EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
労働供給制約社会に向けて、人が「育ち続ける」ことで付加価値を生み出す経営への転換が求められています。経済産業省 近畿経済産業局ではその流れを先導すべく、人的資本経営の本質に迫るプロジェクトを実施。さらにEYの支援により実践知を可視化する「人的資本相関可視化ツール」を開発しました。
The better the question
経済産業省 近畿経済産業局(以下、近畿経済産業局)は、「社員の幸せを経営の中心に据えて成長する企業」への実態調査から人的資本経営の本質を導き出す「BE THE LOVED COMPANY PROJECT」を進めてきました。そんな中で、その本質を地域企業での実践へと結びつけるための、有効な打ち手を模索していました。
──近畿経済産業局では、「BE THE LOVED COMPANY PROJECT」(以下、LOVEDプロジェクト)を約4年にわたり実施してきました。ユニークな事業名ですが、どのような取り組みでしょうか。
近畿経済産業局 沼本和輝氏(以下、沼本氏):
「人を価値創出の源泉と捉えて、社員の幸せを最大の目的とする企業」について、その経営のあり方や具体的な企業活動を調査する事業です。この近畿エリアで持続的に成長してきた企業に焦点を当て、その原動力たりえる「人的資本経営」の可能性に着目したものです。
人手不足が深刻化する状況でも、人が集まる企業は確かにある。社員の皆さんが生き生きと働いて、企業の成長を支えている。そんな組織のあり方を突き詰めると、社員に愛され、顧客から愛され、地域にも愛される、そんな企業の姿が見えてきました。その意味で「LOVED COMPANY」と表現しました。
──地域経済を動かす要因の一つは人的資本経営にあるとのご認識ですね。近畿地方の経済活性化についてはどのような課題を持っていらっしゃいますか。
沼本氏:
日本は2040年ごろ、約1,100万人もの働き手不足が生じる「労働供給制約社会」を迎えるといわれます。それを前提に経営戦略を見直したとき、「人がいれば回る」組織づくりから、人が「育ち続ける」ことで付加価値を生む経営への転換が求められることは確かです。特に地域経済においては、付加価値、そして雇用の面からも中小企業の役割が重大であり、近畿も例外ではありません。
近畿経済産業局 田中駿来氏(以下、田中氏):
私自身、LOVEDプロジェクトが動き出した頃は本省で日本の製造産業の循環型経済移行に関する業務を担当していて、その中で、経済的合理と社会的価値を両立することの難しさを痛感していました。
2025年度に沼本さんの後任としてLOVEDプロジェクトを進めるチームに加わりました。当初、このプロジェクトを通じて出会う中小企業が、経済的合理と社会的価値の両立を見事に果たし、地域で愛される存在として輝いている姿に大きな感銘を受けたのを覚えています。都市部や大企業に比べ制約の強い地方の経済圏において、愛されながら成長を続ける中小企業の共通項を探るLOVEDプロジェクトは、近畿を起点に日本の経済を活性化する上でも非常に意義があると感じました。
──プロジェクトを進める上での方針や重視したポイントについてお聞かせください。
沼本氏:
「愛されるいい企業」の「実践知」を導き出し、人(社員)を起点とする企業成長のあり方を捉えることを基本方針に据えました。人的資本経営の一般的な方策として、社員の賃金水準や教育投資、定着率といった、定量的な数値を指標として比較検討を行う話はよく聞かれます。ですが、現実には、働きがいや人間関係、心理的安全性などの定性的な要因も大きいのではないでしょうか。
社員の幸せを追求する企業とはどんな組織か。その考え方や具体を一番よく知っているのは経営者自身であると考え、行政がヒアリング先を選定するのではなく、企業経営者がお持ちの人脈と信頼をお借りし、優れた実践者をご紹介いただきながら調査を進める方針も立てました。
──3年間で調査した企業は70社を超えるとか。どのようなことが分かりましたか。
沼本氏:
1年目は「良質な雇用」と「付加価値の向上」の両立を志向する企業は、「社員の幸福度の向上」を重視する傾向にあること、そして、そのための具体的な取り組みは、大別して会社としての羅針盤・永続的な成長方針・組織デザインの3要素に集約されることが分かりました。これを踏まえ、その具体的な取り組みが組織内のどのような変化に作用し、企業価値と結びついたのか、実践知と変化の構造化を試みたのが、次の2年間です。
その結果、「いい企業」では「組織のあり方」「仕事のあり方」「個人のあり方」を起点に自律的に考動する(考えて動く)人財が育ち、企業価値にプラスの効果をもたらす循環が働いていることが分かりました。これらの相関は3年目に「BE THE LOVED COMPANY MAP」としてまとめています。
BE THE LOVED COMPANY MAP
──調査の手応えが得られる一方で、新たな課題も発見されたと伺っています。
沼本氏:
そうですね。調査で得られた実践知は、「BE THE LOVED COMPANY MAP」や3回にわたるレポートで言語化したものの、深く行間を読み解かなければ理解が及ばない面もありました。より幅広い企業に「社員の幸せ」を重視する経営を広めるには、その実践知を共通の「ものさし」として可視化し、誰もが読み解ける形にアップデートする必要性を感じるようになりました。そうした折りに出会ったのが、EYです。中小企業の人的資本経営を軸に据えた地方自治体の戦略としては広島県の取り組みが有名ですが、その支援プロジェクトにEYの名があることも知っていました。企業の行動変容を促すための共通基盤として「人的資本情報開示ツール」を開発し、まさに定量化しにくい情報の可視化に成果を上げていると。
EY 水野昭徳(以下、水野):
上場企業には人的資本に関する情報の開示義務がありますが、非上場企業は対象外ですから、人的資本経営を成長力の一つの源泉とするなら、大企業と非上場であることが多い中小企業との格差はいっそう広がりかねません。そのギャップを埋めるツールの必要性と、中小企業が抱える課題感に対しては、私たちの中にも一定の理解と知見が積み重なっていた時期でした。
──委託事業のパートナーとしてEYが選ばれた理由はどのようなところにありましたか。
田中氏:
「人(社員)の幸せを中心に据えた経営」の実態を、定性・定量の両面から捉えるための「人的資本相関可視化ツール」の開発を目指すことが私たちの目標でした。これに対してEYからの提案には、人的資本経営に関する豊富な事業実績や知見が含まれていたことに加え、近畿を起点に全国へこうした経営を普及するために必要な参考理論がさまざまに駆使されていることが目を引きました。また、このプロジェクトを近畿から全国に広めるためのイベント事業の追加提案があったことも良かったです。
EY 古谷健(以下、古谷):
近畿におけるこれまでのお取り組みを見て最初に感じたのは、この実践知の集積からなる唯一無二の枠組みへの絶大なリスペクトでした。これを最大限に生かすため、理論の面から徹底して近畿流人的資本経営を補強する道筋を考えました。この活動を広げるイベントについては、3年目からプロジェクトに携わっている株式会社 AKIND(以下、AKIND)に担っていただきました。
AKIND 森江朝広氏(以下、森江氏):
当社は神戸市を本拠地としながら、各地の地域づくりや、その土地に根づく企業の組織づくりをご支援しています。LOVED COMPANYという価値観を広めること、そして企業同士の気づきや対話を育むこと。そうした思いを形にするなら、近畿圏にとどまる必要はありません。大阪はもちろん、同様の動きがある福岡、そして国の政策にも影響を与えられるかもしれない東京でのイベント開催を提案しました。
The better the answer
定性的・多面的な要素からなるLOVED COMPANYの実像から、いかにして多くの企業に通じる普遍的な指標を導き出し、各社の状態を測るツールへと昇華させるのか。EYが導いた理論と実践知を往復する真摯な対話が、本質を見落とさないツール開発を可能にしました。
──EYと連携し、「人的資本相関可視化ツール」を開発されました。具体的にどのようなものでしょうか。
田中氏:
大きく3つのツールで構成されています。詳しくは近畿経済産業局のWebサイトでご覧いただけますので、簡単に要点のみご紹介します。
「いい組織」のあり方、「いい仕事」のあり方を工夫することで、社員個人の成長が促進され、ひいては企業価値の向上につながります。それがまた組織や仕事、個人にもいい影響を与えるという、これまでの実践知で構築した「BE THE LOVED COMPANY MAP」の一連の循環仮説を一般理論などで補強したモデルです。
※自己中心的利他:個人がやりたいこと・得意なことにまい進し、その活躍が他者や組織に役立つ状態。
出典:仲山進也『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター、2018年)
インジケーター領域とアウトプット領域の状態を測るためのサーベイと、その集計表です。これによって、2つの領域における「人・組織」の現状が可視化されます。
調査票では、社員と経営者へのサーベイを通じて「人・組織」の状態を可視化
──ツール開発の狙いと、開発に込めた思いを聞かせてください。
田中氏:
ツール開発の目的は2つありました。まず、「愛されるいい企業」の実践知から得られた本質を、多くの企業の道しるべにすること。LOVEDプロジェクトを引き継ぐ中で、これまでの3年間の事業を通じて蓄積してきた「人(社員)の幸せを中心に据えた経営」の哲学や価値観、構造をより広く伝えていきたいという強い使命感もあり、このような目的を据えました。
もう一つは、企業がこのツールを使うことで、BE THE LOVED COMPANYという価値軸に照らして、自社の状態を捉え、未来を描けるようにすること。自社の現在地を知るための「ものさし」が提供できれば、新しい気づきが生まれ、具体的なアクションにつながるのではないか、また、学びたい他社の存在が明らかになり、企業同士の対話にもつながるのではないかと考えました。
ただし、「可視化ツールの指標の点数を高くすることで誰もがLOVED COMPANYになれる」といった画一性を求めるのではなく、企業ごとの多様性を認めて尊重するツールにしたいという思いがありました。アスリートに例えるなら、どの選手にも共通して鍛えるべき筋肉がある一方、競技特性や個人の特徴によって重点的に鍛えるべき部位は異なります。そのため、一人一人の競技環境や特性を把握した上で、最適なトレーニングを設計することが重要です。それと同様に、各社が思い描く「いい企業」に近づくために、現在地を把握し、今後のアクションを考えるための補助線となる、そんなツールを目指しました。
──ツール開発で特に苦心されたのはどんなことでしょうか。
田中氏:
指標同士の連関設定や、それにひもづく調査票の設問作りは特に悩みました。設定した指標や仮説が、これまでの調査で浮かび上がった実践知とかけ離れていては意味がありません。EYの方々に理論や知見を補ってもらいながら、「源流に立ち返る」ことを常に意識していました。
古谷:
EYでは組織や人的資本に関する論文、フレームワークなど50件近い知見を参照しましたが、そのまま適用するのではなく、「LOVEDプロジェクトらしさを損なわずに抽象化すること」を念頭に、実際の指標へと落とし込んでいきました。企業へのヒアリングを通じて得た現場の実感、手触り感を大切にしたかったのです。
そのため、実践知の一つ一つについて、それを裏付ける理論の探索と、その妥当性を検証する作業を、それこそ膝詰めで連日のように続けました。EY内部だけでなく、近畿経済産業局、AKINDを含むプロジェクト全員と話し合いを重ね、理論と実践の往復を延々と繰り返す1年でした。
水野:
「人の成長」「組織の良さ」といった曖昧な要素を指標化しようとすると、ややもすれば単純化されて画一的となり、本来は多面的であるはずの概念をうまく捉えられなくなります。そこが最も難しく、だからこそ理論と実践知のすり合わせが必要不可欠でした。
田中氏:
LOVEDプロジェクトでは、常に絶対解がない世界で、禅問答のように企業の実践知と向き合っています。そんな中で、ここまで徹底的に議論にお付き合いいただき、 LOVEDプロジェクトらしさを共に追求していただけたことは本当にありがたく感じています。そういった惜しみない姿勢と議論の蓄積の結果、企業の多様性を尊重し、正解を決めつけない可視化ツールの開発が実現できたと感じております。
本記事についてのご質問や詳細をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください。
──完成したツールは、10社に試験導入されました。その結果どのようなことが分かりましたか。
田中氏:
試験導入は、「社員の幸せを起点に成長する企業」の共通点と多様性を明らかにすることが目的でした。結果としては、まず、私たちが仮説として設定していた指標の相関関係が一定の確度で成り立ち、いい企業の状態を示す「勘どころ」としてふさわしいことが分かりました。例えば、社員が「自己中心的利他」であるためには、「自己理解」や他者との「関係性」、内発的動機を育む「仕事設計」が主な因子となることが数値で確認できました。
また、10社に共通する特徴として、応募倍率や定着率といった人的資本、自己資本比率などの経済資本、地域での認知度などの社会関係資本のすべてにおいて、一般的な中小企業の平均値より上位にあることも分かりました。
──同時に、近畿から全国へ広く共感・共鳴の輪を広げるイベントを実施されました。手応えはいかがでしたか。
田中氏:
福岡、東京、大阪、それぞれのイベントはいずれも開催前の想像を上回る熱量がありました。参加者アンケートの満足度も高く、ご登壇いただいた企業の実践知が持つ価値の高さを改めて実感しました。また、業種や規模だけでなく、組織文化や経営者の思いなど、「社員の幸せ」を大切にする企業のあり方は千差万別である中、BE THE LOVED COMPANYという一つの価値軸のもとで互いの「らしさ」を認め合い、語り合う場が、地域を超えた企業の出会いや学びを生み出すことを確信しました。こうした手応えを通じて、LOVEDプロジェクトをより推進していく意義を再確認できました。
森江氏:
LOVED COMPANYの本質が、近畿圏を離れて広く全国的にも「刺さる」ものであるという私たちの直感に、今回のイベントを通じて確信を持てた思いがします。大阪・福岡では、参加企業同士のディスカッションから共感度の高さがうかがえましたし、東京では中央行政の方々にもご参加いただき、LOVEDプロジェクトが近畿から各地へと展開する期待感につながりました。
LOVEDプロジェクトの概要は以下からご覧ください。
経済産業省 近畿経済産業局
BE THE LOVED COMPANY PROJECT - 社員に、顧客に、地域に、社会に「愛される」会社になろう -
The better the world works
「人的資本相関可視化ツール」の開発や、近畿圏を越える普及イベントの展開。それらの官民連携プロジェクトによって実現した活動の成果を土台として、LOVED COMPANYをより多くの企業に伝播することで、社員の幸せを中心に据えた本質的な人的資本経営が全国に広まることが期待されます。
──これからの展望についてお聞かせください。
沼本氏:
LOVED COMPANYという旗印のもと、人的資本こそが価値の源泉だと考える企業同士の出会いが生まれ、相談し合える機会が芽生えたことを感慨深く思っています。実際に、業種も活動エリアも異なる企業同士がイベントなどを通じて意気投合し、個別に連絡を取り合って情報交換する関係性に発展していると聞いています。
今後もそうした出会いが生まれるよう、この旗印をもっと幅広い企業に届けていきたいです。そして「社員の幸せ」を軸にした人的資本経営を実践する企業が増え、そういう企業が選ばれる状態をつくりたい。そのためにも情報開示への新たな向き合い方を示し、成功事例を発信していくことが、行政の役割だと考えています。結果として、LOVED COMPANYのように人的資本経営を本質的に実践する企業が全国にまで波及していくことを期待しています。
田中氏:
開発した可視化ツールをより広く企業に活用していただくためには、その読み解き方や、経営における活用方法など、まだ多くの改善の余地があり、今後さらに進化していく可能性を秘めていると考えています。今後は、可視化ツールのさらなる磨き上げを進めるとともに、社員の幸せを中心に据えた経営を実践してきた企業に光を当て続けることで、同じ志を持つ企業が勇気をもって次の一歩を踏み出せる環境づくりを目指します。
森江氏:
企業同士のマッチングの機会をより多くつくることで、お二人がおっしゃる展開は必ず実現できると思います。実際、イベントに参加した方々からは、「こうした取り組みが全国に広がれば、地域活性化にもつながると思う」といった声も聞かれます。また、企業と学生のマッチングから、新たな展開が生まれる可能性もあるでしょう。今いる人財だけでなく、新しく入る人財との関係づくりも大切です。
われわれ自身も当事者としての自覚を持ち、こうした事業に対するご支援の機会があるなしにかかわらず、人的資本経営で輝く企業をもっと各地に広めていきたいと考えているところです。
水野:
人的資本を成長の原動力とする企業が近畿を起点に広がり、より良い社会を形作っていく。それは官民連携のプラットフォームだからこそできることだと、今回の事業を通じて強く感じました。また、その一端に携われることは、長期的価値の創出に重きを置くわれわれEYとして、これほどうれしいことはありません。LOVED COMPANYが示すような人的資本経営の輪が近畿から全国へと広がり、人が育ち企業が成長する好循環が生まれる企業が増えていくことを願っています。
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ニュースリリース
EYストラテジー・アンド・コンサルティング、近畿経済産業局の人的資本可視化ツール開発を支援 ~「社員の幸せ」を起点とした人的資本経営の「実践知」を可視化し、地域企業の成長と地域経済活性化に貢献~
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、経済産業省 近畿経済産業局が推進する「BE THE LOVED COMPANY PROJECT」において、人的資本経営の「実践知」を可視化する「人的資本相関可視化ツール」の開発を支援したことをお知らせします。
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