EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
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リストラクチャリングと再建のプロフェッショナルが、価値の転換、創造、保全、そして回復に向けたサポートを提供します。続きを表示
続きを読むイントロダクションに登壇したEYドイツのAndré Fuchsは、「欧州における経済環境と今後留意すべきリスク要因」について概観。それによると、欧州の産業は現在、いくつもの構造的要因によって高コスト・低成長の状況に置かれ、徐々にその基盤を失いつつあるとのこと。その要因として、以下の5点を挙げました。
① エネルギー面での構造的競争劣位(産業用電力価格は米国の2〜3倍)
② 生産性の成長鈍化(過去10年間で労働生産性が大きく減退。向上率は1%未満)
③ 規制・コンプライアンス負担の増大(OECD平均を上回る規制上の制約に直面)
④ 激化するアジアとの競争圧力(中国が世界の製造業生産の約3割を寡占)
⑤ 人口動態と労働供給制約(生産年齢人口の減少、高齢者扶養比率の上昇)
こうした状況下で企業は危機感を募らせており、CEOを対象としたEY-Parthenonの調査(CEO調査2026年1月期:AI、トランスフォーメーション、成長 | EY Japan)では、ほぼすべてのCEOが大規模な変革に着手、または着手予定と回答しました。戦略的投資を見直すとしたCEOは8割以上。その焦点が、財務レジリエンスの強化、コスト構造の改善、資本の再分配にあることは明白だと、Fuchsはいいます。
また、このような構造的圧力は主要な産業セクター全体に共通するもので、景気後退による一時的な低迷状態ではなく、欧州産業の根本的な役割が変化していることの表れだといいます。したがって、欧州事業におけるビジネスモデルの変革および事業再編は、もはや避けては通れない状況といえます。
しかしながら、労働規制などの法的枠組みが国や業界ごとに大きく異なるなど、欧州における事業再編は複雑にして繊細な事情があり、準備と計画には慎重を期す必要があります。Fuchsは「事業再編を成功に導くには、明確なグローバル戦略と現地での強力な実行力が不可欠」と指摘。それによって早期に行動を起こすなら、危機的状況を好機に変え、欧州における事業基盤を主体的に再構築することができるとしました。
次いで登壇したEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(以下、EYSC)の松恭祐は、「事業ポートフォリオ再構築に関する戦略オプション」をテーマに解説。松によれば、市場や技術の環境変化など数々の経営課題がある中で、「戦略オプション」の検討を迫られる状況にはいくつかの類型があるといいます。すなわち、当該事業の市場環境における立ち位置や、他事業とのシナジー効果への期待値がどう変化しているか、また財務負担、資金繰り、経営資源の状況はどうかといった観点です。
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「それらを踏まえて戦略オプションを検討するに当たり、多くの企業にとって最大の課題となっているのが、意思決定の遅れと準備不足による企業価値の棄損です。方針策定段階で事業仕分けが遅れている間に機会を逃す、実行段階で準備に手間取るうちに業績が低迷する、といった事態が往々にして起こります」(松)
では、それを回避するにはどうするか。松はEYの知見に基づく「事業ポートフォリオ再構築の意思決定におけるフレームワーク」を提示。再建(Fix)か、売却(Sell)か、撤退(Close)か。それぞれの戦略オプションを検討し、最適の判断を下すための枠組みと意思決定のポイントを紹介しました。また、それらを比較分析し、再評価するための視点として、実現可能性、財務インパクト、実行リスク、時間軸などを挙げた上で、事実に基づく定量的な要因に加え、数値に表せない定性的なリスク要因にも目を向ける必要性を指摘しました。
最後に松は海外子会社における典型的な課題として以下の3点を例示。欧州における4つの具体例を紹介する次のセッションへと話をつなぎました。
① 意思決定の遅延(本社側でも経験が乏しく、意思決定プロセスの設定が困難等)
② ガバナンス/コントロール不全(本社からの出向者が詳細な情報を把握していない等)
③ 利害関係者交渉の難易度(顧客への戦略的交渉の経験が不足し、具体像が描けない等)
これらを踏まえてセッションは、EYドイツおよびイタリアの担当者による、Fix-Sell-Closeフレームワークの適用を多角的に示す4つの事業再編事例の紹介へ。以下、それぞれの概要を記します。
報告者:EYドイツ André Fuchs
自動車塗料、産業用塗料などの事業を展開する国際的塗料メーカーの事例。EMEA地域でのEBITDA(金利・税金・減価償却前利益)マージンの向上により、財務パフォーマンスを大幅に改善すること、また将来の成長や買収にも対応できる拡張性ある組織を構築することを目的に支援。この事業は買収を通じて成長してきたものの、統合が不十分で、組織の分断、責任範囲の重複、組織構造の二重化などの問題が見られ、組織全体で非効率や意思決定の鈍化が生じていた。そこで、次の5つの面から改革を行い、成果を確認した。
① 事業およびサポート機能におけるターゲット・オペレーティングモデルの構築
② Go-to-Market戦略の再設計(販売チャネル・自社卸の見直し)
③ 営業効率の向上および顧客セグメンテーションの高度化
④ リーダーシップ体制の見直し(グローバル一体運営とローカル責任の最適化)
⑤ サポート機能(R&D、財務、人事等)の再設計(標準化されたサービス・プロセスの導入)
① EMEA事業のEBITDAマージンを+5%ポイント改善(3年で達成)
② マネジメント層の削減(デレイヤリング・簡素化により約50%削減)
③ 顧客セグメンテーションに基づくGo-to-Market戦略へ転換(収益性重視)
④ シェアードサービス導入、グループ横断のE2E責任により間接機能を効率化
オペレーティングモデルの再構築に際しては、まず、新たに定義した活動領域にのっとり、社員約3000名のタスクを再配分。組織全体における役割と責任の透明性を実現した。次に、リーダーシップとガバナンスを改善。意思決定プロセスや権限・責任を明確にし、中央組織と現地組織の責任範囲の重複を解消。さらに、サポート部門を中心に主要プロセスの標準化、自動化を図るなどして業務プロセスを見直した。
この他、顧客セグメンテーションの明確化と戦略的な顧客選択の実現、営業人員の効率性向上、営業組織の能力強化などを実施。これらの取り組みの総和として、効率的ビジネスモデルの構築、営業生産性の向上、組織の複雑性解消、収益性重視の体制確立などの変革を果たしている。
報告者:EYドイツ Jens Henning Krause
欧州製造業における自動車業界向け部品、および関連のエンジニアリング業務、R&Dプログラムに関する事業再編事例。EV化の進展に伴う需要減少を背景に、製造拠点やR&D部門の稼働率低下や赤字運営、間接コスト増大が続く中、地政学的状況も相まって事業再編を余儀なくされた。主な課題は、市場環境の変化を踏まえ、今後のフットプリントをどう展開するか、事業全体の移管・閉鎖も視野に入れて明らかにすることだった。
① シナリオ策定およびP&Lインパクトのモデリング
② 欧州における生産・R&D拠点の閉鎖/移転の計画・実行
③ 稼働中の生産の移管(グローバル受入拠点、外部サプライヤー)
④ クロスファンクショナル・ワークストリームの統合管理(戦略/オペレーション/税務/TP/法務/IT)
⑤ 設備・機械の移設に伴うランプダウン/ランプアップ計画
⑥ FTE削減の実行および社会対応(ソーシャルプラン)のマネジメント
①年間1500万ユーロのコスト削減を実現
②フットプリント統合の一環として400名のFTE削減実行
③リスク/ステークホルダー管理により、300万ユーロの請求リスク低減
④欧州2拠点の閉鎖/生産集約によりフットプリントを最適化
グローバル事業全体の可視化を目的に、将来に向けた事業シナリオの分析と評価からプロジェクトが始動。欧州組織全体の製造・R&D拠点、間接機能を対象に複数のシナリオを策定、欧州2拠点を移転する方針へと導いた。計画段階では、機密情報の保持、稼働中の生産業務の移管、人員削減・労使協議の準備、各種規制への対応などを実施。顧客への供給確保のため、生産量の維持や在庫の積み増しなども検討しつつ、移転や需要計画に関して顧客と早期に連携した。また、欧州フットプリントの変更が他地域にも影響する事情に鑑み、本社・他事業・第三者の連携にも留意。これらの統合的アプローチにより、欧州事業の安定化と、激動する自動車市場における再ポジショニングを可能にした。
報告者:EYイタリア Tommaso Ascarelli
ニッチな高級車市場において、OEMによる新型車開発をいかに最適化するか。既存モデルの後継車として開発中だったラグジュアリーSUVを対象に、製品再設計と戦略的調達を支援。新たな価値創出とイノベーションを実現した。当初の課題は、現モデルと同等の販売台数・収益性が期待される中、開発期間に猶予はなく、現行の部品やシステムを流用せざるを得ないこと。また、収益性や品質から見て流用は必ずしも最適ではない反面、イノベーションへの要求が高いこと。さらに、調達、R&D、商品企画などの主要部門にサイロ化が見られ、コストや製品の最適化に関するグローバルな知見が不十分、などの課題もあった。
① 車両/競合車両のBOM分析を通じたコスト・仕様の構造的ベースラインの確立に向け、分析用データセットや動的ダッシュボードの構築により高度化を支援
② 全機能領域を横断したアジャイル型Design-to-Costワークショップを実施、コスト最適化施策を体系的に創出
③ 高ポテンシャル施策の優先順位付けとPMOの立ち上げ
① Design-to-Cost施策を300件超創出(全機能領域横断)
② 約60名・10部門が参加する70回以上の構造化ワークショップを実施
③ 新型車でBOM対象の約5%、将来モデルで最大20%のコスト削減ポテンシャルを特定
④ PMO手法/レポーティング体制を構築し、顧客チームへのトレーニングを実施
プロジェクト期間は4カ月。ボディやシャシーなど車両全体の主要領域を対象に、各部門とのアジャイル型技術ワークショップを実践。イノベーションやコスト最適化の機会を創出した。ベンチマークやPMOの手法に関する顧客トレーニングも行いつつ、改善アイデアの創出から施策の優先順位付け、実行へと先導。これら新型車両に用いたアプローチは、他の支出領域や製品にも展開され、年間で約1億ユーロのコスト削減効果が見込まれている。
報告者:EYドイツ Simone Kühl
ITインフラ領域の日本企業に対し、不採算事業部門の売却(カーブアウト)を支援。ビジネスモデルの見直しに重点を置き、特にストック型収益への転換、組織のスリム化、スタンドアロン(独立事業体)としての収益性向上を図ることにより、低収益の事業ユニットを、売却可能な事業へと再構築した。単なる事業売却ではなく、再構築とコスト構造の改善により、事業の持続可能性と売却に向けた事業価値を高め、最適な買い手の選定へとつながった。
① 専任M&Aアドバイザーとして、買い手候補選定/市場アプローチを含む全工程を支援
② フィナンシャル・セルサイド支援
・財務ファクトブック作成、買い手向けQ&A・専門家セッション支援、SPA助言
・スタンドアロン前提での運営モデル設計、スタンドアロンコストの定量評価
③リーガルM&A支援
・法務ファクトブック作成、買い手向けQ&A・専門家セッション支援、SPA助言
④スタンドアロン環境における新体制構築に向けた税務ストラクチャリング
① 適正なバリュエーションに基づく事業売却の実現
② ストック型収益の強化により評価水準を向上
③ 収益性を支えるスリムなスタンドアロン組織の構築
④ インフラ分野の経験を有する最適な買い手を選定(マネジメント機能の補完)
成功の鍵となったのは、チーム横断での徹底した準備。リードアドバイザリー、法務、M&A、財務分析、スタンドアロンモデルの構築が緊密に連携し、高度なワークストリームとして統合した。当初の課題として、EBITDAマージンの低さ、余剰人員、低マージンのハードウェアへの依存、業務プロセスの標準化不足、スタンドアロン計画の欠如などが存在したが、事業再構築後は、ストック型収益を基盤とするスケーラブルなITサービスプラットフォームへと転換を果たす。結果として、この事業売却が、撤退によって多額の退職金コストを負担するよりも、低コストで価値を維持できる選択肢となった。
以上の事例を含め、これまでにEYが経験した欧州における事業再編プロジェクトに基づき、EYドイツのKrauseが成功要因を次のようにまとめました。
① 本社と現地マネジメントとの整合性(優先順位のバランス確保)
相互の尊重、透明性の確保、共通目標に基づく協働モデルを構築すること
② 財務の透明性を通じた信頼構築
数字の可視性を高めることで信頼が生まれ、意思決定の基盤となる
③ 法務・労務・社会的制約に対する現実的な理解と対応
欧州に特有の法制度や社会的要請を現実的に捉えることが重要
④ 複数の専門領域を横断する連携チームによる課題対応
戦略、オペレーション、人事、税務、法務などの専門家による緊密な連携が不可欠
⑤ 文化の橋渡しと円滑なコミュニケーション
日本的な規律と長期志向、欧州の柔軟性と実行スピードを組み合わせること
次に、セミナーは視聴者との質疑応答セッションへ。4つの質問と、それに対する登壇者の回答を以下にまとめます。
プラス面としては、①市場での差別化や競争優位、②補助金、税制優遇、資金調達における優遇条件が利用可能、③エネルギー消費量の低減、④サプライチェーンの強靱化、などが挙げられる。反面、カーボンプライシング制度などによるコスト増大、規制対応による事務負担の増大、サプライチェーンの混乱リスクなど考慮すべき課題もあり、戦略的トレードオフが必要。
在日ドイツ大使館では、財務・経済担当が日本の税制動向を本国に報告しているが、それらが税制優遇措置につながった明確な事例はない。しかし、税制策定において国際動向が注視されることは確か。在日ドイツ商工会議所(AHK)は本国のドイツ商工会議所連合会(DIHK)と密に連携しており、DIHKは水面下において税制政策に強い影響力を持つとされる。
国によってルールや税率は異なるが、基本的に事業譲渡によるキャピタルゲインは法人税の対象。平均税率は約22%。株式譲渡で売却益の全部または一部が非課税になるケースや、EU内の法人を含むグループ再編で、最終的な株主が域外に所在する場合でも課税繰延などが認められる場合も。欧州の状況を包括的に整理するのは至難であり、専門的な支援が必要。
売却単独ではなく、再建や撤退のオプションと相互に連動するものとして検討することが重要。例えば、再建策によって収益性などが改善すれば、売却する場合の価値や実現性も高まる。売却への移行時期は、経済合理性と資金耐久力のバランスで判断。売却の成否は、スタンドアロン設計や財務分析などの事前準備によって大きく左右されることに留意。
以上、すべてのセッションを終え、ファシリテーターを務めたEYSCの大曲達夫が、経営課題の早期解決に向けた事業ポートフォリオ見直しの重要性を確認してセミナーは終演しました。
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資本コストや株価を意識した経営への要請が高まりを見せる中、グローバル企業の多くが価値向上に向けた事業ポートフォリオの再点検を実施しています。状況を見極め的確に戦略オプションを選択し、迅速な意思決定で施策を実行しなければなりません。そのためのフレームワークをどう構築するか。欧州の成功事例に学ぶことは多いといえます。
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