祖母に抱きつく小学生の女の子

世代内移転が世代間移転戦略にどのようなディスラプション(創造的破壊)をもたらしているのか

資産運用会社が資産を維持するには、次世代の投資家に加え、ベビーブーム世代の相続人のニーズも把握することが不可欠です。


要点

  • 夫から妻、妻から夫などの世代内相続は、親から子供などの資産移転と同じ規模になる可能性がある。
  • 高齢の相続人は、若い世代の投資家より資産運用会社を変える可能性が多い。
  • 事業をうまく持続させていくには、ベビーブーム世代の相続人固有のニーズを把握し、それに応えることが不可欠となる。

現在、人類史上最大ともいわれる資産の移転が進んでおり、世界経済にも大きな影響が及ぶことになるでしょう。とはいえ、資産運用会社ならば分かるように、何兆ドルもの資金が必ずしも一般の人々が考えるような動きをするわけではありません。こうした資産移転では資産がT字型に動くため、ベビーブーム世代の資産のほとんどが、同世代内にとどまっているのです。またベビーブーム世代は、それ以降の世代と比べ、利用する資産運用会社に満足している人が少ないことが分かっています。

2025 EY Global Wealth Research Reportのデータによると、ベビーブーム世代の資産相続人は、資産移転に関するアドバイザーの関与に「非常に満足」している人が21%と少なく(X世代の相続人は26%、ミレニアル世代の相続人は36%)、世代内資産移転が資産運用会社に大きな顧客流出リスクをもたらすかもしれません。

資産運用会社は国・地域を問わず今後10年間で、大規模な世代間資産移転が起きると予想しています。第2次世界大戦後に人口が急増した影響で、世界的に高齢化が進む中、相続を通じて資産が配偶者やパートナー、兄弟姉妹、親族、そして若い世代の家族に移転されていくことが予想されます。Cerulliの推算では、米国だけでも「資産の大移転」で2048年までに124兆ドルが移転し、このうち54兆米ドルが配偶者、主に女性に渡ります1

世界各国の資産運用会社のクライアント3,600名近くを対象とした調査の結果を踏まえ、富裕層の幅広い心理を探った2025 EY Global Wealth Research Reportの主なポイントは2つです。

まず、資産は同じ世代間で(配偶者などへ)横に移転してから、最終的に子供や親族など若い世代へと配分されるという、「T字型」の動きをします。世代間移転が幅広く議論されているのに対して、世代内移転は見過ごされることが少なくありません。

  • 高齢の富裕層には、相続財産を受け取って余生を送る予定の人がかなりいます。ベビーブーム世代の26%が相続財産を受け取る予定ですが、この世代は、今後10年間に世界全体で行われる資産移転の最高50%を受け取る可能性があるとEYではみています。
  • こうした世代内資産移転の大部分は、配偶者か兄弟姉妹のいずれかが移転先になりますが、いずれの場合も、統計的にみて、相続人の男女比は女性が半数以上を占めます。

EYの調査の結果から、ベビーブーム世代の相続人は、被相続人が利用していた資産運用会社をそのまま利用する人が、若い世代の投資家より大幅に少ないことが分かりました。同じアドバイザーを利用する可能性が高いと回答したベビーブーム世代の割合は66%にとどまり、X世代の82%やミレニアル世代の88%を著しく下回る一方、アドバイザーを変える可能性が高いと回答したベビーブーム世代の割合は25%に上り、X世代の14%やミレニアル世代の10%をはるかに上回っています。


こうした調査結果が意味するところは明確です。富裕層の第1世代の相続人は、人物像が被相続人と大きく異なる傾向にあり、こうした相続人との関係をつなぎとめることができない資産運用会社は事業の持続に苦慮し、資産が大幅に流出するリスクがあります。

次に、2025 EY Global Wealth Research Reportから、年齢や国・地域を問わず、調査対象者の65%が自分の資産の移転に備えることは「非常に重要」または「極めて重要」だと考えていることが明らかになりました。ところが、対象者の50%が、相続に向けた家族の準備が十分にできていないと感じています。それが、資産運用会社の直面する課題をより難しいものにしています。


こうした心理の最大の要因は不安感です。対象者の半数近く(45%)が相続計画は複雑になっていると感じています。この割合は、ほんの2年前には31%でした。家族への資産移転が重要であることを考えると、市場のボラティリティが高く、インフレが続き、政治が不安定化している現状を心配する声が投資家の間で高まっているのは当然といえます。こうした懸念に対処しながら、ベビーブーム世代のクライアントならではの選好を把握することが不可欠です。

今回の調査で、相続財産を受け取る予定の高齢の投資家が立てる計画について詳しい知見を得ることができました。その知見によると、ベビーブーム世代の相続人のニーズは、若い世代の相続人とまったく同じように複雑かつ多種多様です。

  • 相続財産を受け取る予定のベビーブーム世代の97%が金融資産をどうするかを決めており、今まで通りの投資を続けると回答した人が30%にとどまったのに対して、投資戦略を変えるつもりだと答えた人が41%でした。

  • 高齢の相続人は、家族の力関係や価値観、関係をアドバイザーに理解してもらうことに、若い世代ほど熱心ではありません。これを重視している人の割合は、X世代が44%、ミレニアル世代が42%であるのに対して、ベビーブーム世代が25%にとどまります。そのため、アドバイザーは、クライアントがこうしたアプローチの価値を評価するようサポートする必要があります。

前回の調査と同様、被相続人も、相続人も資産運用会社に「オープンで率直なコミュニケーションを図って信頼を構築する」ことを最も期待していますが、相続人は「自分の運用目標やニーズをしっかりと把握してくれる」ことも重視しています。

資産運用会社は、ベビーブーム世代の相続後の資産をできるだけ多く維持する戦略を策定すると同時に、その資産を引き継ぐ次世代の相続人との関係を築くチャンスも生かす必要があります。

事業をうまく持続させていくには、被相続人も相続人も重視する「時間をかけて信頼関係を構築する」、「個々のニーズと優先事項を把握する」、「個々のニーズに合わせ、価値を付加するアドバイスをする」、「公平かつ透明な料金体系を提供する」に対応した、総合的な相続提案が必要です。

世代内資産移転の規模が非常に大きいうえに、ベビーブーム世代の相続人が、他の世代とは異なる独自の特徴を持っているため、資産運用会社はこれまでにない課題を突きつけられています。潜在的なリスクを回避しながら、潜在的なチャンスを最大限引き出すうえで鍵となるのは、クライアントに関する詳細な知見です。

2025 EY Global Wealth Research Reportでは投資家の心理とニーズ、期待に焦点を当て、資産移転のほかに、オルタナティブ投資や人工知能(AI)などの主要なトピックも取り上げています。

2025 EY Global Wealth Research Report

まれにみるボラティリティの高さに富裕層の相続人が頭を悩ませていますが、今回の調査の結果から、資産移転の方向性や、高齢の相続人のニーズ、極めて重要な業界の反応に関する詳細な知見が明らかになりました。


サマリー

EYの調査の結果から、ベビーブーム世代の相続人が、今後10年間に世界で移転される資産の半分以上を受け取る可能性があるものの、若い世代の投資家と比べ、資産運用会社に対する満足度とロイヤルティが低いことが分かりました。ベビーブーム世代の相続人をつなぎとめながら、次世代の投資家との関係を構築するには、クライアントに関する詳細な知見が不可欠です。

2025 EY Global Wealth Research Reportを取りまとめるにあたって実施した調査結果の分析には、Sam Farage、Meghna Mukerjee、Alexander Sapone、Ryan Suttonが多大な協力をしてくれました。この場を借りて、感謝の意を表します。

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