EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYパルテノンは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
デジタル投資に着手し始めた日本企業は、「意味のある」デジタル投資を行うため、先達から3つの教訓を学ぶことができます。
EY-Parthenonの2022年デジタル投資インデックス(Digital Investment Index、以下DII)によると、企業は今年、2020年から65%増加となる記録的なデジタル投資を行っています。
経営幹部の約4分の3(72%)が、業界での競争に勝ち抜くためには今後2年間にオペレーションを抜本的に⾒直す必要があると回答しています。そのためには、すべての業界において、優先順位の⾼い案件に対する投資を強化しながら、テクノロジーソリューションの強化と利益向上の実現に注⼒する必要があります。
2022年1月から3月に行った2022年版DIIレポートは、グローバルでDXやテクノロジーの関連の意思決定を担う経営者1,500名を対象に実施された調査に基づいたものであり、主に3つの分野に焦点を当てています。
2022年のDII調査を分析した結果、以下のような重要なポイントが明らかになりました。
DXに取り組む企業は、その歩みを加速させるために、以下のようなアクションを検討する必要があります。
第1章
多くの企業は DXを加速するためにインオーガニックな投資を拡大している一方、そのリターンを検証することに課題を抱えています。
テクノロジーを⽤いて差別化した製品やサービスを迅速に市場に投⼊しなければならないプレッシャーが⾼まっている中、企業は2022年に向けてデジタル投資を加速させています。経営者は、売上⾼に占めるデジタル投資の割合を3.5%(2020年)から5.8%(2022年)に増加する予定です。これは、売上⾼が1兆円の企業にとってのデジタル投資額が350億円から580億円に、かつ前年⽐で65%の増加となることを意味します。
より多くの企業と経営者がデジタル投資に対するリターンを検証し始めています。2020年の調査では、RODI(Return On Digital Investment)を測定している経営者は全体の23%にすぎませんでしたが、現在では、41%の経営者がRODIを検証しています。RODIを測定している企業に対する、2022年のデジタル投資の平均的なリターンは7.6%になると見込まれており、この数字は2021年に報告された平均的なリターンである4.4%を大幅に上回るなど、RODIの検証に関する取り組みはリターンに対してポジティブな効果をもたらしています。
対照的に、5社のうち3社は、昨年のデジタル投資にどの程度費やしたか、その投資が収益改善やコスト削減、運転資本の効率性にどのような価値をもたらしたかを把握できていないなど、RODIの検証は道半ばです。
DXに関する取り組みを加速させたい企業にとって、デジタルに関するユースケースを明らかにすることは⾮常に重要です。そのために、企業は以下のことを⾏うべきです。
調査回答者の大半(55%)は、DXを加速させるために、社内のリソースを強化する(=オーガニックな投資)のではなく、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)やM&A、パートナーシップなどのインオーガニックな投資を選んでいます。
インオーガニックな投資は、対象とするテクノロジーを量・質ともに向上させるとともに、新しいテクノロジーの獲得や重要なケイパビリティおよびスキルのギャップの解消につながる近道にもなります。新たに誕生した、グローバルなユニコーンの数が、2021年第1四半期に過去最高の959に達し、2020年第4四半期にはその数が68%増加するなど、インオーガニックな投資の際に提携先あるいは買収対象となるテック企業はかつてないほど増えています3。
インオーガニックな手段を選択する際、企業はより少ない資金でリターンを得られるパートナーシップ(34%)、新しいテクノロジーおよび新製品を迅速に得られるM&A(32%)、新たな市場や将来性のあるテクノロジー、アセットに早期にアクセスできるCVC(45%)を望むと回答しています。
企業は、イノベーション戦略を推進するためにあらゆる手段を活用すると述べています。投資の在り方によってリスクとリターンの在り方が異なるため、あらゆる手段を活用することは非常に重要なことです。ほとんどの経営者(87%)は、直近のインオーガニックな投資について、期待通り、またはそれ以上の成果を上げたと回答していますが、多くの経営者は複数のインオーガニックな投資をどのように組み合わせればよいのか分からないと回答しています。
最適な組み合わせを実現するためには、企業が意識的に組織間の壁を取り払い、オーガニックおよびインオーガニックな投資を互いに調和させることが重要であります。計画、買収、パートナーシップかの判断は、単独で⾏われるのではなく、企業全体あるいは事業部⾨の⽬標に沿った形で⾏われるべきです。
企業は、各⼿段のメリットとデメリットを⼗分に吟味せず、誤った投資⼿段を選択すると、企業価値の低下を招く可能性があります。同様に、適切なインキュベーション体制や各投資⼿段を連携させた運⽤モデルを構築しなければ、さまざまな段階において投資の透明性や効率性、有効性を向上させることができません。
以下の検討事項は、投資判断に当たってのガイドラインとなります。
この手段は、新規市場の開拓や顧客との関係強化、スキルギャップの解消、スタートアップ企業によるソリューションの活用を行うに当たって有効です。
⼀般的にパートナーシップは、他のインオーガニックな⼿段に⽐べて資⾦的な負担が少なくなります。
パートナーシップは、他社のリソースを活用することで、企業価値を高めることができる一方、経営判断に関する情報の共有、企業文化の摩擦、ビジネス上の利害の不一致、利益の半減、部分的な知的財産権の喪失などといったリスクがあります。
企業は、自律的な運営とオフバランスシートでの投資を確保するために、コーポレート・ベンチャーキャピタル・ファンドを、独立した事業体または「ブランドCVC」ファンドとして組成することがあります。
企業は、CVCを通じて、ベンチャー企業からの経験の獲得、将来のM&A機会の発見、インキュベーションのためのエコシステムの構築を行うことができます。
EYパルテノンができること
ターゲットの評価から統合に至るディールのライフサイクルを通して、そして統合後も、EYパルテノンのプロフェッショナルが価値の最大化を目指す企業をサポートします。詳しい内容を知る
続きを読むM&Aは、迅速にテクノロジーや新製品を獲得する必要がある場合によく行われます。
成功する企業は、スタートアップ企業の買収と従来型のM&Aとの違いを認識しています。
第2章
多くの企業がDXを進めている一方で、企業によっては依然として明確な戦略や実施計画が存在していません。
より多くの企業が、DX成功の証しとして、デジタルに関するケイパビリティを「獲得」する段階から、ソリューションの「実⾏」に伴う効果を享受し始める段階に移っていることを、DIIは明らかにしています。2022年には、デジタル関連予算の31%がケイパビリティの「獲得」に、デジタル関連予算の69%がソリューションの「実⾏」に充てられています。2020年にはそれぞれ36%、64%でした。このことは、企業が社内の業務改善から顧客視点での新しいデジタル製品やサービスの開発や収益拡⼤へと移行しつつあることを⽰唆しています。
DX成功の証しは、従来のテクノロジー投資の規模からも垣間見ることができます。例えば、多くの企業は、クラウドやIoTへの投資を通じてデータプラットフォームを構築してきました。クラウドやIoT、AIへの投資効果を⼗分に実感できていると回答した企業の数は、2020年から2022年にかけて54%増加しました。これは、主要なデジタル・テクノロジーの概念実証と事業構想の段階から、上市の段階へと切り替わったことを意味します。
多くの企業は、DXの⾜固めを⾏いながら、利益の実現に向けて進んでいます。
⼗分な資⾦を確保するためには、明確な戦略やユースケース、臨機応変な姿勢が前提となります。今回の調査では、DX戦略を企業⽂化やスピード、明確な役割、検証プロセス、指揮命令系統などの運営体制に結び付ける企業が増えていることが⽰されました。しかし、明確な実⾏計画と経営陣の役割が盛り込まれたDX戦略の策定に関しては、多くの企業が依然として改善の余地を残しています。
デジタル投資の成功に不可⽋なDX戦略を明確に設定していると確信している経営者は、わずか16%にすぎません。しかし、この数字は前回の調査より増加しています(図2参照)。
今後2年間は資⾦調達が容易になると回答している企業もある⼀⽅、半数以上の経営者がDXに対する予算管理や資⾦確保について課題に直⾯しています。例えば、あるライフサイエンス企業は、市場に展開できる89のデジタル製品を有していました。これらの製品のうち、追加的な収益につながったのは25%未満でした。この企業にとって重要なことは、最も価値のあるデジタル製品とサービスに集中することで、テクノロジープラットフォームや必要となるケイパビリティ、参⼊可能な市場を踏まえた明確なユースケースを開発することでした。上記実現を目指し、目標への道筋を明確に定めたことで、CFOは今後3年間の資⾦計画を⽴案することができました。
顧客体験の向上が主要な目標であると経営者は述べており、多くの企業のDXでの優先事項は依然として顧客との関係です。具体的には、42%の経営者が、今後2年間は顧客との関係獲得、関係の維持、顧客体験の向上が最優先事項の1つになると回答しています。また、半数以上(55%)の経営者が、デジタル投資によってポジティブな効果が得られた分野として「顧客体験(CX)の改善」を挙げています。しかし、この分野でより精度が高い予測モデルや個別最適化を行うためには、企業は顧客データを活用する必要があります。
第3章
デジタルリーダーたちは、より洗練されたテクノロジーへの投資を進め、企業文化に配慮しながら、デジタル戦略を策定しています。
デジタル・パフォーマンス・リーダーと呼ばれる一部の経営者グループは、デジタル投資の成功という点で、他社に一線を画しつつあります。
このグループ(126社、調査対象企業の8%)は、(1)2022年に自社のRODIが8%以上になると予想され、(2)自社がデジタル施策の成功により他社をリードすることに確信する企業として定義されています。デジタルリーダーは、アジア太平洋地域(Asia-Pacific)、欧州・中東・アフリカ地域(EMEIA)、南北アメリカを含む主要地域に均等に分布しています。業種は、通信、メディア、テクノロジー、インフラ、ヘルスケアなど多岐にわたっています。
EYの調査によると、デジタルリーダーはデジタル投資のパフォーマンスを追跡し、他社よりも大きな財務的インパクトを生み出し、デジタル投資をより早く成功させる傾向があることが示されています。
デジタルリーダーは、DXの足固めに多額の投資を行い、チームやテクノロジー、データプラットフォームを整備することで、予想を上回る価値創造を実現しています。デジタルリーダーは現在、DXの次のステージに進んでおり、大多数(87%)が、リターンと支出に対するガバナンスとモニタリングのアプローチを一元化しています。
業種や売上高に占めるデジタル投資の割合、投資手段の観点で、リーダーと調査対象となった他社との間に明確な差はありません。しかし、企業文化の観点では明確な違いが見られました。デジタルリーダーの46%が、デジタル戦略を策定する際に企業文化を変えることが必要であると考えています。
一部のデジタルリーダーは以下のように述べています。
市場シェアの拡大や目先の利益を求めて、インオーガニックな投資を選ぶ企業がいる一方で、デジタルリーダーは経験獲得や仮説検証、既存顧客との関係強化、企業文化の変化のためにインオーガニックな投資を活用しています。
デジタルリーダーによる、⾼度なテクノロジーへの投資は際⽴っています。デジタルリーダーによれば、特にロボット化と⾃動化(72%、⾮デジタルリーダー︓36%)、AI(39%、⾮デジタルリーダー︓19%)の分野で利益を上げることに成功しています。多くの企業が引き続き基盤データおよび分析能⼒を改善する中で、デジタルリーダーは、クラウドとIoTへの投資に集中する予定であり、今後2年間にブロックチェーンなどのさらに⾼度なテクノロジーに投資する傾向が⾼くなっています(30%、⾮デジタルリーダー︓20%)。このことは、多くの企業がDXを進めている中で、デジタルリーダーが⼀歩先を進んでいることを⽰唆しています。
競合他社がスピーディーなデジタル投資を行う中、経営者は最適な投資の在り方を判断し、デジタル投資に対する測定可能なリターンを検証することがこれまで以上に求められています。最適な投資判断を通じて、高いRODIを実現することは、前回のDIIから引き続き課題であります。デジタル投資を効果的なものとするために、資本配分は柔軟な戦略と企業文化とともに重要となっています。
次の5つのステップで、デジタル投資戦略を強化すべきです。
EYパルテノンの寄稿者:Isaac Branaum, Shai Eilat, Ankur Sharma, Daniel Weil, Andy Youn and Richard Yang.
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EY-Parthenonの調査によると、企業は多くの資金を引き続きDX関連の取り組みに投資する予定であることが明らかになりました。
数年にわたる大規模なデジタル投資を通じて、企業はオペレーションを見直し、成果を出すことを強く求めています。
デジタル投資に当たってはインオーガニックな手段が選ばれるケースが多いとは言え、オーガニックな手段とインオーガニックな手段を組み合わせすることが成功のカギを握っています。