EYの事例

“女性管理職比率50%”を掲げ、
電通ランウェイが挑む先進的な人財戦略とその未来像とは

電通ランウェイは成長戦略の一つとして先進的な人財戦略を掲げ、組織変革に踏み出しました。その変革に伴走するEYの支援をご紹介します。

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The better the question

“女性管理職比率50%”の目標は企業の持続的成長になぜ必要なのか

株式会社電通ランウェイ(以下、電通ランウェイ)は、今後の自社の成長には男女問わない活躍が不可欠であると考え、“女性管理職比率50%”という目標を掲げています。業界の慣習を超え、社員の働き方を再設計しようとするこの決断の背景には、どのような課題意識と狙いがあるのでしょうか。

課題解決の鍵となる“ブランドエクスペリエンス”とは 

桑原:2024年に中期経営計画で「Expansion 2030 ブランドエクスペリエンスエキスパートへ飛躍!」という経営目標を立てた目的を教えてください。

 

岩瀬氏:電通ランウェイは2019年に創立しました。創立当初は株式会社電通グループ(以下、電通グループ)のメディアパワーをいかに高めるかに注力し、メディア領域を中心としたプランニングを強みとしていましたが、今後はメディアの強みだけでは成長し続けられないと考えていました。そこで中期経営計画の中心に「ブランドエクスペリエンス」を据えたのです。

 

私たちが掲げる「ブランドエクスペリエンス」とは、広告提供にとどまらず、クライアントに「体験価値」を創出していくことを指しています。

 

そのためにはクライアントに伴走できる人財、ブランドエクスペリエンス領域でいう“プロデューサー人財”を育成していく必要があり、異業種の経験者などを含む多様な視点を取り入れることが不可欠です。


株式会社電通ランウェイ 執行役員兼コーポレート・ソリューション統括本部長 岩瀬 健 氏
株式会社電通ランウェイ 執行役員兼コーポレート・ソリューション統括本部長 岩瀬 健 氏

岡田氏:メディアだけでもなく、クリエイティブだけでもなく、ブランドの成長を最初から最後まで見届けることこそが「ブランドエクスペリエンス」の本質だと考えています。

これまでの考え方では勝ち残れないという危機感は、新しいブランディングにも込めています。会社のステートメントとして掲げている「道を、切り拓け。」には、クライアントとの関係性を築く「道」とブランドの成長の「道」、2つの意味があります。先頭を走り続けるためには、中期経営計画そのものも常にアップデートしていく必要があると考えています。


株式会社電通ランウェイ コーポレート・ソリューション統括本部 コーポレート事業部長 岡田朱紀子 氏
株式会社電通ランウェイ コーポレート・ソリューション統括本部 コーポレート事業部長 岡田朱紀子 氏

“女性管理職比率50%”の合言葉が環境づくりの布石に

桑原:「ブランドエクスペリエンス」を実現するための人財戦略の一つとして、女性の活躍を重視されています。“女性管理職比率50%”はチャレンジングな目標ですが、そこに至った背景は何でしょうか。


EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社  ピープル・コンサルティング パートナー 桑原 由紀子
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社  ピープル・コンサルティング パートナー 桑原 由紀子

岩瀬氏:“女性管理職比率50%”は、本社である電通グループの目標“女性管理職比率30%”よりも20ポイントも高い目標です。もともと電通ランウェイは、電通グループからの約10名の出向者と中途採用メンバーでスタートし、当初から女性比率が6割と高かったのです。

そのメンバーが電通ランウェイの成長をけん引してきた背景もあり、「女性の活躍」はこれまでも電通ランウェイの成長にとって不可欠でした。

しかし広告業界の性質上、クライアントの動きに合わせて働くことが求められ、これが子育て世代の女性のキャリア継続を阻んでいるのは事実です。当社が今後クライアントに選ばれ、独自の発想を生み出す広告会社になるためには、女性管理職比率を増やすなど「女性が活躍できる環境を整えること」が大きな強みになると考えました。

そこで、あえてチャレンジングな“女性管理職50%”を目標に掲げたのです。

桑原:目標を掲げることで、環境整備を進めやすくしたのですね。

岩瀬氏:その通りです。女性の管理職を増やすためには、女性がキャリアを継続できる環境が必要です。電通ランウェイの社員のボリュームゾーンは20代~30代が中心で、今後結婚から子育てを迎える可能性が高い世代です。この期間のキャリアを継続できなければ、女性管理職の増加は難しいと感じていました。

桑原:子育てをしながらのキャリア継続は大きなテーマです。子育て中の社員が現場に復帰し、さらに管理職になり、活躍し続けるのに、どのような課題がありましたか。

岩瀬氏:掛け声だけでは成し得ないというのが現実です。業界の性質上、クライアントの動きに合わせて働くことが求められる中で、上司が子育て中のメンバーの働き方に合った業務の量や内容を決めるには、制度がないとなかなか難しい。

そこで創業時から人事制度整備をはじめとしたサポートをお願いしているEYにご相談しました。業績連動型の賞与ルール設計やスキルの可視化についてのプロジェクトが進行する中で、20代の女性社員が今後子育て世代になることを踏まえ、どのような手立てが必要かについてご相談しました。当社のことをよく理解してくれているし、人事制度については豊富な実績をお持ちでしたから。

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The better the answer

“女性管理職比率50%”を達成するために必要なものは何か。

出産・育児を経て復帰した女性社員が直面するのは、仕事と子育ての両立という大きな壁。現場の課題を丁寧に洗い出し、報酬制度や手当を整えることで、電通ランウェイはキャリアを中断せず、仕事を続けられる仕組みを導入しました。その背景にある考えとは、何だったのでしょうか。

「時短かフルタイムか」の二択を超える、新しい子育て支援制度

桑原:“女性管理職比率50%”にするための子育て支援制度の概要を教えてください。

岩瀬氏:これまでは時短かフルタイムの二択しかありませんでした。フルタイムで復帰すると20時間分の割増見合手当(階層によっては40時間分)がつきますが、仕事は容赦なく降ってきます。一方で時短勤務では割増見合手当がなくなり、1時間の時短の場合、給与は7分の6に減るため、ここに大きな給与格差が生まれていました。

「フルタイムで働きたいが、仕事量は一定に抑えたい」という現場の声に応えて導入したのが、フルタイムでも仕事の振られ方が抑制される新たな仕組みでした。割増見合手当は通常の半分になりますが、フルタイム勤務でも効率的に働きながら、キャリアを中断せずに仕事を続けられます。

岡田氏:「6時間勤務で割増見合手当10時間分」「7時間勤務で割増見合手当10時間分」という2タイプの働き方が選べます。通常の時短勤務ではフルタイムと比べて39%の給与差になるところを、前者では給与差は21%、後者では8%まで縮まります。

選べる4つの勤務パターン

選べる4つの勤務パターン

自助努力に頼らず、サポートする側を金銭的インセンティブで報いることを仕組み化

岩瀬氏:制度設計の前に、子育て中の社員5名にヒアリングしたところ、現場の困りごとが次々に浮かび上がってきました。「子育てしながら営業を続ける自信がない」という声が多く挙がる一方で、時短で勤務をすればキャリアが中断してしまうというジレンマもあり、子育てと仕事を両立する“壮絶さ”を変えるには、まず仕組みを変えなければならないという結論に至ったのです。そうしなければ、この業界で女性が真に活躍するのは難しい。今回の制度は、そうした課題に挑む、人事としての一つのチャレンジでもありました。

岡田氏:ヒアリングの中で、子育て復帰後にかなりの仕事量をこなしているように見える人でさえ、周りに対して引け目を感じていることに衝撃を受けました。皆が「周りに申し訳ない」という気持ちを抱えながら働いているのです。そのため、会社として社員が安心して働ける選択肢を制度として提示できることが何より重要だと感じています。

桑原:サポート役に金銭的インセンティブを支給する制度も設けましたね。

岩瀬氏:はい、その通りです。子育て中にはどうしても突発的な事情が発生します。例えばお子さんの発熱に対応する際、それをサポートする同僚には報酬が必要だという話になったのです。そこで子育て中の社員と同等のスキルを持つサポート役を配置し、サポート発生の有無にかかわらず月額1万円を支給する制度も設けました。

岡田氏:社員の助け合いに頼るのではなく、制度でカバーすることが重要だと思います。最適解は実際に運用しながら探っていくしかありませんが、当社は中途採用が多いこともあり、他社での勤務を経験している社員に「入って良かった」「働きやすい」と感じてもらうためには、制度で応える以外に選択肢はないと考えています。それが、会社が本気で取り組んでいるという証拠でもあります。
 

EYの丁寧な仕事と“寄り添い力”で現場の納得も生まれた

桑原:制度設計について、EYにご依頼いただいて良かった点はどんなところでしょうか。

岩瀬氏:まず、提案のプレゼンが圧倒的でした。当社のビジネスや現状に対する深い理解に裏打ちされた提案でした。そして、実際にお付き合いを始めてからは、EYの“寄り添い力”を強く実感しました。創立当初からの当社を理解いただいていることに加え、将来像までも一緒に考えてくれました。

また、サポート役へのインセンティブ設計については、どのくらいの金額を設定すべきか全く見当がつかなかったのですが、さまざまな事例を調査いただき、実際に急なサポートが発生するのは「月平均3日」、その対価として妥当な手当は「月額1万円」というロジックを示してもらえたことで、社内でも納得感が生まれました。

岡田氏:私は、EYのアウトプットは群を抜いて分かりやすいと感じています。現場を理解した実践的な内容で、社内向け説明会の資料作成時には文言の細かな修正まで一緒に考えてくださり、とても丁寧に仕事をしていただけました。

桑原:制度は現場が使うものです。会社と社員の未来、双方にとってプラスだということを現場に納得してもらうことを重視し、「社員にどう見えるか」をとことん考えました。

岡田氏:実は、解決策として従来の時短とフルタイムの折衷案をご提示いただいたのは意外でした。さまざまな事例をご存じだからこそ、今までとは全く違う制度を提案するほうが簡単だと思っていたからです。しかし理由を聞くと、社員への丁寧なヒアリングと調査に基づく、熟慮の結果であることがよく分かりました。

岩瀬氏:私たちがコンサルタントの方に期待するのは、第三者目線です。社内で検討を進めると、ついつい電通グループの制度を基準に考えてしまいがちですが、当社は電通グループとは規模も違うし、中途社員が多いなど、事情や文化が異なります。「電通グループはこうだけれど、電通ランウェイはこうしたほうがいい」と、きちんとした知見に基づいてアドバイスいただけたことが、EYにお願いして良かった点だと思っています。

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The better the world works

子育て世代が活躍するための“使える制度”へ成熟させる次なる一歩

制度導入に踏み出すと、代替人財の不足や属人化など現場ならではの課題も見えてきました。では、誰もがキャリアを継続できる“使える仕組み”へと育てていくために、何が必要でしょうか。

制度の運用から見えた課題を乗り越え、制度を機能させる組織へ

桑原:制度導入後の社員や周囲の反応はいかがでしたか。

岩瀬氏:まだ利用者は多くありませんが、実際に使っている社員からは「自分の思いが制度に反映された」という声が挙がっており、会社へのエンゲージメント向上につながっていると感じています。また、電通グループから来ている非常勤取締役も高く評価してくれて、「先進事例としてグループ内で紹介したい」という話もいただきました。その役員は自身も3人のお子さんの子育てに積極的に関わっていて、制度の意義に共感してくれたのだと思います。その後、グループ内で情報発信してくれたことで、グループ他社の人事部門から「詳しく話を聞きたい」という問い合わせもあり、大きな反響がありました。

桑原:制度を運用していく中で、見えてきた課題はありますか。

岩瀬氏:実際に運用すると、もちろん課題も見えてきます。例えばサポートする側に1万円のインセンティブを設定した制度では、サポートする社員は休む社員と同等レベルのスキルを持っている必要があります。しかし、その社員のスキルが高かった場合、サポートできる同等レベルのスキルを持つ社員は決して多くありません。また、社員の属人的スキルに頼って業務を履行している面も浮かび上がってきました。ただ、こういった課題は運用してみて分かることでもあります。今後は属人化を解消する組織構成に変えていくことで、インセンティブ制度をより機能させるなど、一つ一つ課題を乗り越えながら、制度を成熟させていく必要があると考えています。

岡田氏:新たな課題はあるものの、このような突破口を作れたことは大きな前進です。今後は、この制度をどう機能させていくか。代替人財を確保し、育成していく組織体制へと変えていくための議論が不可欠と考えています。
 

社員一人一人の成長が会社を成長させる

桑原:電通ランウェイの人員構成を踏まえると、制度利用者は今後、確実に増えていくと思われます。今後の方向性をどのようにお考えですか。

岩瀬氏:一般的に見て、現在の20代~30代前半の女性社員が子育て世代に入る未来は確実に訪れます。その時にキャリアを中断することなく、自分の思い描くキャリアを着実に築き、成長していってほしいと願っています。人事からも「自分のありたい姿を考え続けましょう」というメッセージを発信し、個人の成長と会社の成長が連動する状態を作りたいと考えています。

桑原:コーポレート部門としての方向性はどのように考えていますか。

岩瀬氏:目指すのは、クライアントから信頼され、競合に勝ち、新規案件を獲得しながら成長していく会社です。そのためには、社員一人一人が成長し続けなければいけません。その成長を後押しする仕組みをどう作るかが、コーポレート部門の重要な役割です。会社が向かうべき方向性をコーポレート部門の社員が正しく理解し、経営と一体となって課題を解決し、提案していく。そうした姿勢で同じ方向を向いて進んでいければよいと考えています。
 

伴走者としてのコンサルに期待する役割とは

桑原:今後、EYに期待することはどんなことでしょうか。

岩瀬氏:人事制度など「人」に関わる仕組みは、一度作れば終わりではなく、環境に合わせて常にカスタマイズし、アップデートしていく必要があります。自分たちだけでは行き詰まることもあるため、私たちには思いつかない発想で、相談に乗っていただきたい。時代や環境の変化によって制度が合わなくなれば、柔軟に変えていかなければなりません。そのような局面でアドバイスをいただける存在であってほしい。電通ランウェイのことをよく理解してくれている、良きパートナーだと思っていますので、今後もさまざまな助言をいただけるとうれしいです。

岡田氏:私は、ほどよい距離感で伴走してほしいと考えています。中途入社の社員が多く入ってきている中で、成長したりチャレンジできたりするのは「安心して働ける場所」があるからです。

何が安心につながるのか、何が求められているか。新しい会社とはいえ、約7年の間に感覚が鈍っている部分もあります。一歩引いた視点で見てくださる方がいると、気づかなかった点に気づき、「この方向に少し修正したほうがよい」といったことが客観的に分かります。そのような存在は会社の成長にとって非常に重要であり、EYにその役割を担っていただければ、私たちも安心してチャレンジを続けられると感じています。