欧州における付加価値税のデジタル化と税務DXの必要性

欧州における付加価値税のデジタル化と税務DXの必要性


欧州ではVATのデジタル化が急速に進行しています。

E-インボイス/E-レポーティング制度がEU加盟国において導入され、2030年には一斉にクロスボーダー取引に関する電子化制度が導入されます。欧州におけるビジネスおよび税務機能に大きな影響を与えることから、日系企業はこの変化をどのように捉え対応すべきでしょうか。EY税理士法人インダイレクトタックス部パートナーの岡田 力、ディレクターの古市 泰之と、EYのアムステルダム事務所で欧州付加価値税を専門とするノエ 春菜が議論しました。


要点

  • VATのデジタル化の義務化: 欧州では取引ごとにリアルタイムでE-インボイスやE-レポーティングを提出することが義務化され、税務当局は取引を可視化し、効率的なVATの徴税を実現。
  • VATコンプライアンスの重要性: 誤った請求書の発行や不正確な情報の送付は、顧客との関係を含め企業に深刻な影響をもたらす。電子化によりVAT上の税務調査リスクが増加するため、リスクマネジメントが重要。
  • 事業継続性への影響: 電子義務化により、E-インボイスが正式書類となる。正確な情報がないと、請求書が発行できなくなり、事業継続に直接影響を及ぼしうる。電子化の影響は税務にとどまらず、財務、IT、事業部などとの広範な連携が必要。


デジタル化の進展

ノエ: 欧州ではVATの申告のデジタル化が進んでおり、取引ごとにリアルタイムで情報を「E-インボイス」や「E-レポーティング」として提出することが義務化されています。この電子化により、税務当局はVAT取引を可視化し、税務調査を効率化することにより、VATの徴税を向上させる狙いがあります。


岡田: 特に、2020年の未徴収VAT額は約990億ユーロに達しており、徴税額を上げることは欧州における深刻な課題です。デジタル化はこの課題を解決するための重要な手段です。

 

コンプライアンスの重要性

古市: VATは日本の消費税に似ていますが、当局の厳しさは日本とは比べ物になりません。正しい情報が載った請求書がないと、顧客側で還付が受けられないなど、誤った請求書の発行や不正確な情報の送付は、顧客との関係にも影響を及ぼします。

岡田: この電子化は日本のデジタルインボイスのような「オプション」ではなく義務であり、電子化ができないと請求書が発行できないため、事業継続に直接影響します。

岡田 力
インダイレクトタックス部 パートナーの岡田 力

税務機能運営改革

ノエ: 本制度では、税務機能の運営方法を根本的に変える必要があります。
 

a. ITとの連携

ノエ: まず、税務コンプライアンスのプロセスが一変します。取引データを取引時に提出するため、取引前に基幹システムに正確なデータを組み込む必要があります。特に、欧州のVATは取り扱いが複雑であるため、従来のように確定申告時にVATの取り扱いを見直しデータを修正する方法では、もはや手遅れとなります。つまり、リアルタイムでのデータ管理が求められるのです。
 

古市: さらに、欧州各国に応じて求められる形式でデータを送受信できるシステムの導入は不可欠であることから、ITとの連携が今まで以上に重要になってきます。企業は、電子化義務に対応するためのシステムを整備し、税務部門とIT部門との協力を強化する必要があります。
 

b. 税務調査リスクの増加 

ノエ: 電子化の進展に伴い、税務調査リスクが増加することが予想されます。リアルタイムで提出される情報は、税務当局によって即座に分析され、誤りや不正があれば迅速に指摘される可能性があります。
 

古市: そのため、企業は正確な情報を提供するための体制を整える必要があります。特に、請求書の内容や取引データの正確性が求められます。顧客側では正しい請求書に基づいてのみ還付請求ができるため、誤った請求書の発行は顧客との信頼関係にも影響を及ぼすことになります。
 

岡田: また、税務調査に備え、適切なドキュメンテーションを準備しておくことが重要です。調査対応のための準備を怠ると、企業にとって深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に、日本とは異なり、欧州ではその税法の複雑さからVATに特化した税務調査が行われるため、日本の税務調査(法人税を中心とした税務調査)の感覚で対応してはいけません。税務部門はリスクマネジメントの戦略を練り、税務調査の対応策を事前に検討しておくことが求められます。

古市 泰之
インダイレクトタックス部 ディレクターの古市 泰之

税務DXの必要性とビジネスチャンス

ノエ: このように、IT部門との連携や税務調査リスクの増加は企業にとって新たな課題ですが、適切な対応を行うことでリスクを軽減し、信頼性を高めるチャンスでもあります。企業はこの変化を受け入れ、税務DXを進めることで、税務リスクを管理しつつ競争力を維持することが可能です。
 

さらに、電子化義務化により集めたデータをビジネスに役立て、企業の意思決定を迅速化することが期待されます。プロセスの見直しを行い、標準化および自動化を進めることで、税務業務における単純作業を減らすことができます。
 

古市: この電子化は欧州のみならず、世界各国でも広がる動きですよね。
 

岡田: そうですね。今後の動向を勘案し、グローバルで事業を展開する日本企業はこの変化を積極的に捉え、戦略的に対応することで競争力を高めることが求められています。正確なデータ管理とテクノロジーの活用が今後の成功の鍵となるでしょう。欧州VATの電子化義務の対応が、税務DXをグローバルに進めるきっかけになると思います。

ノエ春菜
EY Belastingadviseurs BV(オランダ) インダイレクトタックス部 シニアマネージャーのノエ 春菜

岡田、古市、ノエ: EYでは最新の税法の知見、マーケットでの経験およびテクノロジーを駆使して、End to Endでグローバルにサポートできる体制が整っています。企業が世界の税環境の変化に適応し、成功を収めるための強力なパートナーとして全力で支援いたします。

岡田 力、ノエ春菜、古市 泰之


【共同執筆者】

EY Belastingadviseurs BV(オランダ)  
インダイレクトタックス部 シニアマネージャー ノエ 春菜

※所属・役職は記事公開当時のものです。

 

サマリー 

税務DXの必要性と好機: VATのデジタル化は企業の税務DXの必要性を加速させます。VATのデジタル化対応による正確なデータ管理を通じて企業の意思決定は迅速化されることから、企業の競争力を高める税務DXの好機となるでしょう。


EYの最新の見解

世界で導入が進む電子インボイスにとってViDAが持つ意味とは

欧州委員会が2022年に公開した「デジタル時代のVAT(ViDA)」に対する提案は、グローバル企業とその税務部⾨に⼤変⾰をもたらすものです。


    グローバルVATコンプライアンスレポーティング(GVRT)

    拡張性を備えたクラウドベースのプラットフォームで、税務におけるデータの準備、報告、トランザクション処理を包括的に行うことができます。

    EYグローバルタックス電子インボイスソリューション

    軽快なクラウドベースのSoftware-as-a-Service(SaaS)モデルを通じて、迅速にタックスインボイス処理ができます。


    ワールドワイドなVAT、GST、SUTガイド

    150の国・地域(管轄区域)における付加価値税(VAT)、物品サービス税(GST)、売上税(SUT)の仕組みをまとめて掲載しています。

    E–invoicing Developments Tracker

    世界各国・地域における電子インボイスの動向を確認できます。(英語のみ)


    この記事について

    執筆者