EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
しかし、税務部門がその議論の場に参加する機会は限られます。EY Global Sustainability Tax Leader を務めるCathy Kochが、税務部門をESGの議論に巻き込むべき理由を解説します。
要点
この数年、税務方針の策定や税に関する取り組みを開示する日本企業が増えています。特に2020年以降の気候変動を中心としたESGに関する要請の高まりに応じて、税務ガバナンスの高度化や開示範囲の拡大による透明性の向上を図る企業もあります。しかし、サステナビリティ指標やESG格付において税務がガバナンスの評価指標の一部に組み込まれていることから、日本企業の税務部門によるESGの取り組みや税務ガバナンスに止まっている傾向があります。
カーボンプライシングへの対応と影響分析、地域社会への貢献とその開示などの議論が日本でも進められる中、企業が求められる気候変動に伴う事業変革、税額控除、優遇税制の活用といった税務戦略は、ESG全体に影響すると考えられます。企業の持続的な成長目標を達成するために、税務部門のさらなる関与が求められています。
企業の経営者は、環境・社会・ガバナンス(environmantal, social and governance、 「ESG」)の取り組みを通じて株主価値の向上およびステークホルダーの支持を獲得しようとする姿勢を強化しています。しかし、この戦略において税務部門が果たすべき役割が見過ごされ、十分活用されていない状態が散見されます。
地球規模の気候変動からステークホルダー資本主義の台頭、人種的公平と社会的公正のための努力に至るまで、昨今の市場と社会の相互作用の高まりにより、企業のESG戦略の重要性が増しています。ESGは「サステナビリティ(持続可能性)」や「企業責任」の同義語として使用されることが多く、この用語には、企業の短期的価値および長期的価値に影響を及ぼす多様な問題が含まれます。
顧客や従業員といったステークホルダーは、企業のESGに関する取り組みやメッセージの発信に常に注目しており、そうした姿勢は強まる一方です。EYの調査によると、投資家は自己の投資判断にかつてないほどESGを組み込んでいます。消費者も、企業によるサステナビリティや社会問題に対する取り組みについての情報を基に購入やブランドロイヤルティーの判断をしています。1
時代に取り残されないためには、企業はバランスの取れた、思慮深いESG戦略を経営上のDNAに組み込むことが必要です。そして税務部門は、そのESG戦略を策定する上で果たすべき役割を担っています。
税務部門はこれまで、企業によるESG戦略を巡る対話に関わってきませんでした。しかしながら、税がESGの問題と交わる場面が増えており、とりわけ「企業の実効税率や税務方針」、「税金を財源とするサステナビリティおよび社会政策を支持する姿勢」、「二酸化炭素排出量および気候変動の緩和に関する戦略」、「利用可能な優遇税制および税額控除の利用を巡る意思決定」、「税務全般に関する透明性と報告」を巡る場面で、その関わりが顕著になっています。税金は、経済や政策の転換を促す手段として(そしてその財源として)使用されることが多く、税務、税制優遇措置、税情報の開示を巡る企業の意思決定は、そのESG戦略と関わりがあります。
また、多種多様なESGの報告指標があるため、企業はさまざまな事実や数値を多様なグループに向けて報告していることが、かえって税務リスクや評判リスクを高めかねません。ESGの報告に関するエコシステムを形成する主なプレーヤーとしては、ESGの開示に関する指針を定めている企業報告の基準設定機関、公開データを整理しアンケート調査を通じて企業からデータを収集しているデータ収集機関、公開情報や非公開情報を基に企業を評価し、それを投資家へ提供する格付機関、証券取引委員会(SEC)などの規制機関が挙げられます。2
多くの課題に対処するため、税務部門は企業によるESG関連の意思決定に伴う課税関係の検討、解釈、および発信に資するべく議論の場に参加する必要があります。そのためには、その企業の価値提案、またそれらの要素が企業の税務方針にどのように反映されているかを理解する必要があります。
企業によっては、既存のESGに関する戦略や情報発信に税務の観点を組み込めば足りる場合もあります。その他の場合は、自社の現状とESGに関する未来像を詳しく分析する必要があります。企業のESG戦略に税務を組み込む際に確認すべき問いを次のように列挙してみましょう。
以上の問いは全てを網羅しているわけではありませんが、企業のESG戦略における税に関する要素を明確に定める際の指針となり得るでしょう。
ESGが企業の事業戦略における中核を占めるようになるにつれて、税務はESGに関する方針および報告を明確に定める際に一定の役割を果たすと考えられます。税務方針および税情報の開示に対する全般的な方針を表す企業の「税務上の信条」は、ESG方針全般に組み込み、反映させる必要があります。こうした方針は、企業のコーポレートガバナンスに組み込み、企業全体に広く周知する必要があります。
税務部門は、企業のESG戦略に関する議論の場にまだ参加していないのであれば、検討の場に加わり、情報発信の管理、ESG関連の決定に伴う課税関係に関する経営幹部への報告、潜在リスクの評価に貢献する必要があります。このような検討に税務部門を巻き込んでいる企業は、潜在リスクを管理し、各種機会を特定し、ステークホルダー、顧客、規制機関へESGと税の関わりについて情報発信できる態勢が整っていると考えられます。
Kathy Schatz-Guthrie氏、Andrew Phillips氏、Brandon Pizzola氏、Rachel Strong氏が、今回の執筆にあたり、貢献してくれたことに感謝の意を表します。
注釈
参照ページ
原文:“ When Formulating ESG Strategy, Don’t Forget to leverage your tax Department” published by Corporate Compliance Insights on June 24, 2021
ey.com(US):“ Why organizations should enlist the tax department in designing ESG strategy”
企業のESGに関する取り組みが注目を集める一方、税務部門はその議論の場から遠ざかっていました。しかし、ESG戦略に関連する経済や政策の転換を促す手段または財源として税金が使用されることは多く、税務部門はESG関連の意思決定に伴う課税関係の検討、解釈を積極的に発信していく必要があります。
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