に増えたと記しています7


10. ビジネスモデルの変化

企業は、バリューチェーンをより多くを取り込むことで供給を急激に増やせるビジネスモデルへのシフトを進めています。そのためには、国内での加工・精製、廃棄物から価値を抽出するリサイクル、そして鉱山事業者が低資本で生産能力を拡大し、戦略的資源へのアクセスを可能にする協働が必要です。調査対象の鉱山事業者の26%が資本配分における選択肢のトップは垂直統合であると回答しました。多くの場合、中流や下流加工への垂直統合はパートナーシップや地域協働を通じて行われるため、企業は蓄電池用鉱物やレアアースを中心に、バリューチェーンをより多くを取り込むことができます。

また、鉱山事業者は革新的なジョイントベンチャー契約や地域戦略で資本コストを分担し、大規模プロジェクトに伴う技術・環境面の課題に対応しています。こうしたパートナーシップはプロジェクトの進行を加速し、資源を集約し、補完的な専門知識を活用する手段となっています。


サマリー

2026年に向けて、鉱業・金属企業は関税や地政学的緊張など外部のボラティリティだけでなく、コスト、生産性、労働を巡る内部圧力にも直面しています。こうしたリスクは、需要が高まり、変化するエネルギーシステム、デジタル経済、防衛分野に必要な鉱物を、より迅速かつ効率的に供給する必要に迫られている中で生じています。鉱山事業者、投資家、ステークホルダーにとって、今後12カ月間は課題だけでなく、イノベーション、協働、従来の事業運営方法の見直しを通じて需要を取り込む機会にもなると考えられます。


関連記事

未来が更新され続ける時代、CEOはいかに企業を再構築するのか

2026年1月期の「EY-Parthenon CEO Outlook調査」レポートでは、CEOが不確実性を乗り越え、持続可能な成長を推進するために、AI、トランスフォーメーション、ポートフォリオ戦略をどのように活用しているのかを明らかにしています。


    この記事について

    執筆協力者