EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション 七谷 文啓
金融機関において不良債権の投融資業務及び不動産NRLなどのストラクチャードファイナンス業務、不動産セクター及びフィナンシャルスポンサーセクターのカバレッジ業務に従事。他のアドバイザリーファームを経て、2024年EYに参画し、M&Aや資本政策、不動産流動化に係るアドバイスなどのアドバイザリー業務に従事。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション 不動産鑑定士 平井 清司
2002年にEYに参画し、不動産・ローンの評価業務やアドバイザリー業務に従事。近年は買収時における財務諸表作成目的の評価業務(Purchase Price Allocation)において、不動産・動産・ソフトウエア等広く固定資産評価業務に従事するほか、都市再開発や民営化関連の不動産アドバイザー業務も手掛ける。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション 不動産鑑定士 大島 崇
国内最大手の不動産仲介会社において、不動産鑑定業務・価格査定業務全般のほか、不動産の仲介取引業務に約13年間従事した後、2017年よりEYに参画。EYでは主に監査関連業務のほか、有形固定資産(不動産・動産)の評価業務に従事。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション 不動産鑑定士 金広 凌
信託銀行にて不動産鑑定評価及び不動産仲介業務に従事。2020年4月アドバイザリーファームへ入社し、不動産及びM&A領域のファイナンシャルアドバイザリー業務及びValuation業務に従事。2024年12月よりEYに参画し、不動産M&Aアドバイザリー業務に従事。
要点
ホテル×アドバイザリー×寺社の三位一体の成長戦略について言及するにあたり、まずはホテル業界と寺社の現状と課題について、アドバイザリーの観点から説明します。
まずホテル業界に触れると、ここ数年来の円安に起因したインバウンドの増加もあり、2024年における延べ宿泊者数はコロナ禍前のピーク(2019年)を上回る水準まで達し、ホテルの稼働率も回復基調にあります(<図1>参照)。観光庁が発行する「宿泊旅行統計調査」<図2>のデータを見ると、2024年における全国の延べ宿泊者数は全体で6億5,000万人、そのうちインバウンドは全体の25%程度ですが、円安基調に進めば、さらにインバウンド需要が増加し、ホテルの稼働率及び客室平均単価は堅調に推移すると想定されます。
図1 施設タイプ別客室稼働率(全国)
観光庁「宿泊旅行統計調査」www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html(2025年3月24日アクセス)を基にEY作成
図2 延べ宿泊者数推移(全国)
観光庁「宿泊旅行統計調査」www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html(2025年3月24日アクセス)を基にEY作成
ホテル業界の課題は、特に東京、大阪、京都等の観光客に人気の都市ではホテル適地となり得る開発用地が限定的であることや、運営スタッフの不足に伴う稼働客室数の制限などの影響により、宿泊需要に対し供給が不足している点です。また、昨今の建築費の高騰により(<図3>参照)、ホテル適地の売却物件があったとしてもホテルの新築が難しく、賃貸マンションやオフィスからのコンバージョンでホテルを開発・開業するケースや、既存ホテルの大規模なリノベーションによる開業を余儀なくされている状況です。
図3 建設工事費デフレーター(2015年度平均=100)
国土交通省「建設工事費デフレーター(2015年度基準)」www.mlit.go.jp/sogoseisaku/jouhouka/sosei_jouhouka_tk4_000112.html(2025年3月24日アクセス)を基にEY作成
文化庁が発行する「宗教統計調査」<図4>によれば、2015年の信者数約1億9,000万人が2023年には約1億7,000万人となっており、信者の数は年々減少しています。高度経済成長期(1955~1973年頃)に飛躍的に信者数を伸ばしたものの、高齢化により信者が逝去していることが信者数下落の要因の1つと考えられます。内閣府が発行する「民間非営利団体実態調査」<図5>によれば、多少の上下はあるものの、信者数におおむね比例する形で収入も減少しています。
図4 信者数の推移
文化庁「宗教統計調査」www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00401101&tstat=000001018471(2025年3月24日アクセス)を基にEY作成
図5 宗教法人の収入内訳
内閣府「民間非営利団体実態調査」www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/hieiri/files/r5/pdf/hieiri_gaiyou20250131.pdf(2025年3月24日アクセス)を基にEY作成
同じく「民間非営利団体実態調査」<図5>によれば、2023年の宗教法人の収入内訳のうち、檀家料、寄付金、補助金等を示す「会費等の移転的収入」は全体の15%程度のみであり、収入の80%超を課税対象となる事業収入で賄っている状況です。さらに、文化庁の発行する「宗教法人が行う事業に関する調査報告書」によれば、各事業の系統別実施率<表1>は、「駐車場」や「貸地・貸間等」の不動産賃貸関連が全体の65%となっており、保有不動産を活用することで得る賃貸収入への依存度が高い状況が見て取れます(ただし、旅館・宿泊業は全体の1%にとどまり、宿泊施設などのより高度な有効活用は限定的)。
表1 宗教法人が行う各事業の系統別実施率
* 各項目の割合は四捨五入をしているため、各項目を合計しても100%とはならない。
文化庁「宗教法人が行う事業に関する調査報告書」www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/r06_chosa.pdf (2025年3月24日アクセス)を基にEY作成
日本における信者増加の背景は、高度経済成長期に地方からの上京により、希薄になった人とのつながりを宗教に求める人々の需要を取り込めたことが一要素として考えられます。インターネットの普及により、SNSを通じて誰にでもアプローチ可能となった現在の社会に鑑みると、従来のような宗教需要は限定的であり、引き続き信者減少のトレンドは変わらないものと考えられます。
信者減少に比例して、「会費等の移転的収入」もさらに減少していくと考えられ、寺社を継続していくためには事業収入の改善が求められます。一方で、前述した駐車場や貸地・居間等を現況有姿で賃貸する場合には、収益率が低く十分な収入を享受できない可能性があることから、収益性のアップサイドを狙えるような不動産の有効活用が肝要と考えられます。
ホテル業界及び寺社における双方の課題解決策として、寺社の所有する遊休地、境内地、宿坊等の既存構築物の有効活用策としてのホテル誘致が考えられます。実際に、寺社の境内にある「宿坊」をリノベーションし、リノベーション後の「宿坊」をホテルオペレーターが運営するようなケースが増えています。ホテル側としては、この方法により新築するよりも建築コストを低位に抑えられ、かつ、境内でのホテル運営により寺社仏閣に興味を示すインバウンドの受け皿にもなり得るものと考えられます。寺社側としても、前述した現況有姿の賃貸と比較して多額の賃料を収受できる可能性があり、双方にとってメリットがあるものと思料します。
観光庁が実施した「訪日外国人の消費動向(2024年7-9月期)」※によれば、訪日外国人が訪日前に期待していたことのうち「自然・景勝地観光」が52.3%、「日本の歴史・伝統文化体験」が25.6%、「旅館に宿泊」が16.6%となっており、コト消費の中では日本の寺社訪問や宿泊体験に期待を寄せていることがうかがえます。
インバウンド需要もあり、昨今ではリトリートホテル(日常の騒がしさやストレスから離れ、心身をリフレッシュし、自己探求や自然との調和を目的としたプログラム・滞在を提供する施設)が流行しているのが見て取れます。 ある場所へ行きたいがために宿泊するだけのホテルではなく、“このホテルに泊まりたい”という旅行の主目的となる宿泊施設が求められており、ホテル×寺社にはこのリトリートホテルとしての潜在力が秘められていると言えます。
一方で、ホテル×寺社を実現するためには、寺社が存する自治体との交渉、ホテルオペレーター候補者の探索及び選定、競争環境の醸成、檀家への説明プロセス等、プロジェクト全体のマネジメントが必要となるでしょう。加えてインバウンド需要も含むマーケットの分析や、海外ホテルオペレーター等の誘致にあたってはグローバルなリレーションや各種デューデリジェンスも必要となります。そのような多岐にわたるタスクをこなすのがアドバイザリーファームであり、ホテル業界と寺社との間のつなぎ役としてアドバイザリーファームが関与することで、三位一体となるWin-Winな関係を構築することができます。
※ 観光庁「訪日外国人の消費動向 2024 年 7-9 月期 報告書」www.mlit.go.jp/kankocho/content/001853632.pdf(2025年3月24日アクセス)
リトリートホテルに代表されるホテル業界及び寺社双方の課題解決を実行するにあたり、双方をつなぎWin-Winの関係を構築できるアドバイザーへの期待は高まっています。
EY Japan は、アシュアランス、税務、ストラテジー・アンド・トランザクション及びコンサルティングにおける豊富な業務経験を有するプロフェッショナル・チームが連携して、企業が抱えるさまざまな課題に対し、最先端かつグローバルな視点から最適なサービスを提供します。ホテル業界のみならず、日本の長い伝統文化を受け継ぐ寺社に対してもさまざまな観点からEYが全力でサポートし、サステナブルな社会の実現に貢献します。
インバウンド需要の増加もあり、ホテル業界の景気はコロナ禍前のピークを上回る水準まで達するという過熱傾向にあります。一方で、寺社は信者数の減少や、檀家料の減少により経営が厳しくなりつつあり、新たな収入源の確保など、収益構造の改善に資する施策の対応を余儀なくされています。ホテル業界及び寺社双方の課題解決のために、さまざまなタスクをこなせるアドバイザーの役割は重要です。
戦略(EYパルテノン)、買収・合併(統合)・セパレーション、パフォーマンスの再構築、コーポレート・ファイナンスに関連した経営課題を独自のソリューションを活用し、企業成長を支援します。
全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。
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