EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 不動産・ホスピタリティー・建設セクター 公認会計士 川村 晃一
不動産会社、J-REIT、不動産ファンド、IFRS、株式上場準備会社等の監査に従事している。共著に『不動産流動化のスキームと会計実務』(2024年)、『不動産取引の会計・税務Q&A(第4版)』(2019年)、『都市再開発の法律・会計・税務・権利変換の評価』(2021年)、(全て中央経済社、共著)がある。不動産セクター執行メンバー。
要点
不動産の流動化とは、市場で自由に売買ができる上場株式などと比べて一般的に流動性が低いと言われる不動産を、流動性が高い証券等に置き換えることで不動産が生み出す将来のキャッシュ・フローを元手として資金調達を行う仕組みを言います。不動産流動化は、不動産のオフバランスによる財務指標の改善、不動産に係るリスクの移転、流動化後の継続的関与による収入確保や不動産のブランディング維持などのメリットを得ながら、資金調達が可能となり、市場から注目を集めています。
一方、不動産流動化には、譲渡人による継続的関与が残るケースが多く、また複雑なスキームが多く活用されているため、会計処理は慎重に検討する必要があります。本稿では、不動産流動化を行う際の譲渡人におけるSPE(Special Purpose Entity:特別目的事業体)の連結範囲及び譲渡人が会計処理を検討する上でのポイントを概説します。なお、文中意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
SPEが譲渡人の子会社に該当するか否かについては、通常の子会社の判定と同様に支配力基準により判定を行います。不動産流動化を行う際に活用するビークルは、匿名組合、特定目的会社、投資事業有限責任組合などさまざまありますが、実務対応報告第20号「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い※1」(以下、実務対応報告第20号)が参考となります。ここでは、実務対応報告第20号に沿って、SPEが投資事業組合の場合について解説します。
投資事業組合の場合には、株式会社のように出資者が業務執行者を選任するのではなく、意思決定を行う出資者が業務執行の決定も直接行うことなどから、株式会社における議決権を想定している企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」や企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」を投資事業組合に対して適用する場合には、基本的には業務執行の権限を用いることによって、当該投資事業組合に対する支配力を判断することが適当です。ここで、譲渡人である出資者(出資以外の資金の拠出を含む。)が投資事業組合に係る業務執行の権限を有していない場合であっても、当該出資者からの出資額や資金調達額の状況、投資事業から生ずる利益又は損失の享受又は負担の状況等によっては、当該投資事業組合は当該出資者の子会社に該当するものとして取り扱われることがあることに留意する必要があります。譲渡人におけるSPEの連結範囲は、譲渡人における連結財務諸表及びその後の会計処理に与える影響が大きいため、慎重に検討する必要があります。
ここで、実務対応報告第20号Q1をまとめると以下の通りとなります。
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投資事業組合における業務執行の権限の割合 |
50%超 |
40%以上~50%以下 |
自己+緊密な者及び同意している者=50%超 |
0%~40%未満 |
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連結子会社となる場合 |
業務執行者が複数いる場合には、その過半数をもって行われるため、追加の条件はない |
次のいずれかの要件に該当する場合
① 自己の計算において有している業務執行の権限と緊密な者及び同意している者が有している業務執行の権限とを合わせて、当該投資事業組合に係る業務執行の権限の過半の割合を占めていること |
自己の計算(当該業務執行の権限を有していない場合を含む。)と、緊密な者及び同意している者が有している業務執行の権限とを合わせて、当該業務執行の権限の過半の割合を占めているときであって、かつ、左記の②から⑥までのいずれかの要件に該当する場合 |
出資額(又は資金調達額)の総額の半分を超える多くの額を拠出している場合や投資事業から生ずる利益又は損失の半分を超える多くの額を享受又は負担する場合等には、当該投資事業組合の業務執行の権限の過半の割合を有する者が当該出資者の緊密な者に該当することが多いと考えられ、この場合には、当該投資事業組合は当該出資者の子会社に該当する(ただし、当該業務執行の権限の過半の割合を有する者が当該投資事業組合の財務及び営業又は事業の方針を決定していないことが明らかであると認められる場合を除く) |
特に留意すべきポイント
※1 「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_50.pdf(2024年10月21日アクセス)
不動産の売却の認識は、不動産が法的に譲渡されていること及び資金が譲渡人に流入していることを前提に、譲渡不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転した場合に当該譲渡不動産の消滅を認識する方法、すなわち、リスク・経済価値アプローチによって判断することが妥当であるとされています。
SPEを活用した不動産流動化に関連する代表的な会計基準・実務指針等は、以下の通りです。
SPEを活用した不動産流動化は、譲渡人による継続的関与、多くの関係者の関与に加え、複雑なスキームの活用により、留意すべきポイントが多くあります。具体的には、移管指針第10号の参考資料である「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理のフローチャート」に沿って、譲渡不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転しているかを検討し、売却取引として会計処理するか、金融取引として会計処理するか、判断する必要があります(<図1>参照)。
図1 特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理のフローチャート
特に留意すべきポイント
スキームの全体像の把握でポイントとなるのは、譲渡した不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転しているか否かです。個々の契約の条件について、先述のフローチャートに記載された判断基準を満たしていたとしても、スキーム全体ではリスクと経済価値のほとんど全ての移転がなされていると判断できない場合には、売却処理を行い得ないことに留意が必要です(移管指針第10号第6項)。
移管指針第10号において、譲渡人が不動産の売却取引として会計処理するための要件の1つとして、「適正な価額」での譲渡が求められています(移管指針第10号第5項、第30項)。
「適正な価額」が何を指しているかについては、「時価」を指しているとされています(監委第90号Q4、Q7)。ここで、時価とは公正な評価額を言い、取引を実行するために必要な知識を持つ自発的な独立第三者間の当事者が取引を行うと想定した場合の取引価額を言います(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」第47項)。不動産は上場有価証券と比較すると活発な取引市場が存在せず、またその一つ一つの独自性が強いことから、譲受人又は評価者により、取引価額又は評価額が異なる可能性が潜在的にある点に注意が必要です(監委第90号Q4、Q7)。売却価額が適正な価額、すなわち時価であると言えるかは、不動産鑑定評価書を利用することが一般的です。また、譲渡後にリースバックが行われる場合、リースバック実施後の賃料水準と売却価額は相関関係にあるため、譲渡が「適正な価額」で行われているかについて特に留意する必要があり、かつ、リースバックが「適正な賃料」で行われているかについても十分に吟味する必要があります(「5. リースバックしている場合の賃料の妥当性」参照)。
継続的関与の1つの例として、移管指針第10号では、譲渡人が譲渡した不動産の管理業務を行っている場合を挙げています。
譲渡人が譲渡した不動産について、通常の契約条件による不動産管理業務を行っている場合には、その限りにおいて当該不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転していると認められます(移管指針第10号第8項)。しかし、不動産管理業務契約において、例えば賃貸人(他の者)の賃料の減少を補填(ほてん)する条項があるなど通常の契約条件ではない場合は、当該不動産のリスクと経済価値が移転しているとは認められない可能性があるため、注意が必要です(移管指針第10号第33項)。
譲渡人が譲渡した不動産を買い戻す可能性が高く、不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが移転していると認められない場合には、売却取引としてではなく金融取引として会計処理すべきものと考えられます(移管指針第10号第6項)。例えば、SPEの資金調達が借入金と譲渡人からの匿名組合出資でなされているような場合で、不動産のリスクに見合ったリターンを要求している資金提供者が存在していないケースでは、譲渡人が買い戻すことを前提としてスキームが組成されている可能性があるため注意が必要です(移管指針第10号第6項、監委第90号Q6)。特に優先買取交渉権や買戻し条件が付与されている場合には、買戻しの蓋然(がいぜん)性について慎重な検討が必要となります。
買戻し条件付、すなわち、譲渡人が買戻し義務を負っている場合は、売却処理は認められませんが、譲渡人が買戻しの権利を有している場合にはリスクを負担するか否かについて実質的に判断することとなります。例えば、譲渡人が再取得時の「時価」で買い戻す権利(優先買取交渉権を含む。)や、優先拒否権を有している時は、仮に将来再取得が行われたとしても、それは長期間経過後の企業による意思決定の結果であり、流動化した時点における売却処理を妨げる要因とはならない場合もあると考えられます(移管指針第10号第32項)。
また、買戻し権等がリスク負担に該当するかについては、監委第90号Q8によると、監査上は、(1) 買戻し権等が付された意図、(2) 経営計画との整合性、(3) 譲渡後の他の継続的関与の有無、(4) 買戻し権等の内容、を考慮することが必要であるとされています。これらは、監査上の留意点ですが、経理担当者としても実務的にはこれらの点を総合的に勘案し、不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが譲受人に移転しているかどうかを判断することになると考えられます。
セール・アンド・リースバック取引においては、実質的に譲渡人がリース期間中、不動産から生じる収益を保証していると見なされるケースがあります。そのため、譲渡人による継続的関与が存在することになり、契約の内容によっては、リスクと経済価値が譲渡人に留保され続ける可能性があるため、リスク負担の有無を慎重に検討しなければなりません。
移管指針第10号第11項、移管指針第13号Q4によると、不動産の流動化がセール・アンド・リースバック取引に該当し、当該リースバック取引がオペレーティング・リース取引であって、かつ借手である譲渡人が適正な賃借料を支払うこととなっている場合には、売却処理を認めることとしています。このようなリースバック取引であれば、独立した第三者間における通常の取引と何ら異なることがなく、不動産のリスクと経済価値を譲渡人が留保するということにはならないためと考えられます。
「流動化された不動産のリスクと経済価値のほとんど全てが移転しているか」というのがどのように判断されるかについては、下記のリスク負担割合によって判定し、流動化する不動産の譲渡時の適正な価額(時価)に対するリスク負担の金額の割合がおおむね5%の範囲内であれば、リスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転しているものとして取り扱うとされています(移管指針第10号第13項、移管指針第13号Q1)。
まず、継続的関与が存在する場合、その内容について検討します。そして、継続的関与の内容によって譲渡人に何らかのリスクがあると判断された場合、そのリスク内容を検討した上で、分子のリスク負担の金額を算出します。この数式におけるリスク負担の金額については、「流動化する不動産がその価値のすべてを失った場合に生ずる損失」を意味しています(移管指針第10号第13項)。当該リスク負担の金額を不動産の譲渡時の適正な価額で除して、リスク負担割合を算出します。
この結果算出されたリスク負担割合がおおむね5%の範囲内の場合、リスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転していると取り扱い、売却取引として会計処理を行い、そうでない場合は金融取引として、不動産を担保とした資金借入を実施した場合と同様の会計処理を行うことになります(移管指針第10号第5項)。
移管指針第10号においては、継続的関与とそれに対応するリスク負担の金額の具体例として、以下のような項目が例示列挙されています(移管指針第10号第7項、第14項)。
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継続的関与の例 |
リスク負担の金額 |
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|---|---|---|
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① |
譲渡人が譲渡した不動産の管理業務を行っている場合 |
通常の契約条件による不動産管理業務を行っている場合には、その限りにおいてリスクと経済価値のほとんど全て他の者に移転していると認められる(移管指針第10号第8項、第33項) |
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② |
譲渡人が不動産を買戻し条件付で譲渡している場合 |
実質的に金融取引と同様の効果が生ずることとなるため、売却処理をすることができない(移管指針第10号第9項) |
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③ |
譲受人である特別目的会社が譲渡人に対して売戻しの権利を保有している場合 |
②と同様、実質的に金融取引と同様の効果が生ずることとなるため、売却処理をすることができない |
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④ |
譲渡人が譲渡不動産からのキャッシュ・フローや譲渡不動産の残存価額を実質的に保証している場合 |
保証しているキャッシュ・フローの額又は残存価額の保証額 |
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⑤ |
譲渡人が、譲渡不動産の対価の全部又は一部として特別目的会社の発行する証券等(信託の受益権、組合の出資金、株式、会社の出資金、社債、劣後債等)を有しており、形式的には金融資産であるが実質的には譲渡不動産の持分を保有している場合 |
保有持分の取得価額 |
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⑥ |
譲渡人が譲渡不動産の開発を行っている場合 |
開発コストのうち譲渡人が負担すべき金額 |
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⑦ |
譲渡人が譲渡不動産の価格上昇の利益を直接又は間接的に享受している場合 |
享受する権利を得るための対価 |
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⑧ |
譲渡人が譲受人の不動産購入に関して譲受人に融資又は債務保証を行っている場合 |
融資額又は保証額 |
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⑨ |
譲渡人がセール・アンド・リースバック取引により、継続的に譲渡不動産を使用している場合 |
オペレーティング・リース取引でかつ適正な賃借料を支払っている場合は、リスク負担額はない(移管指針第10号第11項、第35項) |
不動産流動化取引についてリスクと経済価値のほとんど全てが他の者に移転していると判断でき、売却取引とされた場合には、通常の不動産売買と同様に処理します。すなわち、リスクと経済価値のほとんど全てが移転した日、通常は引渡日に、不動産の消滅を認識した上で、売却損益を認識します。
金融処理を行う場合に、具体的にどのような処理になるかについては、移管指針第10号設例1に、(参考)として、当初流動化時のリスク負担割合の判定の結果、金融処理が必要となる場合の会計処理が記載されています。また、移管指針第10号第21-2項に、更新(リファイナンス)時に譲渡人のリスク負担金額が増加した場合のリスク負担割合の再判定の結果、リスクと経済価値のほとんど全てが移転していると認められない場合の会計処理も定められています。
リスクと経済価値のほとんど全てが移転されたと認められず金融取引とされる場合、実際のリスク負担割合の程度に関わらず、流動化対象不動産の全てを保有し続けていると擬制して会計処理を行うことが求められています。これは単に流動化対象不動産の簿価をオフバランスせず売却益も認識しない、ということのみならず、当該物件から継続的に発生する収益や費用も譲渡人が認識し損益計算書に計上していくこととなります。さらに、SPEが外部金融機関に対して支払う利息等についても譲渡人が金融取引を実行したと擬制して認識することとなります。このように会計処理を行うことにより、譲渡人があたかも流動化対象不動産を担保とした借入を実行し、保有し続けているように賃貸収入及び原価等が認識され、かつ支払利息をはじめとするSPEからスキーム外に流出するコストも同様に認識・計上されることになります。
また、このような経済実態から、移管指針第10号第22項では、金融取引として会計処理した場合には、担保資産の注記に準じて、その旨並びに関連する債務を示す科目の名称及び金額を記載することを求めている点に留意が必要です。
不動産の流動化において、譲渡人がSPEの連結範囲及び会計処理を検討するにあたっては、移管指針第10号をはじめとしたさまざまな会計基準、実務指針等がありますが、その適用及び解釈には判断を伴うものが多く、実務上、悩ましい場面や論点が多くあります。
本稿の内容については『不動産流動化のスキームと会計実務』(2024年、中央経済社)において、実務でよくある50の設例を用いてより詳細に記載されていますので、ぜひご参照ください。
不動産の流動化において譲渡人が検討すべきポイントを解説しました。
この書籍は不動産流動化について、実務でよくある50の設例を用いて解説しています。不動産譲渡側の連結範囲の検討から具体的な会計処理、収益認識基準・新リース基準案・減損などの実務論点、スキームごとの法務上の留意点までわかりやすく解説しています。また、不動産取得側の主要な会計・税務処理、税務上のストラクチャー比較にも言及しています。
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