変化の時代を勝ち抜くCFOのための次世代税務DXと税務・関税ガバナンス

変化の時代を勝ち抜くCFOのための次世代税務DXと税務・関税ガバナンス


税務・関税ガバナンスは単なるコンプライアンス対応を超え、BEPS 2.0や地政学リスク対応の高まりにより、企業価値を左右する経営アジェンダへと変貌しています。

日系企業が直面する課題と、AI・テクノロジーを活用した「攻め」の税務機能への進化について、EY税理士法人の進谷敏一、山口君弥、原岡由美と、EY Japanの葉映秀が議論しました。 



要点

  • グローバル税務機能の高度化:
    従来のルーティン業務主体の組織から、ビジネスの意思決定を支援する高付加価値組織への転換が、不確実な時代における急務である。

  • 関税コストの戦略的な管理を目的とする関税ガバナンス:
    関税を「管理すべきコスト」と再定義し、他税目との関連性も踏まえた恒久的な統治体制を構築することが、企業のレジリエンスと利益率向上に直結する。

  • 業務標準化を起点とした税務DXと組織体制の再構築:
    AI活用による効率化・品質向上を実現するため、属人化したExcel業務の標準化によるデータ基盤を整備するとともに、コソーシングを活用して人材不足や投資リスクを補完し、経営アジャイルな体制を構築する。

1. グローバル税務を取り巻く環境変化と「攻め」の税務戦略

葉:近年、グローバル事業を展開する日系企業において、税務を取り巻く環境は急激に変化しています。複雑化する国際情勢下で、税務機能にはどのような変化が求められているのでしょうか。
 

進谷:日系企業の皆さまと接する中で、この1年を象徴するキーワードは「BEPS 2.0(新たな国際税務ルール)」、「地政学リスク」、「AI活用」の3点です。特に米国の関税政策が象徴するように、税務はもはやコンプライアンス対応の域を超え、ビジネスの根幹に直結する経営課題となっています。税務部門はこれまで以上にビジネスサイドと密接に協業し、税務の体制・プロセスを戦略的に構築し、ビジネスに貢献していくことが求められています。


EY Japan グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティングリーダー EY税理士法人 大阪事務所長 パートナー 進谷 敏一
EY Japan グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティングリーダー EY税理士法人 大阪事務所長 パートナー 進谷 敏一

葉:ビジネスへの貢献が求められる一方で、現場のリソース配分には依然として課題があるようですね。

進谷:はい。現在の日系企業の多くは、日常的な申告書作成や税務調査対応や子会社管理などに多くの時間を占有され、税務プランニングなど高付加価値業務に割けるリソースが不足している、いわば「正三角形」の業務構造になっています。今後、さらなるリスクが発生すると、コンプライアンス関連業務が増加し、税務機能を高度化しづらくなり、結果として組織としてのポテンシャルを十分に発揮できなくなってしまいます。

日系企業における税務業務構造の実態(EY作成)
日系企業における税務業務構造の実態(EY作成)

葉:理想的な姿として掲げられている「逆三角形型」の組織へ転換するには、どのようなアクションが必要でしょうか。


EY Japan株式会社 クライアント・アンド・インダストリー ディレクター 葉 映秀
EY Japan株式会社 クライアント・アンド・インダストリー ディレクター 葉 映秀

進谷:鍵となるのはテクノロジーと外部知見の戦略的活用です。データ・AIを活用して業務を標準化するとともに、コソーシング(共同業務実施)を導入することで、高度な専門性を確保しながら企画などの高付加価値業務により多くの時間を割ける組織体制を構築すべきです。税務を財務機能の中核として再定義し、価値創出に貢献する「攻め」の組織へ変革できるかが重要な分水嶺となるでしょう。


2. 地政学リスク時代に求められる関税ガバナンスの新たな考え方

葉:米中貿易摩擦や米国政府の追加関税措置など、地政学リスクがサプライチェーンに与える影響は深刻です。関税管理が経営の最優先事項の一つとなる中、実務の最前線はどう変化していますか。

原岡:関税は物品が国境を越えるたびに課されるため、製造・販売原価に算入され、税引き前利益にダイレクトに影響を及ぼします。それほど経営に近いコストであるにもかかわらず、日系と欧米の関税管理へのアプローチには、依然として大きな開きがあります。

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EY税理士法人 インダイレクトタックス パートナー 原岡 由美
EY税理士法人 インダイレクトタックス パートナー 原岡 由美

日系企業の多くは関税を「正しく支払うべき公租公課」と捉え、物流部門が管理するため、グローバルの総支払額を把握できている企業はまれです。一方、欧米企業は、古くから関税を「管理すべきコスト」と定義しています。本社に関税専門部署を置き、コスト削減の視点で関税戦略を立案・実行しているため、追加関税措置の際もいち早くコストインパクトを試算し、生産拠点の切り替えといった経営判断を迅速に下せるのです。

葉:日系企業も、経理・財務・税務部門が主体的に関税に関与すべき段階に来ているということですね。

進谷:その通りです。これまではビジネスサイドの個別事象と見なされがちでしたが、現在は、経理・財務・税務部門が一体となってガバナンスを効かせるべき経営アジェンダとなっています。関税は法人税やVATといった他の税目に密接に関係するだけでなく、財務諸表へ多大な影響を与えるものであるため、経理財務部門が適切に管理する体制へとシフトしていくのではないでしょうか。

原岡:重要なのは、有事の際の一過性の対応で終わらせないことです。地政学リスクは多角化・恒久化しつつあり、日系企業も関税管理の恒久的な組織機能化を目指すべきです。実際、関税管理の部門を立ち上げようとしている企業も増えており、この傾向は今後続くと思われます。

 

3. AI・テクノロジーが変える税務DXの実践と業務変革

葉:近年、AI・テクノロジーの活用は単なる効率化の手段ではなく、複雑化する税制や地政学リスクに対応し、グローバル競争を生き抜くための必須条件へと変貌しています。現場ではどのような実装が進んでいるのでしょうか。

山口:税務領域におけるAI活用は、大きく「業務プロセスの効率化」と「ナレッジの集約・活用」に集約されます。前者では、従来、多言語のデータから情報を抽出する作業に高度な専門性と手作業を要していました。現在はAI-OCRと生成AIを組み合わせることで、情報抽出からアウトプット作成までを自動化し、人的エラー排除と透明化を同時に実現しています。後者では、税務担当者の知見や判断結果の情報をAIに集約することで、モニタリング、AIチャットボットによる相談業務代行、パターン予測を用いた判断業務などの自動化が進んでいます。こうしたAI活用は、リソース制約の解消だけでなく品質向上にも大きく貢献しています。

EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション パートナー 山口 君弥
EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション パートナー 山口 君弥

葉:AI・テクノロジーの活用は、単なるツール導入ではなく、組織デザインを見直す契機となりますが、先端技術の活用はただちに税務DXの成功に直結するのでしょうか。

進谷:実は、そこには日系企業特有の障壁があります。近年、特にクライアントの皆さまからの相談が増えているのが「Excel業務の標準化」です。多くの企業では、何十年以上にわたって使い継がれてきた膨大な数のワークファイルが積み上がっており、新たな担当者が複雑な関数やデータの引用元を理解するだけでかなりの時間を要してしまうという実態があります。一足飛びにAI実装を目指すのではなく、まずは膨大なファイルを集約・整理し、業務プロセスを徹底的に標準化・見える化する「土壌づくり」が不可欠です。

 

4. 変化する環境に対応する次世代の税務オペレーティングモデル

葉:データをどう活用し、人材をどう配置するかといった設計が、今後のグローバル税務ガバナンスの大きなテーマとなりそうです。企業は税務機能のオペレーティングモデルをどのように変革していくべきでしょうか。

山口:限られたリソースの中で税務機能を最大化するため、グローバルレベルで「税務機能を再定義」するニーズが高まっています。最近のトレンドとしては、経理と税務を切り離し、さらに税務部門内を税目別ではなく「コンプライアンス」と「企画・案件対応」という機能別に再編する動きもあり、自社の状況に合わせて多様なモデルが模索されています。

進谷:重要なのは、税務機能を「経営アジャイル」な組織へとシフトさせることです。申告書の作成や税務調査への対応といった「守り」の姿勢から、データを戦略的に活用してビジネスサイドに貢献する「攻め」の視点への転換が求められます。

税務オペレーションモデルの変革における優先事項(2025年EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査より)
税務オペレーションモデルの変革における優先事項(2025年EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査より)

一方で、高度な税務人材を自社で育成・維持し続けることは、労働人口の減少もあり年々困難になっています。また、AI・テクノロジーへの継続的な投資も、一社単独で対応するには大きなリスクを伴います。そこで有力な選択肢となるのがコソーシングです。これは単なる従来の業務委託(アウトソーシング)とは異なり、外部パートナーが持つ最先端技術やグローバルな知見を共有・活用する戦略的な協業モデルです。EYが2025年に実施したサーベイ「EYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査(P.47参照)」によると、日系企業の約63%が、コソーシングの将来的な活用の可能性を示唆しています。コソーシングを通じた、変化に柔軟に対応できるビジネスモデルへのシフトこそが、企業の競争優位性を左右する鍵となるでしょう。

葉:変化を後追いするのではなく、変化を前提とした組織づくりが重要なのですね。

EYでは、最新の知見とテクノロジー、ならびにグローバルな人材基盤を駆使し、企業のオペレーティングモデルの変革を支援してまいります。変化を前提とした経営環境のもと、企業が持続的に競争力を高められるよう、価値創出の実現に向けて共に取り組んでまいります。

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サマリー 

不確実なグローバル環境下で、税務・関税情報を迅速にインサイト化するガバナンス体制は、企業の競争優位を決定づける成長ドライバーとなります。AI・テクノロジー活用によるプロセス標準化、そして戦略的な外部協業が次世代の企業価値創出への道筋となります。


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