Top down view of a group of young entrepreneurs working together in a start up business meeting

通信事業者が企業の最新テクノロジーの拡張を支援する方法

デジタル投資が増加していますが、企業がその価値を最大限に引き出すためには、トライアルから本格展開への移行を加速する必要があります。


要点
  • 企業は最新テクノロジーへの支出を年々増やしているものの、トライアルで導入したユースケースを本格的に展開するのに苦労している。
  • 企業はベンダーに求める能力について明確な認識を持っているが、選定の難しさを感じている。
  • ICTベンダーは、エコシステムとの関係性やテクノロジーの組み合わせによるビジネス価値創出ができることを強調する必要がある。



EY Japanの視点

企業はグローバル競争力を高めるため、今まで以上に先進テクノロジーへの投資や積極的な利活用が求められています。

日本の通信会社はネットワーク・インフラサービスの提供にとどまらず、IoT、AI、ビッグデータ等の先進テクノロジーを用いたビジネス変革パートナーとして、改めて注目されています。
この変革は、企業がデジタルトランスフォーメーションを進める中で、より高度な技術的支援が求められていることに起因しています。通信会社は自らが他業種に先駆けてテクノロジー利活用を進めており、そこで得たノウハウ・ナレッジを形式知化し、他の企業に展開していくことを計画しています。

日本の通信会社が各業界に特化した変革支援を行うためには、各業種固有の経営課題や新たなテクノロジー導入に向けた業務課題など、深い業界知見が必要です。

以下はその例です。

自動車: IoT技術を活用したコネクテッドカーの実現支援、運転支援システムや車両監視を通じた安全性
製造業: スマートファクトリーの導入推進、データ分析を活用した生産ラインの最適化
小売・流通: オムニチャネル戦略の実現に向けたモバイル決済やデジタルマーケティングの支援、AIやビッグデータを活用した顧客データ分析や在庫管理の効率化

通信会社は各業界特性に応じたソリューションの提供とともに、企業のマネジメント層とのディスカッションパートナーとしての役割を果たせるよう、業種別に最適化されたソリューション企画、開発・運用、カスタマーサクセス等の組織、人材強化が求められます。


EY Japanの窓口

今市 拓郎
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

藤井 亮輔
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター ディレクター



産業のデジタル化は着実に進行しており、企業は5Gから人工知能(AI)やエッジコンピューティングなど多彩な技術を取り入れて変革を推し進めています。一方、進捗状況はばらつきが見られますが、その主な理由は3つです。

まず、企業はパイロットから本格運用への意向に苦労しており、最新テクノロジーを組織内に浸透させる力が不確かです。次に、顧客は最新のビジネスモデルやテクノロジー選択肢についてよく知らず、自信を持って投資することができていません。さらに、企業はベンダーの複雑なエコシステムへの対応に自信が持てず、効果的なサプライヤーの選定が難しくなっています。

あらゆる企業は、さまざまなエコシステムパートナー企業と連携して優れたビジネス成果をもたらすことのできるサプライヤーを求めています。企業がサプライヤーの数を減らしたいという関心が高まっている今、ICTプロバイダーは特にこうした需要を満たすべく、今すぐ行動を起こさなければなりません。

EY Reimagining Industry Futures study 2025(産業の未来図を再構築するための調査2025)(PDF)をダウンロードする。

投資の増加と共に、デジタルインフラへの関心は経営陣全体に広がっている

最新のEY Reimagining Industry Futures study(産業の未来図を再構築するための調査)の結果から、最新テクノロジーへの企業投資は引き続き活発です。生成AIに投資をしている企業は前年の43%から増えて半数近く(47%)に上り、IoTに投資している企業が43%(前年の39%から増加)、5Gに投資している企業が33%(前年の27%から増加)となっています。5Gの導入状況については、地域別で見ると、欧州とアジア太平洋の企業が北・中・南米に追い付きつつあります。一方、業界別ではこの1年間で政府および製造業の5G投資が大幅に増えたことが明らかになりました。

同時に、企業内部での意思決定に加わる経営幹部が増え、CEOの49%がベンダーの選定を含め、最新テクノロジー戦略の最大のインフルエンサーとして関与するようになっていました。注目すべきは、CEOが主たる意思決定者である組織は投資をかなり進めており、CEOが意思決定に深く関与している企業の55%が生成AIに投資しているのに対して、CEOの関与が薄い企業ではこの割合が44%にとどまっている点です。つまり、最新技術は経営陣全体の責任であり、ICTベンダーは、この変化を認識しておかなければなりません。


企業はテクノロジーのトライアルから本格展開への移行に苦戦

最新テクノロジーへの投資が増加しているものの、今回の調査結果によると、あまりにも多くの企業がトライアルにとどまっていることが示唆されています。例えばIoT投資は年々増加していますが、実際にIoTを本格展開している企業の割合は2024年が19%だったのに対して、今年は16%に減少しています。エッジコンピューティングの本格展開も年々減ってきています。

 

トライアル段階から先に進めなければ、複数の技術を組み合わせて活用することによる相乗効果を得られない危険性があります。実際、5社に4社がこの効果をどうすれば得られるかを詳しく知りたがっています。こうした状況は、技術が個別に導入される傾向を反映しており、エッジコンピューティングが5Gを高度に補完するテクノロジーとして評価する人はわずか42%で、2年前の59%から減少しています。ここで大きな問題となるのは、あまりに多くの最新テクノロジーが単独で実施され、それがもたらすビジネス上のメリットが制限されかねないことです。


社内外の課題の混在が、企業のインダストリー4.0の能力の拡張を阻んでいる

「組織でトライアル導入を拡大するにあたっての主な課題を挙げてください」という質問に対し、企業の回答が最も多かったのは「複雑さ」と「コスト」の2つです。これらの回答は、いまだにレガシーシステムに頼り、組織のサイロ化に悩む組織が多いことの表れでもあり、どちらも新たなテクノロジーの統合をより困難にしているという事実を反映しています。一方、今回の調査結果は、ICTプロバイダーにとって重要なメッセージを発してもいます。33%が「サプライヤーから十分なサポートを受けていない」と感じ、37%が「テクノロジーが未成熟」であることを主な問題に挙げています。特に、導入拡大を図る手段としてサプライヤーとの連携を現在重視している企業が12%しかないことを踏まえると、ベンダーは企業がこうした外部の課題に対処できるようサポートするべきです。

さらに、ほとんどの企業はポイントソリューションが多過ぎると考えており、この見解は世界全体で60%、アジア太平洋では69%に上ります。先に述べたように、ビジネスのより多くの領域がデジタル・インフラストラクチャー戦略に影響を与えていますが、こうした意思決定層の拡大は、実際にはサイロ化を助長し、長期的にはポイントソリューションの減少ではなく増加を招く恐れがあります。この点についても、ベンダーは注意を払わなければなりません。


業界ごとのユースケースの違いにより、ICTベンダーは業界特化戦略を採用すべき

企業は最新テクノロジーの利用を拡大する取り組みで課題に直面しているものの、デジタルインフラのユースケースに対する意欲を明確に示しています。全業界において、IoTの用途として最も多かったのは「システムとプロセスの最適化」(40%)であったのに対して、5Gを活用したIoTのユースケースで最も多かったのは「リモートワーク・トレーニング・コラボレーション」(38%)です。

その一方で、今回の調査結果を分析したところ、望ましい5Gのユースケースについては、セクターにより回答が大きく異なることが明らかになりました。エネルギーと金融サービスの回答者では「リモートコラボレーション」が最も多いのに対して、自動車と製造業の回答者では「重要なインフラの管理」が最も多く、消費財と政府機関の5Gのユースケースは「システムの最適化」が最も多く挙げられました。このように業界ごとの優先事項がそれぞれまったく異なるため、ICTプロバイダーは、顧客エンゲージメントを高めるにあたり、セクター別の対応をしなければなりません。


企業は最新のモバイル技術やビジネスモデルに関する理解が不足

企業は5Gの最適なユースケースを評価し続けていますが、ICTベンダーにとって、次の5G収益化フェーズは新たなモバイルインフラ、展開シナリオ、ビジネスモデルに依存します。世界の151の通信事業者が5Gスタンドアローン(5G SA)ネットワーク展開が拡大しています。現在、世界151の通信事業者が5Gスタンドアローン(5G SA)に投資している。グローバルでは、84%の企業が5G SAを高または中程度の認識度で把握しており、プライベートネットワーク(79%)を上回っています。ネットワークAPIの認識度も75%と高いと言えるでしょう。

しかし、その他の最新テクノロジーやビジネスモデルの認知度は高いとは言えません。5Gの売りの一つとされる「ネットワークスライシング」は認知度が低く、「よく知っている」と答えた企業はわずか26%にとどまります。認知度という点で、サービスとしてのネットワーク(NaaS)、Wi-Fi 7、5G RedCapなど他の技術も認識度が低く、40%以上の企業が「知らない」または「ほとんど知らない」と回答しています。このような調査結果を踏まえると、ICTプロバイダーはこうした最新のデジタル・インフラストラクチャー機能がどのように企業の変革を促進できるかについて、顧客企業に伝え、啓発することが不可欠です。


サプライヤーの認知度の低さがベンダー選定を複雑にしている – 特にデジタル接続領域

最新のモバイルテクノロジーのイノベーションに精通していないだけでなく、企業はどのICTプロバイダーが変革の旅路を支援してくれるかについて、情報に基づき判断することに苦慮しています。「サプライヤーを取り巻く環境の変化を深く理解する必要がある」と答える回答者の割合が増えています(73%)。その背景にあるのは、さまざまなテクノロジープロバイダー間のアライアンスを特徴とする協働エコシステムが当たり前となってきたことです。実際、企業の56%がテクノロジーサプライヤーの新たなパートナーをあまり知らないと考えており、セクター別で見ると消費財・小売が最も多く67%に達しています。

デジタル接続は特に悩みの種となっています。5Gと生成AIを比べると、5Gの方がずっと前に市場に投入されたにもかかわらず、適したベンダーを見つけるのが難しいと感じる企業の割合が64%で、生成AIの42%を上回りました。この背景には、接続サービスの事業環境の変化があります。プライベートワイヤレスなどの分野で、通信事業者やネットワーク機器ベンダー、ITプロバイダーに加え、小規模なデジタルインフラ専門事業者やクラウドベンダーが台頭してきたのです。選択肢が広がったことで、サプライヤーに対する選好が不明確になりました。プライベートネットワークベンダーで最も人気が高かったのはモバイル事業者ですが、モバイル事業者を選んだ企業はわずか28%です。


企業はビジネス成果をもたらし、エコシステム調整能力があり、拡張性のあるソリューションを提供するサプライヤーを好む

サプライヤーエンゲージメントをめぐる不確実性があるものの、企業はICTプロバイダーに求める資質に対して、比較的明確な見解を持っています。理想的なベンダーの特徴として、「測定可能なビジネス成果をもたらすこと」(33%)と、「強固なパートナーエコシステムにアクセスできるようにしてくれること」(33%)が最上位に挙げられています。

「異なる技術やプラットフォームを拡大・統合する能力」も重要で、特に北・中・南米では28%と高い割合となっています。これらの特徴は「価値ベースの価格設定」より上位にランクインしており、企業がコスト優位性だけでなく、その先を見据えていることを示唆しています。

さらに、企業がICTサプライヤーに求める詳細な能力も進化すると見られています。現時点では、「導入のスピード」が最も重視されていますが、将来的には「組織および業界理解」が最重要視される見通しです。

「セキュリティに関する専門知識」は現在も将来も第2位です。このような意識はサービスプロバイダーに対して、競争の激しい市場でどのように差別化を図るべきかについて明確な方針を示しています。特に、ネットワークスライシングが既存のマネージドセキュリティサービスを強化する可能性を考慮すると、なおさらです。


サプライヤー統合のニーズが高まる中で、顧客の関心を高めることは不可欠

サプライヤーの認知度に関する企業の課題はフラストレーションの原因となるだけでなく、最終的にはベンダー基盤の統合を決定することにつながる可能性があります。全セクターの企業の3分の1以上(35%)が、今後12カ月以内にICTベンダーの数を減らす予定であり、その背景にはセキュリティの向上、全体コストの削減、テクノロジーの複雑さの軽減があります。特に熱心に取り組んでいるセクターは、製造業(43%)と金融サービス(42%)です。

サプライヤーの数を絞り込み、そこに予算を集中させる意図があるため、ICTプロバイダーはパートナーや仲介業者の力を借りながらエンドツーエンドソリューションを提供できる効果的なエコシステムの調整者としての姿勢を明確に打ち出す必要があります。その一環として、サプライヤーは自社の主力製品の枠にとどまらない幅広い能力を明確にアピールすべきです。ベンダーが5GやIoTソリューションの一部として十分なAI機能を組み込まれていないと考える企業は61%に上ります。


ICTプロバイダーが次に講じるべき対策

企業の最新テクノロジーに対する投資は増加していますが、トライアル導入から本格展開への移行は困難であり、ベンダー市場は複雑で多様化しています。ICTサプライヤーが顧客企業に提供するサービスや製品を強化するには、以下の対策を講じなければなりません。

ビジネス成果の質で自らの価値を示す

企業は、単なるテクノロジーの性能やコストメリットよりもビジネス成果を重視します。自社のソリューションがもたらすビジネス成果を定量化すると同時に、顧客が最も重視するセクターやサブセクター、KPIへの理解を示すべきです。また、自社のシステムやプロセスにおいて新技術を活用して改善した実績を共有することで、単なるテクノロジーイネーブラーではなく、ビジネスパートナーとして位置付けてもらう一助となるでしょう。

企業の購買担当者や影響力のある人との関係性を深める

今は幅広い経営幹部の視点を参考にデジタルインフラ目標が設定されるようになってきており、ベンダーの選定にも影響を及ぼしています。成長や効率性に関する従来のニーズに加え、セキュリティや生産性に関する新たな要求にも対応し、購買担当者グループの変化に合わせて適切な関係を築くことが重要です。より複雑化した顧客の多様な要求を先取りし、対応する能力はソリューション開発にも反映されるべきであり、これにより提供する製品・サービスの各部門に対する存在意義を最大化することができます。

新たなビジネスモデルとテクノロジーの組み合わせについて顧客を啓発する

企業は最先端技術の利用を進めていますが、その多くが、Wi-Fi 7からネットワークスライシングといった新技術のメリットをまだよく分かっていません。これらの新たな機能がさらなる価値を引き出す可能性を秘めていることにスポットを当て、その仕組みを分かりやすく伝える必要があります。同時に、顧客が多様な最先端技術を広い視野でとらえていること、またそうしたテクノロジーがどのように相互に作用するかを理解することも重要です。接続サービスとコンピューティング、AIがもたらす統合的な効果を明確に伝えることで、顧客企業が一連のハードウエアとソフトウエアへの投資を活用し、新たな利益の波を生み出す手助けができます。

スケーラビリティ(拡張性)とセキュリティ、サステナビリティを重視した価値提案を行う

企業はサプライヤー選定の際に重視するいくつかのニーズを明確にしています。セキュリティはベンダーに不可欠な特性であり、3分の2以上の企業がテクノロジーのトライアル導入から組織全体に展開することは難しいと感じています。また、サステナビリティへの懸念も高まっており、最新テクノロジーがESGアジェンダにどのような影響を及ぼす可能性があるかが不透明であることを企業は警戒しています。価値提案と企業エンゲージメントは、こうした基本的な原則に対応したものでなければなりません。

主要な業種とエコシステムパートナーに注力する

企業はエコシステムとの協業を新たなスキルや能力にアクセスする手段とみなしていますが、変化するサプライヤーエコシステムについての理解が不足しており、多くがベンダー統合の圧力を受けています。これに対応するため、エコシステム戦略を優先し、主要なパートナーへの取り組みを強化し、オペレーティングモデルや市場戦略を適宜調整してください。取引をしたい業種を明確にし、定期的に見直すとともに、業種横断的な能力と業種特化型の能力を明確に区別することが重要です。


EY Reimagining Industry Futures Study 2025(産業の未来図を再構築するための調査2025)に興味を持っていただき、ありがとうございます。

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サマリー

企業は依然として生成AIやIoT、5Gなど先端テクノロジーの導入に取り組んでいますが、その投資を実際のビジネス価値につなげるということに課題を抱えています。主な問題は、ベンダーの能力とパートナーエコシステムに関する理解不足や、モバイル技術に対する認識が低いことなどです。ICTサプライヤーは5つの重要な行動を取ることで、顧客企業にとっての包括的なパートナーとしての立場を再構築し、デジタルトランスフォーメーションへの投資がもたらす利益を最大限に引き出す支援ができるのです。

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