労働力減少社会の現場課題を解決する税務アウトソース事例とは

労働力減少社会の現場課題を解決する税務アウトソース事例とは


労働力が減少する経理・税務の現場では、業務標準化やデータ構造化の重要性が高まっています。

EYビジネスパートナー株式会社(以下、EYBP)のソリューションの一つ、「ワークファイル(表計算ソフト)標準化」(以下、ワークファイル標準化)について、三菱商事株式会社の事例を通じて紹介します。


要点

  • 労働力不足が深刻化する経理・税務の現場課題を、業務標準化やデータ構造化で解消する。
  • EYBPが提供する「ワークファイル標準化」ソリューションを活用することで、業務の単純化・効率化が可能に。
  • ソリューションを導入した三菱商事株式会社の税務チームは、属人的な作業から解放され、分業やノウハウの継承を実現。




※本記事は、2025年6月3日開催のウェブキャストの概要をまとめたものです。所属・役職はウェブキャスト開催当時のものです。

※ウェブキャスト(要登録、2026年6月2日までオンデマンド配信)は、こちらでご覧いただけます。



Ⅰ. 労働力減少社会におけるデータ構造化の必要性
 

“所有から共有へ”を掲げるEYビジネスパートナー株式会社(以下、EYBP)は、EYの専門性とテクノロジーを活用した業務集約・BPOサービスを通じて、企業のサステナブルな成長を支援しています。ソリューションの一つである「ワークファイル標準化」について、同社アソシエートパートナーの横井太一が解説します。
 


労働人口減少期における、バックオフィス業務の課題
 

日本では労働人口減少が深刻化する一方、コロナ禍を受けたクラウドテクノロジーの一般化により、働き方の多様化が進みました。その結果、企業ではバックオフィス部門の負担が急増し、業務集約化やBPOサービスに注目が集まっています。
 

労働力不足の中で特定の担当者に業務が集中すると、ノウハウが属人化・ブラックボックス化する“キーマンリスク”が増加します。こうした課題を解消し、環境変化に対応するために必要なのは、各社がシステムや業務プロセスを独自に構築する“自前主義”からの脱却です。必要な機能をオンデマンドで調達する“所有から共有へ”が、今後の世界ではキーワードになるでしょう。
 

業務集約化やBPOのノウハウを豊富に備えるEYBPは、顧客企業のサステナブルな業務を実現させるベストプラクティスを提供しています。今回紹介するのは、キーマンリスクを解消するソリューションの一つ、「ワークファイル標準化」です。

Building a Better Working World(より良い社会の構築を目指して)- 所有から共有へ

「ワークファイル標準化」のソリューション内容

経理・税務領域は、AIによるオートメーション化が長らく予測されてきましたが、現時点では多くの業務に人の手が介在しています。例えば、ERPやDWHなどのシステムに、内容や形式の異なる膨大なデータを投入する際は、人によるオペレーションを経由しなければなりません。このプロセスでは表計算ソフトによるデータの複雑な加工や集計が必要ですが、ノウハウは各担当者の頭の中に存在するため、テクノロジーの応用は困難です。また、個々の担当者が表計算ソフトツールの改修を重ねた結果、書式やシート構成、命名規則などが不統一になり、作業効率の向上が阻害されます。さらに、データの増減に伴う行列追加や関数の修正を失念することで、オペレーションミスも発生します。

労働人口減少社会へ向かう過渡期のソリューション

この課題にアプローチするのが、EYBPの「ワークファイル標準化」です。属人化したノウハウをデータ化・構造化することで、従来の業務をダウンロード、コピーアンドペースト、アップロードという単純なプロセスに置き換えます。第三者でも再現できるようになり、ジュニア社員や外部人材でも安定した業務が可能になります。将来的にはロボットにも代替できるため、大幅な効率化を期待できます。

労働人口減少社会へ向かう過渡期のソリューション

具体的に用いられるのは、EY独自のメソドロジーです。ワークファイル標準化では、データ・処理の流れを解析し、統一されたルールを適用してワークファイルを再構築します。シートごとに役割・目的が定義され、処理内容も文書化されるため、入力者は作業手順シートに基づく単純なインプット・処理を行い、管理者はアプトプットファイルとチェックシートを見るだけで、オペレーションを遂行できます。その結果、業務の分業化、ノウハウの円滑な継承が実現します。

EYメソドロジーに基づいたExcelワークファイル標準化 あるべき作業ファイルの基本構成

同ソリューションでは複雑性を排除すべく、PIVOT Table、Filter機能、外部参照リンクを使用しないなど、詳細なルールを設けています。手作業で加工せざるを得なかったデータの結合や重複排除、特定条件を満たすデータの抽出などは、全て関数に置き換えることで、集計処理を自動化。データ入力のみで作業を完結させることが可能になります。さらに、シート・セル配色の統一、1シート=1業務など、ファイル作成方法のルールに統一のルールを適用することで、入力作業を簡易化します。

ウェブキャストのオンデマンド配信では、作業ファイルの基本構成、標準化の基本ルールなど、ソリューションの詳細を解説しています。


Ⅱ. 三菱商事株式会社の税務アウトソース事例
 

EYBPのワークファイル標準化は、多くの企業で導入されています。税務チームでソリューションを活用している三菱商事株式会社の押尾 美帆 氏(主計部 税務チーム マネージャー)に、現場視点での活用事例を紹介していただきます。
 


税務チームが抱えていた課題
 

三菱商事株式会社の税務チームは、会社全体の会計処理や財務報告を担う主計部に所属しています。主な役割は決算・申告業務、調査・係争等対応業務、税制改正要望、営業グループ支援であり、期日の厳守や迅速な対応を求められるのが特徴です。そのため私たちは、決算・申告業務を中心としたルーティンの作業を短縮し、クリエイティブかつ付加価値の高い業務にリソースを集中させることを目指していました。
 

税務チームは国内ライン約10名、国際ライン約10名の合計約20名で構成されます。当社の財務・経理領域では人材ローテーションを取り入れており、一名当たりのチーム所属期間はおおむね3~5年。さらに国内・国際の両ラインを経験させる人材育成方針もあるため、決算・申告業務において同一費目を担当できるのは、わずか1~2年です。各作業の担当者は多岐にわたり、引き継ぎも負担になっていました。

三菱商事株式会社  税務チーム組織体制

こうした中で着眼したのが、属人的だった税務業務を、第三者でも再現可能にすることです。決算・申告業務における表計算ソフトのワークファイルは72領域80個に及び、作業は各担当者に委ねられていることから、形式が複雑化していました。税制改正への対応、歴代担当者による改変が重なるたびに、コメントによる分析やポイントの記入、セルへの着色、他部署とのメール履歴の貼り付けなど、さまざまな要素が加わり、別の担当者が確認・作業できない状況でした。


ワークファイル標準化のプロセス

この課題をEYBPに共有したところ、ワークファイル標準化を提案されました。説明されたコンセプトに共感したものの、手元にあるワークファイルがどのように仕上がるかをイメージできなかったため、まずはプロトタイプの作成を要望。複雑さに応じて「Simple」「Medium」「Complex」と区分された80ファイルの中から、「Medium」のプロトタイプを提出してもらいました。統一化・簡素化における高いクオリティを確認できたため、正式に導入を決め、他のファイルにも展開していきました。

三菱商事株式会社さまにおけるExcelワークファイル標準化と税務アウトソース事例

実装のプロセスには約1年半を費やし、フェーズを三つに分けて着実に進めました。一つ目の「ワークファイル標準化」は、メソドロジーを適用してワークファイルを再構築するフェーズです。チームメンバーに向けては、メソドロジーの本質や関数など、表計算ソフトの最新動向に関するトレーニングも用意され、ノウハウの底上げを実現できました。

二つ目の「ワークファイルメンテナンスプログラム」は、ファイルのメンテナンス方法を理解するフェーズです。標準化が完了した後も品質を維持するには、自社の力で法改正やシステム更新に対応しながら、ワークファイルを管理していかなければなりません。その力を身に付けるため、チームメンバーがワークファイルを用いたシミュレーションを行い、EYBPがレビューをするトレーニングを実施しました。メンテナンスプログラムを経たことで、本年度からは軽微な修正を自力で行える見込みです。

三つ目の「税務業務アウトソース」は、税務データプレパレーションから税務申告まで、全ての業務をアウトソースに切り替える試みであり、EYBPの提案のもとで現在進行中です。ワークファイルの標準化により外部リソースの活用が可能になったため、決算・申告業務の大幅な業務短縮に挑戦したいと考えています。


ソリューション導入の効果

一連のソリューションを導入した結果、作業者、レビュアーともに業務効率が格段に向上。税務チームの年度末決算関連業務は10営業日と多忙を極めるのですが、これまで会計仕訳に圧迫され、満足に実施できていなかった分析業務に1.5日もの時間を割くことができました。今後も業務プロセスを見直し、注力すべき業務を強化していく方針です。

今回の標準化プロセス全体を振り返ると、要件定義が重要だったと感じます。表計算ソフトに精通するパートナーとの協業では、ファイルを渡し最適化してもらう方法もありますが、EYBPには課題の本質から相談できました。各部署におけるマスターデータの作成フローなど、表計算ソフトの外側にある業務プロセスも共有し、ともに最善策を探っていきました。

経理・税務の業務には定性的なプロセスも多く含まれ、一次情報を所有する他部署と連携する以上、社内の関連ファイル全体を見直す必要があります。双方が実情を理解することは、持続的なワークファイルの維持・管理、プロジェクトの成功につなげる上で重要です。適正なトレーニングも提供されるため、ノウハウの蓄積にも役立っています。


Ⅲ. 経理・税務の未来を開く、暗黙知のデータ化
 

三菱商事株式会社の事例に見るように、経理・税務関連業務の業務標準化とデータ構造化は、現場課題の解決に寄与します。労働人口が減少するとともに、現在はジョブローテーションの普及や人材の流動化も進んでおり、専門領域の人材を継続的に確保することは困難です。採用市場や外部リソースに依存できない状況においては、業務集約化・BPOノウハウを短期集中的に取り入れ、自社リソースのみで継続できるサイクルを構築することが効果的です。
 

そして、将来的なAIの普及も視野に入れるならば、現時点から自動化に向けた素材(データ)の準備や暗黙知の言語化などに取り組むことは有効です。今回の事例のように、データの構造化を着実に進めることは、本格的なAI活用への準備につながります。テクノロジー活用の土台を築き、人口減少の過渡期に備えることで、サステナブルな企業成長が実現されていくでしょう。
 

EYBPはデータや先進テクノロジーの活用により、クライアントが確信を持って未来を形づくるための支援を行い、課題の本質を見極めた的確な対応策を打ち出しています。セミナー、特集記事などを通じた情報発信にも注力していますので、ぜひご活用ください。



EYの最新の見解

「属人的なExcelワークファイル」など“キーマンリスク”と人手不足の課題を解決。業務集約・BPOサービス導入に成功する方法

労働力人口の減少問題は、日本社会全体の課題でもあり、災害リスクなどとは異なり、将来の予測が可能な現実問題です。企業側はその対応について、早々に準備を進めることが重要です。

    関連イベント・セミナー

    労働力減少社会に向き合う② 三菱商事株式会社さま税務アウトソース事例にみる業務標準化とExcelデータ構造化の重要性

    本ウェブキャストでは高度な専門性が必要とされる税務業務における同課題感から、必要データの収集・加工から申告までをアウトソースされた三菱商事株式会社・税務チームさまの事例をご紹介します。その過程で大きな役割を果たした、業務標準化とExcelデータ構造化について解説いたします。

    労働人口減少社会に備えた「これからのファイナンス組織の在り方(Future of Finance)」

    少子高齢化等により人材リソース確保が難しくなる中で、開示やコンプライアンス対応への社会的要請は高まっており、ファイナンス組織にかかる負荷は増大する一方です。そうした中、限られた自社リソースで運営可能なリーンかつサステナブルな組織運営を目指すことが重要な要素となります。 本セミナーでは、企業を取り巻く環境変化に対し、課題解決のアプローチや他社取り組み事例のご紹介と、生成AI等の先進技術を踏まえたファイナンス組織の将来像についてご説明いたします。


      サマリー 

      労働力が減少する経理・税務の現場では、業務標準化やデータ構造化の重要性が高まっています。EYBPはデータや先進テクノロジーの活用により、クライアントが確信を持って未来を形づくるための支援を行い、課題の本質を見極めた的確な対応策を打ち出しています。


      この記事について