高級ホテルの中庭のプールサイドに座り、手を握って微笑みながら見つめ合う休暇中のカップル

資産運用会社が複雑さを活用して競争優位性を獲得するには

混乱が広がる今、資産を維持するにはクライアントの準備態勢の強化が不可欠です。価値を創造するためには、個々のニーズに合わせたアドバイスが鍵を握ります。


要点

  • 資産運用会社の業務はもはや、クライアントの資産管理にとどまらない。外的要因による混乱が深まるなか、ファイナンシャルアドバイザーが担う役割は拡大している。
  • 資産運用会社は、クライアントの人生に対して総合的なアプローチを取る必要がある。
  • 資産運用会社は、底堅い運用成果とシームレスなデジタル体験、パーソナライズした商品を、金融・非金融サービスと融合することができる。

富裕層のクライアントの大部分は、国・地域を問わず、政治の不安定化や市場のボラティリティの高まりに対応する準備が十分にできていないと感じています。そうした準備を万全に整えるためにクライアントが徐々に対策を講じるようになってきたことから、資産運用会社は中核商品・サービスを組み合わせ、付随的サービスに進出して、クライアントの人生に対して総合的なアプローチを取る必要があります。

「2025 EY Global Wealth Research Report(世界の富裕層の投資家3,600名近くを対象に実施した調査)」において、回答者の57%が政治の不安定化に対応する準備は「まったくできていない」あるいは「少ししかできていない」としています。市場のボラティリティの高まりに対応する準備についても、52%が同様に感じました。

また、調査回答者の半数近く(45%)が、投資リターンの不確実性の高まりと税制や規制の改正、オルタナティブ投資の経験不足を背景に、投資の複雑さが急速に増していると回答しました。ほかに複雑さが増したと感じている主な領域は、退職後の資金計画、資産移転、税金対策です。


こうした状況を受け、全体の半数強(52%)が先を見越して、市場動向がもたらす影響についてファイナンシャルアドバイザーとの話し合いを開始し、44%がアドバイザーとの打ち合わせの回数を増やすことを求めています。また、市場が大混乱するなか、世界全体の44%が、投資ポートフォリオに対する自らの管理を強めています。これは資産運用会社にとってリスクとなる可能性があることから、資産運用会社はクライアントが受け身の姿勢になることを防いで、価値を守らなければなりません。

クライアントのこうした期待の高まりへの対応で、資産運用会社はコストの増加を、アドバイザーは優先順位の見直しを、それぞれ余儀なくされています。一方、これは、混乱が広がる時期に、経験に裏打ちされた「理性の声」を届ける貴重な機会にもなっています。それにより、クライアントが不安に感じている準備度を大幅に改善させることができるかもしれません。32%が運用目標を達成する準備が十分ではない、50%が資産移転の準備が十分ではないと感じており、これは重視すべきポイントです。


差別化の次のフロンティアは金融・非金融サービスの拡充

現在の資産運用環境で、準備はできているとクライアントに安心してもらうには、中核的な商品・サービスを付随的なサービスと組み合わせてサービスの拡充を図ることが効果的かもしれません。そのバックグラウンドを問わず、どのクライアントも自分の人生全体についての理解を深めることを資産運用会社に期待するようになっていることは今回の調査の結果から明らかです。サービスの統合は準備態勢を強化できたとクライアントが感じる一助となります。

今回の調査結果から、タックスプランニングや退職後の資金計画、高齢者介護コンサルティング、ファミリーガバナンスサービスなどをクライアントが積極的に利用し、また求めており、こうしたサービスの提供を資産運用会社に求める声が高まっていることが分かりました。

クライアントがより頻繁にアドバイザーとやり取りをし、アドバイスを求めるようになっている今こそ、資産運用会社が新たなタイプの商品を紹介するチャンスです。これはまた、市場環境が変化するなかで、選択肢が増えることをクライアントが望んでいる領域でもあります。

加速度的に移動するクライアントの資産を呼び込み、維持する鍵を握るのはクライアントの準備態勢の強化です。今回の調査結果から、全体の32%が、利用する資産運用会社の数を今後3年間で増やす計画であり、45%が資産の4分の1から半分を移動させるつもりであることが分かりました。

メインの資産運用会社を選ぶ最大の理由は前回と同じ「運用実績」で、2番目の理由は「投資の選定力」です。その一方で、資産運用会社を選ぶ理由に、「資産運用会社のブランド力と評判」、「デジタルツールとテクノロジー」、「アドバイザーとの個人的な関係」を挙げる人が増えています。


変化の時代には戦略の変更が必要

ポートフォリオの見直しやアドバイザーとの打ち合わせ回数の変更、メインのアドバイザーの交代を求めるクライアントの声が高まっています。そのため、資産運用会社が一歩先を行くには、主な乗り換え要因と選定要因に着目しなければなりません。

高まる脅威に対するクライアントのレジリエンスを強化する活動に時間とリソースを費やすことが不可欠です。これからも「同じようなことを繰り返す」だけでは、クライアントの懸念に十分に対処することができません。
こうした課題に直面した場合に、その時の状況に合わせて変化し、イノベーションを起こすのが優れた資金運用会社です。そこで問題となるのは、どのようにそれを行うかです。

EYのグローバル調査では、クライアントの選好、選定基準、乗り換えの理由、アドバイザーの関与、商品・サービスの需要を調べた結果、以下の対応策が多くの資産運用会社にとって有効だと思われることが分かりました。

  • 中核的なサービスの需要の高まりに応える。65%がすでに資金運用計画サービスを利用していますが、この利用に興味を持つ人も22%います。また多世代型資産運用計画サービスを利用しているのは全体の半数弱(42%)で、これにほぼ近い割合(34%)がその可能性を探ることに興味を示しています。
  • 付加価値を生む社内ケイパビリティを構築する。回答者の多く(64%)がタックスプランニングを利用しています。しかし、クライアントは、資産運用会社から紹介された外部の事業者からこの専門サービスを受けるのが一般的です。若い富裕層の間で、税務アドバイスの需要が急増していることを考えると、社内ケイパビリティを構築すれば、将来のクライアントエンゲージメントと満足度の向上につながるかもしれません。
  • 商品の紹介の仕方を工夫する。クライアントの需要を重視せず、投資家の期待の高まりに特化した資産(specialized asset)やエシカル投資、デジタル資産を提供していないアドバイザーが多いように見受けられます。例えば、回答者の27%がオルタナティブ投資について詳しく知りたいと考えているのに対して、アドバイザーからその親切な説明などを受けた人はわずか15%です。
  • 付随的な専門サービスに進出する。質の高い付随的なサービスは強力な差別化要因です。ミレニアル世代の回答者の半数が医療や高齢者介護に関するアドバイスを利用しており、全体の35%がこのサービスについて話し合うことを望んでいます。これは、このデリケートなテーマに、個々のニーズに合わせたサポートを提供して、クライアントに良い印象を与えるチャンスです。

ハイタッチとハイテク

結局のところ、商品とサービスに差別化をもたらし、存在価値と意義を持たせるのは、個々のニーズに合わせた(人とデジタル、両方の)アドバイスとサポートです。資産運用会社はアドバイスサービスを充実させて、リレーションシップマネージャーが優れた能力を発揮する後押しをする必要があります。

先進的な資産運用会社であれば、人工知能(AI)など革新的なテクノロジーを活用して、これを手頃なコストで実現し、さらに拡大させていくでしょう。今回の調査結果から、個人情報のプライバシーが保護されることを条件に、60%が「資産運用会社がAIを利用することを期待」しており、ミレニアル世代の50%が「人間のアドバイザーと同様、あるいはそれ以上にAIを信頼している」ことが分かりました。


これは、資産運用会社がこの実現に必要なインフラの強化とバリューチェーン全体のAI化を図るチャンスであると同時に、その実現を促す警告でもあります。



世界的に不確実性が高まるなか、資産運用に精通した富裕層のクライアントでさえ自信を持てていません。注目すべきは、こうしたクライアントが同時により積極的になっており、資産運用会社に対する期待が急速に変化している点です。現状維持とリスク回避に関する従来の常識は時代遅れになりつつあるように感じられます。今は、資産運用会社が果断な対応を取り、自らの存在価値を高め、差別化を図り、今後優れた実績を上げるべく取り組むチャンスです。

2025 EY Global Wealth Research Report

EYの調査結果から、混乱が広がるなか、資産運用会社がクライアントのニーズの変化に果断な対応をしなければならない理由が明らかになりました。資産運用会社にとっては、クライアントをサポートし、安心を届けることが、競合他社との差別化を図り、資産の維持を推進し、クライアントの準備態勢を強化させる一助となります。

サマリー

EYの調査の結果から、富裕層のクライアントはタイプを問わず、ボラティリティと複雑さの高まりに対応する準備が十分にできていないと感じていることが分かりました。資産運用会社を切り替える傾向の強まりへの対応ではクライアントの信頼強化が、また事業をうまく持続させていくには、個々のニーズに合わせた、人間のアドバイスとデジタルアドバイスに裏打ちされたサービスの拡充が、それぞれ鍵を握ります。

2025 EY Global Wealth Research Reportを取りまとめるにあたって実施した調査結果の分析には、Sam Farage、Meghna Mukerjee、Alexander Sapone、Ryan Suttonが多大な協力をしてくれました。この場を借りて、感謝の意を表します。

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