EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
これは、よりユニバーサルに通信環境が整備されることを意味し、社会全体の自動化・高度化を一層進めることにつながり、これまで実現できなかったサービスやソリューションの登場が見込まれます。
要点
5G (第5世代移動通信システム)の敷設や6G(第6世代移動通信システム)の実現に向けた研究開発等、通信ネットワークの高度化が進む中で、衛星通信NTN (Non-Terrestrial Network)についても通信各社の積極的な投資傾向が見受けられます。
NTNは主に、静止軌道衛星(GEO)、低軌道衛星(LEO)、高高度プラットフォーム(HAPS)が存在しますが、それぞれ配置される高度に違いがあり、それゆえ特徴や活用用途が異なります。
高度:約36,000 kmの高度で地球赤道上に配置。
特徴:地球の自転と同じ速度で回るため、常に同じ地点を監視。広範囲(1つの衛星で地球表面の3分の1)をカバーできます。通信遅延が大きく(約600ms)、リアルタイム通信には不向きです。
用途:衛星テレビ、気象観測、広域の放送通信など。
高度:200~2,000 kmの範囲に配置。
特徴:地表に近く、通信遅延が小さい(20~40ms)ため、高速なデータ通信に適しています。カバー範囲が狭いため、多数の衛星(コンステレーション)を使って地球全体を網羅する必要があります。
用途:高速インターネット、IoT機器との接続、災害時のバックアップ通信。
高度:約20 kmの成層圏に配置される無人航空機や気球。
特徴:衛星よりも地上に近く、低遅延の通信が可能。1つのHAPSで100 km以上の範囲をカバーできます。一時的な通信基地局として災害時やイベント時に活用されることが多いです。太陽光を使って長時間飛行するものも開発されています。
用途:災害救助や農業の監視、山岳地域や離島へのインターネット提供。
この中でも、LEO(低軌道衛星)およびHAPS(高高度プラットフォーム)については、ここ数年企業の積極投資が進んでいます。
LEOの代表例として、SpaceXのStarlinkや2012年にグレッグ・ワイラー氏によって設立されたOneWebによる衛星群があり、インターネット提供に使用されています。Starlinkは、地球から約500~1,200kmの低軌道に数千機の小型衛星を展開しています。このため、通信遅延が少なく(約20~40ms)、オンライン会議やゲームなどリアルタイム通信にも対応可能なサービスを提供しています。
これまでLEOでの通信はスマートフォンに直接受信ができませんでしたが、SpaceX 社は移動体通信事業者のKDDIやT-Mobileなどの通信事業者と連携し、スマートフォンと衛星が直接通信できるサービスの展開を進めています。2025年2月10日、SpaceX社のStarlink衛星群を活用した衛星直接通信サービス「T-Mobile Starlink」の一般向けベータテストを開始しました1。これにより、災害時や圏外の地域でもSMSや音声通話が可能となります。衛星とスマートフォンを直接つなぐ技術は「Direct to device」などと呼ばれ、衛星と電波を送受信するためのアンテナや専用の通信機器等を使わずとも、普段使用しているスマートフォンのみで衛星通信が利用可能となります。
また、SpaceX社は新たに打ち上げたStarlink衛星にレーザー通信システムを搭載し、衛星同士でのデータ転送を向上させており、これにより、地上の基地局に依存しない通信が可能となります。利点としては、遠隔地や災害時にもインターネット接続を提供できることがあげられます。また、高速かつ低遅延で、動画ストリーミングやゲームに適しています。レーザー通信システムの課題としては、天候による通信品質の影響。専用アンテナの設置コストが高いと言われています。衛星の大規模な展開に伴う宇宙ゴミ(スペースデブリ)問題への懸念があげられます。
HAPSは空飛ぶ基地局とも言われており、国内においても移動体通信事業者が実用化に向けた検証を進めています。また、その市場規模は2024年に8.4億ドルと推定されており、2029年までに12.9 億ドルに達し、予測期間中(2024~29)において約9%のCAGRで成長すると予測されて います2。
NTTドコモとSpace Compass(NTTドコモとスカパーJSATが共同出資で設立)は、HAPSを活用して日本国内およびアジア地域における遠隔地の通信カバーを強化することを計画しています3。航空機メーカーのエアバスと提携し、無人航空機「Zephyr」を運用することで、長期間の成層圏飛行を可能にしており、2026年の商用化を目指しています。また、2025年3月、NTTドコモとNTTコミュニケーションズは石川県能登地域でのHAPS活用に向けた「能登HAPSパートナープログラム」を始動し、パートナー企業の募集を開始しました4。
また、ソフトバンクはHAPS技術として「Sunglider」という無人機を使用し、2023年に5G通信の試験にも成功しています5。 成層圏の安定した環境で長時間の通信を可能にすることで、特に海外市場での展開に力を入れており、2027年以降の商用サービスの開始を予定しています。
HAPSの特徴としては、地上からの距離が20km程度と比較的近いため、GEOやLEOに比べて低遅延での通信が可能であることがあげられます。これにより、リアルタイムの通信が必要なサービスにも対応できます。また、1台のHAPSが100km以上の範囲をカバーできるため、山間部、離島、砂漠、海洋など、地上基地局を設置するのが困難な地域でも通信を提供することができます。無人飛行機や気球を使うため、必要に応じて飛行経路を変えることや、移動させることが可能となります。そのため、災害時やイベント時に一時的な通信インフラとしての活用が見込まれます。
地上基地局や衛星通信を補完する技術として「未接続地域へのインフラ拡大」「海上の通信カバレッジ拡大」「災害時の緊急通信・バックアップ」「5G・IoTの普及支援」での活用が期待されています。
「未接続地域へのインフラ拡大」
地上インフラの整備が難しい山間部、離島、砂漠地帯などの地域にも通信サービスを提供できるため、地上基地局を設置するよりもコストを抑えつつ広範な地域をカバーし、デジタル・デバイドの解消に貢献できます。
「海上の通信カバレッジ拡大」
基地局の設置が困難な洋上でも、HAPSが提供する通信により、船舶の運航管理や乗員の通信環境を向上させることが可能。また、通信遅延が少ないため、洋上の安全確保や物流管理の効率化にも寄与しています。
「災害時の緊急通信・バックアップ」
地震や台風などで地上の通信インフラが破壊された場合、HAPSは迅速に通信回線を提供でき、緊急時のライフラインとして重要。特に災害の多い地域では、HAPSを活用することで社会インフラのレジリエンス向上が期待されます。また、地震や台風などで通信インフラが破壊された場合、HAPSが仮設の基地局として機能し、救助活動を支援することが可能となります。
「5G・IoTの普及支援」
広いエリアをカバーし、移動体通信やIoTデバイスのネットワーク構築を支援できるため、特に5Gの超低遅延や広帯域通信のニーズが高まる中、HAPSは既存のネットワークを補完する形でスムーズな普及を促すことが可能となります。
地上の移動体基地局は、主に経済合理性の観点から需要の集中する人口密集地域を中心に敷設されてきました。それゆえ、人口の少ない地域や離島、山間部等の基地局の設置がコストに合わない場合は通信インフラの普及が遅れているのが実情です。衛星通信インフラを補完することにより、幅広いエリアで通信環境の整備が進むため、社会全体として“自動化”できる環境が整備され、高度自動化社会に近づくことが予見されます。
一方で、HAPSは技術、制度・規制等の課題も有しています。技術面の課題としては安定的なバッテリー・電源の確保、高高度における耐久性、地上との安定的通信の確保、故障時の制御・対応等があげられます。制度・規制面の課題としては、航空機や衛星とは扱いが異なるため航空法・電波法の整備、国際的なルール整備・協調が、経済面の課題としては、複数用途の活用による採算性の確保があげられます。
これらの課題に対して、通信各社は対応を進めています。例えば、ソフトバンクは、安定的なバッテリー・電源の確保に向けて、太陽光発電によるHAPS用超軽量ソーラーモジュールの開発を進めています6。また、通信各社は総務省や国土交通省との協議を進め、制度整備に向けた働きかけを行っています7。総務省はHAPSで利用可能な周波数を拡大するため、周波数の確保にも取り組んでおり、2023年11~12月に開催された世界無線通信会議では、議論をリードし1.7GHz帯、2GHz帯および2.6GHz帯は全世界で、700MHz帯は、第1地域(欧州、 アフリカ)・第2地域(北南米)では地域全体で、第3地域(アジア)では日本を含む14カ国で HAPSの携帯電話用基地局としての利用が可能となる決定が行われました8。技術、制度・規制の課題が解決に向かえば、HAPSの経済的な市場もより拡大されることが想定されます。
HAPSの普及により幅広い業界において新規事業創出の可能性も秘めています。いくつかの業界において期待できる新規ビジネスの可能性を考察します。
① 通信事業者による新興国・遠隔地の未開拓市場へ参入
HAPSを用いた上空通信インフラで、既存の地上設備が届かないエリアにも高速通信を提供可能となります。新規ユーザー獲得やサービス展開により、海外や地方への迅速な事業拡大を図れます。
② 農業・林業・水産業における、精密農業・遠隔モニタリングサービス創出
HAPSを活用することで、農地・漁場・森林を上空から常時観測することが可能となります。作物生育状況や水質、気象情報をリアルタイム取得することで、SaaS型の農業支援サービスやサプライチェーン管理ソリューションなど、新規ビジネスの創出が期待できます。
③ ロジスティクス・運輸業界におけるトータルロジスティクスソリューション
HAPSでリアルタイムな位置情報・路況データを入手し、輸送効率化プラットフォームを開発。顧客企業の在庫管理、配送ルート最適化、ドライバー安全管理などを包括的に支援する新たなサービス領域へ参入できる可能性があります。
本稿では、衛星通信NTN (Non-Terrestrial Network)の中でも、特に企業からの投資傾向が見受けられる低軌道衛星(LEO)、高高度プラットフォーム(HAPS)について紹介してきました。地上を中心とした通信インフラに加えて、空からの衛星通信インフラが普及することはユニバーサルに通信環境が整備されることを意味し、社会の自動化・高度化を一層進めることにつながるはずです。また、新たな通信手段の普及・登場によりこれまで実現できなかったサービスが始まる可能性も秘めています。6G(第6世代移動通信システム)の導入に向けた開発や取り組みが進む中、衛星通信NTNの動向につき、今後とも注視する必要があります。
通信ネットワークの高度化が進む中、国内通信各社は衛星通信NTNへの積極的な投資を行っています。NTNにはGEO、LEO、HAPSがあり、それぞれ高度や特徴が異なります。特にLEOとHAPSへの投資が活発で、新たな通信手段の普及・登場によりこれまで実現できなかったサービスが始まる可能性を秘めています。