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本稿は、事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウトシリーズの第2回目です。
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要点
前回は、企業による事業の切り出しである「カーブアウト」が日本においても増加している背景について、主に株主アクティビズムの観点から紹介しました。そこには、多角化経営で巨大化した企業に見られる「コングロマリット・ディスカウント」からの脱却を求め、取締役会に対して圧力を強めるアクティビストの動きも大きく関係しています。これを踏まえて今回は、なぜ企業経営者はカーブアウトを視野に入れなければならないのか、大企業の場合を中心にその理由をもう少し詳しく見てみましょう。なお、本シリーズでは、原則としてカーブアウトの実施主体を
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財務アドバイザー(FA)として、貴社の利益の観点からM&Aの組成からエグゼキューションまでを戦略的な助言によりバックアップ。FAとしての高い専門性発揮はもちろんのこと、グローバル・ネットワークと隣接領域の充実したサービスラインアップ(DDなど)を生かしてのシームレスな案件遂行をお約束します。
続きを読む「売主」、切り出しの対象となる事業を「対象事業」、その最終的な新オーナーをを「買主」と呼ぶことにします。
なぜ、カーブアウトなのか。それを考える前提となるのが、売主が自社の事業に対して必然的に持つ「全体最適」の視点です。この場合の売主とは、多数の事業を擁する上場企業を想定していますが、その個々の事業に対する投資をどのような配分で行うか、つまり資金や人材などの経営資源をどの事業にどれだけ投下するかによって、事業全体の最適化を図ろうとするのは当然のことです。例えば、収益性は未知数ながら重点的に成長させたい事業Aと、祖業として安定した収益が維持できると思われる事業Bがあったとき、Bから得た利益の余剰をAの成長資金に回すことはよくあります。
しかし、本来ならBの成長性維持のために再投資すべきだった資源までもAに振り向けられることが続いた結果、気がつけばBの事業価値が毀損(きそん)され、企業全体の価値低下を招く事態にまで至ってしまう。そういうケースは日本の大企業によく見られます。つまり、個々の事業が持つ根源的な価値を合計した値と、企業全体に対する株式市場からの評価の間に乖離(かいり)が生まれる現象。これがコングロマリット・ディスカウントです。
このような状況は、経営資源の配分が、必ずしも個々の事業レベルでは最適化されないことによって生じます。上記のような事情をはじめ、競合他社を買収すべき機会を逸するなどの投資不足に起因して、競争力を落としてしまう事業も出てきます。また、一つひとつの事業を個別に見れば強くても、それらの間のシナジーが希薄な場合もあるでしょう。
こうしてコングロマリットの度合いが高まれば高まるほど、外から見てどのような全体最適がなされているのか判然とせず、「この企業は何に投資しているのか?」が見えづらくなり、投資家からも敬遠されます。投資家にしてみれば、同種の事業を専業とするピュアプレイの企業に投資した方が将来性が見通しやすく、株式のパフォーマンスもより期待できるということになるのです。その先には、上場企業でありながら、株式市場から十分な成長資金が得られないという結果が待っています。
コングロマリット・ディスカウントは日本企業に限った話ではありません。海外の大企業でも起こり得る現象ですが、特に米国では、その弊害が顕在化する前にカーブアウトで対象事業を切り離し、事業再編によって企業価値を高める企業が目立ちます。それを繰り返しながら柔軟に成長する組織の新陳代謝の良さは、さながらアメーバのようでもあります。
日本にも、もはやそうした時代が訪れようとしています。売主が、ある事業に対して自社がベストオーナー(事業価値を最大化できる持ち主)ではないと判断する場合、カーブアウトで新オーナーに譲渡することにより、過小評価されていたその事業の根源価値を顕在化させること。それは単なる撤退とは異なる重要な意味を持つ戦略といえます。
では実際に、カーブアウトを実施するに当たって、または実施すべきか否かを判断するにあ当たって欠かせない視点とプロセスについて見ていきます。そのポイントは、大きく次の5つに集約されます。
ヒト、モノ(有形・無形)、カネの観点から、切り出すべき対象事業を判断します。収益性の低い事業、今後の展開が見通しにくい事業、自社の成長戦略から外れる事業など、ノンコア事業が対象となるケースが一般的ですが、前回の記事でも述べたように、成長性の見込める事業を子会社として独立させ、競争力を強化する戦略もあります。事業ポートフォリオを検証し、各事業を取り巻く外部環境、業績、競合他社の状況、資金調達の可能性、カーブアウトによる効果とリスクなどを分析して総合的に判断します。
対象事業が独立した事業体(スタンドアロン)として運営されるためのオペレーティングモデルを設計します。独立した子会社を手放す場合とは異なり、本社のさまざまな機能を共有し、組織体制の一部に組み込まれてきた事業を切り出すスキームは極めて複雑です。例えば、対象事業と残る事業とで共通の営業組織や製造ラインを有する場合、どのように配分するのかしないのか、依存関係の実態を明らかにしない限りは判断できません。そのような現状分析を、業務プロセスや人事、システムなどの各面にわたって行い、新オーナーの下で業務が始まる「Day 1」とその先に想定される新しい運営体制の姿を描きます。
対象事業が独立事業体として運営される際に発生する課題やリスクを総称して、「スタンドアロン・イシュー」と呼びます。例えば、人事や経理・財務、総務・法務、ITシステムなどといった機能は独立して事業を営む上で欠かせませんが、本社機能に依存しているため対象事業と一緒に切り出すのは困難です。そのような新体制に足りない機能について洗い出しを行います。これはカーブアウト分析に含まれる重要な要素でもあります。
対象事業のこれまでの業績(財務数値)を把握し、カーブアウト財務諸表を作成します。これは対象事業を適正な価格で売却するために不可欠な作業ですが、本社に依存していた機能のコスト配分などを巡って細かな調整を必要とします。管理会計上なされていた従来の費用配分が、必ずしも実態に即していない場合があるからです。また、この財務諸表をもとに、今後の事業戦略や財務計画を含む独立事業体としての事業計画を策定します。
対象事業の売却によって企業価値にどのような貢献が期待できるのか、またはどのような損失が懸念されるかなどについて売主の立場から分析し、対象事業の売却期待価格を算定して経済合理性を明らかにします。投下資本利益率(ROIC)、自己資本利益率(ROE)、1株当たり純利益(EPS)など、カーブアウト前後の主要財務諸表に関する比較分析を実施。例えば、売却に伴い設備投資が不要となって資本効率が改善したり、本社費用の負担先が減るため管理部門の削減が求められたりすることもあるでしょう。
上述した5つのポイントを含む準備段階から、新オーナーへの譲渡が完了するクロージング段階まで、カーブアウト・ディールのプロセスは大きく4つのフェーズに分けられます。これに要する期間は通常1〜1.5年ほど。その大まかな内訳は以下に示したとおりですが、全体的に言えるのは、可能な限り短期間で進めるのが有効だということです。ディールはいわば生き物です。長く時間がかかれば、対象事業の業績が変わってきたり、買主候補の心証を損ねたりすることにもなり、情報漏えいのリスクも高まります。
①準備フェーズ[2〜4カ月] 前項1)〜5)の遂行
②マーケティング・フェーズ[2〜3カ月] 買主候補への打診 〜 一次意向表明回収
③ディール・フェーズ[3〜4カ月] DD受け入れ 〜 最終契約締結
④クロージング・フェーズ[4〜6カ月] カーブアウト実施、新オーナーへ譲渡完了
⑤TSAフェーズ[期間は内容次第] 譲渡完了 〜 TSA契約満了
第2段階のマーケティング・フェーズでは、買主候補の企業に対して対象事業の情報をまとめた書類(インフォメーション・メモランダム)を開示し、買収希望価格を記載した一次意向表明書を提出してもらいます。候補は情報漏えいのリスクも考慮し、最大10〜20社程度に抑えるのが妥当でしょう。
次いでディール・フェーズでは、一次意向表明の内容をもとに買主候補を絞り込み、財務調査などの各種デューデリジェンス(DD)を受け入れつつ、買主候補との交渉を進めます。最終の意向表明を経て、各社からの提示内容を比較検討し、最終的に合意した1社と契約を結びます。
この後、いよいよカーブアウトを実行するわけですが、法務・税務の手続きをはじめ、従業員への説明や移籍手続きなどには時間がかかり、契約締結からDay 1を迎えるまでには通常半年ほどを要します。この間に、ITシステムなど事業運営に必要な最低限の基盤インフラも整備しなくてはなりません。
とはいえ、事業運営に必要なすべての機能をDay 1までに整えるのは現実的ではありません。売却後の一定期間、新オーナーが対象事業を滞りなく運営できるよう、売主の機能の一部を継続して使用する契約を結ぶのが一般的です。これをTSA(Transition Service Agreement)といい、前述のスタンドアロン・イシューに当たる人事・経理などのバックオフィス系、サーバーや基幹システムなどのIT系、生産設備や倉庫などのサプライチェーン系など、その内容や契約期間はさまざまです。
以上、見てきたようにカーブアウトの準備と手続きは一般的な印象以上に複雑で、専門的な知識やノウハウも必要とされます。機密保持の観点からも必要最低限のメンバーで検討を始め、短期集中的に進めなければなりません。そのチーム体制をいかに敷くかも、カーブアウト成否のポイントとい言えるでしょう。
次回は、準備段階において重要な鍵を握る「カーブアウト分析」についてまとめます。
この事業の価値を最大化する上で、果たして自分たちはベストオーナーと言えるのか。その観点からカーブアウトを検討する日本の企業が増えています。しかし、その実行プロセスは思った以上に複雑で、精緻な分析と入念な準備を必要とします。初期段階で、経営者自身がその要諦と全体像を把握することが大切です。
事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト 全9回
#1 なぜ今、カーブアウトなのか ── 事業切り出しの必然性とアクティビズム 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
企業が戦略的に自社の事業の一部を切り出し、売却や譲渡によって事業ポートフォリオの最適化を図る「カーブアウト(carve out)」。資本効率を高めるための一手として、グローバル企業を中心にその実践例が増加しています。どのようにして成功に導くのか。売主の立場から見た重要なポイントを、連載シリーズでお届けします。
#2 カーブアウトの準備と手続き ── 譲渡完了までの要諦と全体プロセスを知る 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
企業カーブアウト(事業切り出し)の効果と具体的な実行スキームについて知る連載シリーズの第2回。今回は、日本の大企業が直面するコングロマリット・ディスカウントの実情を踏まえ、カーブアウト実行に向けた準備と手続きのポイントとおよび全体プロセスについてまとめます。
#3 カーブアウト分析の進め方 ── オペレーティングモデルの現状分析と将来設計 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトにまつわる複雑なスキームを滞りなく進め、望ましいオーナーを得て事業価値を高めるには、精緻な分析と準備が欠かせません。その鍵を握るのが、対象事業が独立運営するために解決すべき課題の特定と対策を検討する「カーブアウト分析」です。
#4 カーブアウトディールの留意点 ──セルサイド・デューデリジェンスのすすめ 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトの対象となる事業の範囲に目星がついたら、次にどのようにカーブアウトを進めるか、その手法や必要な手続きを検討することになります。そこで有意義なのが、「セルサイド・デューデリジェンス(DD)」。法務や財務、税務、人事、ITなど、各方面にわたる売主自身による詳細な調査です。
#5 セルサイド財務DDの効果 ── カーブアウト財務情報の作成と分析 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトディール実行前に売主が行うセルサイド・デューデリジェンス(DD)。その先鋒(せんぽう)として、クロージング時点やスタンドアロン後の対象事業の姿を想定してカーブアウト財務情報を作成し、精緻な分析を加えて財務面から具体像を描き出すのが「セルサイド財務DD」です。
#6 税務の視点で見る事業分離──カーブアウトスキームをどう選ぶか 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
事業だけを売却するか、新会社に事業を移して切り出して新会社を売却するか、あるいは売りたくない事業を別会社に移して既存の会社を売却するのか──。カーブアウトの手法によって、売主と買主、そしてカーブアウト後の対象事業を運営する法人の三者が検討すべき税務上の課題が大きく変わってきます。買主候補との価格交渉にも影響する重要な視点「税務の目」から見たカーブアウトの留意事項をまとめます。
#7「人の移管」という最重要課題──カーブアウトを成功に導く人材戦略 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトの準備・交渉過程において、対象事業の自律的な運営と成長を支えるための「人材の確保」は最重要課題の1つです。その核となる「従業員移管」のプロセスは、売主、対象従業員、残留従業員、そして新オーナーという四方のステークホルダー全てにとって、合理的なものでなければなりません。本稿ではその望ましい進め方について、3つの「場面」に視点を置いて解説します。
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財務アドバイザー(FA)として、貴社の利益の観点からM&Aの組成からエグゼキューションまでを戦略的な助言によりバックアップ。FAとしての高い専門性発揮はもちろんのこと、グローバル・ネットワークと隣接領域の充実したサービスラインアップ(DDなど)を生かしてのシームレスな案件遂行をお約束します。
続きを読むCEOやビジネスリーダーは、この変革の時代に、ステークホルダーにとっての価値を最大化するという任務を負っています。私たちは常識に疑問を投げかけ、収益性と長期的価値を向上させる戦略を構築し、実行します。
続きを読む年々増加するアクティビスト活動への対応および備えとして最も重要なことは、株主との建設的な対話(エンゲージメント)を通じて得られた意見を取り入れながら成長戦略を描き、着実かつ迅速に実行することによって中長期的な企業価値向上を実現し、資本市場からの信任を獲得することです。
続きを読むEYの事業売却のプロフェッショナルは、企業全体の売却、カーブアウト、スピンオフ、合弁事業などの価値向上の支援をします。
続きを読むEYのバリュエーション、モデリング&エコノミクスサービスでは、バリュエーションとビジネスモデリングを緊密に連携させ、事業への影響について理解を深められるようサポートします。
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続きを読むEYのトータルリワード(人事制度・福利厚生・働き方)のプロフェッショナルは、人材に関する戦略の一環として、総合的な報酬の評価、またはその再構築や再設計の支援を行います。詳しい内容を知る
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